扉に入ると、そこには魔女や魔法使いの肖像画で溢れた小さな部屋があった。向かい側では暖炉が轟々と燃えている。クラムとデラクール、セドリック、そしてハリーとダンブルドアは小さめな円卓に腰を掛けている。
「あれ? エイダにデルフィ。どうしたの?」
「何の用じゃ?」
「こちらをご覧ください」
デルフィは手にした紙をダンブルドアに手渡す。
「なんじゃ…これは? 羊皮紙では無いな…」
受け取った後ダンブルドアはゆっくりと目を通すと、その表情を歪め、肩を震わせる。
「なんじゃこれは…冗談ならば笑えぬぞ」
ダンブルドアの低い声が響き、周囲の生徒を始めとした全員のメンタルコンデションレベルが低下する。
「生憎と冗談を言うような――」
突如扉が開かれ、マクゴナガルが入ってくる。
「ミネルバ…これはどういう事だ?」
「先程、ゴブレットが再び燃え上がり…彼女達が手にしている紙が放出されるのを見ました」
「ならば…これは…」
「はい、その通りです」
周囲が静寂に包まれる。
「どーいーことです? なにがあったのーです?」
「ヴぁにごとだい?」
「先生?」
代表選手達は状況が呑み込めずにいる様で、皆疑問を口にする。
「我々も皆様同様に、代表選手達に選ばれました」
「え?」
「どーいーことです!!」
「え? どういう事?」
「私達はチームで参戦いたします」
「え?」
再び代表選手達が声を上げる。
「あ…ああ…何という事じゃ…」
ダンブルドアは、両手で顔を塞ぎ天を仰いでいる。
いくら天に祈った所で状況は変わらないが、彼には多少なりとも現実逃避をする時間が必要だろう。
「しかし、ゴブレットから名前が出た者はこれに従わなければならない…これは魔法契約だからな…」
バグマンを先頭に、部屋の扉が開かれ、クラウチ、カルカロフ、マクシーム、スネイプが続いた。
【マダム・マクシーム! セドリック以外にこの3人も参加すると言っています! これはどういう事です!】
【正確には1人と1チームです】
「ダンブリ・ドール! これはどういうことでーす?」
「私も説明が欲しいな」
マクシームとカルカロフの2人に詰め寄られダンブルドアは意気消沈といった感じだった。
「ホグワーツは4人、その上2人はチームで参戦。しかもそのうち3人は若すぎる。対するこちらとそちらは1人ずつ。開催校は人数制限が無いという話なのですかな? それは初耳ですなぁ。だとしても限度と言う物を知って欲しい」
「いや…そう言う訳ではないのじゃが…」
ダンブルドアは溜息を吐くと、私達に近付き、静かに声を上げた。
「ハリー…お主はゴブレットに名前を入れたのか?」
「いいえ!」
ハリーは身の潔白を証明するべく声を荒げる。
「誓えるか?」
「僕の両親に誓います!」
「はぁ…」
ダンブルドアは溜息を吐いた後、こちらに視線を向ける。
「お主達はどうなのじゃ? ゴブレットに名前を入れたのか?」
「はい」
「な? なんじゃと!」
予想していた回答と異なっていたのか、ダンブルドアが間の抜けた声を上げるとふら付きながら、ソファーに腰かける。
「どういう事じゃ…年齢線は越えられない筈…」
「問題なく突破可能でした」
「なっ…」
その場に居た全員が息を呑んだ。
どうやら、今世紀最強の魔法使いと囃し立てられて居たダンブルドアの魔法を無効化した為、この様な反応なのだろう。
「何てことじゃ…まったく…予想外じゃ…一体どんな手段を…」
「対象をハッキング、我々が選ばれる様に変更しました」
「ん? よく分からぬ言葉を使うでない」
「ゴブレットをハッキング――分かり易く言えば私達が選ばれる様に操りました」
「そんな…何という事を…ハリー…お主はどの様な手段を?」
「僕はやっていません! 信じてください!」
「我々がハッキングをした際には既にハリーの参戦が決定していました。しかし、4人目として登録されていました。恐らく何者かが我々と同様に外部から何らかの影響を与えた物と思われます」
「外部からじゃと? ゴブレットを操るには一流の魔法使いでもない限り不可能じゃ!」
「つまり、ポッターには外部の協力者がいるという事ですな」
「違う!」
スネイプが嫌味を口にすると、ハリーが否定するように叫ぶ。
「しかし、ポッターにゴブレットを操る事など不可能でしょう」
