オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
そのまま説明に入るらしく、エイナさんは胸に抱えていた書類をテーブルに置いた。
「じゃぁこれが私がお勧めするファミリアですね。あ、今更ですけどファミリアの系統って探検がメインの所で宜しかったでしょうか?」
「えぇ、大丈夫です」
エイナさんが10枚はあるであろう紙の束を、見やすいようにテーブルに広げていく。
もともと冒険者になる人は探検メインが多いのだろう。
それか僕が刀を腰に挿していたことからそう判断したらしく、見た感じどれも探検系と書かれている。
というか、探検メインでもお勧めがこれだけあるのか。
なんか面倒臭くなってきたな。いや、せっかくエイナさんが用意したのだ、しっかり選ぼう。
「左から順に、ロキ、ガネーシャ、タケミカヅチ、セト、ハトホル、ホルス、シン、アナト、カリス・ファミリアです。ここら辺が有名どころでもあり、評判がいいファミリアですね」
「…随分多いんですね」
エイナさんがひとつひとつ指をさして教えてくれるが、正直知っているファミリアが少なすぎて選ぶ基準がわからない。
聞いたことあるとすれば、ロキ・ファミリアくらいだろうか。
確か昔、マガルさんがお酒を飲んでいるときにロキ・ファミリアと言うファミリアが最近力をつけてきていると言っていた。
それにあそこの主神は随分と性格が捻じ曲がっているらしく、絶対にあそこには入りたくないとも言葉を漏らしていた。
まぁ、どうせ一つ目から入れるとは限らない。最悪全部回ればいいけど、どうせなら一番のお勧めを知りたい。
「んー、正直殆ど聞いたことがないので、エイナさんのオススメを教えてもらってもいいですか?」
「ん〜、そうですねぇ。やっぱロキ・ファミリアですかね」
「ロ、ロキ・ファミリアですか」
エイナさんが可愛らしく手を顎に当て、首を傾げてロキの名を口にする。
ここでロキ・ファミリアを勧めてくるかぁ。
マガルさんが言っていたこともあるし、それは避けたいな。
「理由を聞いても?」
「そうですね、今の
ほう、ロキ・ファミリアは今の
「エルフなのが理由ですか?」
「そうです。ロキ・ファミリアは
ハイエルフ、確かフーリムさんが教えてくれた
エイナさんから出たハイエルフの言葉に一瞬ピクンと体を揺らしてしまう。
正直、ハイエルフに会って見たいと言う気持ちがある。
元々がエルフとほとんど交流が無かったのもあり、エルフが多いロキ・ファミリアに入りたい気持ちも湧き出ているのもあるが、ハイエルフと言うからにはきっと特別な何かがあるんだろうと感じる。
僕が
マガルさんが神ロキについて色々言ってたから、どうしようか悩む。
でも聞いた感じエルフも多いし、新人に親切って言うのが良いよなぁ。
「そうですか、わかりました。じゃぁ、明日にロキ・ファミリアを尋ねようかと思います。あ、それとこの紙貰ってっても良いですか?」
まぁ、どうせ他のファミリアも詳しく知らないから、ロキ・ファミリアを第一候補にしよう。
それが無理だったら他のファミリアのとこに行けば良いか。
「それは別に構いませんが、多分ですが今週辺りはどこのファミリアも忙しくて新しく新人を迎えている暇が無いと思いますよ? 有名どころのファミリアは、どこも
僕が紙をまとめていると、思わず聞こえた内容に驚きエイナさんの方向へ向く。
彼女の綺麗な眉が垂れて困った表情をしている。
いや、僕の方がその表情をしたいのですが。
「と、と言いますと今ファミリア入団は厳しいと?」
「は、はい」
「ロキ・ファミリア以外でも?」
「ある程度の有名どころは皆んな
エイナさん、僕は一体どうしたら良いのでしょうか。
僕は、懐にある財布の中身を計算しながら彼女の顔を見つめることしかできなかった。
