ハリー・ポッターと終末の魔法使い   作:サーフ

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今回で、アズカバン編は終了です。


静寂

   自室に戻ったワシは、椅子に座り目を閉じ、扉が開かれるのを待つ。

 

 静寂の中、時計の針が進む音が響く。

 

 普段は気にならない音もこのような場合ではとてつもなく気に掛かるものだ。

 

 数分が経ち、十数分が過ぎ、数十分の時が流れる。

 

「遅い。遅すぎる」

 

 そろそろ、ハリー達がヒッポグリフを助け出したと報告に入ってもいい筈なのだが、依然として校長室の扉が開かれる事は無い。

 

「まったく…何をしておるのじゃ…」

 

 あまりの遅さに、ワシは自室の中をうろつき始める。

 

 数分間自室を歩き回った後、しびれを切らし扉に手を掛ける。

 

 その時、数回扉がノックされる。

 

 遅かったじゃないか。

 

「少し待つのじゃ」

 

 内心安堵しながら椅子に腰かけると、両手を顎の下に組み体勢を整える。

 

「ふぅ…おっほん! 入るが良いぞ」

 

 数秒の後、扉が開かれる。

 

「遅かったのぉハ……なんじゃ、ミネルバかのぉ」

 

「なんじゃとは何です、失礼な」

 

 現れたミネルバは不機嫌な表情のまま机の前までやってくる。

 

「ちょっとした勘違いじゃ。すまんの」

 

「はぁ…そうですか」

 

「して、要件は何じゃ」

 

「先程、ミス・グレンジャーから逆転時計が返却されましたので、ご報告にと」

 

「なんじゃと!」

 

 ワシは思わず大声を上げてしまい、それによってミネルバが小さな悲鳴を上げていた。

 

「なッ、なんですかいきなり大声を出して」

 

「す、すまんの。本当にハーマイオニーは逆転時計を返したのか?」

 

「はい、先程イーグリット姉妹と共に私の部屋を訪れて、複数の授業を同時に受けるのは止めると――」

 

「イーグリット姉妹が一緒じゃったのか?」

 

「え? えぇそうですが」

 

「そうか…して、ヒッポグリフの件はどうなった?」

 

「ヒッポグリフですか?」

 

 ミネルバは一瞬だけ首を傾げた後、溜息を吐いた。

 

「はぁ…ヒッポグリフは先日処刑されましたよ。貴方もその場に同席したはずですよ」

 

 ミネルバは再び溜息を吐き、首を左右に振る。

 

「まさか、ボケ始めたのかしら」

 

「今何か言ったかのぉ?」

 

「いいえ別に。ちなみに昨日の夕飯は覚えていますか?」

 

「バカにするでない。覚えとるわ」

 

 確か…なんじゃったかのぉ…いや、今はそんな事どうでもいい。

 

 ここで一つの推測が頭をよぎる。

 

 よもや、イーグリット姉妹がハリー達が過去に遡りヒッポグリフを助け出す事を阻止したのかも知れぬ。

 

 しかしなぜそのような事をするんか理解できぬ。

 

 過去に遡り、罪なき者を救えるのならば、それに越したことは無いだろうに。

 

「どうされましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「そうですか、では逆転時計は私が魔法省へ返しておきます」

 

「頼んだぞ」

 

 ミネルバはその場で一礼すると、校長室を後にした。

 

「何と言う事じゃ…」

 

 ワシは内心騒めきながら、校長椅子に腰かけると、溜息を吐く。

 

 

 

 

 

  数日が過ぎ、終業式も終わり、生徒達が歓声を上げながらホグワーツ特急に乗り込んで行く。

 

 今年の初めにディメンターの襲撃を受けたが、現在ではディメンターは1匹も居ないので、皆安心している様だ。

 

 ワシはシリウスの無実が証明されたことが一面となっている日刊予言者新聞を小脇に置き、今年の出来事を振り返る。

 

 今年も様々な出来事があり、大変な1年となった。

 

 始めはディメンターによるホグワーツ特急の襲撃。

 

 あれにより、大多数の生徒が被害を受けた。

 

