次の日を迎えると、予想通り、校内でまた一人継承者による、被害者が出たという話で持ちきりとなった。
被害者は『コリン・クリービー』と言うらしく、マグル生まれの生徒らしい。昨日のスキャンした結果の通り、石化した状態で発見された様だ。
「まったく、ふざけた奴等だ。またハリーの事を疑ってるよ」
朝食の最中に、ロンが食い散らかしながら愚痴を溢している。
「そうね、継承者って言ってもスリザリンの生徒の可能性の方が高い訳だし…何とかしなきゃ…」
ハーマイオニーはタブレットを見据えながら、溜息を吐いている。
現在閲覧している項目は、『ポリジュース薬』と言う、他者の一部と共に摂取すると、外見が変化すると言う、禁止薬品の製造方法についてだった。
「そうね…この材料なら、確かあそこに…」
「何をするおつもりですか?」
「えっ?」
デルフィの突然の問いかけに、ハーマイオニーの間の抜けた声が響く。
「現在閲覧しているのは、制限が掛かっている項目です」
「あー…まぁ、そうね。うん、別に何もしないわよ」
「本当ですか?」
「ほ…ホントウヨ」
呼吸の速度や、発汗状態からか判断するに、分かり易い嘘を吐いている。
「口出しするつもりは有りませんが、危険が伴う行為なので、お気を付けて」
「えぇ、大丈夫よ。上手くやるわ」
私の忠告に対して、ハーマイオニーは数か頷いた後、不敵な笑みを浮かべ、ロンとハリーが呆れた表情で眺めていた
週を跨ぎ、魔法薬学の授業。
最早、お馴染みの光景と化した、赤と緑のコントラストの中、ハリー達が不審な動きを見せた。
「なぁ、本当にやるのかよ?」
「しょうがないでしょ。必要なんだもん」
「でも…」
「いいから!」
背後で、小声で話している3人を尻目に、スネイプがグループ分けを行い、魔法薬の生成方法を説明する。
今回は、膨れ薬と言う、塗布した部位を膨張させる薬の作成だ。
どの様な用途で使用するのか理解に苦しむ薬品だ。
「よし…」
薬品作成も終了間際、何を思ったのか、ハリーがゴイルの作成した薬品が入った鍋に、小型の成形爆薬、爆竹を投げ込んだのだ。
「ん?」
突然の異物混入に、ゴイルが不思議そうな表情で鍋を覗き込む。その瞬間、爆竹が破裂する。
「ひひゃぁ!!」
「なんだ!」
爆音と共に、薬液が周囲に飛び散り、大惨事となる。
「あぁあぁぁぁあああ!」
特に顔面に薬液が直撃したゴイルは、常識では考えられないレベルで腫らしている。
「うわあぁ!」
同席で作業していた、マルフォイにも若干の薬液が付着したのか、顔の一部がはれ上がっている。
私達の体表にも、薬液が付着したが、防衛プログラムによる無効化によって、効果が現れる事は無かった。
「ご無事ですか?」
「痛みはないよ、それより君達は大丈夫みたいだね」
「我々には、効果が無かったようです」
「効果って…」
「あぁあぁぁぁあああ!」
「五月蠅いぞ! 何事だ! 一体どうなっている!」
教壇から降りたスネイプが現状を見て、狼狽している。
「何たる事だ! この惨事を引き起こしたのは誰だ! 被害を受けた者は今から『ぺしゃんこ薬』を配るから並びたまえ」
スネイプが膨れ上がった生徒に薬を投与すると、次第に晴が引いていく。
しかし、被害にあった生徒数が多い為、教室内は混乱している。
そんな混乱に乗じて、ハーマイオニーが教室の奥、薬品の原材料保管庫へと姿を消していった。
そんな、ハーマイオニーの後姿を見ながら、ハリーは青い顔をしていた。
そして、数分後、恐らく、薬品の材料を盗んだのだろう。ハーマイオニーが何食わぬ顔で戻ると、混乱している生徒に紛れ込んだ。
数日が経ったある日、授業も終わり、談話室に居ると、ハーマイオニーにとある教室へと案内された。
「これから何が始まるのですか?」
「決闘クラブよ。なんて言ったって、このクラブの講師は――」
そう言いかけた時、教室の扉が開かれ、奥からロックハートとスネイプが入室してきた。
「ロックハート様ぁああぁあぁ!!」
瞬時に、ハーマイオニーを始め、多くの女子生徒が黄色い声援を上げる。
ロックハートは軽く手を振り返し、スネイプは不機嫌な顔をする。
「やぁ、諸君!ごきげんよう。集まってください。私が見えていますか? よろしい! 今回、ダンブルドア校長に許可をいただき、決闘クラブを開催することとなりました。自らの身に危機が迫った時、しっかりと身を守れるように皆さんを鍛え上げて見せます! まぁ、詳しい事については私の本を読んでくださいね」
