次の授業の時間になったがハーマイオニーの姿は見えなかった。
おそらく先程のロンの発言でショックを受けているものだと思われる。
結局その後の授業にも姿を見せず、ハロウィーンパーティーの時間になっても帰ってくることはなかった。
城内全体をスキャンした結果、ハーマイオニーは、トイレの一室に籠っていることが判明した。
食事の時間という事もあり、彼女を呼びに行く為に、私達は大広間を後にした。
目的地付近に接近すると、ハーマイオニーのすすり泣く様な声を検知する。
女子トイレの扉を開くと、端の個室から声が上がる。
「ヒッウッ…だ…だれぇ…」
「我々です。ご無事ですか」
「え…デルフィ? エイダ?」
「そうです」
「何しに…来たのよ」
「ハロウィーンパーティーのお時間です」
「私は出ない…放っておいて」
「そうですか。消灯時間までにはお戻りください」
「え?………」
彼女の無事を確認したので、退室しようとすると、端の個室から疑問の声が上がる。
「ちょ…ちょっと…」
「どうかなさいましたか?」
「えっと…こういう場合って普通なんかこう…励ましたりとか…慰めたりとか…」
「慰めの言葉が欲しいのですか?」
「別に…そんなんじゃ…」
個室を隔てる薄い壁越しにハーマイオニーの弁明が漏れる。
「そうですか。それでは我々失礼します」
トイレの扉に手を掛けようとした時、異様なエネルギーの反応を検知する。
生命反応はあるが、人とは異なり、異様なまでのエネルギー量だ。
そんな異質の存在は、一直線にこちらへと接近してくる。
「問題発生。退避してください」
「え…ちょっと…」
直後、爆音と共に、入り口の扉が吹き飛ばされ、破片が周囲に飛び散る。
「キャァァァァァァ!!」
悲鳴を上げたハーマイオニーは個室から転がり落ちる様に出た後、腰を抜かしているのか這いずりながら、こちらに縋りつく。
「なに…何なのよ!」
入り口付近に漂う土煙の向こうに異様なシルエットが浮かび上がる。
やがて、土煙が収まり、向こうから5m程の醜悪な巨人が姿を現した。
「嘘…なんでトロールがこんな所に…」
私達の背後に隠れるハーマイオニーは怯えた声を上げる。
「グゥアアァァァアアアアアア!!!」
トロールと呼ばれた生命体は耳障りな咆哮を上げると、私達に向け、手に持った無骨な棍棒を振り上げる。
「キャァァァァァァ!!」
背後のハーマイオニーが再び悲鳴を上げる。
その悲鳴が引き金となる様に、トロールの棍棒が私達目掛け振り下ろされる。
「緊急事態発生。シールド展開」
迫り来る棍棒が直撃するより早く、左手のシールド発生装置を眼前に構え、前面にシールドを発生する。
次の瞬間、鈍い音が響き渡り、トロールの巨体が弾き飛ばされる。
「え…なに…」
背後で困惑しているハーマイオニーを尻目に、私達は眼前の生命体に視線を向ける。
「警告します。これ以上こちらに危害を加える様でしたら、敵意がある者と判断し、防衛措置を行います」
「アガァァァアァァ!!」
弾き飛ばされたトロールは激昂したのか、咆哮を上げ、棍棒を振り回している。
「残念ながら、あの生命体に意思疎通する程の知性は無い様に思われます」
「そうですね。では防衛措置に移行します。システム戦闘モードへ移行。眼前敵性生命体の無力化まで条件付きでリミッターを解除」
日常生活を送るうえで不必要だった戦闘モードへ移行すると同時に、出力制限のリミッターを限定解除し、戦闘に備える。
「加勢いたしますか?」
「いいえ、デルフィ。貴女は生存者の保護をお願いします」
「了解」
頷いたデルフィは、ハーマイオニーを抱きかかえる。
「失礼します」
「ちょ…ちょっと何するの!」
「退避します。大人しくしてください」
「でも…エイダが…」
「ご安心を。エイダはそれほど弱くはありません」
そう言ったデルフィはトロールの側面を走り抜ける。
「アガァァァアァァ!!」
咆哮を上げたトロールは走り抜けるデルフィに向け、棍棒を振り下ろす。
