私事ですが、最近蜂蜜酒にハマってしまいました。
おかげで悪酔いが…
第2試合当日。
時刻は4時を回った頃に私達の部屋の扉が開かれる。
私とデルフィはビームガンとウアスロッドを構え、布団を捲る。
「ひっ!」
扉を開けたのはマクゴナガルだった。
こちらが武器を構えていた為か、小さな悲鳴を上げ、数歩後退る。
「ご用件は?」
「起床時間はまだ先の筈です」
「いえ、少しミス・グレンジャーに用事がありまして…それより杖を下ろしなさい」
私達の武装を解除すると、マクゴナガルは落ち着きを取り戻した。
「起床時間後でも良いのでは?」
「三大魔法学校対抗試合に関する要件ですので…」
「彼女は代表選手では有りません」
「ですが、彼女にも役割が――」
「ん…え? マクゴナガル先生? こんな朝早くにどうしたんです?」
「えっと…少し用事がありまして」
マクゴナガルは苦虫を噛み潰したような表情をする。
「はぁ…仕方ありません。説明しましょう」
マクゴナガルは近くにあった椅子を杖で引き寄せるとそこに腰かける。
「さて…ミス・グレンジャー」
「はい…」
「本日は第2試合が行われるのはご存知ですね」
「知ってます」
「そこで、貴女にも少しお手伝いをして欲しいんです」
「え? 私ですか?」
「そうです」
「えっと…何をすればいいんですか?」
「難しい事では有りません。一緒に来ていただければ大丈夫です」
「えっと…」
ハーマイオニーはこちらを不安そうに見つめる。
「私達が同行する事は可能ですか?」
「残念ですが貴女達は代表選手なので、それはできません」
デルフィの質問に対し、マクゴナガルはしっかりと断る。
「わかりました。準備だけしたら行きます」
「扉の前で待ってますよ」
マクゴナガルはそう言うと、退室した。
「それにしても、一体何をするのかしら?」
『客観的に考えて、君が第2試合の人質って訳だ』
「人質?」
『猶予は30分。われらが捕らえし、大切なもの。これから考えるに、きっとそうだろうね』
「はぁ…なんか不安だわ」
ハーマイオニーは不安そうに溜息を吐くと、着替え始める。
「メンタルコンデションレベル低下。不安を感じているようですね」
「まぁね。水中に30分以上居るのよ、不安にもなるわ」
『いくらダンブルドアとは言え水中に生徒を送り込むんだ。それなりの対策はしている筈さ』
「だと良いけど…」
依然としてハーマイオニーは不安そうな表情を浮かべている。
私はベクタートラップ内で手の平サイズの水中呼吸装置を製作する。
「こちらをお渡しします」
「これは?」
「水中での呼吸を可能とする装置です。口に咥えて通常通りに口呼吸を行ってください」
「凄いわね。でもダンブルドア先生とかが泡頭呪文を掛けてくれるはずよ」
『だから心配なのさ。もし途中で呪文が解けたら溺死するね』
「あ…そうよね…使わせてもらうわ」
「水中の溶存酸素をメタトロンで圧縮し空気中と変わらない酸素濃度に変更しています。12時間以上の連続使用が可能です」
「なんか…凄いわ。魔法? なのよね?」
「メタトロン技術です」
「メタトロン…よく聞くけど詳しく知らないわ」
「ご希望とあれば、詳しくお話ししますが」
『やめておいた方が良い。僕ですら理解していないんだ』
「そ…そうなの…ま…まぁ、また機会があったらお願いするわ」
「了解です」
ハーマイオニーは水中呼吸装置をポケットへと仕舞い込む。
「じゃあ、行ってくるわね。必ず助けに来てよ」
「お任せください」
「ご安心を」
タブレット端末を自室に残したハーマイオニーは手を振りながら扉を開けると、マクゴナガルと共に移動を開始した。
第2試合開始30分前。
代表選手達はホグワーツから多少離れた所に有る、湖へと集められた。
しかし、その中にハリーの姿はなかった。
湖には、大きな観客席が設けられており、すでに観客で超満員だ。
数十分後、代表選手の前にバグマンが現れた。
「やぁ! やぁ! みんな集まっておるかね? おや、ハリーの姿が見えないな」
バグマンは不思議そうに周囲を見回している。
開催の時間までは後、15分を切った所だ。
他の代表選手に視線を移すと、クラムとセドリックは競泳用のパンツ1の状態で準備体操をしている。デラクールは凍えながらローブを羽織っているが、その下はレオタード状の競泳水着を着込んでいる。
そんな中、我々は第1試合同様に、フレームランナーが装着するパイロットスーツを模した服装をしている。
先程からデラクールを始め、多くの人々が私達に視線を送っている。
【まさか、その恰好で泳ぐつもりじゃないわよね】
【その通りです】
【水着とか無かったの?】
【不必要でしたので】
【そう…】
その時、ハリーが息を切らせながら階段を駆け上がって来た。
その恰好は普段の制服を着込んでいる。水着は来ていないようだが、大丈夫だろうか?