適当な宣伝を終えると、ロックハートは咳払いをしてから、口を開く。
「さて、こちらに居るのは助手のスネイプ先生です。少し、ほんの少しですが決闘についてご存知らしいので、これから、簡単な模擬演技をするので、相手役を買って出てくれました」
ロックハートの挑発により、スネイプの不快指数が急上昇したのを検知した。
「ありゃ、殺されるかもな」
「あぁ、スネイプならやりかねない」
ロンとハリーが小声で呟く中、2人は壇上に上がり、向かい合う。
「まずは、作法に従い杖を構えます。そして一礼」
二人は互いに杖を取り出し、一礼する。スネイプは眼前に杖構え、鋭い目線でロックハートを見据える。
対するロックハートは杖を持った右手を下方に構える。
「3つ数えてから、最初の術を掛けます。もちろんどちらも殺意は無いのでご安心を」
「左様。殺意など無い」
ロックハートは微笑みながら、そうは言っている物の、対するスネイプの目線や、筋肉の動き、メンタルコンデション等から鑑みて、殺意が無いと言うのは嘘だろう。
「多分、ロックハートってスネイプが一番嫌いなタイプだな」
「そうだね。目が笑ってないもん」
「では、始めます。最初は背中合わせになります」
壇上の2人は互いに背中合わせになり、杖を構える。
「そして、3歩歩く。1…2…3ッここでッ!――」
2人が同時に杖を構えて、振り返る。
最初に仕掛けたのはスネイプの方だった。
「エクスペリアームス!!」
「うごぉ!」
スネイプの渋い声が周囲に響くと同時に杖の先から閃光が迸ると、ロックハートに襲い掛かる。
一瞬の事に何の対処も出来ずに居る、ロックハートに魔法が直撃する。
吹き飛ばされたロックハートは、苦笑いをしながら、何事も無かったかのように立ち上がった。
「さて…皆さん分かりましたね! これが武装解除の術です。
スネイプを睨みつけながら、ワザとらしく賞賛を送っていたが、睨み返されたのか、直ぐに、睨むのを止めた。
「模擬演技はこれでいいですね。それでは2人一組を作ってくださいね!スネイプ先生お手伝いしていただけますね」
そう言うと、ロックハートが勝手に組み合わせを決めていく。
結果としては、ハリーはマルフォイと組むことになった様だ。
「では、そこの2人。顔がそっくりだね。双子かな?」
「はい、その通りです」
「双子だと実力が同じという事が多いらしいですからね。ちょっとやりづらいですね。うーん…どうしようかな」
私達の前で、腕を組み考えこむロックハートだったが、壇上のスネイプを見ると、何か思いついたようだ。
「あっ、そうだ。スネイプ先生。ちょっとこっちへ!」
「チッ!」
スネイプは分かり易く、舌打ちをすると、こちらにやってくる。
「何の用ですかな?」
「いえ、双子だと、実力が拮抗して見栄えが…ではなく、大した訓練にならないと思いましてね」
「それで、吾輩にどうしろと?」
「多人数同士の戦いを行おうかと、私は。えーっと…少し卑怯かもしれませんが、私達教師と、君達双子でコンビを組んでってのはどうかな?」
「吾輩は、構わぬが、どうするのだ?」
「問題ありません」
デルフィがいつもの様に、杖を取り出す。
「ミス・エイダはどうなのだ?」
「御構い無く」
「そういう事です。じゃあ始めましょう!」
テンションの高いロックハートに連れられて、私達は壇上へと上がる。
「さてさて、まず初めに、多人数同士での試合を行いましょう。少し卑怯かもしれませんが、彼女達のコンビネーションで、私達教師の実力に打ち勝って欲しい物です。それとこれはあくまでも練習ですからね。ルールは先程と一緒ですが、どちらか片方に魔法が当たった時点で終了です」
勝ちを信じて疑わないロックハートは、にやけ顔を浮かべているが、スネイプの方が、警戒の眼差しでこちらを見ている。
「では、始めます!」
ロックハートが勢い良く杖を振るうと、閃光が走る。
少し遅れて、スネイプの杖からも閃光が走る。
「「防衛プログラム起動」」
二つの閃光がそれぞれ、私達に直撃するが、総て霧散し、無力化される。
「え?」
「何だと!」
驚いている2人を尻目に、私達も杖を構える。
「攻撃を開始します」
「了解」
デルフィの攻撃開始に合わせ、私も杖を振り、閃光を放つ。
「クッ!