動体反応を標的にする性質でもあるのだろう。
「防衛行動を開始」
トロールとデルフィの間に滑り込むと、右腕をブレードに変形させ、迫り来る棍棒を切り裂く。
「がぁ?」
棍棒を切り落とされたトロールは間抜けな声を上げ、切り口を見ている。
「敵武装破壊を確認。敵脅威レベル低下」
「お見事です」
「無駄話は後程、早急に撤退を」
「了解」
デルフィは再び走り出すと、瓦礫を避けながら安全圏まで退避した。
「がぁああああああああ!!」
咆哮を上げたトロールは、混乱しているのか、周囲にある瓦礫を手当たり次第に投げている。
「回避行動」
迫り来る瓦礫を避け、その場から飛び上がる。
「ンガぁ!!」
「ブレード展開」
右腕のブレードを振り上げると、トロールの左肩部に振り下ろす。
「ンガアァァァァァッァアアアア!!」
ボロリと鈍い音を立てて、トロールの左腕が肩から滑り落ちる。
「左腕破壊。敵脅威レベル低下」
左腕を切り落とされたトロールは傷口を押さえて、その場でのたうち回る。
しかし、その左肩からは1滴も血は流れていない。
ブレードの表面をコーティングするエネルギーフィールドにより、裂傷と同時に焼き切った。
それにより、ブレードに付着した若干の血液が蒸発する。
「アガァ…アッ…ンガぁ…」
床でのたうち回るトロールに接近し、頭部を右手で掴み、そのままバーニアの出力を上げ、浮遊し、トロールの体を宙に持ち上げる。
「ガァ! ガッ! ガァ! ガァァア!」
頭部のみで持ち上げると、頭蓋骨にヒビが入る様な鈍い音が響き渡る。
「ガァルルガアァァァアァアア!!」
「五月蠅いです」
頭部を掴まれたトロールはその痛みから逃れようとしているのか、私の腕を何度も残った右腕に掴んだ棍棒の切れ端で叩きつける。
しかし、オービタルフレームの戦闘にも耐えうる強度を誇る
後は、このまま頭部に電流を流し、気絶させれば問題無いだろう。
その時、声が響き渡る。
「そこまでじゃ、もう十分じゃろう」
入り口の方に視線を向けると、警戒した表情のダンブルドアを始めとした教師陣と、少し怯えた表情のハーマイオニーとハリーとロンの姿があった。
「これは一体どういう事です!」
現状を目の当たりにしたマクゴナガルは混乱したような怒声を上げている。
「敵性生命体の襲撃を確認。意思の疎通は不可能と判断したため、防衛行動に移りました」
「が…ガァ!!」
トロールは苦しみから逃れようと私の腕や胴体を切れた棍棒で殴り付けるが、その力も徐々に弱まって行く。
「そうか、後はこちらに任せて貰おうかの。その手を離すのじゃ」
「しかしまだ拘束措置が取られてはいません。このままでは逃走の恐れがあります」
私の言葉を聞き、ダンブルドアは表情を曇らせる。
「じゃが…トロールを拘束するすべなど、現状ではのぉ」
「退いてください。拘束を開始します」
入り口の教師陣を掻き分けたデルフィは、右手に4倍の長さに伸びたウアスロッドを構えている。
「了解。任せます」
デルフィは、その場で飛び上がると、トロールに接近する。
「
私がトロールを開放すると同時にデルフィは、頸部へと跨る。
「ンガ?」
「拘束」
頸部に跨ったデルフィは、そのままウアスロッドを振り上げると、瞬時に体を屈め、トロールの腹部目掛けウアスロッドを投擲する。
「ガァ!!」
悲鳴を上げ、腹部を貫かれたトロールは、勢いそのままに壁に磔にされる。
「拘束完了です」
目の前の惨状に、その場の全員が唖然としている。
磔にされたトロールは項垂れる様に、その動きを止めた。
「お見事です。現在をもって戦闘モードを解除します。この戦闘における周辺への被害状況を報告。建造物損壊、軽微。死傷者は有りません。敵拘束状況は?」
「急所は外してあります。現状は気絶しているだけでしょう」
「左様か…後の事はワシ等で処理しよう。ミス・デルフィ、見事な杖じゃが、本来杖はあのように使う物では無いぞ」
ダンブルドアはそう言うと、杖を取り出し、軽く振る。
