電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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Ver. 6.0 GET READY (2)

スペシネフと対峙したカタールのラファール。

開幕の狙撃を見てラファールのパイロットは中距離以遠のレンジでの戦闘を嫌い、拡張領域からミサイルとアサルトライフルを取り出した。ミサイルによる攪乱から接近し、アサルトライフルを叩き込むつもりだ。

 

スナイパーを本職とするアレクが何故あえて自ら距離を詰めたのか。彼ならば、あのまま接近されるまで狙撃に徹するという手もあった。しかし、気づかれた以上相手は回避行動を取るし、狙撃位置に攻撃もしてくるはず。ましてや、生身とIS、実弾とビームの違いに急速に適応しているとはいえ、先ほどのように実戦ではまだまだ必中の精度を得るには至っていない。ショット&ムーブの鉄則を破る道理はどこにもない。

幸いスペシネフには他にも強力な武装が搭載されているのは既に確認済みだ。ラファールの接近もあり、自然とそれを生かせる戦術を選択。攻めるラファール、引くスペシネフという構図の機動射撃戦が開始された。

 

ミサイルに合わせてアサルトライフルを連射しながら接近を試みるラファール。それに対してその場から消えるような素早いブーストを繰り返して、ミサイルの追尾限界を振り切り、銃弾の雨を潜り抜けていく。その中から右手に持つ長大なビームランチャー『アイフリーサー』から小型のビーム弾で反撃していく。

 

スペシネフの機動特性は簡単に言えば“速いが、短い”。瞬間的な速度はサイファーすら上回る最高速VRISである。しかしながら燃費が悪く、高速で長時間の移動ができないため“最速”でない。この設計は高性能だが単発・直線的なスペシネフの武装を正確に狙い撃つための“間”を作るという理由がある。だがそれ故に回避ではスラスターのエネルギーをできる限り節約し、得意とする間合いを保つのに攻撃と移動の高い連携を要求される、性能は高いが癖の強い機体となってしまった。

 

(とんだじゃじゃ馬だぜ、こいつは!)

 

アレクはまだIS、そしてスペシネフの機動を使いこなしているとは言い難く、回避が状況を悪くすると判断したアサルトライフルを、シールドバリアが脆いという弱点も無視して数発受けていた。しかし、実戦の中で様々な銃火器を扱ってきた経験からくる正確な射撃が、それ以上にラファールの動きを束縛し攻勢に出られなくしていた。

 

ラファールのパイロットは焦っていた、一方的な狙撃からは解放されたはずであるのに。接近しようとするもその道筋に尽く攻撃を重ねられ、冷や汗を流すような回避を繰り返していた。アレクは相手の動きと攻撃の意図を読み、ランチャーを“置く”ことでラファールの動きを束縛し、攻めあぐねさせていた。

 

そんな膠着状態が動く。ラファールがある程度の被弾を覚悟した前進を仕掛けてきた。比較的弾のサイズが小さく、リロードの長めなランチャー攻撃を突っ切るつもりだ。それは半分正解で、半分間違っていた。隙をアレクが見逃すはずもなく、正確にランチャーがラファールを撃ち抜く。

ラファールが強い衝撃に動きを止める。その被弾ダメージは見かけに反しシールドエネルギーの1割強を持っていくような物であった。咄嗟に身を翻し追撃は逃れたものの、相手は新たな手札を切る。

 

左手から生み出された、鬼火のような光球『スピリットボール』、通称“小玉”がゆっくりと浮遊しながら迫ってくる。その速度は極めて遅く振り切ることは簡単だが、長時間持続ししつこく纏わりつく。それにランチャーが加わりもはや接近どころではなくなっていく。

回避機動をコントロールされる形で小玉に突っ込まされ、小玉に気を取られランチャーを食らう悪循環。

さらに追い打ちをかけるようにミサイルの残弾が残りわずかになっていた。

もはや中距離の射撃戦の膠着状態も維持できず、勝負をかけるしかない状況。それでも懐に潜り込めば何とかなると信じ、ラファールは賭けに出た。

残った8発のミサイルをすべて発射。拡張領域から左手にグレネードランチャーを取り出し、回避を強いたスペシネフに撃ち込み、同時に突撃した。

 

「ちぃっ…!」

 

