艦隊喰種   作:神の死者

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第2話

その日は突然やってきた。

 

いつも通り深海凄艦から補給艦を護衛する任務にあったっていた時だった。突如現れた戦艦五隻の襲撃を受けて周りの味方が困惑、驚愕、恐怖する中、自分がとても慕っていた姉、翔鶴が私をかばい戦艦の直撃を食らって帰らぬ人となった。

 

その後提督の指示を受け私とその他艦娘達は護衛艦に乗っていた人たちを連れ急いでその場を後にし、轟沈を免れた。

 

それからか色鮮やかで幸せだった私の日常は一瞬で灰色の世界へと色あせていった。提督はお前のせいじゃないと言ってくれた、今でも思い出す度に後悔して思う。もしあの時、私が慌てず迅速に指示を出していたら?もしあの時敵艦を沈ませていたら?…()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

それから一か月ほどたち私は少しでも元気になって提督や周りの艦娘達に迷惑をかけないよう息抜きに鎮守府の近場にある浜辺で海を眺めていた時だった。

 

「人…?」

 

少し遠くのほうに誰かが寝そべっているのが見えた。季節はちょうど夏の7月の中旬、そんなクソ暑い中太陽の日差しによってアツアツに焼けた砂浜で寝そべるような人間がいるだろうか?答えは否。私は急いで立ち上がるとその誰かのところへと駆けて行った。

 

「なによ…これ…」

 

酷い。この一言しか出なかった。寝そべっていたのは16、17歳辺りの少年。黒いパーカーにコーン色のジーパン、フードはしていなかったため少しぼさついた白い髪が見える。うつ伏せの状態なので顔は見れないがこのままでは太陽に焼かれたことで熱したフライパンのような温度の砂が彼の顔を焼いてしまうため私はひっくり返すために寝そべる彼の肩に触れた。こんな暑い中で厚着のパーカやジーパンなんて来ているから熱中症にでもなって倒れたのだろうと最初、私は思っていた。

 

私は彼をひっくり返すと同時になにか違和感を感じたのだ。肩に触れていた手から生暖かい、そう、何か液体のようでどこかぬるっとした感触がしたのだ。肩に触れていた手を見てみるするとそこには赤い液体が付着していた。違和感の正体恐らくこれだろう。私は一瞬心臓が止まった気がした。彼を見てみる。

 

ひっくり返され見えるようになったその顔はどこか幼さを残しつつも凛とした整った顔立ちの恐らく日本人、しかしその表情は苦痛で歪んでいた。奇跡的に砂に焼かれることはなっかたようだが問題は体にあった。なんと少年の胴体は胸からお腹にかけてまるで大きな刃物で切り裂かれた傷があったのだ。傷口はぱっくりと切れ目から割れていて今もなお体内から外へと流血している。気付くと彼が寝そべっていたところは赤一色に染まりきっており血の海と化していた。苦痛で表情が歪んでいたのはこれが原因だろう。

 

瞬間翔鶴()の声とその姿が私の頭にフラッシュバックした。

 

『生きて…瑞鶴…』

 

脳が考えるより体が動いた。艦娘は成人男性の倍以上の力がありこのくらいの少年を担ぐのにわけなかった。ので艦娘である私は人目も気にせず全力疾走で言葉通り彼を担いだまま鎮守府へと帰投した。近場に病院はなくあったとしてもこれだけの大けがを治すほどの技術や設備はないそのため鎮守府で彼を治すことにしたのだ。それに付け加え今日は提督と艦娘の定期検診ということで凄腕の医者も来ているため彼が助かる可能性はより高くなるわけだ。

 

 

 

 

彼が鎮守府の手術室に運ばれてからもう何時間たっただろうか。恐らくもう2時間以上は経っているだろう。私は防波堤で海を眺めていた。

 

一か月前の悪夢を思い出す。姉が沈んだあの日、私は何もできずにいた。無力だった。味方の半分以上がパニック状態に陥り部隊は動けずにいた。無理もない、私や翔鶴姉以外の彼女たちは演習という訓練を終えたばかりのいわば初心者だ、戦艦五隻を目の前に突然現れたらパニックにもなる。だが姉である翔鶴がとっさの判断で私をかばいそして沈んだことにより自分たちはこうはなりたくないと生存本能が働いたのか仲間の艦娘達はおとなしくいうことを聞いてくれた。

 

あの場において彼女()を救えたのは私だけだったというのに。なぜ何もしなかった、なぜ何もできなかったんだ、私は…。

 

もう何回この自問自答は繰り返されただろう。この一か月間この自問自答が私の中で永遠と繰り返されている。きっとこれは私が死ぬまで永遠と続くことだろう。

 

「ひゃ!?」

 