「左様じゃ、生徒に操れるような代物ではない」
「しかし校長、現に彼女達はゴブレットを操ったと言って居ります」
「由々しき事じゃ…優秀すぎるが故にな…」
ダンブルドアはこちらを睨み付けている。
「一体何が目的じゃ…何の為に参加を…」
「優勝賞金です」
「優勝賞金じゃと? たかが1000ガリオンの為に参加したと?」
「その通りです」
「何故じゃ!」
「1000ガリオン程あれば、昨年の請求額の補填になります」
「そんな…その程度ならばワシが肩代わりしたというのに…お主達はなんと愚かなんじゃ!」
「我々は競技への参加を判断ミスだとは思いません」
「なんじゃと! 第一ワシはお主達の様な17歳未満で無謀な者を参加させぬように年齢線を引いたのじゃ!」
「その程度では不十分です」
「なんじゃと!」
「より確実に選定するならば、監督生や教員に提出後、教員による再度チェック、役員職や校長本人による最終チェック後にゴブレットに投入と言う方法があります」
「それは…そうじゃが…」
ダンブルドアは苦虫を噛み潰したように呟く。
「ヴぉういいです」
突如、クラムが声を上げた。
「相手が何人だろうとヴぉくが勝ちます」
「そのとーりですー、相手が誰だろうーとわたーしは負けませーん」
2人は自信に満ちた表情で立ち上がる。
「そうですね…相手が下級生だからと言って僕も手を抜くつもりはありません」
セドリックもその場で立ち上がり、覚悟を決めたようだ。
「皆…良いのじゃな…」
代表選手達3人が首を縦に振る。
「では、開催と行きましょうか」
バグマンは楽しそうに語った。
「では最初の課題の説明だ」
クラウチは、声を上げ説明を始めた。
「最初の課題は君達の勇気を試すものだ。どの様な内容なのかは教えるつもりは無い。教師陣に援助を頼むことも禁ずる」
教師陣は私達を睨み付けている。
どうやら、イレギュラーである私達3人は危険因子とみなされている様だ。
「未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である…非常に重要だ。最初の競技は11月24日。全生徒、審査員の前で行われる。選手は杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題の情報を与えよう。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手の期末テストを免除される。ただし、今回はイレギュラーが多すぎる。その為、ルールに若干の変更が加わるかも知れないが、その事は了承して欲しい」
説明が終わると、他校の代表選手たちは、自校の校長に連れられ退室していった。
「あの…校長先生…」
「すまぬがハリーよ…今は一人にしてくれぬか…」
「はい…」
ハリーは肩を落とし退室する。
「さぁ、お主達も早々に帰るが良い」
「失礼します」
「良い夢を」
ハリーの後に続き、私達も退室する。
「はぁ…」
一人取り残されたダンブルドアの溜息は、虚しい音を響かせた。
退室後、グリフィンドールの談話室に向かう道中にて、ハリーが思い詰めた様に口を開く。
「僕は名前を入れてないんだ。なのに選手に選ばれた。どういう事か分からない。それに君達は僕に外部の協力者がいるって言ったね」
「正確には、何者かが貴方の名前を選択させたという状況です」
「それは誰なのかわかる?」
「残念ながらそこまでは」
「そうか…」
ハリーの溜息が物静かな廊下に木霊する。
私達は肖像画を通り談話室に入ると、次の瞬間には爆音の様な拍手が談話室に木霊した。
「凄い! 凄すぎる! 君達最高だ! やるとは思っていた!」
「グリフィンドールから3人! 3人だぞ! もう最高だ!」
私達は称賛と拍手で迎えられる。
その中、ウィーズリーの双子が大声を上げた。
「全員注目だ! さて、これから代表選手に選ばれた3人にインタビューをしたいと思います!」
杖をマイクに見立て私達に感想を聞き始めた。
「まずはハリーからだ、今の気持ちはどうだい?」
「えっと…僕…何が何だか…よくわからないんだ」
「なるほど、理解が追い付かない程嬉しいと…次はエイダとデルフィ。君達だ。今の感想は?」