すると、トロールの体が一瞬だけ動くが、それ以上何も起こらなかった。
「むッ…おかしいの…どうやら、お主の杖は深く刺さりすぎて居る様じゃの。引き抜けぬ」
「ご心配には及びません」
デルフィは躊躇い無く、壁に刺さっているウアスロッドを掴むと、一気に引き抜く。
すると、支柱を失ったトロールが力無く倒れ込む。
「では、事後処理をお任せします」
デルフィの手中に収められたウアスロッドを軽く振り、付着した血液を振り払うと、数回軽快な金属音を立て、通常時の半分の長さになる。
「武装を改装したのですか?」
「閉所での戦闘も考慮し、可変機構を搭載しました」
ベクタートラップに杖を収納したデルフィはダンブルドアに一礼する。
その後、私達はその場を後にした。
背後に感じる視線を尻目に、廊下を歩くと、ハーマイオニー達がこちらに気が付き、駆け寄ってくる。
「すごいじゃないか! トロールをあんな風にしちゃうなんて!」
「そうだよ! 君達って強いんだな! 少し誤解していたよ」
目を輝かせた男二人は、嬉しそうな表情をしている。
「ありがとう、二人のおかげで助かったわ」
「えー、僕達は?」
「貴方達は何もしてないでしょ!」
「酷いな。君達を心配して、僕達が先生を呼んで来てやったんだぞ」
どうやら、あの場に教師陣が駆けつけたのは、彼等が呼んだからの様だ。
「まぁ…それに関しては助かったって…言った方が良いのかしらね?」
3人はこちらに視線を向ける。
「どうかされましたか?」
「いや…なんか、君達に悪い事したかなって…」
「どういう意味でしょう?」
「だってさ、僕達、先生を連れて来たでしょ。だから君達のやった事が先生にバレちゃってさ…もしかしたら…退学になるとか…」
「そんな! だって…エイダ達は私を助けようとしてくれたのよ! 退学なんて…」
「もしもの話しさ。でもあれだけ派手にやれば…」
3人の間に気不味そうな空気が漂っている。
「ご心配なく。いずれこの件に関しては、露見すると推測していました」
「我々は敵性生命体の迎撃を行ったまでです。それに関しては何ら罰せられることではないと思われます」
「なんか…難しくてよく分からないけど…とにかく問題ないって事?」
「おおむね、その通りです」
「なら良かった…」
3人は安堵の表情で、胸を撫で下ろしている。
「あっ! そうだ!」
「どうしたのよ?」
「僕達まだパーティーの料理食べてない!」
「もう…そんな事?」
「そんな事じゃないよ! 急がなきゃ!」
「ちょ…待てよ! ロン!」
走り出したロンを追いかける様に、ハリーも走り出す。
「ちょっと…はぁ…男の子ってなんであんなのかしら…」
呆れた様に、首を振りながらも、嬉しそうな表情のハーマイオニーは、小走りで彼等の後を追いかけた。
こうして、ハロウィーンの夜は更けていった。
ハロウィーンパーティーが終わり、夜も更けた頃。
ダンブルドアは自室で一人、頭を抱えていた。
「はぁ…」
本日5回目の溜息を吐いたところで、自室の扉が叩かれ、見知った顔が入室してきた。
「おぉ…セブルスか。首尾はどうじゃ?」
「報告書です」
セブルス・スネイプは表情を変える事無く答えると、テーブルの上に置く。
「どれ…」
ダンブルドアは資料を受け取り、目を通すと、その表情を曇らせる。
「報告書にある通り、侵入してきたトロールは何者かによって服従の呪文により操られていたものと思われます」
「そうか、して犯人は?」
「今のところはまだ不明です」
「そうか…」
「捕縛したトロールですが、後日ミスター・クィリナス・クィレルが処理するという事です」
「そうか。して、現在トロールはどうなっておる?」
「幸いな事に未だに目を覚ましてはいません。目立った外傷は、ミス・エイダによる左肩の断絶とミス・デルフィの杖が貫通した後だけでしょう」
「そうか…では現状を整理しよう。」
スネイプの報告を聞いたダンブルドアは、現状を整理する。
