銀行を出た私達は、周囲の人混みを掻き分けながら進む。
「次はどこへ行きますか?」
「そうですねぇ…」
デルフィの問いかけに、若干考えを巡らせたマクゴナガルは、一角にある古風な外見の店を指差した。
「杖を買いましょう。杖は魔法使いとって、最も重要なものです。人生を左右すると言っても過言ではないでしょう。今から行く店は、古くから多くの魔法使いに杖を授けてきた店です」
「なるほど…」
「そう言う事でしたら、行きましょう」
私達はマクゴナガルの後に続き、古風な外観の店に入って行く。
店の中はお世辞にも衛生的とは言えず、埃などのハウスダストで充満しており、壁には所狭しと、細長い箱が並べられている。
その全ての箱の中から、若干ながら、微弱なメタトロンと酷似した反応を検知した。
マクゴナガルは店内を迷うことなく進むと、カウンターに置いてあるベルスターを数回鳴らす。
「はーい。今行きますよ」
店の奥から、初老の男性と思われる声が響くと、予想通り、初老の男性が、埃まみれでとぼとぼと歩いて来た。
「おや、これは珍しい。マクゴナガル先生では有りませんか。本日はどのようなご用件で?」
「この子達の杖を選んで欲しいのですが」
「かしこまりました。では、杖について説明するので、奥の方へ」
初老の男性に勧められるがまま、私達は店の奥へと移動しようとすると、マクゴナガルが声を上げた。
「私は教科書の方を買ってきます。少し席を外しますが、終わる頃には戻れるので店前で待っていてください」
「了解」
マクゴナガルはその場で一礼すると、店を後にした。
「さて、では説明を続けましょう。杖と言っても形は様々で、一人ひとりにあった物が必要です。そして、それらは杖の芯に使われる素材によって異なります」
店主はそう言うと、1本の杖を取り出した。
「こちらは、柳の枝に、蝙蝠の骨。25㎝。非常に汎用性が優れています。杖腕はどちらで?」
「杖腕とは?」
デルフィは杖を見ながら、首をかしげる。
「利き腕の様な物です」
「ではどちらでも」
そう言うと、デルフィは両手を店主に差し出す。
「では、一般的な右腕で」
デルフィは右手で棒切れを受け取ると、軽く握り、指先で遊ばせている。
その杖からは、微弱ながらエネルギーの反応を感じる。
「軽く振ってみてください」
無表情のデルフィが手にして棒切れを軽く振る。
しかし、何も起こる事は無く、エネルギーの波長にもブレを感じない。
「おかしいですね…魔力を籠める様にしてみてください」
「魔力を籠める?」
「杖に自分の魔力を流すイメージです。難しいかもしれませんがやってみてください」
棒切れを少し見詰めたデルフィは小さな声で呟く。
「メインパス確保、エネルギーライン直結。エネルギー注入開始」
すると、デルフィの右手に握られている棒切れに赤いエネルギーラインが走る。
「これは…」
店主が棒切れを覗き込もうとした瞬間、デルフィの右手が光を増した。
「うわぁ!」
店主が悲鳴を上げると同時にデルフィのエネルギーに耐えられなかったのか、棒切れが爆発した。
「杖が…爆発するなんて…」
「エネルギーを過剰に注入した事による爆発と推測されます」
「ですが、エネルギー注入率は2%にも達していませんでした」
「ならば、耐久性に難があると思われます」
手元に残った持ち手の部分を詰まらなそうに、棚に戻すと、デルフィは溜息を吐いている。
「す…すぐに別の杖をご用意します!」
その後店主は店の奥からかなりの数の箱を持ち出すと、私達に次々と試すように要求した。
しかし、それら全て杖は私達が求めているほどの耐久力は無く、炭に変わった。
「はぁ…はぁ…これ以上となると…当店ではもう…」
店主は疲れた様に、椅子に腰を落とした。
「もう結構です。基本構造は理解しました」
そう言うと、デルフィはベクタートラップ内からウアスロッドを取り出すと、右手に構える。
「改造を開始します」
デルフィの体から、エネルギーが放出されると、ウアスロッドに力が集約する。
「外装剥離、主要原料をメタトロンに変更。形状再構築」
30秒ほどで、エネルギーの放出が止まり、デルフィが手にしていたウアスロッドに赤いエネルギーラインが走る。
「これで問題ないでしょう。ウアスロッドに杖の機能を付与させました。基本性能は杖と同様です」
「お見事です」
「複製したデバイスドライバを譲歩しますか?」
「頼みます」
私は、デルフィから杖のデバイスドライバを受け取ると、早速構築に移る。
「主軸にメタトロンを使用。外装は
エネルギーを右手に集中させることで杖型のデバイスが姿を現す。
直径は2㎝で長さは32㎝。蒼白い表面に緑色のエネルギーラインが走っている。
私は出来上がった杖にエネルギーを送り込むと、エネルギーラインが激しく光りだす。
しかし、エネルギーの流れは安定している。予想通りだ。
「問題はないようです」
「まさか…杖を自作なさるとは…貴女方は一体…」
店主は目を白黒させながら、こちらを見ている。
「とても参考になりました」
「それでは、我々はこれで」
