グランブルーから地上へ行くのは間違っているだろうか? 作:クウト
アイテムをちょっと多く渡し過ぎてしまったのか六十万ヴァリス程になった。ギルド員には怪しまれたが数日間ダンジョンに潜っていた事を話しなんとか見逃してもらう。
さて、ヴァリスが入った袋を手に抱えながらギルドから出る。ついてくるのは、三人か?残った二人は他に儲けてるやつがいないか探す、もしくは他の団員でも呼びに行くのかな。
スッと大通りから外れて路地に入って行く。
「さすがだな」
相手は追跡が一人になり、残り二人が素早く別れた。おそらく先回りしているのかな。
……あ、上手い事釣れてくれたから楽なのだが、口止めとかどうしようか。
「やっべぇ。これ、話回られたら厄介なパターンか?」
考えなしにも程があった。
い、今から誰か呼ぶか!?いやいやいやいや!!それは無理だろ?相手は俺のことを見張ってるわけだし!……これは、切り抜けるしかねぇ。大丈夫、いざとなれば最終手段を使うから。
「そろそろか」
目の前の路地から二人の男達が現れる。そして後ろにいた一人も距離を詰めてきた。
「よう。ちょっといいか?」
「な、なんですか?」
どうだ?
この三人の男に囲まれてビビる気弱な感じ。
結構いい所をついてるんじゃないか?
「いやぁ、さっきえらく儲けてたみたいみたいじゃねぇか」
「それを俺達に少し恵んで欲しくてなぁ。俺たちの神様である、ソーマ様に持っていかないと行けないんだ」
「とりあえずその袋置いてけよ。装備は勘弁してやるからよぉ」
ギャハギャハ笑いながらそう言ってきた。
はぁ……。どの世界にもこんな奴は現れるんだもんなぁ。リーシャ!リーシャはおらぬか!!!おらんな!知ってた!
「これは俺が自分の力で取ってきたものなので」
「知らねぇよ。いいから早くよこせ」
「怪我したくねぇだろ?」
「早くしてくんねぇかなぁ!」
後ろの一人が俺に掴みかかろうとしてくる。
拘束してそのままさらに脅すつもりなのだろう。
だがもうここまで行ったら正当防衛でもいいか。
「グハッ!」
腰に下げていたバハムートソード・フツルスを少し上げて、相手の鳩尾辺りに当たるようにする。ギリギリで上げて、更に俺が一歩下がったからドンピシャだな!
「てめぇ!!」
「大人しくしないなら痛い目見てもらおうか!!」
「あーもうめんどい。全員まとめて潰してやるからこいよ」
そうして俺の挑発に乗った男達は襲いかかって来たのだった。
「ずみまぜんでじた」
「なんて?泣きすぎでよく聞こえんかった」
五分かからずフルボッコ状態である。
最初の奴は思いの外いい所に入ったのか倒れたまま動かず昏倒。次の奴は足を払って横向きで倒れた所に、腹に向かってガンダゴウザ直伝正拳突き尚威力抑えめ。驚いた最後の一人は逃げようとしたが、正拳突きをした奴を投げつけぶつけた。
今は転がったそいつを捕まえて、何発か殴り話を聞いている。なんだか俺の方が厄介なゴロツキな気がしてした。最近思考回路がバイオレンスじみてる癒しが必要だなぁ。
「癒しが欲しい」
「か、歓楽街とかどうでしょうか?」
そういう事じゃねぇよ。
てか、泣き止んだのか。
「で?お前らが所属しているソーマファミリアとリリルカ・アーデについて聞きたいんだけど?」
「へ、へい!うちのファミリアの奴等は主神が作る酒を飲む為にノルマを稼ぐんです。だから俺達は貴方が稼いだ金が欲しくて……」
「で、襲ったと?」
「へい……」
「よくやるなぁ。極端だが自分より稼いでる、つまり自分より強い奴とか考えないもんかねぇ」
実際返り討ちにされたわけだし。
にしても酒に溺れた団員ねぇ。まぁ集めた情報通りではあるが、本当に金を稼いだ奴に絡んで行くんだなぁ。ユイシスが知ったら怒りそうな案件だわ。
「んで、リリルカ・アーデについては?」
「あ、あいつはうちのサポーターです」
「ふーん。で、いいように使ってるわけだ」
「へへっ。事実サポーターなんて俺たち冒険者に貢献だけしてればいいんですよ。荷物持ちぐらいしか役にたたねぇくせに、金だけは貰おうなんて考えしやがって」
「……お前が、言うのか?」
「ひぃ!!」
思わず威圧的になった。
