月に照らされた冬木大橋、その頂点に腰掛ける少女が一人。
あの顔・姿、どう見ても。つぶれアンマンならぬ、紛うことなき最弱英霊スペンタマユである。
「~♪」
満点の星空を眺めながら歌を口ずさみ、手に持ったワッフルにかぶりつく。その様子は、とても微笑ましいものに見えた──その少女の目が死んでいなければ。
いっそガラス玉と呼び変えてもいいレベルで虚ろである。その辺に寝転がっていたらしたいと間違えられるかもしれない。
(もうやだ。おうちかえりたい。たすけてあらやさま)
内心で際限なく幼児退行を繰り返しながら助力を乞う。
だが、返答は無情なものだった。
『頑張れ』
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!」
絶叫。
どう考えても見た目年頃の女の子が出してはいけない声をあげながら発狂するスペンタマユ。そろそろスキルに狂化が追加されそうだ。
そして、ひとしきり叫んだ後、ふらりと立ち上がって覚束無い足取りでその場をあとにする。
そして、何を思ったのか橋の頂点から身を投げた。
そのまま川に飛び込み、それはそれは見事なフォームで小一時間狂ったように泳ぎ続けた。
たまたまそれを見かけたライダーは、見なかった事にして速やかにそこから離れたという。
「あーはぁーん☆」
『やめてえええええっ!? ちぎれる、サーヴァントの膂力で引っ張られたらさすがのルビーちゃんも危ういですよーっ!?』
「……衛宮くん。これどうしましょう」
「いやオレに言われてもな……」
「……
「これが社畜の末路か……一歩間違えれば、私もこうなっていたのだろうな」
遠坂邸。
そこに、喋って暴れるステッキを弄ぶ死んだ目の少女がいた。
それが誰かはもはや言うまい。
そしてそれを憐れみの目で眺めるのは、一時的に同盟関係にあるセイバー・アーチャー陣営。
見事に発狂してしまった裁定者を眺めながら、ヒソヒソと会話を続ける。
「(……これどうするのよ)」
「(……どうするって言われてもなあ……メンタルケアなんてしたことないぞオレ)」
「(……シロウの料理で釣るというのはどうでしょうか)」
「(……それで釣られるのは君だけだ、セイバー)」
『あああああんっ!? 軋んでる! ルビーちゃんの
「そのままへし折れなさい駄礼装」
『ほああああっ!!? あっ、だんだん気持ちよくなってきたような…♡』
苦痛を喜悦に変換しつつある愉快型魔術礼装のことはさておき、四人は話し合う。
だんだんその声に軋む音が混ざり始めているが、誰も気にとめなかった。
「それで、ルーラーは何の仕事をしているんだ? この前聞いた時は触りくらいしか話してくれなかったし」
「……
「……黄金のサーヴァント?」
「ああ。話せば長くなるが──」
守護者説明中。
その説明が終わる頃には、マスターの少女はすっかり頭を抱えてしまっていた。
「……冗談でしょ……」
「ああ、それでこの前、ルーラーとバーサーカーが……」
「宝具に関して、奴の右に出るものはいないだろう。だが、そのお陰ですっかり慢心している様だ。付け入るとしたらそこしかない」
「だとしても、戦力足りるの?」
「……、」
「おい、こっちを見なさいアーチャー」
「わからん。だが、だいぶ厳しい戦いになるのは間違いないだろう」
そう締めくくるアーチャー。
ちょうどそのタイミングで、スペンタマユが正気に戻った。
「ハッ! 私は何を……?」
「元に戻ったか、ルーラー」
「あっ、見せ筋」
「やめたまえ。君も
「見た目の話をしてんですよ」
サラリとアーチャーを罵るルーラー。
そして、先程の発狂具合からは想像もつかないほど真面目な表情になり、
「……金ピカに挑むんですね」
「まあ、君だけでは不安だからな」
「すいませんねクソステで。それならまあ、これを貸します」
そう言って、背中に背負っていた双剣をアーチャーに押し付けた。
即座にそれを解析したアーチャーが目を見開く。
「……これは、君の宝具ではないのか?」
「ああ、ご心配なく。この『殻』を纏う時に違う誰かと
その混ざった不純物に心当たりのありすぎるアーチャーが顔を僅かに歪める。
ちなみに、戦闘スタイルからしてスペンタマユも薄々勘づいていた。
「まあ、吹聴はしませんよ」
「そうしてくれると助かる」
「後で美味しいお菓子を所望します」
「」
流れるような動きでカジュアルに脅迫してくるスペンタマユ。ルーラーとは一体なんだったのか。いや、戦争に関して中立でさえあればいいから、問題はないのか……?
その後、アーチャーは大量のパンケーキを作る羽目になったとか、ならなかったとか。
ゲスト出演:
ちなみに出番がないだけでサーヴァントは全員生存しています。