電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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Ver. 7.0 Transition

アラビア半島の騒乱を鎮圧してからはや一週間余りか過ぎた。その間、社会改革に舵を切った政府の方は目が回るような忙しさだったが、僕らもまた組織の基盤を固めと外部への広報活動に追われる日々を送った。

 

改めて僕ら『サッチェル・マウス』は今回の事件に関わったサウジ、カタール、UAEの3か国が創設した統合体『新アラブ連合』の共同出資する研究機関として設立されることが決まった。所在は僕らが最初に訪れたIS研究施設を改修して使うことになり、初期メンバーたちは設備や人員の確保に今も奔走している。

 

だが、それ以上に僕らを忙殺したのがVRISの外部への発表である。

当然だが“男性が使用可能”という点について、国際IS委員会から早急に報告を出すように通達された。これについては(割と)正直にISコアを不可逆な方法でハックしたこと、男女ともに使えるがISとは比べ物にならないほどパイロットの適正を選んでしまうというデータを報告した。本来ならそれで委員会が納得するはずもなく、今度は“その方法を公開しろ”とくるだろう。だがそう来なかったのは、僕らの属する地の利…石油資源だ。未だ化石燃料に頼っているこの世界で一大産油地域であるこの国々から恨みは買いたくないという意識が働くわけだ。“これ以上は企業秘密でもあるし”と理由をつけて手を引けば向こうの面子も立つしね。もっとも古巣DN社は委員会の判断に相当かみついてきていたようだが、後の祭り。DN社に残るプロトVRISコアはがっちりプロテクトしてあり、ISコア同様のブラックボックス状態。アラスカ協定の公表義務を無視して放置されたそれを、今さらうちのモノだと発表するわけにもいかない。彼ら如きではそのコピーは造ることはできず、人材と技術を見事に流失したのみだった。

 

その後アラスカ協定に基づいて公開されたVRIS3機の仕様(もちろんまだ完成、公開していない部分も多いが)に再び世界は目を剥いた。VRISはゲートフィールドの作用をPICやシールドバリアからさらに拡大した強力に慣性制御された駆動系、先進的なエネルギー兵装やその誘導機能などは現行ISが未だなし得ていなものばかりだ。VRISは『力場(フィールド)拡張型』の第三世代ISとして世界に認識されることになり、その後各国が第三世代機の開発を加速するきっかけになった。

 

――――――

 

「ようやくひと段落ついたね……」

 

そんなこんなで、四人でゆっくりと話をする暇ができるのに、大分時間が掛かってしまったのだ。

 

「全くだぜ、野郎のグラビアなんて誰も喜びやしないだろ……」

 

パイロットであるアレクたちにも諸々の取材陣が押し掛けてきたわけで、プロモーションのためにある程度は受けるように頼んだのだ。アラスカ協定には専用機のパイロットを公表する条項もあるし、組織の透明性はアピールしておかなければならない。だが慣れない取材応対に三人ともうんざりといった感じだ。

 

「それはそうと、ドイツの件はどうなんですか?」

「そう、それについては私も気になっていてな」

 

“ドイツの件”とはもちろん僕らの動きの直後に起こった、織斑千冬のモンド・グロッソ棄権事件である。

 

「理由は彼女の弟が誘拐されたためだ。それを……」

 

「「一夏(君)が!?……え(む)……」」

 

同じ名前を口にした翔と師範が顔を見合わせる。隠していたわけではないがようやく二人は“共通の知り合い”に気が付いた。

 

「…で、ドイツ軍が掴んだ情報を受けて織斑千冬自らが助けに行き、無事救出したようだ。こっちも亡国の連中が絡んでいそうだけどね」

「そうか、安心したよ……」

「あのバカ…何やってんだ……」

 

とりあえず、二人は彼の安否を確認して胸をなでおろした。

 

「翔君はなぜ一夏君のことを?」

「中学の同級生、友達ですよ……。あれ?あの日…もしかして博士もあいつのこと見てたんじゃ?」

「そうだよ。けれど、気づいたのはついさっきだ」

 

そう、翔とコンタクトしたあの日、一緒に遊んでいた友人が他でもない織斑一夏だ。そして彼は、織斑千冬の弟であるが故に勧誘することができなかった4人目の男性VP所持者でもある。そのこともまた二人を驚かせたていた。

 

「それじゃあ、秀郷さんはなぜ一夏を?」

「私は一夏君もそうだが千冬君の方と知り合いでな。元々は彼女たちが師事していた篠ノ之君…篠ノ之束の父と言えばいいかな……。子宝に恵まれなかった私に同じく剣術を修める彼らは家族のように親しくしてくれてな。彼が長期休暇の時などに私の道場に彼女たちを連れてきていたのだよ」

