電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉 作:魚狗
ぼちぼち復帰していきたいと思います。
こんな作品でも読んでいただける方は、またよろしくお願いします。
「「(それであの小さいのは一夏(さん)とどういう関係なんだ(ですの)!?)」」
翌日、早速鈴が朝のSHR前に乱入してきたおかげで昼食時の食堂で篠ノ之とセシリアに尋問を受けている。隣のボックス席には話題の渦中の人である一夏と鈴がいるため、二人はなんとか叫びたい衝動を抑えた小声でだ。一方このボックス席には俺たち三人の他に騒ぎを予見していたフェイや布仏さん、他数名がいる。
「関係も何も俺と一夏の中学時代の友達だよ。一夏と鈴は小五の頃から……そうか篠ノ之、ちょうどお前と入れ替わりで転校してきたのか。そんで俺が中東に行ったのが中二の秋で、あいつは中二の終わりに中国に帰ったらしいぜ」
「「そういうことではなくて…!」」
言いたいことは分かるがこれ以上はもう面倒見切れない。
「俺に聞くより一夏に聞いた方が手っ取り早いだろ」
俺の答えと仲良さそうな雰囲気の隣の二人の様子にぬうぅ…としばらく唸っていた二人だったが意を決して突撃を敢行し、例のごとく食堂中の視線を集める口論に発展していた。
「おりむーモテモテだね~」
「ホント、あれで気づかないってどういう頭の仕組みしてるかしら……」
それが織斑一夏だと割り切らないと。でないと死ぬぜ。
――――――
放課後、アリーナでは1組の専用機持ち3人が訓練のために集まっていた。
クラス代表決定戦の後から毎日のように行われているこの訓練。初めは一夏の基礎トレーニングに俺とセシリアの模擬戦という流れだったが、数日前からは一夏も模擬戦も参加している。
「待たせたな、一夏」
そこに、今日からは訓練用打鉄の使用許可がついに下りた篠ノ之が加わることになった。
「くうぅ……なぜまだ授業でもほとんど指導を受けていないのに、篠ノ之さんだけこんなにあっさり…!」
あまりにも簡単に訓練機の使用許可が下りたことに納得いかないセシリアだが、その許可の決め手が『熟練度の高い専用機持ち2人の監督下であるから』、つまり自分自身が原因だと知ったらどんな顔をするだろうか。
「近接格闘は今日から私が見てやる。それでは始めるか」
「お待ちなさい! 一夏さんのお相手をするのはこの私でしてよ!」
対峙した一夏と篠ノ之の間にセシリアが割って入る。
「お前は昨日までいい思いをしていたではないか。それから大沢! お前もわざと目を離すような真似をして…!」
「……反省してまーす」
翔は今まで一夏と二人きりになりたいセシリアのために欠席したり、遅れてきたりしてその辺の配慮はしてみていた。が、結局篠ノ之の目があり、体の接触がある度にマイクで怒鳴られ妨害されていた。
そうやって互いに一夏との仲の進展がない上に新たなライバルまで現れては、二人とも心中穏やかではいられなかった。
「ともかく邪魔をするならば斬る!」
「いい度胸ですわ! ここでどちらが一夏さんのコーチに相応しいか教えてさしあげますわ!」
一夏そっちのけで始まる二人のバトル。
「あー…あいつらもう少し仲良くなってくれないかな……」
「…そうだな馬鹿」
「えええ! なんだよ!?」
翔と一夏はアリーナの端に放置されてしまったので、しばらく前回までの模擬戦の反省会をすることにした。
「そんで反省点はまとまったか?」
「あぁ、まあ色々考えてみたんだけど…」
一夏の俺とセシリアに対する戦績は当然ながら全敗である。
いくら一撃必殺とはいえ、ブレードしか持たない以上接近しなければ勝ち目はない白式は、取れる戦術の幅が狭く相手の対応も明確になる。
サイファーなら近接を誘ってのカウンター、BTもガン引きで、接近されたらミサイルで牽制して仕切り直せば普通に撃破できる。しかもセシリアは代表決定戦の後の訓練から、機動とビットの併用を積極的に試みるようになった。まだまだぎこちない動きも今後改善されていけば、一夏は完封されてしまうだろう。
「やっぱ闇雲に突っ込み過ぎなんだよなぁ…」
