現実的なゴタゴタと某ゲームに熱中していたのもあってだいぶ遅くなりました。
では。
瞬間。彼の体を黒い靄が包み込み、その姿が俄に視認できなくなる。
それでも。
スペンタマユは、彼が浮かべている表情をありありと想像できた。
「行くぜ、裁定者」
「来なさい、復讐者」
靄が収束する。
形作られるは漆黒の獣――原初の呪いの体現、『報復』という万物に許された絶対的な権利の象徴。
「──オォォォオオオオオオオオオオッッッ!!!』
咆哮。
そしてその瞬間、アンリマユとスペンタマユの間でラインのような物が接続された。
ともすれば対魔力に気を配るだけで途切れてしまいそうな些細な繋がり。だが、それはこの状況においてはこの上なく悪辣で陰湿なものとなり得る。
「……まあ、『報復』って言っても何もしなければ意味無いんですけどね」
『テメェふざけんな! どれだけ苦労してNP貯めたと思ってやがる!』
「そりゃ
吠える裁定者。さすがに今の発言は許容の範囲外だった。メタ発現ダメ絶対。
しかし、ここでの『動かない』という選択肢は残念ながら悪手である。
何故ならば――
『■■■■──!』
「げえっ、シャドウサーヴァント!?」
そう。
二人の世界に没入しすぎたせいですっかり忘れ去られているが、今まさに現在進行形でシャドウサーヴァントは絶賛増産中なのだ。おかげで大聖杯周辺は隙間なく真っ黒になっていた。
さて、何故彼らは出口から出ていかないのか。
その答えはアンリマユが知っていた。
『なあ知ってるか──今、俺の分体のせいでここと外は断絶状態にある。さながら配水管の詰まった洗面器だな。そんな場所でよ、際限なしにザブザブ水流したらどうなるよ?』
「……道理でこんなインドも真っ青の人口密度になってるわけです。じゃあその貴方の分体とやらを刻めば解決ですね?」
『残念、そいつら倒してもダメージはフィードバックされるぜ』
「『…………、』」
「『一大事じゃん!!』」
ようやく気づいた。
全時空から孤立した洞窟が、サーヴァントのなり損ないによって埋め尽くされていく。
このままでは、サーヴァントという物理的な形に変換された魔力によって洞窟が吹き飛ぶ危険性がある。
言わば、水蒸気爆発ならぬ『魔力爆発』だ──Aランクの魔力放出を軽く上回る魔力が、時空の壁を突き破る程の出力でもって全方位に撒き散らされるのだ。さて、どれほどの被害が出てしまうのか。
ちなみにだが、この時とある万華鏡の翁は二桁単位でルートが潰れることを覚悟していた。
神明裁決は効果なし、実力でも頭数でも完全敗北。
さて、ここからどうすべきか。
「ええいこうなったらだれかれ構わず爆撃してやっ──あいたぁ!?」
不用意に残骸を殴ったせいで、痛覚のフィードバックが飛んできた。頭を抑えてのたうち回る裁定者。それでも周りのシャドウサーヴァントを蹴っ飛ばしながら暴れているあたり、器用というかなんというか。
対する復讐者は宝具を発動しながらこれ見よがしに仁王立ちしているが、見向きもされていない。
『すっげー傷つく。オレ泣いていいかな?』
「そんな暇があったらとっとと自害しなさい殺しますよ」
『オレの対極が辛辣過ぎる件』
「やかましい」
シャドウサーヴァントに殴る蹴るなどの狼藉を働きながらスペンタマユが冷めた表情で言う。まあ、原因が他ならぬアンリマユなため残当だが。
さて、問題は溢れんばかりにその存在を主張するシャドウサーヴァントの群れ。
一体どうしてくれようか。
「……まとめて爆破しよっかな」
『おいやめろ馬鹿、さっき自爆したばっかだろうが』
「倒れる時は前のめりでしょう?」
『話を聞け』
ボソリと危険なことを呟く裁定者を必死に制止する復讐者。普通は逆の事が起こるはずなのだが……。
しかしここで、スペンタマユがポンと手を叩いた。嫌な予感しかしない。
「蠱毒です。倒せないなら同士討ちさせましょう」
『思ったよりまともな意見だった』
すちゃ、と懐から取り出した短刀を構える。
さて、非力なサーヴァントの非力な武装でどこまで削れるか。
半分は削れるといいな、と思いつつ──
「──はっ!!」
──単身、無限にひしめくシャドウサーヴァントへと踊りかかっていった。
「……ぬ?」
怪訝そうな声を発しながら、英雄王は眉をひそめた。
そして、シャドウサーヴァントの供給をぷっつり途絶えさせた龍洞の方を見据える。
ギルガメッシュ本人は攻撃の手を緩めていないが、しかしシャドウサーヴァントの絶対数が減少したことにより、僅かに攻勢が緩んでいた。その事実に、僅かながらに不快感を覚える。
そんな彼の背後をとるように、純白の空飛ぶ馬が鋭角の軌道を描いて突撃した。
「『
「チィッ!」
ライダーの一撃を躱し、莫大な量の武具砲撃でもって返礼する。
そんな事をしている間にも、シャドウサーヴァントは刻一刻とその数を減らしていた。
そして。
混沌としたチェス盤に、場を動かすピースをもう二つ。
「──全く、裁定者権限なんて随分な事してくれるじゃないの。こんな夜中に出かけるなんて、後であの人たちになんて言われるか。後でたんまり文句をいわせてもらいましょう」
「まあそう言うな。私としては山門以外の景色も見れて満足しているのだ──であれば、その礼をせずにはいられまい」
「は? 何それ初耳なのだけれど」
「聞いていなかったか? 娘っ子が片手間で私の依り代をすげ替えていたのだが」
「道理で平然と着いてきてる訳よ! 自然体にも程があるのではなくて!?」
ざり、と地面を踏みしめる音がする。
そうして姿を現したのは、同じく裁定者の令呪によって呼ばれたキャスターとアサシンだった。
キャスターを守るように前に立ちながら、アサシン──佐々木小次郎は抜き身の刀を構える。
「して、私は何をすれば良いのだ?」
「見てわかるでしょう? あの子が大本を断つまでの時間稼ぎ」
久しぶりに上げておいてなんですが
いよいよごっちゃになってきた