機動戦士ガンダム00〜Rightning Star〜 作:SimoLy
俺が所感を示した紙を渡してから、数十分が経過した。俺は俺で考える事があった為、向こうの進捗そっちのけで考え事していたのだが、どうやら上手く纏まったらしく。
「……うん。これなら文句言われることはないかな」
「よし。こっちの基準もクリアだ。運用難度も大きく下がっているしな」
「……そう、ですかっ。それは、良かったです………」
笑顔で言葉を交わす二人―――レシアさんとアルトさんとは対象的に、疲れをその表情に浮かべるフィリスを見るに、恐らく彼女が折衷案を考え、図面に起こしたのだろう事が予想出来る。
彼女は今でこそ、戦況オペレータとしてテルミナのブリッジに従事しているが、元は研究者としての側面が強かった。そもそもこうして軍にいるのも―――
「シロ、ありがと。凄い参考になったよ」
「ん、あぁ。それは良かったが……お前は大丈夫なのか?」
先ほどまで、息も絶え絶えに限界感溢れていた彼女だが、いつの間に持ち直したのか、今では普段通りの振る舞いを見せている。
「まぁ、久しぶりだった事もあって、ちょっと疲れちゃっただけだから。落ち着けばすぐに治ったって所かな」
そう語るフィリスは、一枚のタブレットを操作してこちらに示してくる。
「それはそうと、ラントさんから聞いたけど、太陽炉の調子が悪いって本当?」
「あぁ。結構前に被弾した右肩の太陽炉の調子が悪い。これまでは騙し騙し使っていた部分もあったけど、ラントさん開発の武器運用に問題が生じた」
目に見えるレベルでの不調が明らかになったのは今回が初だ。一応GNコンデンサーの併設は行っている為、万が一が起こっても即座にピンチになることはないが……不味い状況なのは変わらないだろう。
「うーん…太陽炉の開発はそろそろ終わるんだよね?」
「らしい。だからまぁ、問題ないと思うが―――」
―――『緊急連絡。ブリッジクルーは至急、ブリッジに集まってください。クルーは至急、ブリッジに集まってください。』
俺と彼女が右肩の太陽炉について話していると、艦内に放送が響き渡る。
「レシアさん!」
「分かってる。シロも来るか?」
「……まぁ、コックピットで待機って言われてないんで、息ますけど」
ラントさんと話していたレシアさん―艦長を呼びつけたフィリスは、一瞬こちらを見つめて艦長に指示を仰ぐ。艦長はかの放送に対して若干嫌そうな顔を浮かべながらも、一応は聞きにいくつもりらしく。
「ラント、後は任せる。適当に仕上げてくれればいいから」
「任せとけ。なんならシロ用に直接チューニングした案も書いといてやるよ」
そんな会話を交わした後、若干急ぐように会議室を後にしたのだった。
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「戻りました!」
「戻ったぞ!」
フィリスと艦長、二人がそれぞれ言葉を発しながらブリッジに入ると、彼女ら以外のクルーがそれを出迎える。
「お疲れ様です、艦長」
「それで?」
「はい。要請を送ってきた相手は、連合軍第一指揮隊―指揮隊長―アズサ_レードリッヒ(Azusa_RaidLich)です。」
その名前が出た瞬間、ブリッジの空気が凍り付いた。
「「「「第一指揮隊長!!!!????」」」」
しかし、あくまでも驚いたのはブリッジクルーだけらしく、肝心の艦長―レシアさんは笑いを堪える様に口元を抑えている。
「……ふふっ、アズサか。いいよ、続けて?」
「えっ、はい。どうも、応援要請みたいです。」
若干の動揺も見せながらも、艦長に従って続きを伝えるクルーの一人の言葉に、俺も違和感を覚える。
現状、地球連合軍は"指揮隊"という概念を元に軍を動かしている。そして、第一指揮隊と言えば本隊……連合軍の最高戦力である。そんな所の指揮隊長が、指揮隊にすら属していないうちに応援要請……?
「どうも、現在近くに居る部隊がうちしかいないらしく……」
「私宛てに暗号文添付されてない?それを表示して」
「暗号文ですか……あ、これですかね」
クルーの一人が機器を操作し、ブリッジのモニターに拡大表示させる。だが、暗号文という事もあり、俺には意味が通っている文章には思えなかった。
「………なるほどね。よく分かったわ」
「え?分かったんですか?見るだけで?」
「まぁね。簡単に内容を示すけど―――まず、現在彼女は本隊と一緒に居る訳じゃないって事。これによると、新型強襲艦、アーサリアの運用テスト中だったらしいわね」
「「なるほど」」
「それで、応援要請の理由だけど。ここから少し離れた宙域にて、敵補給艦を補足、護衛も見当たらない絶好の奇襲チャンスらしいわ。ただ、運用テスト中のアーサリア級にはMSの配備数が少ないのと、仮に向こうの応援が間に合った場合、こちらの戦力では不安が残るとの事。近くを調べてみても、私達しかいなかったみたいだから、私達に送ってきたみたいね」
まぁ……筋は通ってる、か?