「別段感想は有りません」
「作戦を遂行するまでです」
「流石は言う事が違うね! とってもクールだ!」
会場のテンションが上昇する。
「さて、次の質問だ。これは多分皆が気にしている事だろうけど、どうやって立候補したんだ? 年齢線は? 俺達なんか髭を生やされた上に吹き飛ばされたんだぜ」
2人のやり取りに談話室は笑いの渦に飲まれた。
「ではまず、君達から聞こうか」
再び私達に杖が向けられる。
「大した障害ではなく、問題なく突破可能でした」
「すごいぞ!」
再び談話室から歓声が上がる。
「つまり、君達は僕等を吹き飛ばしたダンブルドアの年齢線を何の苦労も無く越えたって言うのかい? そして正々堂々ゴブレットに名前を入れたと?」
「概ねその通りです。その後、ゴブレットを操作し我々がチームとして代表選手達に選ばれる様に調整を行いました」
「ん? ちょっと待ってくれ、あまりの情報量にちょっと処理が追い付かない。君達はゴブレットを操作してチームで参加するの?」
「はい、ゴブレットを操作自体は比較的容易でした。私達が他の選手同様に争うより、共闘した方が作戦遂行率の向上が認められます」
「なんと…君達が手を組めば優勝は確実じゃないか」
「無論、そのつもりです」
最早、悲鳴に近い歓声が上がる。
「すごいな! 流石だ!」
「セドリックには悪いけど、グリフィンドールが優勝だな!」
「実際、ハッフルパフってパッとしないからな」
「まぁ、仕方ない」
生徒達は、各々がハッフルパフに対する印象を口にする
「まぁまぁ! 皆様静粛に! まだハリーだって残ってるんだ。それじゃあ聞いてみよう! ハリー、どうやって投票したんだい? 君が年齢線を突破した方法を教えてくれるかい?」
「僕は…僕は入れてないんだ」
「ん?」
ハリーの回答に談話室内が騒然とする。
「えーっと…ハリー? 俺の頭おかしくなっちゃったのかな? 今『入れてない』って言ったか?」
「僕、ゴブレットに名前を入れてないんだ」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ…それだとなんで君の名前が出て来るんだ?」
「それは…僕に言われても…」
「おいおいおい、流石にその冗談は笑えないぜ」
「本当の事を言えよ! 嘘吐き!」
「本当に入れてないんだ! 君達から説明してやってくれよ!」
「了解」
周囲の生徒達が固唾を呑んでこちらに視線を向ける。
「我々がハッキングを行った時点で既に3校の代表選手達とハリーの参戦が確定していました」
「それはつまりどういう事だい?」
「ハリーの参戦は、ゴブレットを操作可能な人間によって登録された可能性が高いという事です」
「なんだって! じゃあハリーには協力者がいるって事か! 一体誰だそいつは!」
「違うよ! 誤解を招くような事言わないでよ!」
「確定はできませんが、ハリーを競技に参戦させたい何者かによって強制的に参加させられたと考えるのが妥当です」
「本当だよ…一体誰がこんな事を…」
「どうせダンブルドアに頼んだんだろ! お前はお気に入りだからな!」
ハリーの答えに会場内は歓声から怒声に変わった。
「まぁ…ダンブルドアなら…やりかねないよな…」
「正直グリフィンドール贔屓って言うよりハリー贔屓だよな」
「数年前の逆転劇、嬉しかったけど、露骨すぎて少し引いたぞ」
「ハリーが来てから毎年優勝してるし、忖度だな」
会場から不満の声が上がり、ウィーズリーの双子が肩を竦め、状況を収拾できないでいる。
「まぁ…もうこの話は止めよう、こんな空気だ。今日はもうお開きにしようぜ」
「あぁ。そうだな」
テンションの下がった生徒達が自室へと戻る。
ハリーも自室へと戻るが、同室であるはずのロンが、ハリーを睨み付けている。
その時、グリフィンドールの談話室の扉が開かれる。
「え? マクゴナガル先生」
「「どうしたんです?」」
双子が声をそろえる。
「いえ、浮かれているかと思い見回りに来たのですが、どうやらそう言う訳ではなさそうですね」
「まぁ、いろいろありましたから…」
「そうですか。消灯時間は間もなくですよ」
「わかってますって」
マクゴナガルが扉を閉めた。
今回の被害者はハリーですね。
ダンブルドアの事は知らん。