襲来
ホグワーツからの帰還から数日後、私達の元にダンブルドア名義の請求書と教材リスト、そして封書が届いた。
請求書に目を通すと、法外な値段が記載されていた。
「請求額が間違っているのでは?」
「外壁の破損程度ならば、請求額の三分の一で可能だと思われますが」
請求書と同封されていた明細書に目を通す。
明細書には、請求額の半数以上が人件費と魔法加工費用となっていた。
どうやら魔法と言うのは万能ではなく、むしろ人の手が掛かる為、金銭的にはかさむ様だ。
「理解しました」
「後日、支払いを行いましょう」
「不本意ですが」
請求書を仕舞い込んだ私は、別の封書を切り中身を確認する。
『ホグズミード村へ行く為には、保護者のサインが必要です。同封した書類にサインし、提出してください』
「保護者のサインですか」
「保護者が存在しない、我々には不必要な物ですね」
「その通りです」
許可書発行用の書類を片付け、後日、買い物へと向かう準備を開始する。
それにしても、予想以上の請求額による出費によって、金銭的にかなり厳しくなってしまった。
何とか、金策を考えなければ。
数日後、いつもの様に魔法界と移動し、グリンゴッツにて、ダイヤモンドの換金作業を行う。
「こちらが今回の換金額です」
小鬼が渡して来た、明細書に目を通す。
すると、以前までにはない手数料と言う新たな項目による差引額が発生していた。
「手数料の項目には、誤りがあるのでは?」
「いいえ、間違いなど有りませんよ」
「ですが――」
「大体ですね、毎回毎回、未成年者である貴女達があれ程の質のダイヤモンドを持ち込み、換金しているのがおかしな話なんですがねぇ。私が担当して居なければ、換金すらできないでしょうね」
受付の小鬼は、ふてぶてしく笑う。
「つまり、この手数料という項目は彼方が着服していると言う事ですか?」
「想像にお任せしますよ。で? 換金でよろしいですね」
「えぇ」
その後、手数料として、かなりの金額が差し引かれたが、今回の教科書代と、ダンブルドアからの請求額の補填は行う事が出来た。
しかし、これでは今後の設備維持費や必要経費を削減しなければならない。
グリンゴッツを後にした後、『怪物的な怪物の本』と言う物を購入した。
どうやら、使用者に襲い掛かると言う物だが、ベクタートラップ内に収納した後は、大人しくなった。
「号外だよー」
帰還しようとした矢先、日刊予言者新聞の社員が号外を配っている。
号外には、檻に手を掛けた男性が叫び声を上げている写真が掲載されており、『シリウス・ブラック、アズカバンを脱獄』の見出しが掛かれている。
「データベース上では、アズカバンは、脱獄不可能。難攻不落の刑務所の筈でしたが」
「情報修正をする必要があるようです」
どうやら、この『シリウス・ブラック』と言う人物が脱獄した事により、魔法界は大混乱している様だ。
学生生活を送る私達には、関係の無い話だろう。
「帰還しましょう」
「えぇ」
周囲に人影が無いのを確認し、私達は飛び上がり、帰還を果たす。
数日が経ち、新学期当日。
必要な荷物を全て、ベクタートラップに収納する。
「準備はできましたか?」
「問題ありません」
去年より、若干胸部装甲を厚くしたデルフィが答える。
「では行きましょう」
「えぇ」
家を出ると、飛翔し、キングス・クロス駅へと向かう。
到着後、人目に付かないように着地し時間を確認すると、発車10分前であった。
「去年より早いですね」
「去年は侵入できませんでしたから」
いつもの様に、人が行きかっている中、私達は9と4分の3番線に向かう。
柱をスキャンすると、今年はプロテクトは施されていない。
その為、いとも簡単に侵入で来た。
去年は一体誰が何の目的であのような事をしたのか、見当がつかない。
目の前に広がる1年ぶりの光景を見ながら、ホグワーツ特急へと乗り込む。