「………じゃあ、おっさんはあの織斑千冬の師匠ってわけか?」

「師というほどではないが、教えられることは教えたよ。もっとも千冬君の強さはあの頃から際立っていたがね……」

 

師範はそれを懐かしみ、そして寂しく思っている。篠ノ之家は束がISを開発したせいで家族がその身を狙われる危険性があり、彼女の失踪後は日本政府の要人保護プログラムによって全国を転々とする生活を送っている。

 

「それが、師範がここに来た理由というわけさ」

「うむ……。ISは今や競技の面が強いが、やはりその本質は武器に他ならない。その危険と隣り合わせの世界に千冬君や篠ノ之君たちが巻き込まれている。3年前に亡くした私の女房も彼女たちのことをひどく心配していてな…何かできないかと思っていたのだよ。クリス君がその願いを私の本分である剣の道で成させてくれると言うなら、良い機会だと思ってな。私は彼らに誰かを守るための剣を教えたが、教えた本人が何もしないわけにもいかんしね。実際一夏君のことを聞いて、やはり来てよかったと思ったよ……」

 

訪ねたとき師範は話に全く興味を示してくれなかったが、たまたま僕が発した“篠ノ之”の名に反応してくれたところからで、この真意を聞きだし打ち解けることができたのだ。3人の中で一番協力してくれる見込みが薄いと思っていただけに、使い手を選ぶ景清の最高のパイロットまで確保できたのは幸運以外の何ものでもなかった。

 

「何か俺だけ仲間外れくさくねぇか、これ?」

 

二人に共通点があるせいで不貞腐れて見せているのはアレクだ。

 

「そういうアレクさんはどうして何です?」

 

「俺は場合は単純だよ」

 

「……復讐さ」

 

アレクは元々ロシア軍の特殊部隊に所属していた。しかしISの開発が進むにつれて、想定される特殊任務はISが安全に代行できるということが判明し始め、部隊は縮小、解散されるに至ってしまった。IS開発による予算の圧迫もその追い風になっていた。

 

「その頃は若かったよ。ISに世の中を支配される、自分がISに乗るわけでもないのに女にでかい顔される……。今思えばISに居場所を奪われた怒りでバカな真似をしたもんだ……」

 

当時同じようにして職を失った一部の軍人が、ISの登場で生じた中近東の紛争地域の、様々な外人部隊に流こんでいた。彼もその一人だった。アラビア半島(僕らのところ)は最近まで安定していた方だが、逆に周辺は最近になってようやく泥沼状態から脱してきた感がある。

 

「アフリカは地獄だったぜ。装備も悪いし、司令官も無能だし。仕舞にゃISまで来やがるんだからな……。一緒に行った仲間が何人も死んだよ……。それで嫌になって一旦故郷に帰って細々と暮らしていたところに、こいつが声を掛けてきたってわけさ」

 

「……では、アレク君はどうやって復讐を成そうというのかね?」

 

「安心してくれよ、おっさん。別に俺はISそのものや使ってる奴を恨んでんじゃないんだ。俺が憎いのは、ISを態々女にしか乗れないようにして世の中を混乱させた篠ノ之束だ。その上、奴は宇宙開発を目的にISを創ったのはずなに、兵器としてしか使われていない現状に何もしようとしない……!ああ…大丈夫、おっさんの知り合いを殺しやしない。その代り、奴の思惑を須らくぶっ壊して、悔しがる顔が見たいのさ」

 

束の考えはやはり不透明だ。人類に宇宙に行ってほしくないと思っているようにさえ感じられる。改めて師範に聞いたが、やはり束は妹や織斑千冬・一夏にしか興味を示さず、師範はもとより両親ともほとんど口を利かなかったらしい。そんな人物が果たして不特定多数の人類のために何かを成そうと考えるだろうか?その真意を知りたいのは皆同じ……

 

「だから俺たちの手でISを宇宙に上げる、だろうクリス?」

「その通りだ」

 

サッチェル・マウスが世界に大々的に打ち出した理念、それは

 

“ISによる宇宙開発を推進”

 

当り前のはずだが、どこもやろうとしなかったこと。ISを取り巻く環境は今もなお不安定だ。国防の要であるISを簡単に割くわけにはいかないし、開発費そのものが予算を逼迫し宇宙どころではない国が多かった。だが、ISの技術や人員が成熟しつつあり、次のステージに進むべき時である今なら、どこかが手を上げればついてくる者は必ずいる。

 

現状を打開するのにもはや篠ノ之束の力は借りない。

ISを生み出した者の名は篠ノ之束であっても、宇宙を切り開いたのはDr. アイザーマンたちであったと、そう歴史に刻むためにサッチェル・マウスはあるのだ。

 

「…実際のところはリアクション待ちだけれどね」

 