私達は、テーブルの上に2枚の金貨を置くと、何か言いたそうな店主を尻目に、店を出た。
店を出て数歩進むと、こちらに気が付いたのか、マクゴナガルが歩み寄ってくる。
「お疲れ様です。いい杖は見つかりましたか?」
「問題はありません」
「それは良かったです。できればどのような杖なのか、見せていただけませんか?」
私達は、同時にベクタートラップを発動させ、内部から杖型のデバイスを取り出す。
「何度見てもその光景は見慣れませんね…それにかなり独特な杖の様ですが…」
「我々に見合うのが無かったので、既存のデバイスドライバを改造しました」
「私は作成しました」
「え? 改造? 作成? 杖をですか?」
「はい。おかげで良い物が手に入りました」
唖然とした表情のマクゴナガルを尻目に、私とデルフィは取り出した杖を再びベクタートラップ内に収納する。
「ま…まぁ良いでしょう…必要な物は殆ど揃いました。教科書類はこちらで購入しておきましたので、後日、家に届くはずです。代金は後日請求します」
「お心遣い感謝します」
「それが仕事ですから。後は制服だけですね。制服なら『マダム・マルキンの店』で良いでしょう。あの建物がそうです」
通りの反対側の店に私達3人は目線を向けた。
私達と同じように、制服を求めている子供が何人も出入りしている。
「あちらの店ですね」
私達は店の前までやってくると、マクゴナガルが歩みを止めた。
「どうかなさいましたか?」
「残りは採寸だけです。私は外で待っています」
「そうですか」
私達はマクゴナガルを一瞥した後扉に手を掛けようとした。
その時、扉の奥から動体反応を検知し、1歩後ずさり回避行動に入る。
「うわぁ!」
勢い良く開かれた扉の奥から現れた眼鏡の少年は、後ずさる私を見て驚いた様に声を上げた。
「危ないじゃないか!」
「お怪我は有りませんか?」
「大丈夫だけど、気を付けてくれよな!」
「そちらの不注意による過失が殆どと思われます」
私の言葉を聞くなり、その少年はさらに怒りを顕著に現した。
「うるさいな! 大体、なんなんだよ! 過失って!」
「メンタルコンデションレベルマイナス04ポイント。少し深呼吸などをして、落ち着かれてはどうですか?」
「何なんだよ!」
怒った少年は、私とデルフィの間をワザと肩をぶつける様に通り抜けると、人混みへと消えていった。
『何だったのでしょう?』
『メンタルコンデションレベルが低下していました。何か原因があったのでしょう』
私達は、簡単な通話を終えると、店の中へと入って行った。
「いらっしゃいませ。ホグワーツの制服ですね」
奥から現れた店員が、メジャーの様な物を片手にこちらに歩み寄って来た。
「えぇ、お願いします」
「では、少々失礼して…」
店員は私達に近寄ると手にしたメジャーの様な物を使い、採寸を行っていった。
「出来上がりまで、お時間を頂きます。少々お待ちください」
「了解」
私達は、近くにあったソファーに腰かけ、制服が出来上がるのを待つ事にした。
空き時間で、システムのチェックとサブウェポンの微調整でも行おうとシステムファイルにアクセスした時…
「君達、さっきは災難だったね」
私達は声がした方に目線を向けると、そこには金髪の少年がこちらを見ながら立っていた。
私は、システムチェックをバックグラウンドで行う事にした。
「いきなり、罵声を浴びせられるとはね」
「お気遣なさらずに。先程の少年は、苛立っていただけの様ですから」
私がそう言うと、金髪の少年は髪を掻き上げながら、鼻で笑った。
「何故か僕と話していただけで不機嫌になったんだ。まったく失礼な奴だ」
なるほど、原因はこの少年か。
「そうだ。ところで君達は双子かい?」
「えぇ、我々は双子です」
デルフィが答えると、少年は数回頷いた後、口を開いた。
「そうなのか。それで、君達は『純血』かい?」
「『純血』? 血統の事でしょうか?」
「まぁ、そうだね。ご両親は魔法使い?」
少年の質問に対して、デルフィが簡素に答えた。
「我々に親という存在はいません」
回答を聞いた少年は、まずい事を聞いたと思ったのか、バツの悪そうな表情をしている。
「あっ…そうか…悪い事を聞いたね」
「いえ、御構い無く」
「まぁ、君達の落ち着きを見ると、野蛮なマグルではないと思うよ。それじゃあ、ホグワーツで会おう!」
バツが悪そうに早口で言い終えると、少年は小走りで店から出て行った。
『ところで…マグルとは何でしょう?』
『こちらのデータベースには、当てはまる項目は有りません』
『後ほど、聞いてみましょう』
『それが良いですね』
通話を終了させた時、店の奥から、紙袋を持った店員がやって来た。
「お待たせしました。完成ですよ」
「感謝します」
私とデルフィは立ち上がり、代金を支払う。
「あの…試着なさらないのですか?」
「必要ありません」
「そ…そうですか」
店員の視線を感じながら、代金を払い終えた私達は扉に手を掛け、店の外へと出た。
規格外だから、杖が合わないのもしょうがないね。
作者はマルフォイ好きなため贔屓目になる模様。