2人は誰と踊るのでしょうか。
第一競技終了後、数日が経つと、代表選手であっても普通に授業が行われる。
今日はマクゴナガルの変身術の授業だった。
普段通りに授業が終わる頃、マクゴナガルが咳払いをした後、口を開いた。
「さて、皆さんにお話があります」
表情には出ていないが、若干の緊張状態にある。
「クリスマスパーティーが近付いてきました。三大魔法学校対抗試合の伝統で、クリスマスパーティーではダンスパーティーを行います。国外からのお客様と知り合ういい機会でしょう。ダンスパーティーは大広間で行われます。このクリスマス・ダンスパーティーでは羽目を外したくなるかもしれませんが、ホグワーツの生徒としての気品を損なわない様に、心がけてくださいね」
『なるほど、だからパーティードレスが必要だったのね』
『ダンスパーティーねぇ…』
「ダンスなんて僕踊った事ないよ」
「ロン、僕もだよ」
ハリー達は顔を歪めている。
マクゴナガルの説明も終わり、教室の生徒達は退室していく。
私達も荷物をまとめ、退室しようとすると、マクゴナガルが口を開いた。
「代表選手の3人は残りなさい。お話があります」
「話? なんだろう?」
「代表選手についてです。他の生徒が出て行くまで少し待ちなさい」
数分後、他の生徒が退室する。
「さて、先程クリスマスパーティーでダンスパーティーが行われるとお話ししましたね」
「そうですが…それが…」
「代表選手とそのパートナーはダンスパーティーの最初に踊ります。これは古くからの伝統です。学校の代表として踊るのですから、それ相応の相手を見つけるようにしてくださいね。」
「え? パートナー? 一番最初に?」
ハリーが間の抜けた疑問の声を上げる。
「その通りです」
「本当に踊らなきゃダメ?」
「ダメです。例外はありません」
「そんなぁ…」
ハリーは項垂れると溜息を吐く。
「パートナーって…一体どうすれば…」
「良いですね。良いダンスを期待していますよ」
言い終えた後、マクゴナガルは足早に退室していった。
「パートナー…かぁ…」
ハリーはゆっくりと顔を上げると、こちらを見据える。
「なにか?」
「いや、君達パートナーとかって…」
「別段候補は居ません」
「そうなんだ…よかったら僕と――」
「「お断りします」」
私達は同時に答える。
「そ…そうかぁ…」
ハリーは引き攣った笑顔を浮かべる。
「どうしよう…最悪ロンとでも…いや…でもそれは…ちょっと…」
ハリーは頭を抱えながら、退室していった。
クリスマスパーティーが刻一刻と近付いて来る。
それにつれて、生徒達は色めき立ち、パートナー探しに躍起になっている。
「皆凄い必死ね」
談話室のソファーに腰かけたハーマイオニーはタブレット端末を操作しながら呟く。
『見てみな、あの男子生徒は玉砕したみたいだよ』
『あぁ、ネビルね。ちょっとかわいそうだわ』
ネビルは溜息を吐いた後、項垂れて暖炉の前に座り込む。
「ネビル…元気出せよ」
「ハリー…ロン…」
ハリーとロンの二人はネビルの横に座り慰めている。
『いやぁ惨めだねぇ』
『5人以上に断られたみたいよ』
『そりゃ可哀想に…君が踊ってやったらどうだ?』
『この前誘われて丁重にお断りしたわ』
『そういえばそうだったね。そう言えばこの前別の誰かの誘いを受けていたね』
『まぁね』
『そいつと踊るのかい?』
『今の所はね』
『そうかい』
「やぁ、ハーマイオニー」
ロンがハーマイオニーの前に立つ。
「あら? ロン。どうしたの?」
「いやぁ、別に用って訳では無いんだけど…」
「そう。私課題で忙しいのよ」
「そう言うなよ。聞いたぜネビルの誘いを断ったって? 本当はパートナーなんていないくせに強がっちゃって。何なら僕が」
「結構よ。もう踊る相手は決まってるわ」
「え? うそ?」
ロンは目を白黒させている。
「本当よ」
「誰だよ?」
「秘密。当日になったら分かるわ」
ロンは面食らったようで数秒程沈黙する。
「わかった! きっとパートナーが居ないのが恥ずかしくて嘘を言ってるんだな!」
「え? なんでそんな事しなきゃいけないのよ」
「いいさいいさ! 別に強がるなよ。まぁ良いようん。当日になって泣き付いて来ても知らないからな!」
捨て台詞を吐き、ロンはネビル同様に暖炉の前に座り込む。
「ダンスパーティーがなんだ! なんで踊らなきゃいけないんだ!」
「そうさ! パートナーがなんだっていうんだ!」
ネビルとロンの二人は互いに声を上げている。
『もう、一体何なの?』