少し早く来た事もあってか、殆どのコンパートメントは無人だった。
その為、入り口付近のコンパートメントに入室する。
数分が過ぎると、コンパートメントの扉が叩かれ、一人の男性が顔を見せる。
「すまないが、ここいいかな?」
「構いませんよ」
「そりゃどうも」
少し古ぼけた服を着ている男性は、対面の窓際に座ると、すぐに目を閉じ、眠りについた。
しかし、この男性からは一般的な魔法使いとは多少異なるエネルギーを検知する。
『ねぇ、二人とも、今どこにいる?』
ハーマイオニーから通信が入る。
『入り口付近のコンパートメントです』
『そうなの。すぐ向かうわ』
通信終了後、再びコンパートメントの扉が叩かれ、扉の奥からはハリーとロン、そして猫が入った籠を持ったハーマイオニーが注意深く入って来た。
「よく2人が居る場所が分かったな」
「勘よ、勘」
コンパートメントに入るなり、声を上げるロンをハーマイオニーが軽く諭すと、3人は空いている席へと腰かける。
「ねぇ、この人誰?」
「ルーピン先生ね」
「ルーピン先生? なんでわかるのさ?」
「鞄に書いてあるわ」
ハーマイオニーは荷物棚に収められている鞄を指差すと、そこには『R・Jルーピン教授』のタグが付いていた。
『そんな細かい所まで見ているのか君は』
『たまたま目に入っただけよ』
口を動かすことなく、ハーマイオニーとトムは通話を行っている。
どうやら、体内通信をマスターしたようだ。
『お久しぶりですね。トム』
『あぁ、久しぶり』
『その体にはもう慣れましたか?』
『まぁまぁかな。でも毎日のように、書籍の検索や、話し相手にされるのは疲れるね』
『本だった時よりはマシじゃ無いかしら?』
『まぁ、そうだね』
「ねぇ、ハーマイオニー」
「なに?」
ロンがハーマイオニーに声を掛けると、通信が終了する。
「さっきからずっと頬押さえてるけど虫歯?」
「え?」
ロンが体内通信使用時に、耳小骨を押さえる動作を指摘する。
「え? あぁ…うん。そう。虫歯になっちゃって」
「だらしないなぁ、ちゃんと歯磨きしてるの?」
「当り前よ。ブラッシングは両親から教わったわ」
「そうなんだ」
「歯が痛むようなら、後で医務室へ行ったら?」
「大丈夫よ。うん。そこまで痛くないから」
「そうかい、それよりさ。この人、何を教えるか分かる?」
「闇の魔術に対する防衛術じゃないかしら? ほら、前の人居なくなったから」
「あぁ、ロックハート様か」
「あ゛」
「ヒッ」
突然の低い声に、ロンが怯える。それと同時にトムはセーフモードへ移行した。
「とっ…ところでハリー! 皆が集まったら何か話したい事がある言って言ってなかったか?」
慌てた様子で、ロンが話題を変える。
ロンは無理やり話題を変え、ハリーを巻き込んだ。
巻き込まれたハリーは、少し驚いている様だったが、すぐに話を始めた。
「僕…シリウス・ブラックに狙われて居るみたいなんだ」
ハリーがそういうと先程までの空気が一変し、重苦しい空気が流れた。
それと同時に、先程まで寝ていたルーピンの脳波が覚醒反応を示す。
しかし、まだ寝たふりをしている。
「シリウス・ブラックってあの、脱獄囚?」
「そうだよ」
「でもなんで、ハリーが狙われるのさ」
「詳しくは言えないけど、シリウス・ブラックを探すなって言われたんだ」
「探すなってどういう事? ハリーはシリウス・ブラックを探していたの?」
「そんな訳ないだろ!」
『まぁ、彼なら変な事に首を突っ込みかねないな』
『まぁ、そうよね。去年とか一昨年とかそうだし』
『賢者の石だっけ? あの老害が隠していたんだろう。しかも1年生に簡単に突破されるような罠を用意して。傑作だね』
『もしかして、ダンブルドア先生が嫌いなの?』
『あっちだって僕の事は大嫌いなはずさ』