唐突に冷たい何かがほほに押し当てられ私は驚いて悲鳴染みた声を上げた。

 

「よう。隣、いいか?」

 

犯人は提督で頬に充てられていたのは缶のコーラだった。提督はやるよと缶コーラを私に手渡すと提督は提督で反対の手に持っていた缶コーヒーを一口飲むと私の隣に腰掛ける。提督は笑いながら

 

「にしても驚いたぜ?いきなり執務室に入ってきたと思ったら血だらけで、しかも致命傷レベルの大けが負った男を抱えてんだもんよ、驚くしかねぇよ」

 

「重なって見えたのよ、私をかばって沈んでった翔鶴姉にさ…。私、きっとあの日の事まだ悔やんでるんだ。あの時あの場で何かできたのは自分だけだったはずなのに、なのになにもできなくて…」

 

「なぁ瑞鶴。もう何度も言ってると思うがあれの責任をお前が感じてたってお前を助けて沈んでった翔鶴は浮かばれないし喜ばない。無理に元気を出せともいわねぇし忘れろともいわねぇ、第一戦場にも出たことのない俺がお前ら艦娘にどうこう言えるわけないしな。せいぜいできることっていたら話を聞くぐらいだし」

 

次に私が提督と言った瞬間だった。白衣を着た医者が終わりましたとこちらに来るとともにそう言った。提督は手術は成功したか?と医者に聞く。医者は提督の問いにコクリと頷くと今は眠っていますと伝えではと去っていった。

 

「じゃあ行くか」

 

「……うん…」

 

私はただ、頷いた。

 

 

 

 

翌日。私は自室で壁に立てかけてあった一枚の写真眺めていた。写真には銀色の長い髪をした一人の女性と私が写っている。私は写真立てを元の棚の上に戻すと様子見に行こうかなと言って部屋を後にした。

 

彼が眠っている医務室に着いた私はノックもせずにそのまま扉を開けて部屋に入っていった。

 

彼はもう起きていた。彼は半身を起こしその吸い込まれそうな黒い瞳で私を見つめている。だがその瞳からはどこか敵意のようなものを感じた私は両手を上げて

 

「別に何もしないわよ」

 

と微笑みながら自分は敵じゃないと伝えるように彼にそう言った。それでもやはり信用しきれないのか少し警戒していた。少年はここがどこだと私に聞く。私は横須賀鎮守府とここの名前とこの部屋の名称、医務室と答えた。少年は考える体制にでも入ったのか腕を組んで俯く。

 

「でえーっと…」

 

私は少年の名前を呼ぼうとしたがあって間もない少年の名前など知るはずもない。そのため言葉が詰まってしまった。と少年が分からないんだ、と呟いた。え?と言葉が出た。私は首をかしげながら

 

「まさか自分の名前が分からない…とか?」

 

少年は私の問いに幼い子供のようにコクリと頷くと

 

「…あぁ、名前どころか全くなにも覚えてないんだ、自分が何者で何をやっていたのか、ここにくる前のことも、それ以上の事も…なにも…ごめん」

 

とここで私は彼の傷の様子を見に来たことを思い出した。

 

「あ、そうだった!あなた怪我の具合はどう?」

 

すると少年はなんと事もあろうことか私の前で包帯で覆われた体を隠していた半袖のTシャツを脱ぎ始めたのだ。私の顔は耳まで真っ赤に、燃え上がるように染まっていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってあんたなんで脱いでるのよ!?」

 

少年は私の言葉に目もくれずそのまま服を脱ぎ捨てた。だがそれだけではただの包帯の巻かれた胴体。それでも彼の体つきはくっきりと見えていた。両手で自分のほほに触れてみる。顔の温度が上昇していくのがよく分かる。

 

しかし彼はそれだけではとどまらなかった。なんと巻かれていた包帯を解いてしまったのだ。巻かれていた半分ほどの包帯は血で赤く染まり無論あの大きな切り傷も…。嘘…と口から言葉が漏れた。私の瞳に写ったのは無駄のない筋肉に鍛え上げられたように引き締まった腕に四つに割れた腹筋。()()()()()()()()()()()()()()

 

「だってあなた胸からお腹にかけて大きな、そう、まるで鎌にでも切り裂かれたような大きな切り傷があったはずよ!?それがたったの1日で治るなんて…」

 

目を疑った。あの傷は致命傷、それも下手をすれば死んでもおかしくないようなものだったはず。それが一日や二日で治るはずがない。そもそもな話、あんな重傷を負っていたのにもかかわらずなぜ生きていたのか?普通の人間なら死んでいる。今更になってこんな疑問が頭の中を駆けまわる。

 

と彼はそんな私の疑問に答えるように、私に言い放った。

 

「だって俺人間じゃないから…『喰種』だから。」

 

少年はそう言って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑った。

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