「ハァ…ハァ……ハァ…到着しました」
ハリーは制限時間寸前での到着だが、これで全員が集合した。
『さて! これで全員が揃いました! 第2課題の内容は至ってシンプル! 制限時間以内に大切なモノを取り返すことです! どれだけ鮮やかに! どれだけ手早くが勝負の分かれ目になりそうです!』
大声で、喧しい解説も終わった所で、私達はバグマンの指示で飛び込み台の様な所へ移動させられる。
水面は綺麗に澄んでいるがそこまでは光が届いていない様で、仄暗かった。
「それでは私のホイッスルを合図にスタートだ! と言いたい所だが、少しルール変更だ」
「なんだって?」
セドリックが飛び込み姿勢のまま、疑問の声を上げる。
「まぁ、このルールはイレギュラー中のイレギュラーであるイーグリット姉妹限定だ。あー…後クラムにも少し負担が掛かるかも知れないな」
「ヴぇ?」
クラムも顔を上げ、バグマンを見据える。
「まぁいい。変更点の説明だ。制限時間は1時間だが、イーグリット姉妹だけ30分だ。つまり、他の選手がスタートしてから君達は30分後にスタートという事だ」
バグマンはこちらを見据えている。
「それと、イーグリット姉妹の大切なモノとクラムの大切なモノが被ってしまってね。つまり、どちらが先に救い出すかという事だ」
【おいおい、どうなっているんだよ】
【詳細は不明ですが、貴方と我々。どちらかが先に目標を回収するという事です】
「無論、クラムに負担が掛かるのは承知している。そこで、クラムには無条件で全員から5点を現時点で追加しよう。イーグリット姉妹より先に救い出せば、追加で得点を与える」
【つまり、僕にとってはボーナスチャンスって事だ】
【我々が勝利した場合でも、無条件で得点が入るので安心してください】
【残念だけど、30分あれば十分だ】
クラムはバグマンに向かい大きく頷く
「よし! じゃあ行くぞ! 1…2…3!」
けたたましいホイッスルの音が周囲に響くと同時に、代表選手が一斉に湖に飛び込む為に、自らに魔法をかけるなど準備を始めた。
ハリーは急いで履いていたズボンを脱ぎ下着になると、植物を口に含み、飛び込んだ。
全員が飛び込んだ後、審査員の上に魔法でタイマーが表示される。
「さて、君達は30分後だ。その間は準備するのも禁止だ。じゃあ健闘を祈るよ」
バグマンはそう言い残すと、その場を後にした。
30分が経過する。
「さて、じゃあ競技開始だ」
「了解」
「ミッションを開始します」
私達はそのまま水中へと飛び込む。
水中は光源が全くなく暗闇と化している。
しかし、宇宙空間の暗黒と比べれば然したる問題でもない。
水底に着底後バーニアを起動する。
オービタルフレームのバーニアならば、水中での減衰などを受ける事無く、通常通りの行動が可能になる。
周囲をソナーとレーダーを使用し索敵すると、一か所に生体反応が集中しているのを確認する。
『恐らく目標地点だと思われます』
『移動を開始します』
目標地点へと接近すると、魔法独特の閃光が水中を走る。
更に接近すると、そこには代表選手が、巨大な軟体生物と格闘している姿が見て取れた。
『イカですか』
『イカですね』
巨大なイカはその触腕を伸ばし、ハリー達を捕獲しようとしている。
このままでは確実に捕縛されるだろう。
「ハルバード照射」
水中をハルバードの青白いエネルギー光が走り、巨大なイカの触腕を焼き切る。
オービタルフレームの出力ならば、水中での威力減衰等は殆ど無い。
触手を焼き切られ、巨大なイカは低い咆哮を上げ苦しんでいる。
「攻撃を継続します」
