「……、」
紆余曲折を経ながらも、少女は無事に龍洞に辿り着いた。
目指すは大聖杯、かつて『冬の聖女』と呼ばれたホムンクルスをバラして組み替えることによって造られた、埒外の超弩級魔術礼装。
しかしそれは今、そのほかならぬその作り手によって極限まで汚染されている。
故に、スペンタマユはここへ来た。
自身の同輩の後始末をする為に。
だがしかし。ここで邪魔しに来る影が一つ。
「……久方ぶりだな」
「……何のつもりですか、キリスト教徒」
やたらと縁起の悪そうな顔をした男。
もとい──聖杯戦争の監督役、言峰綺礼。
その手には丁字型の木で出来た柄のようなものが複数握られていた。
確か、あれは……。
「ええと……白鍵でしたっけ、それ。確か人外専門の……そう、代行者とかが使うっていう」
「残念だが逆だな。黒鍵、だ」
「そうですか」
それで、とスペンタマユは話題を区切る。
本題はここからだ。
「──その黒鍵を両手いっぱいに構えて、どうする気でしょうか? 聖杯の泥に洗礼でもかまします?」
「貴様なら分かっているだろう、裁定者──」
そして。
「──!!」
「せっ!!」
その次の刹那。
裁定者と代行者、人ならざるモノと善ならざるモノが、トップスピードで激突した。
周囲一帯に衝撃波が撒き散らされる。
ギリギリと鍔迫り合いをしながら、スペンタマユは内心壮絶に焦っていた。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! なんですかこの男! 筋力Dとはいえなんでサーヴァントと拮抗してるんですか!
「……ふむ」
ガン! ガン! ギィンッ!! と連続して金属のぶつかる音が打ち響く。
双剣を振るのに乗じて宝石をばらまくが、撒いた先から巧みなステップによって尽くを
「ハッ!」
「疾ッ!」
バキン!! と甲高い音が響いた。
サーヴァントと人外神父の膂力に耐えきれず、互いの武器が砕けたのだ。
というか、いくら低ランクかついくらでも直せて生み出せる量産品とはいえ、宝具を砕く人間がいてもいい物なのか。
……この神父、本当に人間か?
が、そこで止まるならそもそも激突などしていない。
次の刹那には互いに己が武器を元通りに修復し、再びぶつかり合う。
ある弓兵の起源が『殻』に混ざりこんだ事もあってか、こと修復に関しては裁定者の方に一日の長が合った。だが、神父は修復のロスを補って余りある膂力と初速を発揮し、あっという間に彼女に追いついてみせる。
そのまま再びの拮抗。
もはや目指できないほどの速度で互いに武器を振るう。
あまりの速さにかまいたちが断続的に生み出され、周囲にあるものに深い切り傷を刻んでいた。
先程から、スペンタマユの頭で『生存願望』由来の直感が警笛を鳴らしている。
英霊ならざる人の身ではあるが、目の前の神父は立派な脅威なのだろう──こと、霊体相手ならば。
だが、ここでスペンタマユが動いた。
「──『
床に撒き散らされた宝石、その大小無数の破片が光を放つ。
術式ごと砕かれた以上、正規の方法では起動しない。だが、そこには一つ例外がある。
『弾込め』に失敗した際に使う、言わばガス抜きのような技術があるのだ。
だが、ちゃんとガス抜き用の術式が機能しているならともかく、今回の場合は仕込んだ術式諸共に砕かれている。
つまりどうなるかと言うと──
「っ、!? くっ!」
キュガッ! と二人を中心にして莫大な魔力と土煙が吹き荒れる。
崩壊した術式を無理に動かしたために、宝石が暴走・起爆したのだ。
EXランクの対魔力を持つルーラーはさておき、神父の方はただでは済まないだろう。事実、周りにはちょっとしたクレーターが出来ている。
そして。
煙が晴れた先には、傷だらけで膝をつく言峰綺礼と、今度こそ砕け散った黒鍵の柄。
肩で息をする神父に対して、裁定者は告げる。
「私の勝ちですね」
「……ふっ」
だが、満身創痍ながらも神父は不敵に笑ってみせる。
その仕草に不穏なものを感じる少女。
次の瞬間、彼女は己の直感に従って全力で飛び退いた。
直後。
ズガガガガゴンッ!! と。
恐ろしい程の轟音とともに、ついさっきまでスペンタマユの立っていた地点が
こんな阿呆みたいな攻撃を繰り出してくる輩など一人しかいない。
ざり、と地面を踏みしめる音が耳に届く。
そちらを向いて、叫ぶ。
「何の用ですか……ギルガメッシュ!」
人類最古の王、ギルガメッシュ。
聖杯戦争における絶対的優位性を誇る、まさしく歩くチート系主人公。
「下らん児戯に身をやつしているようだな、紛い物よ」
パチン、とギルガメッシュが指を鳴らす。
それに呼応するように、剣、斧、槍、弓──大小無数、多種多様の武具が黄金の波紋から顔を覗かせた。
そして、
「貴様のような神もどき風情に我が財を使うのは癪だが、その財を守るのも
ギルガメッシュが掲げたその腕を振り下ろす。
照準完了。
その瞬間、一斉に武具が射出された。
哀れな犠牲者へ向けて、無慈悲な刃が大挙をなして迫り来る。