偶然にもミサイルの影となったクレネードの展開を見落とし、一瞬であったが体勢を崩されたアレクは回避を諦め、背面に背負った『EVLバインダー』を射出した。

このEVLバインダーの一つの機能が、ブーメランのように投擲するものだ。中国の代表候補生が出てくるのはまだもう少し先の話だが、彼女の機体が持つものとよく似た武装。ISの身の丈と同等の大きさと誘導による命中率、大質量であるが故の衝撃力に優れ、このパーツのみシールドが強固に設定されているため簡単に破壊もされない。その特性を今回はグレネードの迎撃に用いた。

二機の間に激しい爆風が生み出されたが、ラファールはダメージ覚悟でそれを煙幕としてスペシネフに向かって突っ込む。

 

黒煙を抜けた先に死神はいた……こちらの首を刈ろうとする鎌を構えて。

 

突撃を読んでいたアレクはすでに迎撃を整えていた。少し後退しながら視界を広めて間合いを測り、ラファールが爆風から飛び出すや否やその正面を斜めに横切るようにイグニッションブーストを掛けた。同時にアイフリーサーの先端部分が伸長、先端のビームブレード発生部が直角に展開、機体の全高の1.5倍はあろうかという長さの(サイス)モードに移行したそれを、体を屈ませながら素早く下から振り上げる。

その刃の軌道に合わせた紫色のビーム衝撃波(ウェーブ)が目の前から襲い掛かり、ラファールはなす術なく直撃を受けた。

 

(坊主には感謝しとかねぇとな……)

 

訓練で翔がアレクに最優先で習得を勧めたのがこの攻撃だった。威力、範囲、発生速度、弾速のどれをとっても申し分ない近距離迎撃の必中武装。スペシネフは近接戦闘も高い水準でこなすが、不慣れな中でリスキーな近接戦を挑まずに済む選択肢を増やす提案をアレクも進んで受け入れた。

一方でVRIS特有のイグニッションブースト中の攻撃は、一度始動すると複雑な制御がオートで行われるため終了まで任意の行動がとれず、外せば隙をさらしてしまう。だが撃つタイミングを間違わなければ、人間にできない機械だからこその動きというのは強い武器に変わる。

 

ラファールが墜落し機能停止したのを見て、もしものために構えていたアイフリーサーを下した。これだけ攻撃を加えてなおパイロットが死なないことに未だ実感を得られないアレクは、もうあまり思い出したくはなかった戦場で殺し合う高揚感と喪失感に包まれていた。

 

 

 

見たところ射撃武装を持たない景清に対するラファールがとった戦術は単純明快。後退し続けて相手に近接戦をさせないこと。スナイパーライフルとミサイルを使った徹底した遠距離射撃戦。勿論それは間違ってはいない。景清は近接格闘戦を得意とするVRISだ。

事実、距離を取ったラファールからの攻撃に景清は序盤防戦一方となった。

だがこの機体の設計者は馬鹿ではなく、パイロットもある意味で素人ではない。その裏に近接レンジに踏み込むための機能と技が備わっていないはずがなかった。

 

景清はVRIS3機の中で現状最も未完成な機体だ。元々サイファーとスペシネフは電脳暦の地球圏で活躍していた『第二世代VR』と呼ばれる歴代で最も性能が高い世代のVR。一方で景清は『第三世代VR』と呼ばれる火星圏対応の、埋蔵されるVクリスタルからの激しい干渉に対するフィルタリングを行ったデチューン型のVRだった。それ故に景清は第二世代VR準拠の性能が出せるようになったVRISで、十分なデータがなく武装の多機能化という改修は行えずにいた。そこでアイザーマンは下手な武装を追加するよりはもっと基礎的な性能を伸ばそうと考えた。

 

秀郷は放たれる狙撃を銃口の向きと相手の呼吸や僅かな挙動から読み紙一重で躱す。ミサイルは躱し切れぬとなれば、

 

「ふっ…!」

 

躊躇なくその表面に力場(ゲートフィールド)の研ぎ澄まされた刃を纏った一刀『焔ノ剣(ほむらのけん)』で斬り落としてしまう。至近の背後で爆発するミサイル…だがそれは景清の装甲に傷を与えることも体勢を崩すこともできなかった。

 

景清が手に入れた能力、それは“圧倒的な操作レスポンス”、そしてこの『火』という型においては多少の被弾などものともしない“強固なシールドバリアと高い安定性”。敵の攻撃を最小限の動きで回避し、時には突っ切って最短距離で接近、緻密な動作で斬り伏せることを可能にする。だがそれはパイロットの技量が直接戦闘力に反映されるということを意味する。余程の適正者が現れなければアイザーマンは景清の実戦投入をしばらく凍結するつもりでさえあったが、それは神の悪戯か杞憂に終わった。