「受けるわ、この要請。艦長命令よ」
艦長はそう宣言すると、手元の端末を操作して通信を繋げる。この流れから察するに、恐らく相手は―――
「久しぶりーっ!元気にしてたー!?」
「そっちこそ、元気にしてるみたいで何よりだわ――アズサ」
「あれ?連絡してくるって事は……」
「えぇ。受けるわ、その要請。代わりに、報酬の方は忘れない事ね」
相手は、艦長の言葉が正しければ、第一指揮隊長であるアズサ_レードリッヒその人だった。
予想外だったのは、まるで友達と話すかの様に言葉を交わす、二人の関係性といった所だろうか。
音声のみの通信な為、声しか聞こえてはいないが、恐らく画面の向こうでは笑顔で話しているであろう事が伝わってくる。
「……あのさ、もしかしてレシアさ。」
「何?」
「ブリッジで話してる?」
「勿論」
「…………」
「これが、お堅い印象を持たれてる第一指揮隊長様の本当の姿よ。」
「……お見苦しい所をお見せいたしました。私はアズサ_レードリッヒ、第一指揮隊の指揮隊長を務めています。今回は要請に応じていただき、誠にありがとうございます」
急に畏まった様子を見せる画面の奥の隊長様に、艦長は笑いを零しながら補足する。
「暗号文の内容は全て伝えたわ。それで、どうするの?」
「……そうですね、こちらとしては上層部でも話題になってる『二個付き』の力を借りられればそれでいいんですけど」
「だってさ。どうする、シロ?」
突如話を振られ、思わず無言になってしまう。
……補給艦の奇襲か。恐らく戦闘になることはないだろうし、機体に掛かる負荷も軽度で済むだろう。
「艦長がよければ、大丈夫です」
いろいろ他に考える事はあったものの、俺は了承の意を示す。
ちらっとしか聞こえていないものの、恐らく報酬が出るだろうし。特に理由もなければ受けておくのがいいだろう。
「じゃあ、テルミナは適当な宙域に待機。敵が近くにきても見逃して、私達に報告すること。したらすぐ戻ってくるから」
"私達"?艦長が放つ言葉に、俺は首を傾げる。
「何不思議そうな顔してんの、私も行くわよ?」
「え?何で行くつもりですか?」
「何って……普通に貴方の機体でだけど」
「いや無理ですって。あれ一人用ですし」
「…………じゃあ、シロが縮んで?」
「普通に輸送機かなんか使えばいいじゃないですか!」
「まぁ何でも良いわ。とりあえずそういうことだから。後はそっちで話すわね」
「―――分かりました。お待ちしております」
そうして通信が切れる。俺にとっての"とりあえず"は、人の機体に乗る気満々な彼女を説得する所からだろうか。
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前略。現在俺は、視界の半分以上が覆われた状態で、感覚と音声サポートを頼りに機体を操縦していた。
「ほらね。私だって太ってるわけじゃないんだし、コクピットくらい余裕って話なのよ」
「いや余裕ではないですけど、ね」
「あ、目の前に中規模のデブリ。避けてね」
別に見なくてもある程度は操作できますけどね。
俺は彼女の指示に従う形で機体を旋回させ、サイドモニターに彼女が言及したであろうデブリを確認して、スラスターを吹かせ直す。
―――皆まで言うな。あぁ、説得には失敗した。
しかも、謎に突っかかったフィリスの助けもあってなお、レシアさんを止める事は出来なかったのだ。その敗戦の影響もあり、俺の視界は現在、彼女の背中でその殆どが閉ざされている。
「そもそも、レシアさんが赴く必要はあったんですか?」
「勿論。何せ今回の作戦指揮を執るのは私だからね。向こうの人間に挨拶した方がいいでしょ」
彼女の言葉の通り、今回の作戦指揮を執るのは"何故か"レシアさんだ。第一指揮隊長というトップクラスの逸材がいる中、敢えて兵器開発局の局長を使う理由を聞いてみたが……
―――『レシアは元々、第一指揮隊で指揮を執ってた人間ですよ』
というアズサさんの一言で、何人かの乗務員が驚いたのは想像に難くない。一部の人間は知っていたみたいだけど。
「お、そうこうしてると、アーサリアからの着艦指示だね。表示するよ」
「……はい。よろしくお願いします」
聞いた話では、機体を誘導線に乗せれば後は勝手に着艦までやってくれるらしいので、レシアさんの背中越しではあるが、誘導線を確認して機体を操作する。
「こうやって見てると、私でも操縦できそうだけどね。これがあの戦闘に発展するんだから、MS乗りの技術はよく分からないわ」
「まぁ、今は移動だけですから。っと、見えないんですけど、誘導線乗ってます?」
「乗ってるよ。お疲れ様。わがまま聞いてもらっちゃって、ありがとうね」
彼女の言葉を聞いた俺は、見えない手元のコンソール類から手を離す。……ふぅ、とりあえず、彼女を乗せた状態で戦う羽目にならなくて本当に良かった。流石にスーツも着ていない彼女を伴っての戦闘は無理があったからな。とりあえず、アーサリア?とやらに下ろせそうで何よりだ。
「あ、シロは休んでてもいいよ。私はすぐ降りるから」
「了解です」
モニターの端々に、アーサリア級のものだと思われる装甲が見える。そして、何かに着地した様な衝撃―――無事に着艦できたか。
「じゃ、行ってくるね」
そういうと彼女は、勝手にコクピットを開いて下に降りていく。
少しだけ聞こえる喧噪は、恐らく『二個付き』から彼女が出てきた事に対してだろう。
―――暫く収まらないだろうし、俺はここで待っておくとしようか。
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