この世全ての善   作:りおんぬ

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I'm Black , Then I'm White.

「にっひっひ」

 

意地の悪そうな笑い声とともに、大聖杯から1人の少年がずるりと体を引っ張り出す。

その姿は、暗闇で形作られたかのように真っ黒だった。

それはその筈、彼は周りからの『願い』によって極限まで歪められている。分かりやすく言えば、体は諸悪で出来ていて、血潮は我欲で心は悪辣なのだ。

そんな男──『この世全ての悪(アンリマユ)』は、人を食ったような笑み(?)を浮かべてこう言った。

 

「アインツベルンっつったか? 馬鹿だよなー、反則するにしてもどーしてオレみたいなクソザコナメクジ呼んじゃったのよ。せめてルーラーでしょうが。あとはそう……フォーリナーとか、アルターエゴとか?」

「ルーラーはまだしも後ろ二つはまだ存在してない。最低限セイントグラフが周知されるまで待たないと駄目でしょ」

「あっそう」

 

()()が過去に存在しているフォーリナーはまだしも、アルターエゴは正真正銘未来産の英霊(?)。召喚するのに並々ならぬ苦労が必要なのは考えるまでもない。え? チェイテ城の守護神? あれはイレギュラー中のイレギュラーだし……。

ともあれ、あの当時において選択肢がルーラーかアヴェンジャーしかなかったのは事実。そしてその二択の中でも、アインツベルンは最大最悪の外れくじを引いて見せた。

はあ、と裁定者がため息をつく。

 

「それにしても。貴方は随分変わりましたね。生前はもうちょっと明るかったでしょ。あとそんなのっぺりしてた顔じゃありませんでした」

「明暗法も遠近法も無視して全身一律真っ黒なんだし、平らに見えんのはしゃーない。あと明るいってのもそっち系で言ってるだろ」

「そりゃもちろん」

「……テメェは全然変わってねぇな」

「判断材料そこですか!?」

 

愕然とするスペンタマユ。

まさかこんな犬も食わない問答で己が変化を測られようとは。屈辱の極みだった。

それに対して、復讐者はケタケタと笑う。

そして、自身が漬かっていた聖杯の泥を手で掬いながら、彼女にこう問うた。

 

「なあ白」

「なんですか黒」

「ところでコイツを見てくれ。これ、どう思う?」

 

そう言って、彼は泥を辺りに振り撒く。

するとあら不思議。地面に飛び散った泥から真っ黒な『影』が姿を現したではないか。

唐突にかましてくれやがったアンリマユに限界まで表情を歪めながら、少女はこう返した。

 

「すごく……シャドウサーヴァントです……」

 

シャドウサーヴァント。

サーヴァントのなり損ない、あるいは残留思念のようなもの。要するに、英雄の姿を模した幽霊であると考えればだいたい合ってる。

それが、聖杯の泥がばら撒かれるのに呼応して、文字通り湯水のように現れているのだ。当然、裁定者たるスペンタマユからしてみればたまったものではない。

 

「だろ?」

「『だろ?』じゃないわよ何してくれてんの!?」

「いやー、こっちのほうが楽しいし」

「そうよね()()以降アンタがそういう破滅的な趣味嗜好になったのってそういう事よね! ぶっ飛ばす!!」

「ハッハーッ! やれるもんならやってみやがれ! ここが正規の最弱決定戦だ!」

 

笑う復讐者、叫ぶ裁定者。裁定者のほうに至っては怒りのあまり『殻』本来の性格が出てしまっている。

そして。

 

「──疾ッ!!」

偽善(フォーレン)/神前(ステア)! この場でくたばれこん畜生!!」

 

無数のシャドウサーヴァントが洞窟の外へ向けて進軍していく中で。

相反する二色が、世界の命運とついでにブービーという名の崖っぷちを懸けて激突する。

 

■ ■ ■

 

『■■■■!!』

 

影の一人が叫び、天高く剣を掲げる。

それに合わせて、その場にいた無数の影兵が進撃を開始した。

兵の個性は多種多様。二槍の遊撃兵、群集劇の暗殺者、黒い靄を纏う狂気の黒騎士──数えればキリがない。

そしてそれらが一斉に、冬木市へと向けて侵攻を始めたのだ。当然、抑止の守護者たるアーチャーとて黙ってはいられない。

だが、対応しようとした彼に迫る無数の武具。

言わずもがな、ギルガメッシュの仕業である。

 

「ギルガメッシュ、貴様何のつもりだ!?」

 

叫ぶアーチャー。

それに対して、ギルガメッシュは欠片の動揺もなくこう言い切った。

 

「『何のつもりだ』だと? ──決まっている。これは王たる(オレ)が定めた人類への試練であり、さらに()()()であるからだ」

 

その言葉に、アーチャーが視線を鋭くする。

だが、それすらも意に介することなく彼は続けた。孤高なる己が視点から十年という月日をかけて眺めてきた、現代の人々の評価を。

 

「先の大災害。まあ、アレには(オレ)も関わっているからな、言い逃れはせん。だが、なんだあの体たらくは。あの程度で死ぬなどヒトの風上にも置けん」

 

それはお前の所がおかしいと、その場にいた誰もが思った。

それがただの火災であったなら、確かにまだその余地はあっただろう。だが、それが必要悪としての怨嗟が積もりに積もった、炎の皮を被った闇属性のナニカであれば話は別だ。

科学の黎明期と呼んで差支えの無い現代に、そんな狂気じみたものに耐えられるものなどそれこそ雀の涙ほどしかいないだろう。

だが、その眼鏡に合致しなかった脆弱なる人類へと向けて。

彼は、無慈悲に宣告した。

 

「死に絶えるのならそれでよい──自らの罪で消え去るのなら、生きる価値などありはすまい。(オレ)が欲しいものは雑種ではない。地獄の中ですら生き延びられるモノにこそ、支配される価値がある。──その点で言えば前回のは落第だったな。あの程度の火で死に絶えるなど、今の人間は弱すぎる」

 

──故に。(オレ)という法の下に裁きを受けよ。

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