「でも、なんでシリウス・ブラックは脱獄なんてしたんだろう? だってアイツ、アズカバンじゃ一番厳しい場所だったんだぜ」
「分からないよ…でも、アイツってヴォルデモートの手下だったんだろ…ならきっと僕を殺す為に…」
『ねぇ、トム。シリウス・ブラックに付いて何か知らない?』
『そうだね。結構前だけどルシウス・マルフォイがシリウス・ブラックが投獄されたって喜んで話していたのを聞いた事があるね』
『彼等はヴォルデモートの同胞ではないのですか?』
『生憎と、僕が知っている僕の事は学生時代までだよ』
『そうなの』
ハーマイオニーは残念そうに呟く。
「まぁ、安心しろって、魔法省だって血眼に探しているし、新聞にはマグルの警察って奴にまで探すよう言っているらしいからな。きっとすぐ捕まるさ」
「だと良いんだけど…」
重苦しい空気がコンパートメントを支配する。
「あのさ」
そんな空気を重く思ったのか、ロンが口火を切る。
「皆は、家族の人にホグズミード行きの許可書って書いてもらった?」
「ちょっと! ロン!」
「え? なにさ?」
「ほら…」
ハーマイオニーは視線をこちらとハリーに向ける。
「あっ…」
何かを察したのか、ロンの表情が曇る。
「お気になさらずに」
「そうだよ、気にするなよ。アイツ等がサインなんか書く訳無いだろ」
ロンとハーマイオニーはバツの悪そうな表情で更に重苦しい空気が流れた。
しばらくすると、何者かによっていきなりコンパートメントの扉が開かれる。
「誰だ!」
「おやおや、これはこれは……ポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼル。いや、ディーゼルのコソコソ君じゃあないか」
「マルフォイ…何の用だよ」
「なぁに、君の父親がこの夏やっと、小銭を手に入れたと聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい? 新聞に写真が載っていた。遺影に丁度良いんじゃないか?」
「なんだと!」
「ちょっと! ロン!」
ハーマイオニーが止めようとするが、挑発されたロンは、それに乗りマルフォイに殴りかかろうとする。
その瞬間、コンパートメントで寝ているルーピンが大きなイビキをかき、全員の視線が集まる。
「誰だこの薄汚い服の男は?」
「新任の教員です。去年の穴埋めでしょう」
「フッ! それは良かった。アレより下はいないだろうな」
マルフォイが大声で笑うと、それに釣られて取り巻きも高笑いをする。
その時、急に窓を叩く雨足が強くなり、空の色はどんよりと黒くなり、車内の明かりのみが周囲を照らしている。
「なんだ? 雨か…不気味だな」
マルフォイを始めに、その場の全員が不気味そうに周囲を見回す。
「なんか…嫌な予感がするわ…」
ハーマイオニーが呟いた瞬間、汽車が急ブレーキを掛る。
「うぉ!」
急ブレーキによる衝撃により、私達と寝たふりを続けているルーピン以外の人物が体制を崩す。
「え? なんだよこれ?」
「分からないわ…運転手はどうしたのよ」
その時、周囲に未確認のエネルギー反応を検知する。
『おっと…これは少し気を付けた方が良いね』
『え? どういう事?』
『それは――』
「なんだよ! あれは!」
ロンが突如として叫び声を上げると、汽車の通路内に襤褸切れ同然の黒いローブを身に纏ったエネルギー体が現れ、次々と生徒たちを襲い、その生体エネルギーを吸引していた。
「ヴァー」
浮遊しているエネルギー体は、こちらに目標を定めたのか、不規則な動きで滑空しながら襲い掛かる。
「邪魔です」
ビームガンを構え、出力調整を行ったエネルギー球を放つ。
「グガァァァ!」
エネルギー体を上回る出力のエネルギー球により、敵性体はかき消され消滅する。
『まさか、ディメンターを倒すとは。やるね』
『ディメンター?』