 その場に居合わせたリーマスによってその場は何とか収まったが、下手をすれば死者が出ていただろう。

 

 しかし、リーマスの報告では、この時点で既にイーグリット姉妹はディメンターを消滅させていたと聞く。

 

 そして、ヒッポグリフの事件。

 

 あの事件で被害を受けた、ドラコ・マルフォイは不憫には思うが、ハグリッドの話しでは、ヒッポグリフに対し礼を欠くような対応をしたという。

 

 それに関しては自業自得と言わざる負えないだろう。

 

 しかし、彼は魔法省の役人である父親に抗議し、その結果ヒッポグリフが処刑されてしまった。

 

 愚かな行動であるとしか言いようがない。

 

 ハグリッドの忠告を聞かずヒッポグリフに礼を欠いたのが原因だ。

 

 それにもかかわらず、激昂し処刑する等、本来ならば有りえぬことじゃ。

 

 じゃが今回は、彼の父親が役人という事もあり、処刑が行われてしまった。

 

 とても悲しい事じゃ。

 

 更にはアズカバンを脱獄したシリウスがホグワーツに侵入したという件だ。

 

 侵入したシリウスは夫人の絵をナイフによって引き裂いた。

 

 しかし、なぜ杖を使わなかったのか、そこが疑問となる。

 

 ワシの前に現れた時は杖を持っていたところを見るに、ワザと置いて来たと考えるべきか…

 

 魔法使いに取って杖とはとても大切な物の筈。

 

 それをナイフに持ち替え、ホグワーツに乗り込むなど、通常では考えられない。

 

 引き裂いた絵の賠償を後に請求したところ、シリウスは快く承諾した。

 

 どうやら、魔法省から冤罪に対する賠償金としていくらか受け取ったようだ。

 ワシ自身、シリウスは犯人ではないと思っておったが、いかんせん証拠が無かった為確信は得られなかった。

 

 そして、ワシが最も驚いたのは、イーグリット姉妹の類稀なる戦闘能力だった。

 

 クィディッチ会場がディメンターに襲撃を受けた際、彼女達は宙を舞いデルフィは杖を手に、エイダの方は自身の腕を特殊な魔法で剣に変化させ、ディメンターを次々に消滅させていった。

 

 その上、彼女達の背後に、見た事も無い追尾魔法を幾重も放っていた。

 

 魔法というよりは、物理的な物体を自分の意志がある様に飛翔させていたと言った方が良いだろうか…

 

 変身術と浮遊魔法の応用だろうか? 

 

 いくら浮遊魔法とは言え、あれ程高速かつ正確な操作を同時に行うのは不可能に近い。

 

 その上、途中からは姿現しの様な瞬間移動を繰り返していた。

 

 ホグワーツでは姿現しは使用できない筈だが、ワシ同様に何か対策をしているのだろうか…

 

 しかし、姿現し特有の音とは別の音を発していた。

 

 まるで、空間がはじけ飛ぶような、そんな音だ。

 

 そして、2人は何もない空間から武器を取り出し使用していた。

 

 エイダが取り出したその武器は、去年と同様にマグル達が使う銃と呼ばれる物に形状が良く似ていた。

 

 体に不釣り合いな大きさの武器を、まるで羽のように軽々と取り回し、光の帯を撃ち出していた。

 

 ワシが知る銃と言う物は、精々鉄の塊を撃ち出すのが関の山だと聞いていた。

 

 あれ程の力を持つ光の帯を出すなど考えられない。

 

 それは、魔法においても同様だ。

 

 あれ程の力を持つ魔法を見た事が無い。

 

 その時のディメンターの動きも不自然だった事を思い出す。

 

 ディメンターはまるで空中に磔にされたかのように一ヶ所に集約され、そこに光の帯を撃ちこまれていた。

 

 どの様な手法を用いたのかは分からないが、彼女達がやったことに間違いはない。

 

 それだけではない。

 更にディメンターの増援が来た際は、エイダは3つ、デルフィは6つの魔導具の様な物を使用していた。

 

 その魔導具はエイダが放つ魔法に合わせて同じ魔法を放っていた。

 

 使用者と同様の魔法を放つものだろうか?

