グランブルーから地上へ行くのは間違っているだろうか? 作:クウト
「じゃあ神様!グランさん!行ってきます!!」
「気をつけるんだよベル君!!」
ダンジョンに向かってかけていくベル君を手を振って見送る。
あの後、みんなすぐに寝て休んだかと思えばベル君は夏休みの子供みたいに飛び出して行った。まぁステイタスも上がったし試したい気持ちもあるのだろう。さて、俺も今日は予定を終わらせよう。昨日迷惑をかけてしまった豊穣の女主人に謝りにいくつもりなのだ。
街の中を歩き見えてきた豊穣の女主人。
夜の為の仕込みなのか、今もウェイトレス達がバタバタと準備をしている。
「すいませーん」
ドスッ!
髪の毛がハラハラと舞った。
顔の横を包丁が飛んで行ったのだ。
完全に油断していたとはいえ……。
「来たね。迷惑冒険者」
「……本当に、ご迷惑をおかけしました」
「あぁ、本当に迷惑をかけてくれたもんだよ。まぁ店の損傷自体は、あのお嬢ちゃんが直してくれたみたいだけどね?」
完璧ご立腹である。
いくらカリオストロのおかげで店が直ったとはいえ、店の壁壊され騒ぎを起こされ被った迷惑は消えないのだ。
「俺にできる事なら、責任を取らせてください」
「なら、あれを片付けるんだね」
指を刺された先には山盛りのお皿。
皿洗いをしろということか。定番である。
「店自体は無事なんだ。細かいことはもういいけれどね、どうしても責任を取りたいなら、取らせてやるよ」
その後めちゃくちゃ皿洗いした。
皿洗いだけだと思ってた。そんな時期も俺にはありました。いつの間にか料理の仕込みもやらされて解放された頃。
オラリオは夕日に包まれていた。
「あぁ、この感覚は覚えがあるぞ。アウギュステの海に遊びに行った時、リーシャに秩序を乱したとか言われた時だ……」
一日中あいつの部屋に軟禁されて監視された。
俺が何を乱したというのか……。乱していたのは他の奴らだと思う。俺の心は乱されかけただけだというのに……。
「それにしても、この開放感……!自由って大事だよね!」
今の俺のこの気持ち!わかってくれる人はいるのだろうか?……あれ?俺って、ジータ以外にも結構不遇をしいられている?
「き、気のせいさ」
さて、もう日も沈みかけている。
今から誰かを呼ぶのもなぁ。たまには一人でぶらついてみるか。
「お金も帰ってきたし」
豊穣の女主人の女将であるミアさん。あの方が言うには店が無事である事、喧嘩なんてものは冒険者なら何度かはある事、これからはあの店に迷惑をかけない事などなど。色々と話しと約束をした上で昨日投げた8万ヴァリスの半額、4万ヴァリスが帰ってきたのだ。これがジータなら帰ってこない。それどころか更に迷惑料を付けられる。
「さてさて!どっかしらで食べ飲みとしようか」
流石に一日を豊穣の女主人で過ごす気はなく、適当に入った酒場で食欲を満たす事にした。
「この蜂蜜酒、結構美味しいな」
真っ赤に染まった蜂蜜酒がオススメとの事だったが、それがとても美味しくもうすでに三杯目だったりする。
お酒の味、教えてもらっててよかった。
団員の飲兵衛に連れ回されたりしたが、今はいい思い出の一つである。
それにしても、一人で静かに飲んでいるからか周りからの話し声がよく聞こえてきてしまう。今まで誰かしら一緒だったからなかなか新鮮だな。
「見たか?ダンジョンから、モンスターが運び出されてるの」
「あぁそういえばいたね。もうそんな時期か」
「怪物祭。ガネーシャファミリアもよくするぜ」
「まぁ僕たちからしたら、一日中飲む祭りだけどね!」
「「違いねぇ!」」
あいつら楽しそうだな。
てか怪物祭?なんだそれ?