私はバーニアの出力を上げ、巨大なイカに急接近すると、残りの触腕を全て根元をブレードで一閃し切り離す。
「止めです」
デルフィは巨大なイカの正面に移動すると急所である胴体にウアスロッドを突き立てる。
ウアスロッドが深々と刺さると、神経系にダメージを与えたのか、数回変色を繰り返した後、白色へと変化すると、水底へと沈んでいった。
「排除完了です」
周囲を見渡すと、代表選手全員がこちらに視線を向けている。
「お怪我は有りませんか?」
デルフィの質問に対し、泡頭呪文により呼吸を確保しているハリー以外の面々は頷いている。
「助かったよ」
ハリーは水中であるにも拘わらず言葉を発している。
その体には、人間には付いていない、鰓や水掻きなどが付いていた。
「鰓昆布を食べたんだ。味は最悪だったね」
「そうでしたか」
「それより、君達はどうやってるの?」
「別段なにも」
「まぁ、そう言うと思ったよ」
その時、レーダーとソナーに急速で接近する複数の反応を検知する。
「高速で接近する複数の反応を検知しました」
「え?」
「3秒後には目視で捉えます」
「えぇ!」
轟音と共に、視界を黒く塗りつぶす程の渦が迫り来る。
「え! あれは一体なんだよ!」
『アイツは水魔だね』
トムからの通信が入る。
『特徴は?』
『数で攻めて来る奴等だからね。単体での強さは無い筈だ』
『了解』
私とデルフィは迫り来る水魔を目標に捉える。
「ロック完了」
「攻撃を開始します」
私達の手からレーザーランスとハウンドスピアが掃射される。
それにより、迫り来る水魔の群れの第1派を消滅させる。
しかし、レーダーにはさらに複数の敵影を検知する。
「敵影さらに増大」
「ど、どうすれば!」
「迎撃しながら目的地まで先導します。付いて来てください」
私はフローティングマインを取り出すと、デルフィが水魔の群れに投げ込む。
次の瞬間、水中であるにも拘わらず、大規模な爆発が起こり、水魔の群れを焼き払う。
「今です。移動を開始」
私達は低速で移動する。
「待ってくれよ! 早すぎるって!」
ハリーを始めとした代表選手達は、水中を移動し始める。
15分後、水魔を迎撃しつつ、目的に到達する。
「はぁ…はぁ…結構時間かかっちゃった」
「作戦終了時刻まであと5分ほど有ります」
「急がなきゃ」
目標地点には、藻に覆われた石の住居が存在し、その中心に巨大な藻の塊のようなものが存在しており、右からデラクールの妹らしき少女、ハーマイオニー、そしてロンが昏睡状態で磔にされていた。
全員に泡頭呪文が掛けられている様だが、泡の残量が少ない。
「時間が無い。急いで引き剥がそう」
ハリーがそう言うと、全員自分の救助対象者へと駆け寄る。
私達もハーマイオニーに接近すると、クラムが杖を片手に藻を引き剥がそうとしている。
私達も加勢し、右手を覆う藻を引きはがす。
その時、眼前でハーマイオニーの泡頭がはじけ飛ぶ。
「え?」
隣に居たクラムの泡頭もはじけ飛び、次の瞬間には苦しみだす。
「どうなっているんだよ!」
泡頭呪文を使用していないハリーは周囲を見回し混乱している。
『どうやら、泡頭呪文が強制的に解除されたみたいだね』
『犯人の特定は?』
『残念だが』
『そうですか』
『んぐっ! 苦しい! 助けて!』
ハーマイオニーが意識を取り戻したのか、救援を求めている。
『呼吸器を使用してください』
ハーマイオニーは自由になった右手で呼吸器を取り出すと、口に咥える。
『はぁ…助かったわ。他の人達は』
『泡頭呪文が解除されたんだ。そう長くは無いね』
