数日後。
本日の授業は、闇の魔術に対する防衛学だ。
教室へと移動すると、授業開始10分前だというにも拘わらず、すでに多くの生徒が着座し、授業開始を待ちわびている。
部屋の中央に座り、タブレット端末を操作しているハーマイオニーの隣へと移動する。
「よろしいですか?」
「良いわよ」
許可を取り、着座する。
数分後、足を引きずる独特な音が響き渡る。
その瞬間、多くの生徒の心拍数上昇し、緊張状態へと移行した。
扉が開かれ、足を引きずりながらも不機嫌そうな表情のムーディが現れた。
登壇後ムーディが黒板にチョークで自分の名前を書きながら、その義眼をギョロギョロと動かした。
「アラスター・ムーディだ! 貴様共に闇の魔術に対する防衛術を教えてやる男だ! なんでそんな物を机の上に置いている! そんな物は片付けろ!」
教卓を叩きながらムーディが大声を上げた。
その声に多くの生徒が驚き、動きが止まっている。
「教科書だ! そんな物は必要ない!」
「でも! 先生…教科書は…」
いつもの様にハーマイオニーが手と声を上げると、ムーディがその言葉を遮る様に口を開いた。
「なんだ貴様は! 貴様は敵が魔法を放つ時に悠長に教科書を読んでいるつもりか! あぁ? それで対抗出来ると言うのか! そいつは凄いな! 是非とも闇祓いに欲しいな! 野垂れ死ななければな!」
ムーディの気迫に圧倒されたのか、ハーマイオニーが黙り込んでしまう。
『まぁ、一理あるね。実際魔法使いの決闘なんて、先に撃った者勝ちな所あるし』
『だからって、あそこまで言わなくてもいいと思うわ』
『そう言う性格なんだろう。気にする必要ないさ』
恐怖した生徒達が、教科書を鞄に仕舞い込んだ。
「良し! それではさっそく始めるぞ! ワシがまず貴様らに教えるのは、魔法使いの戦い方だ! 何も知らずに戦うのは無謀だが、知識だけあっても戦い方を知らなければ意味が無い! だからワシが教えてやる! 闇の魔術とは一体何なのかを!」
品性の無い喋り方で、ムーディは授業を進めていく。
「まずは手始めだ…この魔法界には禁じられている魔法が存在する。それを知っている者は居るか!」
すると、ハーマイオニー真っ直ぐ手を上げる。
「そうか貴様は分かるか小娘よ! では答えてみろ!」
「はい…まずは服従の呪文です」
ハーマイオニーが声を少し震わせながら答えると、ムーディは満足気な笑みを浮かべた。
「その通りだ! この呪文で闇の帝王は多くの魔法使いを服従させたと聞く!」
『まぁ、便利な魔法だね』
『学生の頃から使ってそうよね』
『ノーコメントで』
ムーディは杖を引き抜く。それを見た生徒達が息を呑んだ。
そんな事は御構い無しに、机から1匹の蜘蛛が入った瓶を取り出した。
「今回はこの蜘蛛に対して呪文をかけよう! だが人には使うなよ! 使えばそれだけでアズカバン行きだ! そんな風にはなるなよ!」
ムーディは瓶の蓋を取り、蜘蛛を手の平に乗せると、さっそく魔法をかけた。
「インペリオ!」
魔法を受けた蜘蛛はムーディの手の平で踊り始める。
スキャンした結果、特殊なエネルギーの照射により、脳波をコントロールし一種の催眠状態にしている様だ。
コントロール下の蜘蛛は大ジャンプし、ロンの頭に飛び乗ると、タップダンスを始めた。
「どぉだ! 芸達者なもんだろう! 次は何をさせようか!」
ロンの頭から蜘蛛を手元に戻すと、ムーディは楽しそうに口を開いた。
「どうだ? 面白いと思うか?」
生徒たちは先程のロンの喚きっぷりを見て、未だに笑っている生徒もいる。
「だが、ワシが貴様らに同じ事をして、コサックダンスでも躍らせてやろう。どうだ? 面白いと思うか?」