「おっちゃん達、さっきの話なんだけど、聞いてもいいかな?」
俺は3人で飲んでいたおっさん冒険者達に話を聞いてみる事にした。俺の質問に一人の厳つい冒険者が答えてくれた。
「なんだ坊主?」
「怪物祭とかなんとか?言ってたろ?」
「あぁ怪物祭な。お前さん外から来たばかりか?」
お次はひょろっとした感じだが隙がない斥候タイプの冒険者が、俺は外から来たのかと質問を返してくる。
まぁ外というか上からです。
「数日前に到着したばかりなんだ。だからその怪物祭ってのも知らなくてさ」
「怪物祭は大手ファミリアの一つ、ガネーシャファミリアが主催の祭だ」
雰囲気が落ち着いた感じの冒険者がまた一つ情報を教えてくれた。
「ガネーシャファミリア?」
「君も見た事ないかい?像の頭を持つ建造物。アレが神ガネーシャ誇るファミリア。アイアム・ガネーシャだ」
「あぁ、あの股間が入り口の建物か」
「がはは!言ってやるなよ坊主!アレには所属している奴らも泣いたらしいからな!」
「そんで今日そこで、神達が宴を開いてるんだぜ?」
「「笑うしかねぇわな!!」」
おぉう……。がはは、ぎゃはは、クスクスと笑いだし俺は少し引いてしまった。
いや、まぁ、アレが本拠地とか嫌だわな。
「まぁとにかく。あと数日もすれば、街並みも祭の雰囲気に変わってくるさ。楽しみにするといいよ」
ふむ。祭か。
それはなかなか楽しみだ。ついついドラムマスターにジョブチェンジしたくなる。まぁ衣装関係全部あっちなんだけど。
「祭の内容はだな。ダンジョンから引きずって来たモンスターを調教するんだ。あのデケェ闘技場、見たことあるだろ?」
「凶暴なモンスターが、ガネーシャファミリアの団員に大人しく捩伏せられる!市民達にゃ痛快の見世物だわな」
確かにそうかもしれない。
モンスターと言えば怖いとかのマイナスイメージが強い。それを俺たち人が調教し、言う事を聞かせてしまうんだから見世物としては楽しめる。
「なんというか。モンスターに慣れさせるような祭だな」
「慣れされる?」
「いや、モンスターって、冒険者には馴染みがありすぎるけど、それ以外の人はあんまり見ないだろ?オラリオなら特に」
「なるほど。そういう見方もできるのか。外から来たからこその意見かもしれないね」
なんか考え込んでしまった。
せっかく良くしてくれていたのに、場を白けさせてしまったか?
「あぁ!小難しいことは良いんだよ!それよか坊主」
ニヤリと笑った厳つい冒険者。いや、顔が怖いわ。
「ん?金ならねぇぞ?」
「ハッ!この街に来たばかりの貧乏冒険者になんか、たかりゃしねぇよ」
「そうだぜ?オラァ!お前もこっちで飲みやがれ!!」
「君さえ良ければ、少しだけどこの街の事を教えてあげるよ。先輩としてね」
めちゃくちゃいい人達だった。
そのあとワイワイどんちゃん騒ぎで飲みあった。
彼らはベテラン風を出してはいたがデメテルファミリアという商業系ファミリアの人達らしい。なんでも女神に惚れ込んだとかなんとか顔を赤くしながら教えてくれた。……厳つい顔赤くされても困るからね?
あれから三日が過ぎ怪物祭が始まった。
ヘスティアちゃんは宴に参加してから帰って来ていないとベル君は言っていた。まぁ友達もいるだろうし仲良く遊んでいるのだろう。
街並みもすっかり祭の雰囲気に変わって多くの人達が祭を楽しむようだ。俺はベル君に怪物祭の話をして、歳上のメンツを保つ為にと五千ヴァリスと少しばかりだがお小遣いを渡した。
「え!?だ、ダメです。悪いですよ!!」
なんて言って断ろうとしてきたが。
「年に一度の祭だ。今日ぐらいは、冒険は休んで楽しんでおいで」
と無理矢理だが教会から放り出した。
「さて、せっかくだし俺も楽しまなきゃな。【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」
まだ意識を持っていかれそうになるが、そろそろ慣れてきた。状況に慣れただけで怠さは変わらないが。
「あ!グランさんじゃねぇですか!会いたかったです!」
「クムユ!俺も会いたかったぞぉ!!」
脇にガシッと手を入れて持ち上げクルクルと回る。
「ぴゃ!!な、何しやがんでぃコノヤロー!」
「あっはっはっは!!いつもより三倍ぐらい回るぞぉ!!」
「わーいです!って!こんな事してる場合じゃねぇですよ!グランさん魔力が!!」
魔力?
……かはっ!
「ぴゃあああ!!グ、ググググランさん!?しっかりしやがれです!」
「お、お兄、ちゃんは、ここまでだ。ククル姉ちゃんと、シルヴァ姉に、よろしく、な……」
「あわわわわ!!!早くこれ飲みやがれですよ!!」
口の中にエリクシールハーフの味。
そして振りかぶって勢いよく入れられた時にぶつかったのか少し血の味。
「あぁ、魔力が、漲る」
「はぁ。よかったですよ」
「そんな事よりお兄ちゃんと遊びに行こうぜ!!」
魔力が回復した俺は飛び起きてクムユを脇にガシッと抱え教会を飛び出した。
「あいさっ!」
この状況に平然と返せるあたりクムユもうちの騎空団に毒されていると再確認した瞬間だった。
目指すは怪物祭!さぁ!今日の俺はお兄ちゃん力全開だこの野郎!!!
新たなグラブルキャラが出る度に性癖暴露してるとか言われる。
けどそれをわかってしまう君達。同志だからね?