電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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この作品でISの速度は、福音の速度が450 m/s(1620 km/h)の誤植説を基準にしています。


Ver. 5.0 GET READY (1)

“明日0時までに投降しない場合は武力によってそちらの武装を解除させる”

 

各政府からクーデター側にもたらされた通信は、事実上の自分たちをISをもって潰すという最後通達であった。もちろんそれに屈するつもりは彼らにはない。

それに政府が他国にISの出撃を要請したという情報はない。そもそもアラスカ協定のお陰でこの非常事態でもそう簡単にISを動かしてくるはずもないだ。

しかし、クーデター側も色々な可能性を考えられたが、やはりISを撃破しなければならない以上ISが来るとしか考えられない。

 

できればそうであって欲しくないという想いは誰の胸にもあったが、その予想は残念ながら正しかった。

 

 

最初に敵影を感知したのはサウジアラビアのレーダー施設。そしてそこを拠点としていたサウジのISパイロットだった。

接近してくる機影はたったの1であり、そうなればやはりISの可能性が高い。

しかし、その速度は戦闘機と同等のおよそマッハ2.5。ISでは考えられない速度。

にわかに彼らを混乱が包む。それでもラファールのパイロットは、自分がなすべき役割を果たすため勇敢に飛び立った。

 

レーダー施設を離れ砂漠の上空に出た彼女のラファールのハイパーセンサーが彼方に小さく敵の姿を捉え、そしてその姿に彼女は戸惑った。

ISなのだろうが、その姿は異形だった。

それはまるで、否どう見てもそれは航空機だった。

次の瞬間、信じられない光景が再び彼女の目を見開かせた。

 

その航空機が変形を始めたのだ。

 

水平直立体勢のパイロットを中心に、機体側面に沿って肩下まで覆っていた腕部アーマーが本来の上腕部にスライドし、同様に大腿まで収縮していた脚部アーマーも膝まで移動。

肩の付近に機首に平行に並んでいた非固定浮遊の2対の肩部バインダー、背面の細長い一対と腰の主翼だった一対の四枚のスラスターが展開。

最後に頭部のバイザーにマウントされ機首になっていた鋭角二等辺三角形が中央で割れて、銃器となって右手に握られた。

体を垂直に起こしたその機体は…

 

刺々しいフォルムの赤紫のISへと姿を変えていた。

 

『YZR-42 サイファー』

 

アイザーマンの処女作にして初の変形機構を登載したVR。

アラビア語の“零”を冠するその機体は、奇しくもその空の下でISとしての産声を上げた。

 

 

カタールの空軍基地。

サウジのISパイロットからプライベートチャンネルで連絡を受けた彼女もまた基地から飛び立ち警戒を行っていた。

程無くして彼女も接近する機影を捉える。間髪入れずこちらも接近をするが…。

 

刹那、紫色の閃光が自分のすぐ脇を貫いていった。

それは直撃すれば確実に絶対防御を発動させほどの威力のもの。

敵とはまだかなりの距離があるにも関わらず、しかもロックオンアラートが出ていない…つまりノーロック、目測での狙撃だ。

このままでは一方な狙撃を受けかねない。その焦りにいきなり飲み込まれそうになる。

しかし意外にも敵は一発で狙撃を辞め、自分から近づいて来た。はっきりと見えていなかった敵の姿が鮮明になっていく

 

その姿はまさに悪魔か死神であった。

 

頭部のバイザーには悪意を連想させる水牛のような角と、剥き出しの牙をあしらったフェイスマスク。

背中には蝙蝠の羽のようなギザギザとした多角形の大型バインダーを背負い、手の甲には三本の鋭い鉤爪、胸部は骸骨を思わせるアーマーが覆っていて、腕や足のアーマーも骨を思わせる形状をしている。

先程の狙撃を放っただろう長大な得物は予想が正しければ死神の鎌に違いない。

 

『YZR-87 スペシネフ』

 

パイロット殺しの機体としてアイザーマンの名を不動した狂気の名作。

その狂気は果たしてISとなった今でもこの機体に宿っているのだろうか…。

 

 

同じく連絡を受けた警戒にあたっていたUAEのパイロットの下にもレーダーによる敵発見の方が舞い込んできた。

発見地点へと急行した彼女を待っていたのは…。

 

ただ砂漠の上に静かに佇む一機のISであった。

 