『ディメンターとは、別名『吸魂鬼』と呼ばれ、魔法界で最もおぞましい生き物とされています。また人間の幸福を餌にし、近くにいる人に絶望と憂鬱をもたらし、人間の魂を奪う事で、対象は永遠の昏睡状態、植物状態に陥ると言われています』
『詳しいわね…』
『あぁ、そして、唯一の対抗策は――』
「排除します」
背後では、デルフィがウアスロッドで1体のディメンターを処理し終えた所だった。
『本来ならば、守護霊の呪文を使うんだけど…まぁ、君達には必要ない様だね』
ハーマイオニーは不思議そうに首をかしげている。
「うわあぁぁ!!」
「ハリー!」
突如、二人の悲鳴が轟く。
背後には、ディメンターにより、生体エネルギーを吸引され掛けているハリーの姿があった。
私はディメンターの後頭部にビームガンを押し付け、攻撃を行うと、ディメンターは一瞬にして消滅する。
「大丈夫ですか?」
「う…うぅ…」
ハリーは少し魘された後、気を失う。
『さて、さっきの声で、ディメンターが集まって来たようだね』
レーダーには大量のディメンターと思われるエネルギー反応を検知する。
「了解。排除を介します」
「同行します。1分で片を付けましょう」
私達は、武装を整えると――
「待ちたまえ」
振り返ると、先程まで寝たふりをしていたルーピンが立ち上がり、杖を構えている。
「これ以上ディメンターを殺すのはあまり良くないよ。魔法省に目を付けられるからね」
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
ルーピンはワザとらしくあくびをすると、こちらに歩み寄る。
「さて、後の事は任せてくれないか」
「手立てはあるのですか?」
「あぁ。任せてくれ」
数歩歩いた後、ルーピンはディメンターと対峙する。
「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない」
しかし、ディメンターは依然として、戦闘の意思を示している。
「交渉決裂です」
「仕方ないな」
ルーピンは杖を構えると、一呼吸する。
「エクスペクト・パトローナム」
ブツブツと呟くように呪文を唱えると、杖の先から銀白色で半透明な狼が現れ、襲い掛かるディメンターに攻撃を加え、追い払った。
「これでいいだろう」
「敵性反応撤退を開始しました」
「この戦闘における、周辺の被害状況を報告。建造物損壊・些少。死傷者有りません。しかし、怪我人は多数出た模様」
「よくそんな事が分かるね」
「お気になさらず」
ルーピンはこちらを怪しむように睨み付けるが、しばらくするとコンパートメントの中へと戻って行く。
コンパートメントの中では、ハーマイオニーが気を失ったハリーと、青い顔をしたロンを看病していた。
「もう大丈夫だ。さぁ、眼を開けて」
「う…うぅ…」
ルーピンはハリーの肩を揺らすと、ようやく目を覚ます。
「気が付いたか」
「頭痛い…最悪な気分だ」
「ブドウ糖です」
起きたばかりのハリーに、ブドウ糖のタブレットを手渡すと、口に含み噛み砕いている。
「チョコレートは…」
「今はいらないです」
「そうか」
「さっきのはなんだったですか?」
まだ頭が痛むのか、頭を押さえながらハリーが聞いた。
「ディメンター、吸魂鬼だ。あれはアズカバンの看守の者だろう」
一通りの事を説明し終えたルーピンは再びこちらに視線を向ける。
「それにしても、驚いたよ。まさか、君の様な学生がディメンターを倒すとはね…何者なんだ?」
「ホグワーツの生徒です」
「そうか…ホグワーツ生徒ねぇ…」
ルーピンは依然として疑いの目を向けているが、しばらくすると溜息を吐く。
「まぁ良い。それでは私は少し、運転手と話してくるよ」
そう言い残すと、ルーピンはコンパートメントの扉を開け、ゆっくりと外へと出ていった。
まぁ、ディメンター程度ではどうする事もできません。