 

(機械と精神(こころ)を通わす……悪い気分ではないな……)

 

MSBSによる精神接続も相まって反応に素直についてくる景清。長年磨きをかけたが己の剣技を自在に振るうことができ、秀郷は鎧ISを纏っている煩わしさを一切感じることはなかった。景清と一体となっている感覚は、訓練での翔やアレク、そして目の前のラファールのパイロットが機体の性能に振り回されているのを見ているからこそより強く感じられる。

 

とはいえ撃たれっぱなしではジリ貧であることには変わりない。爆風ダメージはシールドバリアを貫通してはいないが、シールドエネルギーは削られていないわけではないのだ。だが、ラファール側も撃てども目に見えた損傷もなく、一方的に攻撃しているにも関わらずむしろ距離を詰められつつある状況に焦燥感を感じてきていた。

ここにもし相手からの射撃が加われば…。

秀郷は前方に刀を突き出すと、そこから扁平な半月状のエネルギー光波を放った。それは目前に迫っていたスナイパーライフル弾を撃ち消し、そのままラファールに向かう。この光波もVRIS武装の例外に漏れずかなりの誘導性を発揮、回避が遅れたラファールにヒットしシールドエネルギーを奪う。この攻撃で射線に道を切り開かれ、回避を強いられたラファールは一気に距離を詰められ始める。

 

さらに秀郷は左手からスペシネフのものとは違う球状の光弾(小玉)を、ごく短いイグニッションブーストの加速に乗せて発射する。光波よりも速い弾速、しかも強烈な誘導を見せるそれを、弾速の緩急に対応しきれなかったラファールは被弾し大きく硬直する。ダメージよりも衝撃力を重視したこの攻撃で生じた隙に秀郷はイグニッションブーストで一気に踏み込む。ラファールは何とか迎撃態勢を取り、スナイパーライフルを発砲した。しかし、その相対速度も乗った高速の弾丸はあろうことか刀の切先で弾かれて、手に取り回しの悪いスナイパーライフル持ったまま懐に入られてしまう。

目前まで達した秀郷は任意の行動を制限されるイグニッションブーストを直前で切り、そこからマニュアル制御に切り替えて慣性飛行で懐に踏み込んだ。

これは訓練の中で三人が発見した速度と行動の自由度を両立するVRISのための踏み込みテクニック。

袈裟斬りがラファールの盾にしたスナイパーライフルを真二つにする。咄嗟にスラスターを全力でふかし逃れながらハンドガンとショットガンを拡張領域から取り出そうとするラファールに景清は再び踏み込む。

ぎりぎり間に合ったかと思われたショットガンはサイファーの時のようにまたしてもその力を発揮できなかった。

 

クイックステップ(QS)』。

目標を中心とした円軌道で回り込む近接時専用の特殊機動を発動する。QSは円運動、旋回、時には斬撃動作まで含む制御の難しさからそれほど速度は出ない。秀郷は相手の発砲ぎりぎりまで踏み込むことで回転半径を小さくし、角速度を高めて正面から背後まで回り込んだのだ。

 

「破っ!」

 

左からの横薙ぎがラファールの背面スラスターを切り落とす。斬られたのが肉体部分ならば絶対防御が発動し、2合と持たずにシールドエネルギーが尽きていたであろう。コントロールを失ったラファールはさらに一枚、一枚とスラスターを、そして銃器を切り落とされ…ついには丸裸にされて喉元に刃を突き付けられた。

 

殺される……

自分のしでかしたことの大きさを考えれば今この場で極刑に処されても何らおかしくはない。今更かもしれないがラファールのパイロットは恐怖と絶望に意識失いそうになる。

しかし、そこにオープンチャンネルのデータ通信で送られてきたメッセージは

《ISを解除せよ。これ以上抵抗しなければ、他の者も含め身の安全は保障する》

というもの。もはや彼女に戦う意志と気力は残っていなかった。

 

“誰かを守るための剣”。

自身が後進たちに教えてきたそれを、果たして自分は実践できるだろうか。秀郷はラファールのパイロットを見ながら、ある二人の少女の顔を思い出していた。

 

 

 

 