全くその通りで、一夏の敗因の大半は強引に勝負をかけすぎて隙を晒すパターン。
ジリ貧なら状況を打開しなければならないが、埒が明かないからといって自分のペースを乱すようではそこに付け入られる。
「っても近づかなきゃ斬れないし、どうすりゃいいんだよ…」
「近接戦だって突っ込むだけが攻めじゃないぞ、一夏」
「ん? どういう意味だ?」
「例えば、セシリアの動きが鈍くなるのはどんな時だ?」
「そりゃ、ビットを使うとき……あっ!」
どんな攻撃でも照準を定め、撃つには機体の安定制御と相応の集中力が要求され、移動や回避は少なからず犠牲になる。それに大抵の機体は前進が最も速いため、攻撃しようと相手の方を向けば必然的に後退速度が低下する。もちろん攻撃させること自体のリスクはあるが…。
「あえて相手に撃たせて動きを止めろってことか…」
「そういうこと。押してダメなら引いてみろってな」
むしろ射撃のない白式はそれがすべてとも言える。機体性能の差なんてものは、ある程度ならば駆け引き次第でいくらでもひっくり返るものだ。
「けど、それは基本ができた上での話だけどな」
「ぐぅ……」
やはり一夏の目下の課題は、推力が高くかなりのじゃじゃ馬である白式の正確な機体制御。動きの無駄は一瞬で決まる近接戦では致命的だし、踏み込みのためのイグニッションブーストの成功率も決定戦以降どうも安定していない。
「…自分で言い出しておいて、クイックステップもなかなか上達しないしなぁ……」
「簡単に真似されても困るよ、こっちとしちゃ……」
一夏の希望もあってここ最近QSも試させている。しかし、横移動、機体旋回、向心加速を一度に制御しなければいけないQSを通常ISでやるのは容易ではなく、一夏は大抵軌道を外れて大きく吹き飛んでしまう。さらに近接モーションを加えてバランスを取るのはかなり困難だ。
だが、もしできるようになれば間合いに入った後の戦術の厚みが増すのは確かだ。
「それ以外にもやることはたくさんあるしな……。そうだ……」
白熱した戦いを続ける篠ノ之とセシリアに呼びかける。
「おーい、一夏が二人だけで楽しんでないで俺も構ってくれってさ」
「へ……?」
「「何(ですって)!?」」
ギンッと『私の気も知らないで…!』という二人の怒りの籠った鋭い視線が一夏に向けられる。
「近接以前に遠距離での撃ち合いで食らってたら話にならないからな。今日は回避の訓練、『篠ノ之を捌きながらセシリアの攻撃を避ける』にしよう。二人もそれでいいな?」
「そ、そんな……ま、待ってくr…うわぁ!?」
一夏の足元にレーザーが突き刺さり、
「ちょ、ちょっと待てセシリア…おわぁっ!?」
続いて鼻先をブレードが掠める。
「ほ、箒……おい、翔……って、あれ?」
ついさっきまで隣にいた翔の姿がないことに気が付いた一夏。
「翔さんなら帰られましたわよ」
「んな!?」
「一夏、覚悟はできたな」
「「ふふふふふ……」」
その後一夏を見たものはいなかった。
「勝手に殺すな!!」
――――――
「なるほど、零落白夜ね……」
翔から送られてきた白式のデータに目を通していくアイザーマン。
一夏がボコされている裏で、コアネットワークを使ってアイザーマン、翔、アレク、秀郷が近況報告会を行っていた。この通信はIS本来のコアネットワークとは別の独自回線を使っているので束に盗聴される心配もない。
「しかし、いくらブリュンヒルデの弟とはいえブレード一本か……おっさん、どう思う?」
翔が報告した常識外れな白式の装備にアレクは眉をしかめ、剣術家である秀郷に意見を求める。
「確かに不利だが一対一ならどうにでもなろう。が、一対多や連戦となればいかんともし難いな」
暮桜と千冬がそうであったように“一対一の試合”ならば使い手の技量に依る部分が大きい。
だが、実戦的な状況を考えれば射撃がなければ対応力が低いし、被弾をある程度無視した突撃や零落白夜が共にシールドエネルギーを元手にする以上継戦能力にも欠ける。
「せめてカッターでもあればとは思いますけどね…」
歴代の近接型VRを知る翔としては、削りと攻撃相殺に優れるフェイのようなカッターの有効性を感じずにはいられない。