「まずは、原因不明のトロールの侵入からじゃ。恐らくこれは、何者かが意図的に侵入させたものだと考えられる」
「えぇ、騒ぎを起こし、城内を散策でもしたのでしょう」
「そうじゃの、しかし事態は予想外の結果となった」
「えぇ、どういう訳か、トロールの襲撃場所に居合わせた、ミス・グレンジャーが巻き込まれたという」
「そして、その場に偶然にも居合わせたイーグリット姉妹によって、彼女の命は助けられたと言う訳じゃ」
「把握している限りではそうかと」
「そうか…」
ダンブルドアは眼鏡のズレを直すと、スネイプに問いかける。
「ところで、セブルス。お主は彼女達をどう思う?」
「どう…と仰いますと?」
何かを察しているスネイプは表情と声のトーンを変える事無く、ダンブルドアに問いを返す。
「問いに問いで返すとはのぉ。まぁ言葉のままじゃ。先程の彼女達の行動をどう思う?」
「そうですな…」
スネイプは数十秒間考えを巡らせ、問いに答える。
「まず、通常であれば、トロールの討伐や捕獲は、熟練の魔法使いが複数名で行う程危険な行為です。それに…」
スネイプはそう言うと、魔法で何かが包れた布を引き寄せ、テーブルの上に置く。
「これは?」
「トロールが所持していたと思われる棍棒と、左腕です。今は半分に切られていますが」
そう言うと、布を取り、綺麗に裁断された棍棒と、左腕が姿を現す。
「切り口をご覧ください」
「うむ…とても見事な切り口じゃ…血も出ておらぬ…一体どのようにして…」
「吾輩が知る限り、ここまで見事な切れ味を持つ魔法は見たことが有りません。腕の切り口に関しても、切断と同時に高温による止血が行われておりますが、そのような魔法は存在しません。ですが彼女達はそれをやってのけたのです」
「左様か…もし同様の事を行うとすればどのような行動が必要になる?」
「理論上ですが、高温の切れ味が良い剣で切断すれば、同時に止血が行えるかと」
「左様か…しかし」
「えぇ、あくまでも理論上。机上の空論に過ぎませぬ」
「何という事じゃ…」
「その上、彼女は単独でトロールを捕縛していました。それも、片手のみで頭部を掴み宙に浮かせるようにして…」
「そうじゃ。さらに彼女は箒等を使わずに浮遊していた」
「えぇ、熟練の魔法使いなら箒を使わずとも浮遊する事は可能ですが、それをあの年齢で出来るとは到底考えられませんな」
「じゃが、現に彼女はそれをやってのけた。しかも自らの体だけではなく、片手でトロールを持ち上げておった」
「えぇ、先程計測した結果、あのトロールは350㎏以上ありました」
「つまりじゃ、彼女は片手で350㎏のトロールの頭部を掴み、浮遊していたことになる」
「そうですな…」
「その上、トロールは苦しみから逃れる為にもがき、彼女の腕を振り解こうと、何度となく殴っておったが、彼女の体はおろか、服にすら亀裂などは入って無かった」
「一種の防御魔法かと思われましたが…そう言う訳では無さそうでした」
「左様か…」
疲れたのか、ダンブルドアは欠伸を噛み殺すと、書類を引き出しへと仕舞い込む。
「校長。お言葉ですが、彼女等は一体何者です?」
この日初めて表情を変えたスネイプに対し、ダンブルドアは詰まらなそうに口を開く。
「実を言うとな、ワシも良く分からぬのじゃ。じゃがとてつもない魔力を秘めておるのは確かじゃ。それを間違った道へと逸れぬようにしてやらねばならぬ。分かってくれるかの? セブルス」
「…………承知」
「ならばもう下がるが良い。明日からも彼女達の事は気にかけてやってくれ」
スネイプはその場で一礼すると、棍棒と左腕を布に包み直し、魔法で浮かせて退室する。
「ふぅ…」
どっと疲れが出たダンブルドアは天を仰ぐ様に大きな欠伸をする。
「まだ手に入る情報は少ない…仕方ない事じゃ」
独り言を口にしたダンブルドアはテーブルの上のキャンディーを1つ取ると、包装紙をはぎ取り、口へと放り投げた。
少し優しかったですかね。
もう少し派手にやっても良かったですね。