山中の竹林の中にある古風な建物、デュエル庵。そこには逃げ延びた人々や、おそらくクローバー校生と思わしき子供達が大勢いた。クローバーということはもちろん…
「風斗!?無事だったのか!?」
「アレン…それにサヤカか」
神月アレンと笹山サヤカの姿もあるということだ
「大丈夫…ハルトと一緒にカイトに保護されてな。なんとか助かったよ」
「そうか…クッソ!!いきなり街を襲ってきやがって、何なんだアイツらは!?」
「ア、アレン、落ち着いて…」
故郷を破壊されて怒るアレンと宥めるサヤカ。僕にその感情の理解は出来ないが、ドス黒いこの気持ち悪さだけは実感出来る。そうか、僕の中の“
「白星…いや、風斗」
「…カイト」
「ハルトから話は聞いた。ありがとう、弟を守ってくれて」
そう言って頭を下げるカイトに僕は言う
「頭を下げるな」
「しかし…」
「いいんだよ。だから、下げないで」
「…分かった…」
カイトは勘違いしている。あの時動き出したのは、きっともう1人の“僕”だ
僕が居なければ、“ふうと”の実力であればきっと何も出来ずハルト諸共カードにされてたかもしれない。でも脚を動かした。力があっても尚見捨てる選択をした僕とは違う
罪悪感、なのだろうか?何を犠牲にしてでも帰ると決めたのに、想像以上に僕は決意出来ないらしい
「それと、ハルトから聞いた話だがいくつか要領の得ない部分があった。説明出来るか?」
「…仕方ない。分かってる範囲で話す。とりあえず、デュエルを出来る人を集めてくれ、情報を共有する」
そう言いながら、僕は伝えるべき情報を頭の中で精査していくのだった
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デュエル庵の奥部にあるデュエルコート。そこにはカイトやサヤカ、多くのクローバー生が集まっており、みんな俺と一緒に前で説明する…ココ最近ですっかり変わっちまった幼馴染を見ていた
「──これが、現在分かってる範囲の情報だ」
「融合次元…アカデミア…」
「侵略戦争だと…!?ふざけるなっ!!何の権利があって俺達にそんな!!」
「本当なの、それ…?」
風斗から語られた内容はあまりにも荒唐無稽だった
融合召喚とやらを扱う“融合次元”の存在、アカデミアという組織、そしてそのアカデミアによる俺達エクシーズ次元への攻撃。SFじゃあるまいし、どうやって信じろというのか
しかし、その証明をしてくれたのは俺達の中でも1番の強さを誇るであろうカイトだった
「俺は信じる。弟の言っていたことと矛盾は感じない…それに、何度か応戦した時、確かに奴らは「融合」という魔法カードで未知のモンスターを召喚した」
「信じられないなら無理に信じなくて良い。大切なのは敵は“実体を持ったモンスターを操り”“未知の召喚法を使い”“エクシーズ次元の人間をカードにする侵略”を行っているという点だ」
「ちょっと待て!今なんて言った?人間をカードをするだと?」
他の奴が声を上げて質問をする。誰もが口にしていた『突然現れた敵は人々をカードに変えていた』という噂と一緒のものだが…まさか!