当初VRISの技術については当然多くの国々から提携や取引の話が舞い込んできた。それに僕は“宇宙開発に協力するなら応じる”と返答した。難色を示し一旦のところは手を引いていく所がほとんどの中、手ごたえがある国もある。できれば僕らだけでのスタートは避けたいが、最悪それも仕方ない。

 

 

「ともかく、今はできることをやろう」

 

宇宙進出のための準備以外にもやらなければならないことは山積みだ。

 

まずはVRIS三機の未完成武装の調整だ。今回の戦闘ではサイファーとスペシネフには時間がなく“完成しているがまだ信頼に値しないから使わないように”と言ってあった武装があった。景清は他の換装武装パッケージが完成していない。それに

 

「クリス、アイフリーサーを修正してほしい。あれは持ちにくすぎる」

「博士、近接なんですがどうしても一つ追加してほしいのが……」

 

今回の戦闘で出た不満点の修正やアイデアが出てきた。さらに各機には全く実装の目途が立たない機能さえある。今後もVRISの可能性の探求は続いていく。

 

次にこの国に独自の通常ISがないということである。幸い、先の戦闘で戦ったラファールのパイロットたちやその他のクーデター側の者は、外部の工作員による扇動を受けて踊らされた被害者ということでお咎めなし。実際彼女たちの目的は達成されたわけで、これからは新アラブ連のために働くと約束してくれた。そんな同僚(彼女)たちのために旧式のラファールに代わって新しいISを開発しようということになったのだ。

 

「博士、それについて俺から提案があります」

 

翔は、元々は工学修士号を持つ一端の研究者だった。技術レベルに差があるとはいえ科学の本質を捉えたものの見方は、今後開発に携わるのに十分なものだと感じていた。

 

「新ISですが、“あのVR”をベースにしたらいいんじゃないかと」

「ほう…あれか……」

「ただISだと再現は無理なので、あれをこうして、これをああして……」

…………

「…妙案だ。それならISの性能でもまとまった形にできそうだね。それでいこう」

「ヤター」

「それじゃあ翔、君にテストパイロット兼主任として開発に当たってもらおう」

「って…えええ!テスターはともかくとそれは……」

「言い出したのは君だろう?なに、うちのメンバーは優秀だ、心配はいらないさ」

「あー、分かりました。…頑張ります!」

 

「となると、そのパイロットの育成も必要だね、クリス君」

「ええ、お願いできますか師範?」

 

指導者として剣術師範として長年指導を行ってきた彼の右に出る者はいまい。IS操縦者としては未熟でも近接戦闘のほかに、彼女たちのフィジカルとメンタルを力強くサポートしてくれるはずだ。

 

「もちろんだとも。むしろISについては私の方が教えられる側だ。ともに切磋琢磨させてもらうさ」

「というか、秀郷さんて筋肉すごいですよね」

「ああ…60のおっさんには到底見えないぜ……」

「ははは、まだまだ老いたというのを理由にしたくはないからね」

 

「アレク、射撃の指導は君に頼むよ」

「おう、任せときな」

「それから、各国軍に出向して彼らとISで連携が取れるように訓練を行ってくれ」

「なるほど…了解だ」

 

軍属経験者のアレクにはISが通常軍と連携を持って動けるような指揮系統、戦術の構築を頼むことにした。国内に反政府的な分子はまだいるし、他国や亡国機業からけしかけられる可能性は常にある。使えるマンパワーの確保は急務だ。

 

「さあ、また忙しくなるよ皆!」

 

~~~~~~

 

「そういえば秀郷さんって、どうやって博士に発見されたんです?」

「確かにゲームするって人には到底見えないな」

 

「ああ…それは私も最初分からなかったんだが、どうやら出先の剣道教室の後に子供たちにせがまれてデパートのおもちゃ売り場で少し触ったときのデータみたいなのだよ」

 

「そんな分かりにくいところで観測されたせいで、半月以上探し回る羽目になりましたけどね……。景清が火しか完成してないのはほとんどそれのせいですよ、まったく……」

 

「はっはっはっ、すまないね」

 

「てか、それだけで発見する博士って……」

「情報化社会こえぇ……戦場以上に迂闊なことできねえな、マジで……」




藤原秀郷
大ムカデ退治で有名な武者から。容姿は東方二次の魂魄妖忌。某所でVO4×東方のSSが上がった時に「」確かに風=妖夢だなと思って調べたら、藤原秀郷の子孫のリアルゆゆ様とリアル景清が同じ時代に生きていたためそんな妄想が。

アレクサンドル・イグリンスキー
CV:井上和彦。ジェリドは個人的に好きなキャラ。それがどうした!スペシネフ=ロシアっぽい。外国人名はとあるスポーツ競技の選手名を組み合わせて使ってます。
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