きっと僕の顔は、引き攣った笑みと冷や汗で驚くほど不細工だったでしょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…はぁ。本当にどうしよう。エイナさんが1週間前後って言ってたし、所持金は18800ヴァリス。これで1週間過ごせるかなぁ」
あの後肩を落としながらギルドを出ようとしたときに、エイナさんが何か言っていたけれど正直覚えていない。
あの時は未来への絶望で前しか見えなかったんだ。
僕は夜の闇に包まれた街を、重い足取りで歩いている。
勿論目的は寝床探しだ。
野宿すると言っても、それに適した場所を探す必要が出てくる。
街の外であれば自由にどこでも寝られるが、街は当然の事ながら土地の所有者がいる。下手にお店の軒先で寝たりすると怒られてしまう。
せめて、綺麗な公園とかを探さなくては。
「とりあえず、路地裏に入れば公園に出るか?」
幾ら街灯で道が照らされて明るいとはいえ、昼間に比べて道を歩く人が少ない。
勿論夜でも酒場が空いているため、そこの周りは賑やかな声が響いているが、少し路地裏に入ると人影などほぼ無く、街灯もない為少し怖く感じる。
「まぁ、
街の門でも居たが、彼らガネーシャ・ファミリアが治安維持に貢献しているため、
先ほども、夜の道をガネーシャ・ファミリアのエンブレムをつけたヒューマンが見回りをしていたし。
僕は暗い路地裏を少し早歩きで抜ける。
抜けた先は、予想通りといったところか住宅街が広がっていた。
1階や2階建の建物が並ぶように建てられており、窓から光が覗いている。
「っと、住宅街って事は公園くらいあるよね? まぁ、無かったら空き家か廃墟でいいか」
僕は家々の明かりと街灯を頼りに道を歩く。
見た感じ家は多いが、光が付いて居ない家が少しあり、10分ほど歩いただけで3件ほど見つかる。
「ただ家を空けているだけか、誰も住んで居ないのか」
まぁ、泥棒みたいに家に入ったりしないけど。
僕は、寝床を探すために道なりを歩いていく。
それから10分ほど道に沿って歩いていくと、寂れた教会があるのを発見した。
そこは思ったよりも月の光を浴びているためか、その外装がよく見えており、明らかに廃墟と言われるような外観をしている。
教会を囲む柵は鉄製の棒であるが、所々外れていて隙間が出来ている。それに、苔や蔓が建物全体に巻き付いており、その影響か扉が開けっぱなしになっている。
それに片方の扉は倒れたままで放置状態だ。
そして決定的なのが、屋根の一部が抜けており明らかにまともな人が住んでいる筈もなく、これで住んでいる人がいたら驚きを通り越して呆れてしまうよ。
神を祀る教会がこれで良いのかってね。
まぁ、僕と同じ家無しさんの可能性があるけど。
「とりあえず、ここなら絶対人がいないだろうし、幾ら屋根が抜けてても雨風がしのげるスペースくらいあるだろう」
それでも僕は一応人がいないか確認することにする。
鉄製の柵を抜けて開きっぱなしの扉へ近づき、そのまま中を覗く。暗いと思っていた中は、抜けた天井から覗く月明かりが差し込みそこまで暗くは無かった。
逆に、月明かりが綺麗であり、照らされている場所が教会の聖なる像であるのも相俟って、一瞬幻想的な雰囲気を感じ取った。
廃墟なのに。
「…よし、人もいないしお邪魔しますよ〜」
僕は有るであろう埃が舞わないように、ゆっくり足を動かして中に入る。
足場は瓦礫や木片などで汚いだろうと思ったけれど、予想以上に綺麗な状態であり足の踏み場がちゃんと有る。
「…それに埃もないし、もしかして誰かいるのか?」
教会の長い椅子を抜けて聖なる像まで近づくと、像が置かれている一段高い台に手を触れた。
手を動かして汚れ具合を確認するつもりだったけれど、見た掌には埃は一切なかった。
僕はこの事実を確認すると、一瞬で警戒レベルを上げる。