「何にせよ、やはり篠ノ之束が白式に手を加えたのは間違いないね」
ここ最近束が大人しいのは箒、千冬、一夏、そのすべてがいるIS学園を注視しているためで、起こす行動は彼らに向くことは疑いようがない。束が彼らに専用機を与えるという事態もアイザーマンたちは想定していた通りだった。
ただし束の思惑が存在するとはいえ、親しい一夏に妙な真似はしないであろうことや翔の知る彼の人間性を考えれば、アイザーマンサイドへの脅威は極めて低いといえた。
「となると束君は箒君にもいずれ専用機を、と考えているか……」
「だがそう思ってても、翔のダチと違って簡単にはいかないだろうな」
“世間に知られている”唯一の男性適正者である一夏が特別待遇なだけで、箒はパイロットとしてはその他大勢と変わらない。もっと言えば適正はCランクと褒められたものではない。そんな箒に数限りあるISコアを預ける決断を容易にはできないはず…。
「いや、僕はそうは思わないね」
だがアイザーマンはそれに異を唱える。
「何せ彼女は“篠ノ之束の妹”なのだから自陣に引き込めれば、束とパイプを築けるかもしれないという打算はどこも持っているはず。ストーブリーグは既に始まっているだろうね」
「ただ、そうしたくてもIS学園にいれば接触は教員を通してから……露骨な勧誘は千冬さんが突っ撥ねているでしょうし」
「その点内部に
「そういうことだ。翔、篠ノ之箒も実力が確かなら是非声を掛けてくれ」
「よろしく頼むよ、翔君」
「了解です」
IS学園卒業後は箒をサッチェル・マウスへというのは、彼女の身を案じる秀郷のたっての希望だ。もちろん本人の意思次第ではあるし、束との関係が悪いため敬遠されそうではあるが、選択肢を知ってもらうだけでも意味はある。
「そんで、その篠ノ之の妹はどんな感じなんだ?」
「それなんですが……なかなか気難しい子であんまり仲良くなれてなくて……秀郷さん、頼まれておいてすいません……」
「いやいや気にすることはない」
「…というか彼女、一夏に惚れてて俺が入る隙がないというか……元気にはしてますし、しばらくは一夏にお任せですかね」
「ははは、そうだった、そうだった。すっかり忘れていたよ」
秀郷は篠ノ之家と織斑家が道場に来たとき、稽古の時でもなければ一夏にべったりだった箒の姿を思い出し、顔を綻ばせる。
「で、翔はどうなんだい?」
「……はあ?」
「はあ…って、乙女の園まで行っておいて野郎とつるんでばっかじゃ悲しいだろ」
「そりゃあ、せっかく青春をやり直せるんですし……どっかの馬鹿と違って考えてなくはないですが……」
翔はIS学園に行ってまだ一か月、周囲の子とそれなりに仲良くはなっているしそれっぽいアプローチもなくはないが、そこまでの進展はない。その翔と比べると、難易度最高レベルのはずのセシリアを一週間で落とした一夏はやはり流石である。
「それはそうと、お二人ともまた『演習』の予定があるんですよね?」
“演習”というのは他国との合同演習のこと。ただ訓練というよりは自国のIS技術のパフォーマンスや他国のIS開発事情を探る意味合いが強い場である。
「ああ、今度は宇宙開発機構の新顔の所だ。“あん時の”もほぼ出来上がったようだしな」
アレクはフィリアルに実働任務で上がっているか、地上にいればアイザーマンの護衛としてサッチェル・マウスにいる場合が大半だが、時折合同演習に参加している。相手国としても決して多くはない生身での実戦経験を持つ兵士が駆るISの実働データを得る機会として重宝しているようだ。
「私も初めての場所に行くよ。もっとも、こちらは新型相手ではなさそうだがね」
秀郷はもっと頻繁に他国に赴いている、というかこちらが主な仕事となっている。一般にはあまり知られていないが“ブリュンヒルデの師”という事実は調査をすれば出てくる情報で、それを知った各国からの『是非我が国で近接戦闘の指南を』という声が絶えないのだ。もちろん指導者として長い彼の教導はすこぶる評判だ。
「さて、そろそろお開きとしようか。翔、しばらくは織斑一夏と篠ノ之箒から目を離さないように頼むよ」
「了解しました」
~~~~~~
「……で、なのがあったのよ?」