ムーディが声のトーンを下げ、そう一言、口にすると、生徒達の顔から笑顔が消えた。
「今コイツはワシの完全な支配下に居る。ワシはコイツを思いのままに出来る。窓から飛べと命じれば飛ぶだろう。水で溺れ死ねと命じればそうするだろう…そこの小僧…貴様を襲えと命じればそうするだろう」
ムーディがロンを指差すと、ロンは恐慌状態となり声も出ない状況だった。
「先程も話したが、この服従の呪文で支配され、誰かの意思で動かされているのか、それとも自分の意志で動いているのか、区別するのは魔法省でも一苦労だった」
蜘蛛は、ムーディの手の平で丸くなると、そのまま動かなくなった。
「服従の呪文は抗う事が出来る。この先の授業ではそれを教えてやろう。しかしこれには莫大な精神力が必要になる。誰でも出来るというものでは無かろうがな」
『確かに、精神力によって防げるね。まぁ、現在の君はナノマシンの精神防壁のおかげで操られる事なんて無いけどね』
『なんか…本当に便利ね』
『解除しようと思えば出来るけどね。どうする?』
『お願いだからそう言うのは止めて』
「さて、次の呪文だ。答えてみろ!」
ムーディは再びハーマイオニーを指差す。
「次は磔の呪文です…」
「そうだ、次は磔の呪文だ。良く見える様に皆近寄れ!」
ムーディの声に従い、皆が確認できる位置へと移動する。
「では行くぞ…クルーシオ!」
ムーディが呪文を唱えると同時に、蜘蛛が身を捩よじり、もがき苦しみ始めた。
時には、蜘蛛とは思えない様な金切り声を上げている。
先程同様に、エネルギー照射により、一種の催眠状態にしているが、先程は肉体を制御する波長だが、今回のは痛覚や不快指数に影響を及ぼしている。
「う…うぅ…」
「もうやめて! ネビルが苦しんでいるわ!」
ハーマイオニーが叫び、多くの生徒がネビルの方に目を向けた。
ネビルは拳を強く握り、恐怖と怒りに満ちた目を大きく見開いている。
メンタルコンデションレベルも急速に低下している。
PTSDを発動させたようだ。
「もう良いだろう」
エネルギー照射を終了させると、蜘蛛の動きが緩やかになる。
「磔の呪文…それは相手に想像を絶する苦痛を与えるものだ。この魔法があれば、拷問の際、歯を抜く事も、目をくり抜く事も無い。かつて多く使われた魔法だ」
『その代わり精神的にズタボロにされて廃人になるけどね』
『嫌な呪文だわ』
『ちなみに、ナノマシンの精神防壁で防げると思うから、安心していいよ』
『それを聞けて良かったわ。でもこんな呪文を受ける必要が無い事を祈りたいわ』
「さて、次で最後だ。答えられるか?」
ムーディはハーマイオニーを睨み付ける。
「次は…死の呪文です』
「そうだ。死の呪文。コイツは最低最悪な魔法だ」
ムーディは瓶の中の蜘蛛に向けて杖を構えた。
「アバダケダブラ!」
ムーディの杖の先から緑の閃光が走り、蜘蛛に直撃すると、蜘蛛はピクリとも動かなくなってしまった。
閃光が直撃すると同時に心肺機能が完全に停止した。
どうやら、エネルギー照射により、心臓への電気信号に影響を与え心室細動を強制的に引き起こしている様だ。
「あまり見ていて気持ちの良いものではないな。だがそれほどコイツは危険な魔法だ。反対呪文が存在しないのだ。それはつまり防ぐ方法が無いという事だ。この魔法を受けて生き残った者はただ1人…その者は…」
その場の全員の視線がハリーに刺さる。
ハリーは俯き、その視線に答えようとはしなかった。
『確かに謎だ。なんで彼が未だに生きているのか…』
『よく分からないわ。でも死の呪文って当たったら終わりなのよね』
『普通の人ならね』
『でも、この前デルフィが似たような魔法を受けていたような気がするんだけど…』
