グランブルーから地上へ行くのは間違っているだろうか? 作:クウト
イシュミールが戻ってから数日が経った。
あの時の帰り道に見た武装ゴブリン。あれは向こうではよく見ていた魔物だった。
んー。なんか胸騒ぎがするし、心配だよなぁ。
「でも冒険者達がゴブリンごときに、やられるとは考えにくいし」
倒したのだが、特に強い個体というわけではなかった。ただ普通にキチンと武装をしたゴブリンとしか言えないだろう。
……まさかとは思うが、俺と同じく迷いこまされた?
もし、向こうの魔物がこっちに迷い込んでモンスターとなっているとしたら。
「ちょっとまずいかなぁ……」
イシュミールには向こうに戻ったら説明をしてもらうように頼んでおいた。星晶獣のロゼッタ達や、カリオストロ達が色々と議論を交わしてくれているとは思うが憶測にしかならないだろう。
「考えても仕方ないか……」
俺の目が届くところならなんとかなるが……。いっその事ギルドに情報を流すか?だが不審者扱いされるだろうし、なんなら拘束されかねないか?
……これはやらないほうがいいか。
とにかくこっちでも調査が必要だな。
「調査が必要なのは、もう一つあるんだよなぁ」
ベル君が襲撃されたというのだ。
それも神であるヘスティアちゃんや第一級冒険者のアイズがいる時に。詳しく聞いてみると相手は第一級と名乗っていい程の腕の持ち主だったらしい。アイズ、ロキファミリアは闇討ちとかよくあるらしいからそっちが狙いとも思えるんだが……。
「ベル君が狙いの可能性があるよなぁ」
あの子の成長は、何でもかんでも上手い事転がって行ってる気がする。普通に考えてたまたま魔導書を手に入れて魔法を覚えるとかありえないだろう。裏で手を回してる奴らが居るとしか考えられないし、高価な魔導書をポンと渡せる奴らなんて限られてくる。
「集めた情報ではバベルの上にはフレイアとかいう神がいるんだよな」
前からあった視線はたぶんそいつだ。二大ファミリアという大派閥なら魔導書なんて頑張れば手に入れれるだろう。そしてフレイアファミリアの主神は気に入った奴は手に入れようとするとかなんとか。ベル君が標的となってると考えたのはそこなんだが……。
「……オッタルしばきにいくか?」
まぁ流石に冗談だが……。
考えても答えなんて出ないしそろそろ俺もダンジョンに行くか。こういう時は適度に暴れるに限る。
「とりあえずこんな所で、暇を潰してても仕方ねぇしなぁ」
「こんな所で悪かったなぁ。兄ちゃん」
「あ、ごめんなさい」
じゃが丸くん屋の店主に謝った。
しっかし朝っぱらからのじゃが丸くんは少し腹にくるなぁ。失敗したなこれ。
ダンジョンに向かってオラリオの街を歩く。
なんか人が多いなぁ。ってあれは、ロキファミリアか?
なんかあいつらとは縁があるなぁ。まぁ空と比べたら狭い街だし、大きな派閥だから目立つしよく目にしても不思議じゃないか。
「面倒だし、無視してさっさと行こう」
ジョブチェンジ。
忍者。
隠密行動ならこれかなぁなんて。
もはや気分でジョブチェンジしてる感あるよなぁ。
「あ、やべ。アイズに見られたか?」
スッと近くを歩いていた、鎧で身を固めた人の影に入ってやり過ごす。
朝だし普通に歩いてるだけだから隠密もできやしねぇのは当たり前だよなぁ。
「さっさと行くか」
整列しだしたロキファミリアをやり過ごしダンジョンに向かうことにした。
というかあんな大人数って事は遠征か?あれだけの人数が入ったら上層なんて窮屈で仕方ねぇだろ?……普通に考えて班分けするか。何考えてんだろ俺。
「お先に失礼しますねーっと」
ダンジョンに足を踏み入れる。
……なんだ?嫌な予感が酷いぐらいする。
背筋がゾワゾワする感じが一気にしてきた。背筋だから胃もたれとかではないよな?
「あー。こんな時は大体、厄介ごとが起こるか、ジータが厄介ごとを起こすかなんだよなぁ」
注意をしたほうがいいかもしれない。
ジョブをスパルタにでも変えようか?流石に大げさすぎるか?
