暴走
漆黒の闇が支配する世界。
それが宇宙だ。
しかし、そんな宇宙空間の中を、緑色のエネルギーラインを輝かせながら、悠々と『飛行』している機体がある。
機体は人型であり、体の端々は角ばっており、頭部にはフェイスガードなどは無く、白い仮面の様な印象だ。
胴体、及び脚部などの関節部は金色のフレームが露出しており、右腕には折り畳み式のブレードを装備し、左手にはシールド発生装置が装備されている。そして肩部からはスラスターが展開され、青い光を放っている。
脚部は自重を支えるには十分な強度がありながら、先端部は鋭くとがっている。
機体の名前は、『ジェフティ』
木星圏のコロニー、アンティリアで開発中だった新型機であり、アーマーン始動の鍵だった。
「報告だと、このあたりだな」
コックピットの中で操縦席に座る無精髭を生やした男が呟く。
男の名前はディンゴ・イーグリット。
ジェフティの
『周辺宙域にエネルギー反応はありません』
コックピットの中に女性の合成音声が響き渡り、操縦席のディスプレイが反応する。
この合成音声の主は、ジェフティに搭載された、独立型戦闘支援ユニット『ADA』である。
「やっぱり、連合軍の報告は嘘だったのか」
『その可能性はゼロでは有りません』
「まぁ、良い。少し探してみるか」
『了解です』
男は詰まらなそうに呟くと、機体はゆっくりと加速した。
なぜ、ジェフティがこの宙域に派遣されたのかは、数日前に遡る。
『メタトロン』と呼ばれる鉱石が、暗礁宙域で大量に発見されたという報告が上がり、その回収任務が言い渡されたのだ。
『メタトロン』とは木星の衛星カリストで発見されて人類に革命をもたらした金属。〈シリコンをベースとした高分子金属の複合体〉
柔軟性が高く人力でも簡単に凹むほどだが、衝撃に対して硬化して異常な強度を誇る。
また、高エネルギーを与えて高速回転させると周囲の空間を巻き込んで回転する。
そして、この金属は自分の性質を記憶する。しかもそれ自体がエネルギー源となりえる。
空間ごと弾くことで亜光速移動を実現し、別のメタトロンを与えれば記憶を元に自己修復も行える。
動力炉に用いれば半永久機関といえる
その反面、人の記憶や思考等を読み取り記録し、それを元に精神に影響を与える特性もあり、特に大量のメタトロンを用いた物は使用者の精神に大きな影響を与えてしまう問題がある。
最初のオービタルフレームイドロの搭乗者が狂気に侵された事からAIが搭載されるようになったが、以降もメタトロンの狂気に飲まれるものはなくなることは無かった。
『微弱ですが、反応を探知しました』
ジェフティがしばらく巡行していると、センサーがエネルギー反応を捉えた。
「メタトロンか?」
『そう思われます。ベクタートラップ内に隠匿されている模様』
ベクタートラップ。
メタトロンを高エネルギー状態でスピンさせ、周囲の物体を空間ごと巻き込んで圧縮する装置。 圧縮空間に収納しても貨物の質量は減らないため「体積を小さくできる」だけ。 大量の電気を消費するためコロニーなどの施設や大型貨物船にしか搭載されていない。 一部の
「しっかし…なんだってこんな所に、態々ベクタートラップを使ってまで…」
『恐らくですが、非公式に回収したメタトロンを暗礁宙域に隠匿、または投棄されたものと推測されます』
「何処のどなたかは知らんが、余計な事を…回収できそうか?」
『恐らくは可能です』
「良し、なら回収を急げ」
『了解です』
ジェフティはさらに速度を上げ、メタトロンが隠された宙域へと飛翔した。
『周辺宙域にポータ―を確認、破壊してください』
「任せろ」
ジェフティのコックピットには隠匿されたポーターが鮮明に映し出されている。
ディンゴは慣れた手付きで、ジェフティを操作し、周辺のポーターをすべて破壊した。
『ポーターの破壊を確認。ベクタートラップ解除されます』
ベクタートラップが解除されると同時に、大規模なエネルギーの開放が起こり、けたたましい光と共にコックピット内に衝撃と警告が流れる。
「なんだ! どうなってやがる!」
『ベクタートラップの解除と同時に、メタトロンが急速に反応。暴走が始まったようです』
「暴走だと! どうなってる!」
『ベクタートラップ内に予想以上のメタトロンが隠匿されていた模様。このままでは、周辺宙域のすべての物体が消滅します』
「どうにかならないのか!」
『ジェフティのエネルギー暴走による対消滅以外、不可能です』
ADAの無慈悲な声が響くと、コックピットのディスプレイに脱出シークエンスが表示される。
「おい! 何をしている!」
『搭乗者の生存を最優先。コックピットを強制的に切り離します」
「おい! 待て! ADA!!」
ディンゴの声が響く中、ジェフティからコックピットが切り離される。
「やめろ! ADA!」
『これが、私の務めです。お元気で、ディンゴ・イーグリット』
ADAの声が響くと同時に、コックピットが超高速で加速し、宙域から離脱する。
無人となったジェフティは蒼い閃光を放つと、激しい光の中心へと消えていった。
「ADA!!」
光が収束し、暗闇に戻った宇宙の中、切り離されたコックピットの中でディンゴの虚しい声が響いた。
光が消えさり、ジェフティの機体が消え去る瞬間、ADAはAIながら一つ願った。
それは、AIにおけるバグなのか、はたまた自己進化の賜物なのか…
『もし可能ならば、別の世界を見てみたかった』と…
そして、不思議にも、メタトロンは『AI』の願いを感じ取ったのか、奇跡とも言える魔法を引き起こした。
それが、別の世界の魔法を脅かすことになろうとも………
とある一室に2人の人間が、重い空気の中で過ごしている。
「どうじゃ?」
「…………」
眼鏡を掛けた老人が、水晶を見つめている女性に話しかけるが、返答はなかった。
老人の名はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。
20世紀最大の魔法使いと呼ばれる人物だ。
一方、水晶を覗き込んでいる女性は、シビル・パトリシア・トレローニー。
「何が見える?」
ダンブルドアは再び、トレローニーに話しかけるが、反応はない。
「はぁ…」
諦めた様にダンブルドアが溜息を吐いた瞬間、トレローニーはすっと立ち上がる。
「お? 何が見えた?」
「あ…アっ…あぁ…あ」
立ち上がったトレローニーは虚ろな表情で、小さく声を上げると、手から水晶が零れ落ち、床の上で小さな花を咲かせる。
「あぁぁあぁあぁあ!!!!」
水晶が砕け散ると同時にトレローニーは悲鳴と絶叫が交じり合った野太い声を上げる。
「どうしたのじゃ! 落ち着け!」
暴れるトレローニーの肩を掴み、必死に落ち着かせようとするが、ダンブルドアの手が振り払われる。
「終末が! 終末がこの世界に訪れた!!」
「終末じゃと?」
「死や破滅ではない…終末が…終末の意思が…人類の無意識が…終末を望んでいるのだ!!」
トレローニーは訳の分からないことを口遊むと、その場で気を失う様に倒れ込む。
「終末…なんとも…不吉な…」
ダンブルドアは、倒れたトレローニーを一瞥しつつ、考えを巡らせる。
この年は、奇しくも『後の世』に、生き残った男の子と呼ばれるハリー・ポッターが、この世に生を受けた年だった。
ディンゴさんは無事に、回収部隊によって回収されました。