『確かに同質のエネルギー照射を受けましたが、無効化しました』
『はぁ…まぁもう驚かないけどさ。規格外すぎるよ』
『そうよね…ちなみにこれって私は…』
『ナノマシンじゃ防げないね』
『そんなぁ…』
『まぁ、魔法を受けないように気を付ける事だね』
『防御シールドによって防ぐことは可能です』
『君は本当に余計な事を言うね』
『そうなの。それじゃあその時は頼んだわよ』
『こき使わないでくれよ。大体電力消費だって結構辛いんだが』
『本当に危ない時だけで良いわよ』
『まぁ、君に死なれたら移動もできないからね。そうするさ』
「いいか! 以上が闇の呪文だ! 相手を惑わし、苦しめ、死を与える! 身を守る為にはこれがどれほど恐ろしい呪文なのか、理解しなければならない! 油断大敵だ!」
すると、ムーディが闇の呪文の詳細を黒板に書くと、書き写すように指示を出した。
その場で生徒達が、恐怖に震えながら書き写していった。
その夜、夕食後、自室にてハーマイオニーが羊皮紙を前に頭を抱えていた。
「うーん…どうしたら…」
頭を抱えながら悩み込んで居たハーマイオニーだったが、こちらに気が付いたのか、笑顔を見せる。
「あら、二人とも…」
「何かお悩みですか?」
「うん。実は私屋敷しもべ妖精の労働状況について考えているの私…図書館で調べて気が付いたの…屋敷しもべの奴隷制度は何世紀も前から続いているのよ。これを当たり前だと思い込んで今まで誰も行動を起さなかったのが不思議だわ!」
「まったく…おかしな事を考えるね」
「そんな事無いわよ! 屋敷しもべ妖精だって、しかるべきお給料と休みを受けるべきだわ! そこで考えたの。S・P・E・W。『Society for Promotion of Elfish Welfare』、つまり屋敷しもべ妖精福祉振興協会よ」
「はぁ…何を考えているんだか…」
「なによ…」
トムは呆れた様に溜息を吐く。
「前回も話したけど、屋敷しもべ妖精は好き好んで仕えているんだ」
「きっとそれは、そう言う風に洗脳されてきたからよ! だから…行動を起す必要があるんだわ!」
「行動ねぇ…ちなみにどうするつもりだ?」
「最初の目標は、屋敷しもべの正当な報酬と労働条件の確保ね。そして最終的には屋敷しもべの権利を獲得するのよ! そうすればこの悪しき歴史にも終止符が打てるはずよ!」
「へぇ…」
「そこで考えたの! まずはメンバーを集めて、入会金を集めようって」
「それは、本気で言っているのかい?」
「本気よ!」
「はぁ…少し落ち着いて考えてみな。奴等は仕えるのが生きがいなんだ」
「だからそれは、そう言う風に洗脳を――」
「じゃあ、聞くが。君は毎日のように勉強しているよね」
「えぇ、それが何の関係があるのよ」
「僕が言うのもアレだが、君は他の生徒と比べて勉強熱心なところがある。それこそ洗脳されているレベルで」
「洗脳なんかじゃ無いわ! 私は勉強が好きなのよ!」
「それは、立派な事だね。でももし、教員の誰か…そうだな。まぁダンブルドア辺りにするか。アイツが君は勉強しているから、すこしの駄賃と勉強をしてはいけない日を与えるって言われたらどうする?」
「そんなの受け取れないわ。だって勉強は私が好きでしている事だし、勉強しちゃいけない日なんて…」
「そうだね。だけどね、君が屋敷しもべ妖精にしようとしている事はそう言う事なんだよ」
「そんな…」
「まぁ、もう少し社会全体を見る事だね」
ハーマイオニーは溜息を吐くと、目の前の羊皮紙を丸めゴミ箱へと投げ込んだ。
「もう寝るわ…」
「おやすみなさい」
「良い夢を」
ベッドへと身を委ねたハーマイオニーはそのまま眠りに付いた。
最近、PCが謎の動作不良を起こす様になりました。