とりあえず、進もう。
「っていきなりか」
武装したゴブリンが現れた。
まぁこの程度なら一瞬で首を落として終わる。
「今日もベル君は、ダンジョンにいるんだよなぁ」
少し探しながら進んで行くことにしよう。
俺は二階層、三階層とドンドン進んで行く。
武装したゴブリンだけじゃない。ウルフ系も何故かちらほらと見かける。
「こりゃ予想的中かなぁ。向こうで何かあったかな?」
ふむ。そろそろ誰かしら呼んで向こうでどんな話し合いになっているのかを聞くべきか?
もし呼ぶとしたらカリオストロとかマギサとかその辺なのかなぁ……。他に誰か待たせてる奴いたっけ?
「で?どうしてお前は、こんなところにいるんだよ」
俺の前に立ち塞がる大男。
「久しいなグラン」
「ちょうどいいや。お前に聞きたい事があったんだよ。オッタル」
「俺に話せる事なら、話そう」
やけにあっさりしてるな。
まぁそれならそれでいいか。
「お前らフレイアファミリアなんだけど。ベル君にちょっかい出してない?」
「なんの話だ?」
「いやさ。色々と考えたんだよ。お前らの主神はうちのベル君の事を、欲しがってんじゃないかって。よくバベルからの視線も感じてたし」
「……」
「話さないのか、話せないのか。どっちかは知らんが、手出しするのはやめてもらえないか?正直邪魔だ」
ここまで言っておいて、もし別のファミリアが手を出しているなら赤面どころじゃないよなぁ。
「とにかくさ。冒険ってのは、自由にやっていきたいものだって、俺は考えてるんだよ。それなのに裏から色々と画策されたりとかさ。正直、鬱陶しくてしかたないんだよね」
「そうか」
「その先に、ベル君がいるんだろ?」
ダンジョンの中でモンスターの声が反響する。
「だとしたら、どうする?」
「退けよオッタル。時間がねぇんだわ」
この空間に緊張した空気が流れる。
そんな時だった。オッタルの後ろから見覚えのある人影が現れる。
「ん?リリルカ!?」
「グラン……さん?グランさん!おねがしいます……!ベル様を!」
「わかった。今すぐなんとかしてやる。だから安心しろ」
「ありがとう、ございます……」
頭から血を流し、フラつきながらも急いで駆け寄ってくるリリルカに、俺は急いでポーションをかけてやりオッタルを睨む。
「退けよ」
「退いて欲しければ、俺を倒せばいいだろう」
「……んな時間、あると思ってるのか?」
それでもバハムートソード・フツルスを握るが、怒りと焦りでカタカタと手が震える。
「グラン!」
「剣姫か」
「アイズ。ちょっとこの場、頼んでもいいか?」
言いたい事は察してくれたのだろう。
剣を抜き構えるアイズはオッタルと対峙する。
「いいから、どけ!!」
アイズと一緒に走り出しす。
オッタルとアイズが剣をぶつけ合うのをすり抜けてその場を後にする。借りができてしまったが、まぁまた今度返す事にしよう。
リリルカが来た方向へ走って行くとモンスターの声が大きくなってくる。
そしてひらけた空間にはミノタウロスと戦うベル君の姿があった。
「ベル君!」
追い詰められているベル君を抱えてミノタウロスから距離を取る。ミノタウロスも急な乱入に警戒してるのかこちらを見つめたまま止まっている。
「グラン、さん?」
「あぁ、頑張ったな。もう俺に任せていいからな」
「……ダメです。それじゃあ、ダメなんです」
ベル君が俯きながら話しだす。
「ベル君?」
「ここで、助けられたら。僕は何の為に、グランさんに基礎を教えてもらったんですか?何の為に、ランスロットさんに技を教えてもらったんですか?何の為に、アイズさんに稽古をつけてもらったんですか?」
それは今までのこの子からは出なかった言葉。
「逃げたら、ダメなんです。僕は、ヘスティアファミリアの団長なんです。いつまでも、貴方達に支えられたままではいけないんです!!」
覚悟を決めた漢の言葉だ。
なら、俺が手を出すのは無粋だろう。
「……そうか。いつの間にかベル君も、心に竜骨を持っていたんだな」
「竜骨?」
「あぁ、決して折れない、信念って奴だよ」
「……はい」
力強い返事。
これなら、俺は信頼して送り出せる。
「ベル君。どんな困難な状況であっても、君だけは立ち上がれる。それでもと立ち上がれる漢になってこい!」
「はい!!!」
雄叫びをあげながらミノタウロスに向かって行くベル君。ロキファミリアの奴らが追いついたりもしたが、ベル君はミノタウロスを撃破した。
物語が動くとか言いながら動くの次回になったわ。
ベル君の戦闘全カットの理由は、もうみんな飽きたぐらい見てきたでしょ?
イベ周回めんどくせくなってきたや……。