電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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Ver. 8.0 energy flux

宇宙へ行こう。

 

その言葉に、手を挙げたのはVRISのパイロットたちの故郷だった。

まずはロシア。元々はアメリカとシェアを二分する宇宙技術大国であったが、予算がIS関連に流れたことで軍と同じくその規模を縮小していた。だがそれ故に再び宇宙の雄に返り咲く意志はどの国よりも強く、僕らの旗揚げを絶好の機会だと読み取りすぐさま協働を申し出てくれた。

一方で意外だったのはロシアの後しばらくして、日本が参加を決めたことだ。IS登場以前から宇宙開発には力を入れている方だったが、どちらかというと今の僕らと関係の良くないアメリカ寄りではあるし、内部で何があったのか…。

 

これによって、しっかりとした宇宙技術の基礎を持っている大国ロシア、どんな分野にも強い技術立国日本、新進気鋭のIS技術者組織を持つ新アラブ連合の3つが手を合わせてISの新たな時代が幕を開けた。

 

その第一目標として、月を目指すということで一致した。地球から最も近い地表は実験場として最適だ。何より僕らにとっては絶対に調べなければいけない地である。

 

『ムーン・ゲート』

 

電脳暦で人類史以前に存在していた謎の超文明が築いた巨大施設、VRの生まれ故郷。超文明が創り出したとされるVクリスタルがISのコアとしてこの世界にも存在する以上、最初は疑問に思っていたムーン・ゲート存在の可能性は、今は確信へと変わっている。それを何としてもいち早く見つけてVクリスタルを確保すると同時に、あそこから始まった様々な過ちの芽を摘んでおく必要がある…。

 

その前段階として提案したのが『IS対応宇宙ステーション』の建造である。現在の宇宙ステーションは宇宙船で行き来を行い、内部設備やエアロックは人間サイズ用のもの。だからISの運用に適した規格・設備のものを新造する必要がどうしても出てきたのである。この案が採択され、国際IS委員会の承認を受けることになった。

 

これは比較的陣営の異なる国家の共同案件ということで概ねすんなり審議が進んだのだが、一つの問題が。それは兵器持ち込みの制限。亡国やその他のテロリストに宇宙ステーションを襲撃される可能性は常に付きまとうため、それなりの装備は用意しなければならない。隕石などからの自衛用ということで何とか押し通し、さらに対価としてこちらから“スペースデブリの除去”を提案した。衛星軌道には人工衛星などの残骸が膨大な数放置されており、それとの衝突事故は宇宙進出の一つの懸念材料だ。こちらとしても慈善事業と宇宙空間での訓練を両立できる。おかげで“地上を直接攻撃できる兵器は持ち込まない”ということで合意できた。

 

ここまでくれば行動あるのみ。宇宙ステーショは主に、設計をサッチェル・マウスが、資材輸送・建設技術をロシアが、材料・内部機材の開発製造を日本が担当することになった。サッチェル・マウスのISパイロット6人もしばしばロシアに宇宙活動の訓練のために足を運び着々と準備が整い…。

そして、翌年の日本で桜が咲く少し前、第一陣が宇宙(ソラ)へと上がった。

 

 

――――――

 

≪どうだい、宇宙から見た地球は?≫

 

「…地球は青かった……」

「…ここまで来るとカモメなんて気分にはなれないな……」

 

今回サッチェル・マウスからは翔とアレクが参加していた。他の隊に先んじて到着した二人がランデブーポイントに向けて高度と速度の調整を行いながら、初めて眼下に望む地球の姿に息を飲む。その大きさに圧倒され、自分たち人間のちっぽけさを思い知らされる。計器を見ればシールドバリアの外はほぼ真空、さらには宇宙線が容赦なく降り注ぐ過酷な環境。ISがあっても相当の緊張を強いられるというのに、それなしでこの世界に分け入った先人たちの勇敢さには頭が上がらない。

 

「お…ようやく来たみたいですね」

「ま、デートの待ち合わせ場所に先に来ておくのは男の嗜みってやつだな」

 