「ヒィ!」
スネイプは閃光が直撃する寸前に、防御魔法を発動させたようで、私の放った魔法が、障壁に直撃し、甲高い破裂音と共に無効化される。
やはり、人体に影響の無い出力では、防がれる事もあるようだ。
「うばぁ!」
対するロックハートだが、防衛魔法を張る事も無く、ただデルフィの閃光を受け入れ、その場で気を失っている。
「勝利条件は満たしました。まだ続けますか?」
ウアスロッドを突き付けれたスネイプは、一度溜息を吐く。
「これ以上、茶番に付き合って居れぬ」
そう言うと、ロックハートを残したまま、壇上から降りる。
「戦闘終了」
私達も、杖を仕舞うと、ロックハートを残したまま、後段する。
その後、見かねた女子生徒数名が、一丸となり、ロックハートを壇上から引きずり降ろした。
「次だ、さっさと始めろ」
不機嫌な、スネイプに促され、次のグループが登壇する。
「チッ、なんでコイツと…」
「それはこっちのセリフだ」
登壇したのは、 ハリーとマルフォイだった。
互いに不機嫌そうに、相手を睨み付け、一触即発と言った雰囲気だ。
「五月蠅いぞ! これでもくらえ!」
次の瞬間、ハリーが魔法を放ち、マルフォイがそれを寸前で防ぐ。
その後、数回に渡り、魔法の応酬が繰り返される。
「んあ…あれ、どうなったんです私?」
「生徒の魔法を受け気を失って居りました。まったくお笑いですな」
目覚めにスネイプの嫌味を聞き、不機嫌になるロックハートだったが、数回頭を振ると、近くの椅子に腰かける。
「やってくれたな!
マルフォイの杖の先端から、黒い色の蛇が放たれ、壇上の上で蜷局を巻いている。
蛇を見た途端にハリーはその場で動かなくなってしまった。
そんなハリーを嘲笑うようにスネイプがハリーに声を掛けた。
「怯えている様だな。動くなポッター。吾輩が追い払ってやろう」
杖を片手に壇上へ上がろうとしたスネイプを遮り、椅子から立ち上がったロックハートが登壇する。
「ここは私にお任せあれ!」
ロックハートは蛇に杖を振りかざすと、爆破音が響き、上空2m程まで飛び上がると、ポトリと同じ場所へ着地した。
「あぁ…えっと…」
ロックハートは戸惑いながら周囲を見渡しているが、跳ね飛ばされた蛇は怒り狂ったように、シャーシャーと鳴き声を上げ、近くに居た生徒に襲い掛かろうとしている。
スネイプが再び杖を構えようとした瞬間、ハリーの口から、蛇と同じ周波数の、音を発する。まるで、会話でもしているようだ。
スネイプを含めた周囲の人間の視線がハリーに集約する。
そんな事に気が付かないハリーは引き続きシャーシャーと音を立て、蛇と会話をし、気が付いた頃には、蛇も落ち着きを取り戻したのか大人しくなっていた。
当のハリーは、やり切ったという表情で蛇に睨まれていた生徒に微笑みかけた。
しかし、微笑みかけられた生徒の顔は引き攣っており、その他の生徒達も、皆一様に暗い顔をしていた。
「何をやったんだ! ふざけるなよ」
先程の生徒が突然大声を上げ、ハリーを怒鳴り付けると、逃げる様にその場を離れていった。
重い空気が流れている中、スネイプが口を開いた。
「今宵はこれで終了だ。皆速やかに寮に戻るように。以上だ」
そう言い終えると、その場に居た生徒は我先にとその場から出ていった。
そんな中、ハリーはロンに引きずられて会場を後にした。
「私達も行きましょう」
「えぇ」
私達は、ハーマイオニーと共に会場を後にした。
暗い廊下を歩き、グリフィンドールの談話室に入ると、ロンがハリーに何やら問い詰めていた。
「君、パーセルマウスだったんだ!どうして言ってくれなかったんだよ?」
「パーセルマウス?」
ハリーは初めて聞いた単語に、首をかしげる。
「パーセルマウスとは、蛇の言葉です」
「なお、使える者は、ごく一部の者に限られます」
「でも、ごく一部だからって、そんなに不思議に思われる事? この学校には僕以外だって、動物と話せる人は居るじゃん」
「うん、確かに動物と話せる人は居るけどね。本当に蛇と話せるという事は特別なんだよ」
「え? そうなの? 特別かぁ」
特別と言われたハリーは若干嬉しそうに頭を掻いている。
「ハリー…どうしてスリザリンのシンボルが蛇なのか知ってる? 創設者の1人『サラザール・スリザリン』はパーセルマウスで有名だったのよ…」
ハーマイオニーの説明を受けハリーは口をあんぐりと開け驚愕している。
「多分、今頃学校中に噂が広まっているぜ、君の事をスリザリンの曾々々々孫だなんて噂してるかもな」
ロンが心配そうに言う。
「そんな訳ないだろう!!」
「まぁ、そうだろうけど…」
「数世紀前の人物という事であれば、血縁上無関係とは言い切れません」
「デルフィ、あまりそういう事言わないでくれよ」
「僕が…スリザリンの血縁者?」
「あくまでも可能性です。確率は0では有りませんが、限りなく低いです」
「はぁ…」
ありもしない噂が流れるかもしれないと、危惧したハリーは溜息を吐き、頭を抱えていた。
その夜、再び巨大な生体反応を検知する。
より詳細なスキャンにより、移動方法を特定する事が出来た。
城内に張り巡らされている水道管等のパイプを利用している様だ。
スキャンが終わる頃には、再び微弱な生命反応を残し、姿を消した。
どうやら、再び犠牲者が出た様だ。
後処理は、教師陣に任せるとしよう。
当初はエイダとデルフィで模擬戦をやる予定でしたが、ホグワーツが崩壊するので、ロックハートとスネイプは犠牲になったのだ。