「あら、もう終わってしまったの……呆気ないわね」

ドイツの高級ホテルの一室でブロンドの美女が、中東の戦闘を監視していた工作員からの報告を受けてつぶやく。

「いいでしょう……貴方たちの方も、もう少し遊んであげるわ」

彼女、スコール・ミューゼルは妖しい笑みを浮かべて、指示を告げた。

 

 

 

「皆、ご苦労だったね」

 

さしたる苦戦もなく3人が勝利を収めたことは不思議ではなかったが、それは僕らの門出に最高の花を添える形になった。

 

≪それはいいが首長たち(あいつら)、ホントに信用していいのか?≫

≪彼女には安全を約束してしまったしな……≫

 

アレクや師範の心配はもっともだ。彼らがもう用済みと僕らを切り捨てることがない保証は確かにない。

 

「それは大丈夫さ。今一番無防備な僕らが無事なわけだし、拠点の制圧に行っているのは首長の直轄部隊だ、不埒な真似はしないだろう。まだやることはあるし取り合えず帰還し……」

「博士、大変です!」

 

通信士をしていたメンバーの一人が突然声を上げる。

 

「イエメン方面からミサイルが首都に!」

「何だって!?」

「おそらくアデン湾の潜水艦からの巡航ミサイルと思われます!数4!」

「翔、聞こえたか!」

≪急行します!進路データを!≫

 

どうやら亡国機業の連中はまだ終わらせてくれないらしい。本格的な内戦に発展させるためにこんなものまで用意していたか…。本来なら容易に発見できた低速の巡航ミサイルも、先ほどまでクーデター側にレーダーシステムを奪われていたせいで発見が遅れた。しかもご丁寧に僕らの作戦領域の反対から撃ってくるとは…。到達までもう10分もない…だが…。

 

「サイファーの速度、見くびってくれるなよ……」

 

 

連絡を受け翔は地上を飛び立ち、再びモータースラッシャー形態へとサイファーを変形させる。流線形態と摩擦軽減型シールドバリアで空気抵抗を減らし、出力のほとんどを割り振ったスラスターの噴射方向を後方へ集約する。それによって達成される大気中での最高速度は実にマッハ3.8。

 

(間に合う……が市街地の外だとぎりぎりか……!)

 

爆散した後の破片の落下を考えると居住地域で迎撃はしたくない。となると一発一発に時間はかけられない。

まもなく翔は巡航ミサイルの噴射光を捉えた。手前に2発、少し奥に2発。やはり市街地は目前で、奥の2発にはもう一回しか射撃ができるタイミングがない。

 

「なら!」

 

手前の群れに突っ込み機首ビームバルカンでまず一発を撃ち抜ける。そこからVRIS形態に変形、振り向きながら肩バインダーからトレースビームを発射。4発の荷電粒子でできたミサイルは巡航ミサイルにしっかりと食らいつきこれも破壊した。

 

「後2発!」

 

勢いを殺さず残りのミサイルの方へ振り向くと、マルチ(多機能)ランチャーを構えモードを切り替える。飛び去ろうとするミサイル。その2つ進路、高度が重なる1点を読んで、トリガーを引いた。

バスターモードで発射された一条の激しい光の奔流。それにミサイルは行く手をふさがれ、交錯した残りの2発は融解、爆発して跡形もなく消え去る。

 

 

静けさが戻った凍えた砂漠に、気づけば地平から暖かい朝日が差し込んでいた。

 

~~~~~~

 

 

「……引き分け…だと……」

 

アレクの言葉の意味は、出撃前に言っていた欧米諸国のイブニングニュース一面の獲得結果である。

『中東混乱を男性搭乗のIS3機が鎮圧』、『アラブ諸国が社会改革に着手』などが約半数。そう、たったの50%である。残りは…

 

『織斑千冬、決勝戦を謎の棄権』

 

ドイツでもとんでもないことが起こっていた。




スペ:しゃがみRTRW狙撃→立ちRW/しゃがみLW→しゃがみLTCW→斜め前スラ鎌。
景清:立ちRW→LJ前LW→QS近接。
機体紹介戦闘回は交差のサイ、引きのスペ、近接のキヨというコンセプト。
各機体の動きを見たい方はyoutubeで「5.66全国」とか「バーチャロンフォース 火」で検索していただければ。

※第二回モンド・グロッソがドイツ開催というのを見落としていたので修正しました。
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