下からロシアの二人、そして日本の二人が上がってくる。

 

「二人とも、待たせたわね」

 

ロシアの第三世代型IS『グストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)』を駆る今回のミッションの隊長、ロシア代表のアナスタシア・メンショフが回線を開く。翔とアレクは彼女とは何度も会っており、IS操縦の経験も豊富で信頼できる人物だ。しかし、その隣は…。

 

「ん、そっちの嬢ちゃんは見ない顔だな?」

「え…日本人?」

 

同じくグストーイ・トゥマンに乗る少女は見覚えがなかった。ロシアにはモンゴロイド系の民族もいるが彼女はどう見ても日本人だった。

 

「はじめまして、1月付で代表候補生に選出された更識楯無よ。よろしくね」

「彼女は自由国籍権を持っていて、ロシア(うち)の代表候補生になったのよ。安心して頂戴、能力や人柄は私が保証するわ」

 

そうは言われたものの見た目の年齢とは不釣り合いな落ち着いた雰囲気を纏った彼女の唐突な出現は、自然と三人に警戒心を抱かせる。

 

≪翔、アレク、どう思う?≫

≪少なくとも普通の人ではないですね…けど、ここで変な気を起こすことはないでしょう≫

≪そうだな、こういう仕事の場で仲間を疑ってかかるわけにもいかねえしな≫

 

そう結論付けた二人は楯無と握手を交わしミッションを開始した。

 

輸送用に限界まで拡大したグストーイ・トゥマンや打鉄の拡張領域から次々と資材が展開される。今回持ち込んだのはISに不具合が生じたときにパイロットが避難するための緊急用シェルターだ。ISの安全性の検証実験は地上で十分に行ってきたが、現場では万が一を常に想定するものだ。

 

皆慣れない本物の無重力空間に最初は戸惑っていたものの、さすがは各国のトップパイロットたち、すぐに機体を本物の手足のように従え、組み立て作業は良いペースで進行していく。

 

作業を進めていると、ちょうど翔の隣に楯無がやってきた。

 

「調子はどうかしら?」

「問題ありません、順調です」

 

翔は手は止めずに、相手を知るには良い機会だと楯無に問いかける。

 

「楯無さんはこれからもミッションに参加するんです?」

「私はIS学園に入学するから、残念だけどしばらくはこれそうもないのよねぇ。そういえば、貴方も来年はIS学園に通う予定なんでしょう?」

「…そうなってますよ……」

 

翔はだいぶ前からIS学園に進学する話をアイザーマンにされていた。ようは優秀な人材を発掘してサッチェル・マウス(うち)に連れてこいということなのだが、正直言って頭痛の種でしかなかった。入学すれば周りは女子しかいないのだ…絶対耐えられない…。

 

「ふふふ…大丈夫よ翔君、困ったらお姉さんが助けてあげるわ」

「…そりゃどうも」

(その代りに色々要求してきそうだな、この人…)

 

不安が顔に出て心を見透かされた上で、厄介な人に目をつけられたことを翔はこの時確信した。今度は急に真面目な雰囲気になった楯無の方から質問が投げかけられる。

 

「貴方はどうして宇宙に行こうと思ったの?」

「…ISは地上に置いておけば人間の争いの種になる。ISの敵には“宇宙(未知なる危険な世界)”がなってくれればいいと、そう思ったからですよ。そういう楯無さんは?」

 

「私は…」

≪翔、時間だ≫

「あっ…すいません、そろそろ…」

「ああ、そうだったわね。頑張ってね」

「はい。アレクさん、時間なんで準備お願いします」

「おう、了解だ」

 

今回二人は、役目は組み立て要員であると同時に輸送のために武装をほとんど解除している他の4人の護衛。そして、例のデブリ掃除の任務に就いている。目標は作戦領域の直下―といっても3km先だ―を通過する直径50cmほどの衛星の残骸。二人は一旦シェルターから飛び立ち、攻撃ポイントに移動する。

この任務のためサイファーは頭部を、レーダー・データ処理能力を強化した『Type R』バージョンに変更している。 よく“ウサミミ”と呼ばれる見た目を翔は嫌いではないが、トレードマークがあの天災と被る点だけが残念だ。