 

 デルフィが使用して居た物は、デルフィの行動に合わせ、周囲を回転し周辺に攻撃をしていた。

 

 その上、ディメンターの攻撃も防いでいるように見えた。

 

 攻防一体の魔導具だと考えられる。

 

 その様な魔導具は、魔法省の資料を見ても見つからなかった。

 

 そうなると、彼女達が創りだした物と考えるのが妥当だが、子供にあれ程の物を作り出すのは常識的に考えてもおかしい。

 

 裏に協力者がいると考えたが、彼女達に肉親は居らず、目立った外部協力者は確認できなかった。

 

 

 更に彼女達の行動については、セブルスからもいくつか報告が上がっている。

 

 まずは暴れ柳の破壊について。

 

 セブルスの話しでは、暴れ柳は何者かによって爆破されていたという。

 

 そして、彼女達は逃げるピーター・ペティグリューに対し、再び何もない空間から取り出した巨大な爆弾を投げ付け逃亡を阻止したという。

 

 負傷した状態で見ていた為、見間違いの可能性も疑ったが、セブルスはそれを否定した。

 

 セブルスの見解では、暴れ柳の爆破と、その際に使用された爆弾は同じものである可能性が高いという事だ。

 

 ミネルバからの報告でも上がっているが、彼女達は暴れ柳を破壊したという事になる。

 

 つまり、彼女達は暴れ柳を破壊可能な爆弾を持ち歩いていたという事だ。

 

 しかし、それほどの威力ともなれば隠匿するのは不可能なはず。

 

 だが、彼女達がそれ程の爆弾を持ち歩いているのを見た事が無い。

 

 まず、そんな物をホグワーツに持ち込ませる等ありえてはならない。

 

 そうなれば、その場で瞬時に作成したことになる。

 

 暴れ柳を粉砕する程の威力のある爆弾を作り出す魔法という事か。

 

 益々彼女達に対して警戒する必要があるようだ。

 

 次にホグワーツ周辺の森を消滅させた件だ。

 

 ハリー達がディメンターに襲われたところ、不思議な光で守られていたという。

 

 その光については、現場を見ていたセブルスでも判断できなかったそうだ。

 

 その後、ディメンターの処理を彼女達に任せ、セブルスはハリー達を救助したようだ。

 

 本来ならば逆だとワシは思うが。

 

 まぁ、その件については後にセブルスと話し合うとしよう。

 

 ハリー達を安全なところまで運んだ後、彼女等の援護に駆け付けたセブルスは驚愕したという。

 

 デルフィが球体を発射し、ディメンターに直撃すると、周囲の森が吹き飛ぶ程の爆発が起きたそうだ。

 

 その爆破音は校長室に居たワシにも聞こえた。

 

 その爆発の余波により、周辺のディメンターは一掃された様だ。

 

 

 セブルスの報告を虚偽の報告だと思いたいが、事実森の半分が消滅してしまって居るのだから仕方がない。

 

 幸いな事に、ケンタウロスに被害は出ていないが、住処を奪われたことでかなり激昂している。示談金で何とかなれば良いのだが…

 

「ハァ…」

 

 ワシは目の前にある請求書を見て、再び頭を痛めた。

 

 周囲の森の修繕費と、消滅したディメンターの請求書。

 

 これだけで、来期の予算の幾らかを費やさねばならない。

 

「仕方あるまい」

 

 ワシは、費用を彼女達に請求する事にした。

 

 支払いが無理ならば、仕方あるまい、こちらで負担するしかない。

 

「ふぅ」

 

 請求書を書き上げると、ふくろうを使い請求書を送る。

 

 さて、リーマスがホグワーツを去ったためまた新たな職員を探さなければ。

 

 ワシは、疲れた体を引きずり、校長室を出た。

 

 

 

  そして、数日後。

 

 何者かによって入院中のピーター・ペティグリューが連れ出された。

 

 新聞には死喰い人の残党の可能性があるなどと囃し立てられていた。

 

 

 




今回はダンブルドアによる、振り返り回です。

毎回の恒例ですね。

ゴブレット編はやはり時間がかかります。

今月中に投降できればいいのですが、来月になってしまうかもしれないです。

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