数日が経ち、再び魔法生物飼育学の授業。
「はぁ…」
魔法生物飼育学の授業中、ハリーが机に座り込むと溜息を吐いている。
周囲の生徒達も、皆一様に退屈そうな表情を浮かべている。
先日のヒッポグリフによる暴行事件以来、事態を重く見た学校側により、授業内容が変更され、『レタス食い虫』の生育状況を観察するだけの授業になっている。
しかし、目立った動きは無く、ただひたすらにレタスを食べ続ける虫の観察に対し、皆一様に興味をなくしている様で、休眠や別授業の課題に取り組む生徒の姿も見受けられる。
『ねぇ、授業が始まってからどれくらいが過ぎた?』
『10分40秒経過』
『はぁ…まだまだ先は長いわね』
溜息を吐いた後、ハーマイオニーは机の上にタブレット端末と羊皮紙を取り出す。
どうやら、別授業の課題に取り組む様だ。
トムに必要な資料を検索させている。
私達も、データ処理などに時間を使う事にした。
月日が流れ、ハロウィーンの時期がやって来た。
談話室では、多くの生徒が興奮気味で話し込んでいる。
どうやら、本日ホグズミード村へ行くのが楽しみなようだ。
「君達は良いね…」
「そんな事言うなよ」
「ちゃんとお土産買ってくるわ」
「土産話をたくさん聞くよ」
部屋の一角では、ハリーが暗い表情をしており、ロンとハーマイオニーに慰められていたが、しばらくすると何処かへと消えていった。
「まったく…ハリーったら」
「君達もホグズミード村へは行かないのか?」
「ちょっと! ロン!」
「お気になさらず。我々も許可書を持っていないので」
「ちゃんとお土産買ってくるわ」
「そうだよ。ところでハーマイオニー?」
「なによ?」
「最近、スキャバーズを見かけないんだ」
「そうなの?」
「そうさ。それも君が猫を連れて来た辺りでね」
ロンの発言を聞き、ハーマイオニーの表情が曇り始める。
「ねぇ、それってどういう意味?」
「別に。ただ僕は、君が猫を連れて来たのとスキャバーズが居なくなった事が、少なからず関係あるんじゃないかなって思っただけだよ」
「何よそれ! それに、あの子最近何処かへ行っちゃったから…」
「別に。ただペットの管理はちゃんとしておいて欲しいってだけさ」
「それなら、ちゃんと鼠を管理していない貴方にも問題があるんじゃないかしら!」
2人は、睨み合い一歩も譲らない取った状況だった。
「よろしいでしょうか?」
「なんだよ!」
「なによ!」
2人は同時に声を荒げる。
「全員出発されている様ですよ」
「残って居るのは彼方方だけです」
2人は注意を見回すと、自分達以外が居ない事を確認した後、後を追う様に走り出した。
彼等が出ていってからしばらくすると、自室にハーマイオニーのペットである猫が現れた。
一応、猫が現れた事をハーマイオニーに伝える。
『本当! ねぇ、良かったら私が戻るまで部屋に入れておいてくれない?』
『了解です』
『助かるわ!』
通信を終了させた後、猫は私達から逃れる様に、自室から出ていった。
「追いかけましょう」
自室から出て、猫の後を追いかける。
すると、談話室を抜け、空き教室へと、猫が入って行く姿を捉える。
後に続き、空き教室へと入ると、そこには、汚れた服を着た一人の中年男性が猫を抱きかかえていた。
「え? なんで…生徒がここに…皆ホグズミードへ行ったんじゃ…」
「データ照合。シリウス・ブラックと断定」
「マズイ!」
侵入者はその場で踵を返し、開け放たれた教室の窓から飛び降りる。
その体が地面に接近すると、体を反転させ、黒い犬へと変化させ、着地すると同時に、走り出した。
「追跡を開始します」
私達も窓枠に足を掛け、そのまま飛び出すと、バーニアを起動し、追跡を開始する。
本拠地に増援が居る可能性もあるので、一定の距離を保ちつつ、後を追いかける。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
黒い犬は息を切らせながら、巨大な柳の木の根元にある空洞へと滑り込む。
私達も、後を追う様に、柳の木に接近すると、突如として柳の木が枝を振り回し、暴れ始める。
「排除開始」
迫り来る枝をブレードで切り伏せる。
デルフィもウアスロッドを振り、枝を排除しながら、根元の入り口へと入り込む。
内部は天井が低い小部屋となっており、アンティーク雑貨やピアノなどが置かれており、若干の生活感を感じる。
最奥の部屋から、魔力の反応を検知する。
私達は武装を整えると扉を開け放つ。
「グガァァァ!」
黒い犬はこちらを視界に捉えると同時に飛び掛かる。
飛び掛かった黒い犬は私の体を蹴ると、そのまま部屋の中心に着地する。
対する私は、大した衝撃でもないので、そのままビームガンを黒い犬へと向け、デルフィもウアスロッドを突き付ける。
「グルルルルッ!」
黒い犬は牙を剥きだし、唸り声を上げながら、威嚇している。
「無駄な抵抗は止めて投降してください」
「グガッ!」
投降する意思の無い黒い犬は、再び飛び掛かる。
「投降してください」
デルフィはウアスロッドを横に薙ぐと、飛び掛かる黒い犬は体をくの字にさせながら、部屋の壁へと吹き飛び、瓦礫の山に埋もれる。
「生体反応検知。死亡してはいません」
「了解。最終通告です。武装解除し、投降してください」
すると、部屋の隅で、瓦礫の山を掻き分け、口の端から血を流しながら立ち上がると、杖をこちらの足元へと投げ捨て、右手で血の流れてる腹部を押させ、膝を付く。