風斗は懐から1枚のカードを取り出し、それを少々苦々しい面持ちで眺めると、全員に見えるように見せつけた
「これは、尋問していた奴がカードに変えられた姿だ。何かに使えると思ってデュエルディスクを鹵獲しようとした時、ディスクから出てきた光が装着者自身をディスクごとカードに変えた。技術漏洩防止のためか、裏切り者への粛清か…少なくともアカデミアとやらのトップは、末端の人間を使い捨ての消耗品程度にしか考えていないのだと思う」
それを見て、俺は「ざまぁみろ」という気持ちよりも「どうして」とあう疑問が先走った。そしてそう思っていたのは、俺だけではなくサヤカや他の奴もそうだった
「ひどい…!」
「味方も無理やりカードに変えるなんて」
「自業自得だろ!あんな事しておいて…!」
「でもいくらなんでも…」
周りで意見が別れている。そりゃそうだ。許せない気持ちは俺もあるが、だからってあんな「苦しそうに泣いてる顔のカード」を見て平気な奴はいない
「同情するな」
冷徹な声が聞こえた。風斗は今までに見たことがないほど冷たい表情でこちらを見ていた
「あいつらは少なくともハンティングゲームをしている感覚で侵略を楽しんでいるクズだ。情緒もなく、倫理もなく、デュエリストとしての誇りすらないエイリアンみたいな奴らだ。お前達は許せるのか?僕は…分からない。でも、胸の奥から込み上げてくるこの黒々とした感情は、間違いなく“白星 ふうと”のものだ」
一呼吸置いて、言う
「許したければ許せばいい。怖ければ戦わなくていい。でも、今日という日を忘れるな。故郷を、日常を、思い出を、デュエルそのものを穢したのは融合次元のアカデミアという事を…決して、忘れるな」
みんな、息を呑んで静まり返っていた。クローバー校のみんなは風斗がドジで、おっちょこちょいで、天然な事を知っている。そのギャップもあるのだろうが、あいつの演説には惹き付けられる何かがあった。特に、デュエルを侵略の道具にした事があいつは許せなかったらしい
「……話が長くなった。とにもかくにも、この情報を他の隠れ家にいる人達にも共有して、アカデミアへの対抗策の実行…何よりリーダーを決めないと」
「リーダー?」
「そう。敵は明らかに統率の取れた軍隊であり組織だ。無闇矢鱈にゲリラ戦で戦っては守るものも守れない…だからこそ、敵を理解し、戦略を学び、みんなが着いていきたいと思える象徴が必要なんだ」
「そして」と呟き、風斗が歩き出した先にはカイトがいて…その肩をとって言った
「そのリーダーこそ、カイトが相応しい」
「俺だと…?」
「カッコ良さ、厳しさと優しさ、何よりデュエルの強さ、全てにおいてお前が相応しい。…頑張れカイト、お前がナンバーワンだ」
すごく、すごくイイ笑顔で言い切る風斗だった
しかし、カイトは静かに目を閉じて黙考すると、キラキラした目を見返しながらこう言った
「いいや、その役目に相応しいのは俺ではない」
「え」
「突然の侵略に対する素早く冷静な対応、みんなを纏め上げ、それでいて未来のビジョンを明確に見据えた考えの深さ、デュエルの強さ…何よりその強固な意思は、みんなを引っ張っていくのに必要な力だ」
「え」
「リーダーは風斗……お前がなるべきだ」
「え」
カイトがつらつらと根拠を上げる度に、風斗の澄み切った川のような目がドロドロと淀み切ったものに変貌していき…最後に絶叫した
「何でだァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!?」
「うわっ!?オイ、急にデカい声出すなよ!!」
「いやいやいやいやアレン君!!今の話の流れおかしくない!?」
「えっと、そんなにおかしくはないと思うけど…」
サヤカの意見に大勢が肯定する
風斗自身のおかしさはかなり長続きしているが、ハッキリ言って今の幼馴染は非常に頼りになると思っている。この異常事態で取り乱さず(今はすごく狼狽えているが)ドッシリと構えている姿は全員に安心をもたらしていた
こいつがいれば大丈夫、こいつがいれば何とかなるかもしれないという気にすらさせてくれる今の風斗の姿は、俺達の精神的支柱になってくれるという確信があった
流石に全部任せるというのはこいつのドジっぷりを知っている身としては不安になるが、それも俺達の方で支えればなんら問題はないだろう
だというのに、風斗は顔と手を残像が出るほど横に振って断ろうとしてくる
「無理無理無理無理無理無理無理っ!!絶対僕には荷が重過ぎるって!!ネネ、カイト君!君の方が絶対リーダー相応しいから!やろ!ネッ!?」
なんだろうか。この卑屈なまでに
「そうか………分かった」
「おおっ!!」
「──俺とお前でデュエルをしよう」
「ぜんぜんわかってない!!」
望み尽きたと言わんばかりに崩れ落ちるバカを見据えながら、クローバー校最強のデュエリストとクローバー校きっての問題児がデュエルするという、前代未聞の対戦カードが組み込まれるのだった