トムは非常に落ち着いた状態でハーマイオニーに告げる。
『そんな! 何とかならないの!』
「ねぇ! このままじゃ皆死んじゃう! 何か手は無いの!」
ハリーも私達に駆け寄り、声を荒らげる。
状況を判断し、私達は最善の行動に移る。
「全員の体を藻に絡めて固定してください」
「え?」
「湖の水を全てベクタートラップ内に収納します。急いでください時間が有りません」
「あっ! あぁ! 分かった!」
ハリーは気を失った代表選手達の体を藻に絡めるとしっかりと固定する。
「大丈夫だ!」
『泡頭呪文が解除されてから1分が経過。そろそろヤバいかな?』
『問題ありません』
「「ベクタートラップ起動」」
私達は、ベクタートラップを最大出力で展開する。
すると、湖の中心に水流が発生する。
「うぉ!」
ハリーは必死に藻にしがみつく。
周囲に居た水中人も、地面に槍状の武器を突き刺し、体を固定し水流に耐える。
10秒後、湖の水が全てベクタートラップに収納され、全員呼吸可能な状態になる。
「ぷはぁ! はぁ…はぁ…」
「救助を開始します」
排水後、救助対象者と代表選手達が固定されている部分を切断後、陸上へと移動する。
「何事じゃ!」
上陸すると、ダンブルドアを始めとする審査員や、医療班が駆け寄る。
「アクシデントにより救助対象者及び代表選手達の泡頭呪文が解除されました」
「なんじゃと!」
ダンブルドアは怒号を上げる。
「水は飲んでいるようですが、即座に処置を行えば蘇生は十分可能です。お急ぎください」
「早くせぬか!」
ダンブルドアに急かされる様に、救護班が魔法による治療を行う。
その結果、全員の無事が確認された。
「湖が無くなってしまったのぉ…」
『ホグワーツ湖の水全部抜くって感じだね。埋蔵金でもあればいいんだが』
『洒落にならないわ』
『助かったからいいじゃないか』
『私はまだいいわ。他の人達が可哀想だわ』
ハーマイオニーは空になった湖を見つめている。
「「ベクタートラップ解除」」
私達はベクタートラップを解除すると、空中から大量の水が空になった湖に降り注ぐ。
「なんじゃと!」
数秒後には排水も完了し、元と同じ水位にまで復元される。
「なにを…したのじゃ…」
「全員を救助する為に、一度湖の水を排水。その後復元したまでです」
「一体…どの様に…」
「おい! ダンブルドア!」
バグマンがダンブルドアに駆け寄る。
「今回のこれはどういう事だ!」
「ワシにも分からん…恐らくじゃが何者かによって代表選手達の魔法が解除されたようじゃ」
「分からんだと! 全員溺れ死ぬところだったんだぞ!」
「それは重々承知じゃ。このような事誰が想定できるという」
「そ…それは…」
「して、今回の結果を見て、得点はどの様に付ける?」
「そうだな…」
バグマンとダンブルドアはこちらを一瞥する。
「状況が状況だ。下手に点数は付けられないだろう」
「その通りじゃ。そこで提案なんじゃが、全員に等しく満点というのはどうじゃ?」
「全員にだと?」
「そうじゃ」
ダンブルドアはゆっくりと頷く。
「だが、クラムはどうする? 彼は既に加点済みだぞ?」
「加点を取り消し、全員同一の点数を与えるのじゃよ」
「これでは第2試合が無意味じゃないか」
「イレギュラーな事じゃ。仕方ない」
「発表は全員が目を覚ましてからにするか」
「そうじゃな」
ダンブルドアとバグマンは互いに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
年内にゴブレット編は終わらせたいと思うのですが。
少し難しいかもしれません。