『さぁ?』
『そう言えば、2人はもうパートナーは見つかったの?』
『まだです』
『え? だってクリスマスパーティーまで、後数日しかないのよ?』
『問題ありません。手段はあります』
『一体どうするのよ』
ハーマイオニーは疑問を浮かべ、不穏な表情をする。
数日が経ち、クリスマスパーティー当日。
本日は、メインイベントであるダンスパーティーがある為、多くの生徒がパーティードレスを着込んでいる。
私は水色を基調とした、フリルの付いたドレスを身に纏っている。
「お待たせいたしました」
声の方に視線を向けると、そこには白のシャツ、赤黒いタキシードに身を包み、髪をオールバックにまとめ男装したデルフィの姿があった。
その右手には、収納状態のウアスロッドがまるでステッキの様に握られていた。
「時間どおりです」
「では行きましょう」
私達は会場へと同時に足を運ぶ。
会場に入ると、多くの生徒が驚愕したような表情をする。
どうやら、皆パートナーは異性であるのが原因なようだ。
「代表選手はこちらに集合しなさい!」
ホールにマクゴナガルの声が響く。
人混みを掻き分け、マクゴナガルの元に集まる。
マクゴナガルはエメラルド色のドレスを着込み、普段とは違い、ナチュラルメイクを施し、年相応の気品を醸し出している。
他の代表選手とそのパートナーに目をやる。
デラクールのパートナーはロジャー・デイビースというレイブンクロー生だ。
クラムのパートナーとしてハーマイオニーの姿を確認する。
「あれ? エイダと…え? デルフィ? 二人は…え? 二人で踊るの?」
「はい、その通りです」
「そうなの。デルフィは男装なのね。似合っているわよ」
「ありがとうございます」
「そちらもお似合いですよ」
「ふふっ、ありがとう」
笑みを浮かべているハーマイオニーは荒れ放題だった頭髪を整え、少し派手目のメイクを施し、薄いピンクのドレスに身を包んでいる。
『僕がコーディネートしたんだ。完璧さ』
『え? トム? 部屋に置いてきたはずなのに…』
『ナノマシンを介しているのさ。この城全体なら通信の範囲内だ』
『そうなの。まぁ良いセンスだわ』
「うわぁ…本当に君…ハーマイオニー?」
後ろでは、ハリーが信じられないと言った表情でハーマイオニーを見つめている。
「そうよ。なんか変かしら?」
「いや…そのぉ…いつもと結構違って居て…」
「失礼しちゃうわね」
「ご、ごめん」
「静粛に! 今から入場していただきます。それぞれ組になって、私に付いてきなさい」
「作戦開始です」
パーティーマナーである様に、私達は互いの手を取り、整列する。
ハリー達も見様見真似で、同様に手を取る。
「準備は良いようですね」
マクゴナガルはそれを見届けると、ダンスホールと化した大広間の入り口の扉を開ける。
その瞬間、盛大な拍手が私達を迎え入れる。
マクゴナガルの後に続き、貴賓席の前へ歩いてく。
貴賓席には、審査員の面々が座っており、私達は空いている席へと腰かけた。
テーブルの上には金色の皿だけが置かれている。
「これは?」
私の隣に座っているハーマイオニーが首を傾げる。
『これは、ダンスパーティーの前に食事会があるようだね』
『でも何も乗って無いわよ? これから来るのかしら?』
『食べたいものを言えばいいのさ。すれば屋敷しもべ妖精が皿の上に料理を運ぶよ。バレない様にね』
『そうだったの』
「じゃあ、コーンスープ」
ハーマイオニーがそう言うと、皿の上にコーンスープが入ったスープ皿が現れる。
『凄いわね』
多くの生徒が悩みながらも、皆思い思いの料理を楽しんでいた。
食事の時間を楽しんだ後、ついにダンスの時間がやって来た。
私達は席を立つと、ダンスホールの中心へと互いに手を取りながら進んでいく。
「緊張するわ」
【緊張しているのかい? 大丈夫。僕がエスコートするよ】
【あ、ありがとう…】
ハーマイオニーはクラムに手を引かれながら、中央へと移動する。
「準備は良いですね」
マクゴナガルが杖を片手に、周囲を見渡す。
「それでは、ミュージックスタート」
杖を軽く振ると、スローテンポなワルツが流れる。
私達は、音程に合わせ、形式通りのステップを踏んでいく。
【あっ! ご、ごめんなさい!】
【大丈夫。君は軽いから気にする事は無いよ】
ハーマイオニーの方を見ると、どうやらステップの最中にクラムの足を踏んでしまったようで踊りが止まっている。
ハリー達のペアも何度か足を踏むアクシデントに見舞われている様だ。