無論彼女には気づいていて、真っ直ぐにこちらを見つめている。素人でもはっきりと分かるような強烈な威圧感を放って。

それでも自分は逃げるわけにはいかない。そう心を奮い立たせそのISの前に立ち塞がった

 

彼女にはそれなりの学があった。その中に目の前のISと同じものを見たことがあった。それは日本にかつて存在していた兵。

 

―サムライ

 

全身装甲というほどではないがかなりの部分が瑠璃色の装甲に覆われている。

その意匠は決して鎧をイメージしている訳ではないが、日本の量産機打鉄によく似た肩の浮遊装甲や、頭に被った左右対称の長い鍬形を持つの兜。

そして腰に携えた鞘に納められた一降りの日本刀がそのイメージを確かなものにしていた。

侍がスラリと刀を抜く。月明かりに照されて燻し銀の業物が妖しい光を放った。

 

『YZR-81 景清』

 

悪七兵衛の異名を取る平家の武者の怨念をVコンバータに焼き付けたと言われる奇怪なVR。

『風』『林』『火』『山』、四つの顔を持つこの機体の今の顔は…攻めること火の如し。

 

 

――――――

 

1日前。

サウジアラビアのIS開発施設に到着した僕らは早速ISのVR化作業に取り掛かった。

今回持ち込んだ中で最も大掛かりな装置が、新たに開発したVクリスタルの精神干渉遮断装置だ。改造は一時的にではあるがVクリスタルが剥き出しの状態になる。僕とパイロットの3人以外のVPを持たない人間の安全を確保するため、それぞれのコアにMSBSがインストールされて制御下に入るまで、Vクリスタルから漏れ出た精神波を瞬時にバイパスし外付けの多重MSBS回路で減衰するのだ。

 

作業が進められる隣で僕はどうしてもやってみたかった実験を試みていた。それは翔、師範、アレクの3人にISが起動できるかどうかというもの。

結果から言えば、翔とアレクは起動成功、師範は動かず、というものだった。

予想外ではあった。正直束がISコアに設定した制限は“男性はVPの高さによる”だと予想していたが、一番VPの低いアレクが起動できるとなるとそれは不正解だ。束め……一体何をしたいんだ……。

 

それを考えるのは一先ず置いておき、僕も作業に加わる。3人は僕が作製したシミュレーターで訓練を行ってもらっている。

各機の基本的な戦術を熟知している翔を中心に、近接戦闘のスペシャリストである師範と実戦経験豊富なアレクが意見を出しVRとISの相違による戦術の隙間を埋めていく。二人の吸収は目を見張るもので最初は翔にボコボコにされたいたものの、2時間もすると師範に斬られたり、アレクの正確な偏差射撃に撃ち抜かれたりし始めた。もちろんそれで黙っている翔でもなく、相手の狙いを読み、嫌がる行動で追い詰めるなどゲーマーらしく着実にISに適応してきていた。

 

そうだ。この“VR化IS”なのだが、そのまま『VRIS』と名付けることにした。「ヴいあーるあいえす」でも「ヴりす」でも好きなように呼んでくれたまえ。外部に話すときはあくまで“IS”であるということを、僕らの中では違う技術体系の“VR”であるということを意味させるための名前だ。

 

このVRISはISからハイパーセンサーや絶対防御を移植している。これは必要なものだし難易度も高くない技術なので再現してある。一方でコアのクリスタル内部の情報だったコアネットワークや自己進化などにはさすがに手を出せていない。ここら辺は今後の研究課題ということだろう。