「降参だ」
シリウスは苦しそうな声を上げる。
私は足元の杖を拾い上げると、そのままシリウスに歩み寄ると、医療キットを取り出す。
「腹部に軽度の裂傷を確認。医療キットです。応急処置の仕方は分かりますか?」
「あ…あぁ、いや…処置の仕方は分からんが」
「了解、処置を開始します。大人しくしてください」
シリウスをその場に寝かせ、応急処置を行う。
「処置終了」
「あ、あぁ。助かったよ」
腹部に包帯を巻いたシリウスは、近くにあったソファーに腰を掛ける。
「質問してもよろしいでしょうか?」
「構わないが」
「では、なぜ不法侵入を? ハリー・ポッターの殺害を企てていると言う話もありますが」
私の質問に対し、シリウスは苦悶の表情を浮かべる。
「何故私がハリーを殺さなければならないんだ! 信じて貰えないと思うが、私は無実なんだ!」
突如として、シリウスは声を荒げる。
「イテテッ」
声を荒らげた事により、傷口が痛むのか、再び包帯の上から腹部を押さえている。
「実は、ある人物…ピーター・ペティグリューを探していてね。奴は世間では私に殺されたことになっているが、総て奴の自作自演。あいつは鼠の動物もどきで、下水管を通って逃げたんだ…小指を1本だけ切り落として…私は奴に罪を擦り付けられたんだ。苦しい日々だったさ…だがそれもあと少しで終わる。奴がホグワーツに隠れているって事は分かっているんだ。後は文字通り奴の尻尾を掴むだけさ。その為に友人と作った地図が必要でね」
「その為に不法侵入を?」
「あぁ。結局地図は見つからず。君達と鉢合わせって感じでね」
「了解」
「そういう事だから、ディメンターに引き渡すのだけは勘弁してくれ。私はまだ捕まる訳にはいかないんだ」
シリウスはソファーに座りながらだが、頭を下げている。
「現状の判断材料では、貴方の発言が100%真実だと断定する事はできません」
「まぁ…そうだよな。だが証拠はある。ピーター・ペティグリューだ。アイツをとっ捕まえて全て洗いざらい吐かせればいい。幸い、この子も協力してくれているからね」
シリウスはそう言うと、猫を抱きかかえる。
「さっきも話したが、アイツは鼠に化けていてね。この前新聞を見た時、アイツが写っていた。ロン・ウィーズリーの手の上で何不自由なく暮らしていたさ」
ソファーに座るシリウスは、分かり易く落ち込んでいる、
「つまりは、その鼠を捕まえれば、良いという事ですか?」
「え? それって協力して貰えるって事かい?」
「不本意ながら」
「感謝するよ」
シリウスは、深々と頭を下げる。
「しかし、貴方への疑いが晴れた訳ではありません」
「分かっているよ」
私は、シリウスの杖に、小型の発信機を取り付ける。
「杖をお返しします。ですが、杖には小型の発信機を装着させていただきました。効果は1年程度です」
「発信機?」
やはり、魔法族は科学技術については、明るくない様だ。
「位置を特定する装置です。不審な行動をした場合。即座に確保へと向かいます」
「杖を持っている限り、どんな動きをしようとお見通しって事か…」
「はい、以降は不法侵入等されないようにお気を付けください」
「あぁ、わかったよ」
シリウスは杖を少し眺めた後、溜息を吐き仕舞い込む。
「なぁ、一つ聞いても良いか?」
「何でしょう?」
「君達は本当にホグワーツの生徒なのか? 並の闇払い以上の戦闘力も有る上に、知識も豊富だ」
「現在、3年生です。それ以上の情報が必要ですか?」
「まぁ…深くは聞かないでおくよ」
消耗からか、シリウスはソファーに横になる。
「何かわかったら、教えてくれ。私は基本、ここにいるはずだ」
「了解です。傷が痛むようでしたら、鎮痛剤を投与してください」
私はテーブルの上に鎮痛剤を置く。
「少量ですが、携帯食料を置いておきます。不足分はまた別の日にお持ちします」
デルフィは、携帯食料を取り出すと、部屋の隅に置く。
「何から何まで、すまないね」
その後、私達はハーマイオニーの猫を確保し、自室へと足を向けた。
自室に到着してからしばらくすると、紙袋を抱えたハーマイオニーが戻って来た。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
ハーマイオニーの姿を見た途端、部屋の隅に居た猫が駆け寄る。
「クルックシャンクス! 良かった。どこに行ってたのよ。心配したのよ」
「にゃー」
猫は間の抜けた鳴き声を上げると、部屋の隅で丸くなる。
「見付けてくれてありがとう。これお土産」
「感謝します」
「いただきます」
ハーマイオニーから簡素な焼き菓子が入った袋を受け取る。
「そうだ。これからハロウィーンパーティーね。そろそろじゃない?」
時刻を確認すると、後10分程度で始まる頃だろう。
「そうですね」
「じゃあ、急ぎましょ!」
ハーマイオニーは勢い良く自室を出る。その後を追う様に、私達も大広間へと移動した。
大広間ではすでにハロウィーンパーティーの準備が整って居り、既に多くの生徒で賑わっている。
私達は自身の席に着座しパーティーの開催を待つ。
しばらくすると、ダンブルドアが登壇し、簡単な挨拶の後、ハロウィーンパーティーが始まる。
パーティーが始まると同時に、ロンは目の前の食事に貪りついている。
それを見ていたハーマイオニーは呆れた表情で溜息を吐く。
キングテレサ姫の方が好きです。