結局1曲が終わるまでに、ハリーは3回、ハーマイオニーは5回以上相手の足を踏んでいた。
12時が過ぎダンスパーティー終了後、私達が自室に戻ると、ハーマイオニーはベッドに腰かけ溜息を吐いていた。
「はぁ…」
「どうしたんだい? 溜息なんて吐いて」
タブレット端末のスピーカー越しにトムの声が響く。
「上手く踊れなくてね。相手の足を何度も踏んじゃったのよ」
「それはそれは、相手も気の毒に」
「はぁ…終わった後も、少し気不味かったわ…もうダンスなんて踊りたくないわ」
「練習しようとは思わないのか?」
「もう踊る事なんて無いと思うわ。それにもう足を踏むのはこりごりよ」
手早くドレスを脱ぎ、普段着へと着替えたハーマイオニーは再びベッドに腰かける。
「もう一種の恐怖症みたいな感じだわ。ダンス恐怖症かしら?」
「そんなにかい?」
「えぇ、足を踏む度、相手が嫌そうな顔するんだもん」
「へぇ、つまりは足を踏まなければ良いだけじゃないか」
「簡単に言ってくれるわね」
再びハーマイオニーは溜息を吐く。
「だったら」
次の瞬間、トムがホログラム化しハーマイオニーの前に現れる。
「ん? どうしたのよ」
ホログラム化したトムはハーマイオニーの前に手を差し出す
「僕が踊ってあげよう」
「え?」
「僕はホログラムだ。足を踏む心配も無いだろうし、踏まれる心配も無いさ」
「へぇ…」
ハーマイオニーはトムの手を握ろうとするが、ホログラムなので触れる事は無い。
「触っているように演技するのさ」
「パントマイムをやれと?」
「ご名答」
ハーマイオニーは立ち上がると、トムの手の上に自らの手を重ねる。
「12時を回っちゃったわ。生憎と魔法は解けてドレスはもう無いのよ。いつも通りの女の子よ」
「灰被り姫の話しかい?」
「そうよ。まぁ、ホグワーツみたいに不思議なお城なら美女と野獣の方が合うかしらね。燭台とか動きそうだし」
「なら君プリンセス役か? 少し無理があるんじゃないか?」
「失礼しちゃうわ。ベル役をやろうと思えば出来るわよ」
「これはこれは失礼したね。それにしても詳しいね。童話が好きなのかい?」
「本が好きでよく読んでいたのよ。夢があってハッピーエンドで良いじゃない」
「実際は暗いオチってのが多いんだよ」
「そうなのね。でも私はハッピーエンドの方が好きね」
「そうかい」
「そうよ」
タブレット端末から、ダンスパーティーで流れたのと同様の曲が流れる。
「まずはステップだ。ワルツのリズムに合わせて」
2人は緩やかに、ワルツを刻む。
「ワン・ツー・スリー・ワン・ツー・スリー。上手いじゃないか」
「相手を気にしないで良いのは楽ね」
「そうかい、ちなみに今、僕の足踏んでるよ」
「そう。別にいいじゃない。痛みなんて無いんでしょ」
「まぁね」
その後、ハーマイオニーは行き詰まる事無く、ダンスを踊り切った。
「お見事です」
デルフィが拍手をしながら、ベッドルームへと移動する。
「え? ちょっと!」
「君達…何時からいたんだ?」
「最初からです」
「反応は無かったんだけどな」
「お邪魔になると判断し、ステルスモードで待機していました」
「そうかい」
トムは不機嫌そうに、ホログラム化を解除する。
「ダンスの総合評価ですが、ダンスパーティー時よりは高評価です。ですが、ハーマイオニーは3回、トムは6回足を踏んでいました」
「数えていたの?」
「えぇ」
「もう…居るなら居るって言ってくれればいいのに…」
「以後気を付けます」
メンタルコンデションレベルの高いハーマイオニーはベッドへ潜り込んだ。
「そう言えば、もうじき第2試合だけど、準備は出来てるの?」
「準備以前に、あの歌では水中での作戦と猶予時間が30分と言う事以外明確な事実は有りません」
「水中に30分も居るのよ。色々な魔法を重ね掛けしないとダメだわ」
「一般人が水中で行動するなら具体的には、防寒呪文、防水魔法。あと泡頭呪文辺りかな」
「全部難しい呪文だわ。私達の年齢じゃ使いこなせる人なんてあまり居ないわ」
「問題ありません」
「マスターしてるのね。流石だわ」
「いいえ」
「不必要です」
「え? じゃあどうするのよ」
「水中での作戦行動は可能です」
「なんか…もうよく分からないわ」
「だから言っただろ。一般人ならって。彼女達を一般人扱いしちゃダメさ」
「はぁ…なんか妙に納得してしまうわ」
ハーマイオニーは呆れた様に布団を被ると、数分後には寝息を立て始めた。
一体誰が、トム・リドルとハーマイオニーを躍らせようとトチ狂ったことを考えたでしょう…