 

~~~~~~

 

10時間ほどで改造作業は完了し、いよいよ彼らに起動してもらう状態になった。彼らにそれぞれVRISコアを持ってもらい、ケーブルからコアに徐々にエネルギー負荷をかけていく。

まずはSランクVPを持つ翔の周りにゲートフィールドが発生し、0と1の光の中でコアに書き込んだ情報がリバース・コンバートによって形を成していく。遅れて師範が、最後にアレクが光に包まれていく。

 

そして、すべての光が晴れたその後には見覚えのある赤紫と白緑と青の機体が並び立っていた。

 

その後、敵に見られるのを避けるため日が落ちてから野外での訓練を数時間行い、休息の後、クーデター側に通達した0時の降伏期限と同時に出撃することになった。

 

 

「準備はいいかい?…と言ってもぶっつけ本番のようなものだけどね」

 

「まあ、何とかしますよ…」

「相手の練度が低いからといって油断するつもりは毛頭ない。全力で行ってくるよ」

 

翔と師範にとっては初の実戦。師範にさえも若干の緊張が伺える。それに比べてさすがにアレクは落ち着いている。

 

「なに、明日の一面を“ブリュンヒルデ連覇!”から“中東に謎のIS!?”してやるさ」

「くくっ、頼もしい限りだよ」

 

今日という日は、ドイツでの第二回モンド・グロッソ決勝戦も控えている。確かに僕らの策が成ればその結果など吹き飛んでしまうだろう。

 

「時間だね……どうやら向こうはやる気らしい」

 

ここで折れられても僕らが困ってしまうのだが、亡国機業に踊らされた道化たちには同情を禁じ得ない。

 

「何にしても今僕らのすべきことは一つだ。諸君らの武運を祈る…勝ってきたまえ!」

 

「はい!」 「うむ」 「おう!」

 

彼らと僕の作品たちが砂漠の夜の冷たい空気を切って、月明かりが照らす夜空へと飛び立った。

 

 

――――――

 

航空機がISに変形するという衝撃的な光景から立ち直ったラファールのパイロットは、自分のすべきことを思い出しパススロットから2丁のアサルトライフルを両手に展開するとその銃口を敵に向けトリガーを引いた。相手の顔はバイザーとフェイスマスクで見えないがそれが敵であることに変わりはなかった。

しかし、撃ち出された弾丸は目標を捉えることはなかった。

 

(やっぱ、速ええな…)

 

“ラファールが”ではない、“サイファーが”だ。

翔はまだ自分が機体に振り回されているのを感じていた。

サイファーは戦術偵察機として機動力を特化させたVR系列の流れを汲む機体だ。巡航モードの『モーター・スラッシャー』形態はもちろん、IS形態でもアイザーマン製3機の中どころか全世界のISの追随を許さない速度を誇る。それ以上に特出しているのがその加速だ。VRISすべてに言えることだが初動から瞬間的に加速し瞬く間にトップスピードに乗る。

ハイパーセンサーを通してでも飛ぶように流れる景色。操っている翔でさえそうなのだから、相手にしてみれば消えるように射線から身を躱され、気づけば側面にいるように感じられる動きだった。

 

死角をとった翔は右手のマルチビームランチャー『レブナントⅡ』からビームバルカンを連射する。移動先に意図的にばら撒かれた光弾を避けきれず、ラファールは数発被弾してしまうがシールドエネルギーへのダメージは大したものではなかった。未知の敵を相手に、しかも彼女もまた初の実戦であったためにガチガチに緊張していたが、軽微だったダメージが彼女の緊張を解き、同時に油断させた。

 

ラファールが回避に手間取るのを見て続けてサイファーの左手から撃ち出されたのは、小剣(ダガー)状に成形されたビーム弾。右から左への腕の振りに合わせて5本が水平扇状に放たれラファールに向けて飛来する。水平方向に広がったダガーには当然上下にスペースがあり、そこを回避しようと上昇した。

 

だが、自分の下を通り抜けるはずだったダガーは突如向きを変えて迫り、脚部に突き刺さった。

 

――VRISは例えるならば『PIC特化型IS』といえる。

Vコンバータから発生させたゲートフィールドの力場の作用によって、強力な慣性制御を始め、スラスターのベクトル制御、弾丸・荷電粒子の加速や誘導まで行っている。機動面を言えば常時遅めのイグニッション・ブーストをしているようなもの。攻撃ではその大半がミサイルのように誘導してくるのだ。

通常のISでは到底不可能なこれらを行うための膨大なPIC出力の要求量をVRISは満たしているのだ――

 

ダガーのダメージはバルカンとは比較にならない、決して何度も食らってしまってはならない小さくないダメージ。しかも驚くことにシールドバリアに刺さったそれは、しばらく消滅することなく継続的にシールドエネルギーを削り取ったのだ。

正体不明の敵、理解不能な攻撃。経験の乏しい彼女が冷静でいられるはずはなかった。

 

両手のアサルトライフルをがむしゃらに乱射するが、銃弾は虚しく空を切るばかり。機動力のために防御を犠牲にし、シールドバリアの薄いこの機体の特性をよく理解している翔は、ここは無理をせず回避に専念する。

縦横無尽に飛び回るサイファーは無慣性加速に加えて、かなりの速度から『バーティカルターン(Vターン)』と呼ばれる鋭角旋回によって射線を振り切り、時には銃弾の雨の中を潜り抜けていく。本来ならパイロットがミンチになってしまうようなGのかかるこのVターンも、VRISの高度な慣性制御能力だからこそのものだ。

 

(回避に徹すれば、これくらいの弾幕なら何とでもなるな……あとはチャンスが来れば……)

 

そのチャンスは間もなく訪れた。片方のアサルトライフルのリロードで一瞬弾幕が薄くなる。

すかさず翔はダガーを今度は5本2連射、合計10本の小剣の壁がラファールに迫る。

先ほどの失敗からラファールは確実な回避のため、大きく機体を上昇させた。

それによってダガーをすべて回避することはできたが、先を考えず敵から視線を外した回避は大きな隙を生む。

 

(それは迂闊に、大きく動き過ぎだぜ…!)

 

それを読んでいた翔はダガーを影にして、肩のバインダーの片方か2発のビーム弾を撃ち出していた。ビーム弾は彗星のように尾を引き、山なりの軌道で急激に誘導。こちらの行動を見落として動きが直線的になったラファールを追尾、命中した。このトレースビームの攻撃力はダガー以上。それを2発食らって、ラファールのシールドエネルギーは半分を大きく割り込む。

さらに被弾の衝撃で硬直したラファールに、翔はダッシュ――ISでいうところのイグニッション・ブーストで突撃を仕掛ける。立ち直ったラファールの目に映ったのは猛然と音速を超えて肉薄する殺意。それもどう見てもこちらの速力で振り切れる速度ではない。これを目の前に咄嗟にアサルトライフルを捨てて、面制圧で捉えられるショットガンをパススロットから取り出した彼女のセンスは評価に値するだろう。

眼前に迫ったサイファーにその銃口を向けトリガーを引いた。敵が普通のISならば避けられないタイミングだっただろう。

“普通のIS”だったならば…。

 

散弾はサイファーの装甲を散らすことなく彼方へと飛び去って行った。

 

直後ハイパーセンサー越しに彼女が見たのは、体を振り向かせながら頭上を通り抜けたサイファー。翔は“イグニッション・ブースト中のVターン”で飛び上がりショットガンを躱し、さらにもう一度Vターンを加えてジグザク機動で背後を取っていた。

そして、彼女はこちらを捉えた胸部の黒い砲口が、大口径ビームキャノンであることを誇示する眩い輝き放つのを見たのだった。

 