その頃、数部屋隣の2組チャイニーズ(?)コンビの部屋は重苦しい空気に包まれていた。
授業が終わるなり意気揚々と飛び出していった鈴。それが戻ってきたと思えば、突然荷物をボストンバッグまとめて出ていったのが10分前。そして、ドアをぶち破るように帰って来た鈴が目に涙を浮かべ、そのままベッドに飛び込み今に至るわけだ。
嵐のような事の顛末にフェイはとても付いて行くことが出来ないのだが、ルームメイトがこんな状態では気が休まらないというものだ。
「………………ぐす…………」
先ほどから問いかけているものの返事は返ってこない。
しかし、鈴の心をこんなにも乱す存在はこの学校に一人しかいないことにすぐに思い至る。
大方自分の想いがうまく伝わらなくて苛々しているだろうということも。
「ま、愛しの彼はガード硬そうだし、焦ることないんじゃない?」
「べ、別に一夏は関係ないわよっ!!」
「私は誰とは言ってないんだけど?」
「あ……」
「ニヤニヤ⌒♡(・∀・)♡⌒」
「は、謀ったわねえぇっ……!」
古典的な作戦に引っかかり、ベッドから勢いよく体を起こした鈴にもう逃げ場はなかった。
「ほらほら、とっとと吐いちゃいなさいよぉ」
「うぅぅ…………誰にも…いわないわよね……?」
「それくらいは信用しなさいよ」
「……うん……その……」
ぽつぽつと語り始めた鈴の話を要約すると、中国へ帰ることになった時、一夏とした『約束』を向こうが覚えていなかったというものだ。その約束というのが、
『私の料理の腕が上がったら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』
…完全にプロポーズである。が、相手が悪かった。
「鈴……それ、その場で一夏が意味に気付いてないの分かると思うんだけど?」
「ぐっ……そ、そうだけど……次に会う時までに気づいてくれてればいいって思ったのよっ!」
「まったく…さっさとコクっちゃえばいいのに……」
「ででできるわけないでしょ!? 他人事だと思って…!」
普段は物怖じしない鈴がそこまで行ってなぜヘタれるのか?
(少女の色恋沙汰はどの世界も、いつの時代も複雑で面白いわね……)
「……そうよ、フェイあんたこそどうなのよ!?」
「は?」
「私ばっかじゃ不公平でしょ? 例えば翔とはどうなのよ?」
「はぁ? 私が翔に気があるように見える?」
「うーん…確かに……」
人と同じ感情を持つフェイ。かつては人間に恋したこともあったが、今は誰かとそういう関係になる気はないらしい。
「でも、翔はいい奴だし…中学の頃はモテたんじゃない?」
「好きっていう子はいたわ……。ただあいつ、その頃からISに夢中で、恋愛とか興味ないって感じで……突然学校辞めてISパイロットになるような奴よ?」
「男の子なんてそんなものでしょ?」
「そうかも…ね……」
あの時はどこか遠くに感じていただけだったそんな夢を追いかける翔の姿。
それは思いがけず両親の離婚、一夏との別れという暗闇の中にあった鈴の心に光を差した。自身に高いIS適性があることが判ったからだ。
ISに乗ることで自分を、世界を、あんな風に変えられるかもしれない。
その想いが、鈴がISパイロットに志願し、代表候補生まで登り詰めるに至るモチベーションとなった。
そのおかげで一夏と再開を果たすこともできて、鈴は翔に密かに感謝していた。
「あら、ライバルが多いもんだから、今更翔に乗り換える気なったとか?」
そんな気持ちが思わず顔に出てしまったのか、フェイに茶化される。
「まさか、私は譲る気なんてないわよ。それに、あいつならわざわざ私が拾ってあげなくても平気でしょ?」
「そうね……案外鈴より早く春が来たりして」
「それはムカつくわね……」
「うふふ……」
「ふふ……」
気が付けば鈴の心は軽くなっていた。結局一夏との約束の件は何も解決していないが、いつまでもうじうじしないいつもの鈴がそこにいた。
「ねぇ……フェイ……」
「ん」
「……ありがと……」
「どーいたしまして」
正直言って今月に入ってバーチャロンタグ作品が現れたのが気持ち的に大きかったです。
何とか月2話くらいのペースで書いていきたい…。