 

【………ターゲット確認…レーダー、ハイパーセンサー連動開始…軌道計算中…………データリンク開始……】

 

サイファーからのデータを受け取ったスペシネフは改良したアイフリーサーの銃口を予測狙撃点に向ける。アイフリーサーは最初トンファーのようなグリップで腕の外側持つという独特のポジションで握られていた。それがISというパワードスーツとアレクという狙撃手の手にはどうにも馴染まなかった。そこでフレームにちょうど“互”の字のような平行四辺形のグリップ部分を作り、ランチャーとしての握りやすさとサイスモードの振りやすさを改善したのだ。

 

数千km/h程度の相対速度で飛来するデブリを目測で狙撃することは不可能だ。観測データを頼りに一瞬しかないタイミングを狙うしかなく、最後は引き金を引く者の経験と勘が頼りになる。アレクは予測ポイントに念入りに試射を繰り返す。

 

「…来ます」

【カウントダウン…10…9…8…7…6…】

 

翔からの言葉と計器のカウントを聞きアレクはふぅと深呼吸をして、脳内に描かれたトリガーに手を掛け、

 

【5…4…3…】

 

連動するサイファーのハイパーセンサーが捉えた点でしかないデブリの姿にすべての意識を集中し、

 

【2…1…0】

 

息を止め、静かに引き金を引いた。

 

真空ではアレクにしかが聞こえない独特の発射音と共に撃ち出された紫色のビーム弾が、地球に向けて吸い込まれていく。

数秒後、斜め上からビームの直撃を受けたデブリが青いキャンバスの上で閃光を散らした。運動エネルギーを大きく失ったデブリはそのまま高度を下げて大気圏に落ち、一筋の流星となって燃え尽きた。

 

 

「やっぱり来てよかったわ……VRIS…思った通り面白い子たちね……」

 

シェルターからは楯無が悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ハイタッチを交わすアレクと翔を見守っていた。

 

 

――――――

 

宇宙ステーションの建造が進む中、地上では新たなISが産声を上げた。

 

新アラブ連の新標準第三世代IS『YZR-40/540SH バイパー540SH』がロールアウトしたのだ。

 

元々はバイパー540SHは第一世代VR『バイパーⅡ』をテストヘッドとして僕が作製したサイファーの試作機だ。そのため基本設計はサイファーと酷似しているが、翔は標準機としての汎用性を持った高機動型ISとしてバイパー540SHを仕上げた。カラーは落ち着いた紺青。胸部にはサッチェル・マウス製ISの最大の特徴であるホーミングビームキャノンを主兵装として搭載、性能はサイファーのものと遜色ない。これ以上の特殊兵装の搭載は通常ISの能力的に負荷が大きすぎるため、マルチビームランチャーはバスター機能をオミット、ダガーはバイパーⅡと同じマイクロミサイルにすることでバランスを取っている。また可変機構も搭載してあり、元々のVRではパージしていた機首部分は量子格納で出し入れし、物理シールドとしても使える。ちなみに翔はちゃっかりこのノウハウをフィードバックし、サイファーの可変時に量子格納経由でレブナントⅡを瞬時に機首から右手に移動できるように改良している。

 

バイパーを受領した元ラファールのパイロット3人も加わって宇宙ステーションの建造は急ピッチで進められ、時間は足早に過ぎて行った。

 

 

――――――

 

「何、暴走ISだって?」

 

その報は、その日地上にいた僕と師範の下にもたらされた。

 

「ええ、試験中だったドイツの新型が突如暴走、外部のコントロールから離れてこちらに向かっているそうです」

「…狙いはここか?」

「何とも言えませんが地中海に出た後は真っ直ぐ向かってきているので、そうとしか…」

「…クリス君、それはまさか君が言っていた……」

「その可能性は限りなく0です。もし“あれ”ならば、辺り構わず攻撃し出すはずですから。師範出撃をお願いします。二人も宇宙(うえ)から呼び戻しているのですぐに合流できるはずです」