言い方は悪いが、そいつが戦闘の役にたたないのは仕方ないだろう。人なんてそれぞれ能力が違うんだ。戦闘に特化する奴もいれば、他の分野に特化する奴もいる。それなのにその相手のいい所を見ずに劣っている部分ばかり見る。
「反吐がでるよなぁ」
「な、なにが、ですか?」
「お前みたいな奴にだよ」
それとこんなにも簡単に怒ってしまう自分自身に。はぁ、俺もまだまだ精神面の修行が足りてのか、オイゲン達に相談してみるかなぁ。褌しめてソイヤ祭りになりそうな予感。
「とにかく、そのリリルカ・アーデについて聞きたいんだわ。今、そいつが標的にしてるのがちょっと知り合いでなぁ」
「あ、あぁ、そういう事ですかい。今は白髪のガキにしてるとか聞きやした。カヌゥって獣人の奴がいるんですが、そいつがアーデを金づるにしてましてね」
もう少し詳しく聞いてみた限り、そのカヌゥってやつは、最近リリルカ・アーデが儲けているのに気づいたらしい。それで調べていると白髪のガキ、つまりベル君と行動しているのを知った。
そしてリリルカ・アーデがいつもの手口を使って多く儲けを出した時点で掻っ攫うつもりだとか。
「クソ外道もいたもんだな。で?いつそれを実行するんだ?」
「そ、それはわかりません」
「は?」
「で、でも、何時もならそろそろだと思います!カヌゥの奴も用意があるとか言ってやしたから!!」
「……わかった。ありがとな、今回だけは見逃してやるからさっさと目の前から消えやがれ」
「へ、へい!!」
そうして聞ける限りを話してくれたそいつは、仲間を担いで走って逃げていった。
にしても……。主神や仲間との絆で繋がらず、酒で繋がるファミリアか。
「あーあ。気分が悪くなるな」
本当に、最低な気分だ。
ホームへ戻る帰り道。
俺は神ソーマが作る酒を求めて道具屋を転々としていた。道具屋はファミリアが出している商品を多く取り扱っているらしい。まぁ【ソーマ】はなかなか見つからないのだが。
「あ、あった」
五軒目のリーテイルという道具屋で【ソーマ】を見つけた。六万ヴァリスか、まぁ酒は高い奴は普通に桁が上がるし不思議ではないか。シェロから勧められた酒なんて十万超えてたし。買った後大事に飲む為に保管していたらラムレッダに飲まれていたのは今でも悔しまれる。お仕置きはしっかりとしました。
「む?君までソーマを買いに来たのか?」
「ん?あれ?リヴェリアさん?」
「君みたいな成長期の子が酒を飲むな。身体に悪影響が出るぞ?」
「む!俺でも酒は飲んだ事あるけど?てか、子供扱いすんな」
「そう怒るな、言ってみただけだ」
クスクスと笑いながらそう言って来た。
え?遊ばれただけですか?……精神面ガキンチョでした。
「て、俺までって?」
「なに、知り合いのギルド職員もソーマを購入してな。今は会計に行っているが、もうすぐ戻ってくる」
「ふーん。じゃあ邪魔したら悪いし俺はこの辺で」
「そうか?なら、いつか紹介しよう。ではまた会おうグラン」
「またね」
そう言ってリヴェリアさんと別れて会計に向かう。途中ですれ違ったギルドの制服を着ているエルフの子がそうなのだろうか?そんな事を考えながらソーマを買って店を出る。適当につまみになりそうな肉を買い、街から離れた静かな場所で飲んでみることにした。
「さて、この辺でいいか」
酒が入っている壺の栓を抜く。
甘い香りが広がり美味い酒だとすぐにわかった。
「期待は、できるかな」
壺に入ったまま、じかに飲む。
舌が痺れるような甘み、滑らかな口溶け。確かに美味い酒で病みつきになる。
「美味い」
だがこのソーマは本物ではない。
ソーマファミリアの奴の話では市販されているものは、主神が作った物の失敗作らしい。完成品を求めて団員はノルマをこなす。その為にどんな手段でも使う。人の欲望が絡みあう劇物。それがどんなに美味いのかなんて知らない。失敗作でこの美味しさなのだから、人が狂ってしまうほどなのかもしれない。
「だけど」
俺には足りなかった。
どんなに美味い酒でも、仲間と飲む安くて味もそこそこな酒の方が何倍も美味い。
そう、感じた。
俺は残ったソーマを全て地面に捨てて、ホームに戻る事にした。
一戦目は敗北でした。残念。