「──30体目ぇっ!」
ズバンッ! とシャドウサーヴァントの胸腔が吹き飛ぶ。そしてその中から飛び出してきたのは、すっかり薄汚れてしまった白装束を纏う裁定者。
「ぺっぺっ! 塵が口に入った!」
わずかに咳き込みながらもその速度は衰えず、迫りくるシャドウサーヴァントのことごとくを踏み台にしながら駆け抜けていく。
スペンタマユによって殺されたシャドウサーヴァントはことごとくが正規の消滅プロセス──光の粒子となって消滅──をたどらず、その場で黒い塵となって消滅する。
それは違う世界線では『虚栄の塵』と呼ばれて大変重宝されているが、そんなこと今の彼女が知ったことではない。いくら霊基再臨しようが、相手に勝てなければ意味がないのだ。
裁定者は叫ぶ。
「数が多い! っていうか倒した先から補充されてませんかこれ!?」
『だろうなー』
そう。倒しても倒しても、リスポーン地点が目前なのだ。程度はどうあれ補充速度>討伐速度という図式が成立してしまっている以上、数が減るわけがない。
着々と人口密度が上昇していく中で、純白の閃光が黒い大波を引き裂いていく。
その光景を眺めながら、復讐者はポツリ。
『……「洞窟で 無謀に猛る モヤシども」。最弱英霊アヴェンジャー、心の一句』
「詠んどる場合かーッ!!」
『イテッ!? テメェ、オレを踏み台にしやがったな!? (いたかどうかも覚えてない)親父にだって踏まれたことねえんだぞ!?』
「それよりひどいこと散々されてきたでしょうが!」
『そういやそうだった』
すれ違いざまにガッツリと後頭部を踏みつけられる。
そしてそのままの勢いで、スペンタマユは両手に持った短剣をシャドウサーヴァントの後頭部にぶっ刺した。
杯や瓢箪などの絢爛豪華な装いをしていたそのサーヴァントはたちまち霊基を維持できなくなり、塵へと姿を変えていく。
それと同時に、
『……あっ、効果切れた」
ポン、と気の抜ける音とともに、アンリマユの姿が元に戻る。一度発動した以上は誰かが攻撃しなければ効果は解けないはずだが、どこぞの馬鹿が無限の残骸に攻撃を仕掛けたようだ。
さて、これでアンリマユも晴れて自由の身(?)デバフの
となれば、やる事は一つ。
「よっしゃあ加勢してやるぜ裁定者!」
「結構です!」
「えー」
援護を申し出たが、速攻で拒否された。
アンリマユは仕方なく、シャドウサーヴァントの股をくぐるようにしてするすると通り抜け、一匹ずつ自らの残骸を仕留めていく。
「お前もツイてないよなぁ。大方目当てはあそこの聖杯の泥と魔力使って『産まれる』ことだったんだろ? 見てみろ、あそこのマッシロムスメのせいでテメェの目当てが全部おじゃんだぜ、なあ?」
霊核めがけて短剣──『
そして今もしぶとく足搔き続けている自身の対極の姿を眺めて、
「オレと違ってアイツは生きる方向に特化してるからな。ま、そう面倒なことにゃなんねえだろうさ」
それだけ言って、彼は底なしの悪意で出来た漆黒の大海へと飛び込んでいった。
バーサーカーとルーラー、そして元凶たるアヴェンジャーを除き、現存する全てのサーヴァントが龍洞前に集結した。
対するは人類最古の王ギルガメッシュ、並びに数は減ったが未だ大軍と形容していい物量を維持しているシャドウサーヴァント。
勝利条件は二つ──『敵の殲滅』か、『作戦時間までの生存』か。
前者は極めて至難の業だ。というのも、相手はあのギルガメッシュ──宝具を利用した暴力的なまでの弾幕によって、近づく者すべてをハチの巣にする、頭のおかしい移動砲台だ。
それに引っ張られる形で、後者の達成難度も跳ね上がっている。本人の目的地が戦場に位置しているため、逃げられるようなことがないのは不幸中の幸いか。
「……おのれ」
ギリッ、と奥歯を噛み締める硬質な音が響く。
空中に鎮座し、その光輝を余すことなく振り撒きながら──しかし、人類最古の王は確かに怒りを表していた。
「おのれおのれおのれッ! 王たる
「英雄王ともあろう者が知らないのか? 暴君には革命が付き物だだとな」
「然り。生憎山篭りの身ゆえ、私には政略はとんと分からぬが──それだけ上に座しているのだ、下克上されるなど当然、予測できて然るべきであろうよ」
その叫びに対してアーチャーが皮肉り、それにアサシンが首肯する。
そうしている合間にも、シャドウサーヴァントは着々と姿を消していた。
一刀のもとに斬り伏せられ、飛来した矢に射抜かれ、神代の魔術でもって焼き尽くされる。
「チィッ!!」
舌打ちとともに、大量の武具財宝が撃ち出される。しかし、そのことごとくが中空で撃ち落とされていった。
それに気を取られ、一瞬のスキが生じる。
そこ目がけて、ライダーの宝具たるペガサスとアーチャーの矢、そしてランサーの槍が放たれる。
さらに。
「■■■■■■■■■────!!!」
「何っ……!?」
突然、ギルガメッシュの周囲がわずかに暗くなった。
自らの直感に従ってその場から飛び退くと、一瞬遅れて先ほどまで彼が立っていた場所を黒い塊が通り過ぎていく。
その姿に、誰もが瞠目する。
筋骨隆々の巨体に赤熱したかのように幾重もの赤い線を走らせ、その右手に持つは見慣れた無骨な石斧ではなく円状に刃を走らせた黄金の大斧。
誰であろう、その正体は。
「貴様……この期に及んで未だ
「■■■■……■■■■■■■■!!」
ギリシャ神話において数々の武勇をなした、一人の男。
バーサーカー──『不沈の英雄』ヘラクレスであった。