「承知した」

 

 

~~~~~~

 

砂漠の果てから飛来する黒いIS。ドイツの第三世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の試験機だ。試験機と言っても機体フレーム・武装はほぼ完成して実戦に耐えうる状態になっている。

 

景清のハイパーセンサーが捉えたレーゲンのパイロットの少女は生気のない虚ろな目をして、まるで機体に操作されているかのように筋肉には動きが見られない。にもかかわらず、景清の姿を見つけるや否や、猛然と突進してきた。

 

「…その気のようだな…良い気はしないが大人しくしてもらうぞ」

 

この戦闘の第一目標はパイロットの救出。そのため細かいダメージを積み重ねて、できるだけパイロットにダメージを与えないようにISを行動不能にするという作戦だ。

秀郷はその手に薙刀『霊鷲(りょうじゅ)』を構え、レーゲンを待ち受ける。

 

景清『山』

 

景清の4つの武装パッケージの中で、中近距離での射撃戦や援護に特化した多人数戦を想定した型。今は翔とアレクが来るまで時間を稼げばいい…動かざること山の如く。

 

(ふむ…思ったよりも動きは理性的だな……)

 

遠距離からの高弾速のリボルバーカノンは火よりも軽快になった機動で悠々と回避し、起動が読みにくいはずのワイヤーブレードも薙刀で打ち落としながらレーゲンの出方を伺う。その動きは“暴走” というにはあまりに理にかなったものだった。

 

「クリス君、どう見る?」

≪AI…しかも外部からある程度パターン変更も行っているようですね…。苦しいですか?≫

「いや所詮は機械の考えだ、人の動きには到底及ばんよ。二人が来るまで肩の砲の弾を減らさせてもらうとしよう」

 

秀郷はあえて接近せずリボルバーカノンの攻撃を誘っては回避し、残弾をじりじりと削っていく。そこに…

 

「おっさん遅くなった!」

「加勢します!」

 

モータースラッシャー形態のサイファーとそれに乗ったスペシネフが到着した。

 

そこから試験機ISと3機のVRISの戦いは、ただただ一方的だった。

景清が近距離に張り付き、薙刀の刃から弾速に優れるエネルギー弾を連射しながら間合いを詰め薙刀を振るう。そこから逃れれば今度はサイファーからトレースビームやバスターが次々に浴びせられる。反撃しようにもスペシネフの小玉やランチャーが纏わりつきシールドエネルギーはみるみる内に削られていく。

いくら優秀なAIでも熟練と言っていいパイロットの駆る規格外の3機の連携には、どう足掻いてもついていけるはずもなかった。

 

「クリス、あとどれくらいだ?」

≪もう1、2発で生命維持モードになるはずだ≫

 

レーゲンの外装はもうボロボロ。今にも墜落しそうな状態でかろうじて攻撃を躱している。

 

「オーケー、じゃ締めさせてもらうぜ」

 

アレクはアイフリーサーをサイスモードに変える。二人の攻撃にレーゲンが回避スペースを失ったタイミングを計り、高弾速型のサイスウェーブを繰り出した。

 

 

……………………

 

 

…………ココハ……ドコ?

 

……ワタシハ…ダレ?

 

ワタシハ…ナゼミンナニ…イジメラレテイルノ…?

 

……イタイ……クルシイ…………

タスケテ…モウヤメテ……!

 

 

……シヌ……?

…ワタシハシヌノ?

イヤ…シヌノハ…イヤ…!

シニタク…ナイ……シニタクナイ…シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ!!!!!

 

 

止めとなるはずだったその攻撃は、

レーゲンから突如噴き出し、その黒い機体を包み込んだ異様な“影”に掻き消された。




最後ダメギを思い浮かべた君は、後で私のオフィスまで来るように。
ようやく束以外の原作キャラが出たよ^^;
ドイツの娘はラウラじゃありません。
世界観を描くうちにどんどん日露ばかりに…原作始まれば少しは解消するかな?

※1~3話タイトル修正。BGM曲名中心につけていこうと思います。
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