「……さて。私は私で
そう言って、スペンタマユは遠坂邸を後にした。
目指すは大聖杯。円蔵山の地下洞窟、龍洞に築かれた諸悪の根源だ。
敏捷値をフル活用して突っ走る裁定者。
だが、幸運E(E++)の値は伊達ではなく、やはり逃れえぬ騒乱に巻き込まれてゆく。
持ち前の方向音痴を重ねに重ね、辿り着いた先は……
「……ここ、どこ?」
遠坂邸とはまた違う大邸宅だった。
彼女は知らなかったが、そこは『間桐邸』と呼ばれる……まあ、言ってしまえばCERO-Z指定待ったなしの地獄的サムシングである。
内実は知らずとも彼女にもその黒すぎるオーラは伝わったようで、
「なんですかここ……うわっ、鼻曲がりそう」
と顔を顰めていた。
ルーラーとしてこれは見過ごせない。原因がなんであれ、取り敢えずヤバそうなものは始末しておくに限る。
「ダイナミックぅ~、おじゃましまーっす!!」
と言いつつ、やる事は霊体化しての潜入だった。小物臭が半端ない。
そう。もしかすると、放っているオーラがアレなだけで正真正銘一般人の邸宅かもしれない。だから迂闊に姿を現すのは危け──
(……あらー……)
危険、と言い切る前に魔術結界を発見した。
どう足掻いても誤魔化しようのないクロだった。
いやまて、落ち着けスペンタマユ。アレだ、聖杯戦争には無関与のただの魔術師が住んでいる邸宅という可能性が──
『何してるライダー! とっとと行くぞ、ノロマめ!』
(Oh)
──全然なかった。完膚無きまでに関係者だった。
どこまで外法に手を伸ばせばここまで空気が汚れるんだ。そしてまた仕事が増えた。
仕方なく、声がした方向に進んでいくルーラー。
程なくして、何やら怒鳴り散らすワカメと落ち込んでいる女の子、そしてバイザー装備のノッポ女──
ガキンッ!!
「なんだライダー! 何の騒ぎだ!?」
「……今、とても屈辱的な事を言われた気がしました」
「なんの事だ!」
ヒエッ。
……あっ、真名看破出ました。
ギリシャ神話からメドゥーサさんです。
さもありなんとスペンタマユは頷く。元々ゴルゴン三姉妹はロリ体型が完成形だから、一人だけ成長してしまった自分が疎ましいのだろう。それが、最終的に
が、見る限りその主従にアウトな点は見当たらない──せいぜいマスター権を一時的に移譲しているくらいだが、専用礼装に令呪まで使っているしまあセーフ──のでほかの所へ行くことに。
(怪しいとすれば……下の方かな)
一部、進めば進むほど負のオーラが強くなる場所がある。
もう確定的にそこだろう。
霊体化は一応しているが、そろそろと進んでいく。
何重にも侵入防止用の結界が張られた、露骨に怪しい両開きの扉を発見した。
いや絶対ここだろ。
持ってもいない直感スキルが警笛を鳴らす。つまりそれだけ危ないという事。
が、裁定者としてこんなものは見過ごせない。なんか聖杯戦争内での役割から逸脱している気がするが、それでも見逃せない。
どうやら霊体化のままでは通れない様なので、その場で実体化。
両手に双剣を取り出した。
「──
そして、結界もろともドアを滅多切りにする。
筋力D-とはいえサーヴァントの膂力に耐えきれるわけもなく、ドアは木っ端微塵になった。
姿を現したのは、地下へと続く石の階段。
この奥から、もういっそ不快と言っても問題ないレベルの瘴気が流れ出てきている。
ついでに、サーヴァントの召喚陣の残滓の気配も。
「……、」
ゆっくり、ゆっくりと下っていく。それに比例するかのように、だんだんと空気が湿り、澱んでくる。
──もうなんか本当、帰りたい。
そう思うスペンタマユだったが、しかし戦争に関連していることなので手は抜けない。
そして、階段を降りきったその先にあったのは──
「……うん?」
薄暗くて湿っぽい和室だった。
その脇には机が置いてあり、『ぞうけん』と書かれたシールの貼られたビンに一匹の虫が収まっている。
そして、その部屋の隅には……
「……孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い……」
ブツブツと何かを呟きながら小刻みに震える一人の老人。
よっぽどなにかに怯えているのか、こちらに気付いてもいない。
それをいい事に、スペンタマユはなにか怪しいものがないか周囲を探索するが……
「……何ですかこれ。ノート?」
ふと、一冊のノートが目に付く、
部屋がやたらと暗いために見にくいが……どれどれ……。
そして、表紙に書かれたタイトルを見て、少女の身体と思考がフリーズする。
そこにはこう書かれてあった──
『よいこのめっさつしりーず』
『いちにちさんさつ』
『ジャプニカ暗殺帳』
そして、表紙には何故かライフルのスコープらしきものに収められたアーチャーのマスターの姿が……。
(あ、これあかんやつや)
そう察したスペンタマユは、速やかに霊体化してその場を後にする。
そのまま、ライダー陣営には何があっても介入しないことを誓ったという。
申し訳程度のHollow要素