勿論、だだ僕と同じ目的の宿無しさんの可能性もあるが、廃墟に住み着いているなら悪党の可能性もある。
ここで直ぐに立ち去っても良いが、もし悪党であるなら見逃してはいけない気がする。
マガルさんも、悪党は積極的にぶん殴ってたし。殴った拍子に思いっきり吹っ飛んで地面に落ちた時には焦ったけれど。
それよりも、今はその
僕は意識を集中させて神経を研ぎ澄ませる。
僕の可能とする知覚領域が一気に広がり、脳内には情報として周りの景色が浮かび上がる。
「…いたっ! これは、地下か?」
僕に脳内に浮かんだ俯瞰的知覚領域の中に一つの生命体を感じ取った。
それは思ったより僕に近く、まさか既に側に寄られたか!と思いもしたが、周りに誰かいる様子もない。
一体どこだと詳しく見てみると、その生物との高さが違うことに気がつく。
「地下室?…いや、隠し部屋か?」
感じ取った情報により、地下から伸びる通路が僕の目の前にある聖なる像に続いているのがわかった。
明らかに入り口も見当たらなく、もしやと思ったが隠し通路らしい。
僕はゆっくりと音を立てないように聖なる像の裏側に回ると、地下へと伸びる階段を発見した。
「…あちらが気がついた様子もない。
僕の脳内に映る視界の中に、ある生き物、人間と断定できる人影がソファらしき椅子に横になっているのが見える。
詳しく見ることはできないが、体がほとんど動いてなくたまに寝返りのように動いていることから、これは寝ているだけと判断できる。
僕はここで考える。
もしここでぼくがこの階段を降りても、邪魔にしかならないのではなかろうか?
気配から寝てるだけとわかるし、言ってしまえばここはあの人の家だ。
先に住み着いた住人が居るのに、ここにお邪魔することなんて出来るわけがない。
「…はぁ。他を当たるか」
僕はゆっくりと緊張を解くように集中を切らす。
今日で何度目だろうか、あの状態になるのは。
流石に疲労を誤魔化す自信がない。
「…早く寝床見つけよう」
僕は、刀を杖のようにして教会を出ると、そのまま街を彷徨う亡霊の如く公園を探しに歩き回った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後ようやく公園を見つけて就寝についた僕は、朝の日差しに晒されて目を覚ました。
そこまで悪い目覚めでも無く、そのまま公園の水道で顔を洗って意識を覚醒させた僕は、今はある場所に向かっている。
僕が今歩く大通りは昨日よりもはるかに人が増し、特に商人が忙しそうに行き来している。
やはり、明日に
「…これがお祭りかぁ。随分賑やかだな」
まだ前日だと言うの溢れる熱気に少し驚く。
そうして僕が人混みを抜けてたどり着いた場所は、今回の目的地であるロキファミリアの拠点、黄昏の館だ。
絵本の中にあるような城を彷彿とさせる大きな館だ。場所はバベルから30分ほどで遠くもなく近くもない、絶妙なポジションに位置していた。
城を守るようにして囲っている大きな柵を眺めながら、入り口である門へと足を運ぶ。
門の前にはロキ・ファミリア所属であろう兵士の格好をした男が二人、外からの侵入者を見張るように立っていた。
「あの、すみません。入団希望で来たんですけれど…」
仏頂顔で立っているため少し話しかけづらいが、話さない事には始まらない。
「ん? あぁ、入団希望ね。本当はちゃんと面接したいんだけど、時期が悪かったねぇ。今はうちも例のお祭りの準備で忙しくて。ごめんね」
近くまで寄った僕を見ると、近くの方に立っていた青髪のヒューマンが申し訳なさそうにしている。
聞いたところによると、ロキ・ファミリアは面接をする幹部、それに
分かっていたけど、本当に忙しいんだなぁ。
中から若干怒声に似た大きな声が響いて来るし。
僕は分かっていたけれど気落ちせざるを得なく、そのまま黄昏の館をあとにした。