~~~~~~

 

「こちらサイファー、博士聞こえますか?敵IS撃破完了、敵パイロットも生きてます」

≪お疲れ、翔。さすがだね、撃破一番乗り、しかも被弾も0とは≫

「サイファーのお陰ですよ……まだまだ乗りこなせてません……」

≪それはこれから仕上げていけばいい。今は生き残ったことを喜ぼう≫

「そうですね…それで俺は2人の応援に行った方がいいですか?」

≪いや、どちらも大丈夫だろう。それより地上の部隊が施設を制圧するまで周辺の警戒を頼むよ≫

「了解」

 

ふうと息をついて、墜落してISが強制解除され気を失って倒れたラファールのパイロットを見る。

結果的に殺さずに済んだが、殺すつもりで…特に最後のホーミングビームは間違いなくそのつもりで撃ちに行った。躊躇して判断を鈍らせることは絶対に避けたかった。確かに博士の言うとおり、今回はそうやって一切の油断なく勝てた自分を褒めてもいいだろう。

遠くに彼女の回収のため接近してきた友軍部隊を見止めた。光で合図を送りながら、一方でやはり殺さずに済んだことを喜び、この勝利をゲームの時ように手放しでは喜べなかった自分にまともな良心が備わっていたこと、安堵を感じられずにはいられなかった。




立ちRW→立ちLW→しゃがみ二連LW→しゃがみCWハーフキャンセル→空前CW。
サイファーの変形機構ですが試しにヒト型にパーツを被せて検証してみると、ISは手足が長いお陰で直立体勢できれいに戦闘機状に収まってくれました。

型番はIS風に下二桁切ったりで微修正しました。

チャロナー的には合言葉な一期11話同じ今回のタイトル。やっぱり向こうも知ってて付けたんでしょうか?
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