オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
「…ふうぃ…やっぱダメかぁ〜。ふぁ〜…どうしよっかなぁ〜」
ロキ・ファミリアの門を叩き見事に断られた後に、僕は他のいくつかのファミリアにも回ったけれど結局は同じ結果に終わった。
全部回ったわけではないけれど、どれも同じ理由で断られた為に、三つくらい回った時点で諦める事にした。
僕はギルド内のソファに体を沈めつつ、今日はどうやって過ごそうか考える。
気持ちいい。
「むうぅ〜」
まだ二回目だけど既にこのソファに心を奪われかけている。
思わず頬が緩むけれど、どうせ向かいのソファに座っている人もいないし、今くらいは大丈夫だろう。
時間的にお昼前である為か少しずつ人が増え始めたけれど、誰もが魔石の換金や依頼の処理に来ているらしく、受付と入り口の往復が多い。
今僕が抱えている問題点は2つ。
一つ目は、これから1週間はファミリアが見つからない事。
二つ目は、それまでの間お金が底を尽きないかという事。
あぁ、寝床については既に公園に確保しているから心配はない。
「…お〜か〜ねぇ〜」
僕がそれから暫くこんな風にソファの魅力に囚われながら呻いていると、後ろから声が掛かる。
「どうしました、アサギリさん。何かお困りごとでもありましたか?」
「え、あぁエイナさんですか」
そのまま首を逸らすように後ろを向くと、眼鏡をかけたエイナさんがお弁当を片手にこちらを覗き込むように見つめていた。
昨日は眼鏡をかけていなかったが、普段はかけているのだろうか?
「エイナさんこそどうしたんですか?」
「ふふっ、いえ、受付の方から見えてたんですけれど、アサギリさんが困っている様子でしたので」
エイナさんがそのまま向かいのソファに腰を掛けると、何かを思い出したのか微笑んでいる。
あれ、なんか面白いことでもあったかな。
「困ってるというか…。ファミリアが見つからなくてこれからどうしようかと悩んでまして」
正直自分だけでは解決しそうもないし、このまま行けば無駄に一週間を過ごす事になる。
お金のこともあるし無意味な時間を過ごすのも嫌なので、ここに長くいるであろうエイナさんに聞く事にした。
エルフだろうしきっと、すごい歳上なんだろうな。
「う〜ん。そうですねぇ、じゃぁ折角だから
「そうですねぇ、でも正直なところあまりお金に余裕がなくて1週間過ごせるかも心配で…。
エイナさんが首を傾げて提案してくれて正直嬉しいが、屋台をまわったりお祭りを楽しんだ日には1週間を待たずして餓死である。
楽しい雰囲気のお祭りで、財布の紐をきつく締める自身は僕には無い。
「あれ、それでしたら宿とかは大丈夫ですか? 今更ですけど、この時期は部屋なんて見つからないですよね」
「昨日探したんですけれど見つからなくて…。今は公園で野宿ですね」
エイナさんが僕の答えを聞いて驚いたように目を見開く。
いや、そりゃぁそうなりますよね。
僕もお祭りと
「それは大変ですよね…。あ、じゃぁよろしければ、ギルドの宿舎があってまだ部屋が空いているので借りますか? ギルド職員の推薦があれば一般の宿より格安で借りられると思いますよ」
エイナさんがすごく魅力的な提案をしてくれるが、それは結構大事なことでは無いだろうか。
推薦って言うからには下手な人は推薦できないだろうし、まだあって二回目だ。
エイナさんがそこまでしてくれる理由がわからなくて少し不審に思う。まさか、何か騙されるのでは無いだろうか?
前に、マガルさんが都会の人は田舎者を騙すことがあるって言っていた。
「…それは嬉しいんですけれど、いいんですか? まだあって2回目ですけれど」
「えぇ、昨日今日と話してある程度はアサギリさんの人柄も分かりましたし、アサギリさんは何かする人じゃ無いですよね?」
僕の不審な感情が伝わったのかは分からないが、エイナさんが僕の目をじっと見つめてそう断言した。
正直そんな風に思ってくれてるとは思わなかった。
なんだ、都会の人にもいい人がいるじゃ無いか。
僕は遠く離れたマガルさんに、エイナさんがめっちゃ良い人と言うことを念で送っておく。
届くと良いな。
「…そこまで言われると少し恥ずかしいですが、じゃぁお願いしても良いですか?」
「えぇ、良いですよ。あ、じゃぁ宿舎の案内は今日の夜に私の仕事が終わった後でも良いですか? 」
「わかりました。じゃぁ昨日と同じ時間くらいに来ますね」
時間を決めると、エイナさんはこの後同僚と食事があるらしく弁当を片手に去っていく。
僕は背筋が綺麗に伸びているエイナさんの後ろ姿を見て、やっぱ綺麗な人は心も綺麗なんだなぁって思った。
どうせ1週間は宿無し、安いご飯、ファミリアも見つからずにぼうっとしてる日が続くかなと思っていたが、これで宿無しは解消した。
まぁ安いご飯は我慢すれば良いし、前食べていた等価交換の末できた黒い物体よりはマシだろう。
あれを食べたマガルさんが気絶したのが良い思い出だ。
それより、僕はこの後は街の様子を見て回ろうかなって思っている。
「エイナさんも言ってたけど、折角だから
それでもきっと今までに経験したことがないものが見れるだろう。
お祭りなんて村での小さな収穫祭以外経験したことがなく、若干心が浮かれている自分がいる。
「…じゃぁ取り敢えずお昼食べてから見て回ろうかな」
お腹から虫の声が聞こえたので、取り敢えずは空腹を満たすことにしよう。
僕はその後なんとか精神を立て直してソファの魅力を取り払い、ギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと、なにその目は。ミィシャ」
私は思わず同僚の彼女にジト目を向けてしまう。
先に来ていたミィシャが私の席をとっておいてくれたことには感謝しているけれど、そのニヤついた笑みをやめて欲しい。
「だって、エイナ積極的なんだも〜ん」
「えぇ、そうかな。ただ話ししただけじゃない」
ミィシャの横に座った私は、朝作ったお弁当を広げて箸を付ける。
ミィシャはどうやら食堂の日替わり定食を頼んだらしく、お魚の匂いがとても芳ばしい。
「受付にいた時も彼のことちょいちょい見てたわよね」
「…あれは困った様な顔をしていたから気になっただけだよ」
魚の身を解しながら話し続けるミィシャに、私は淡々と返す。
実際ただ気になったから話しかけただけだ。
朝ギルドに来た時に何か用事があるのかと目で追ったら、ソファに座って1時間以上に唸っている様子を見たら誰だって気になるだろう。
「ふ〜ん。まぁエイナは世話焼きお母さんだもんね。それで何人の男を落として来たか」
「ちょっとどう言うこと! そんなことないって」
そんな誰でも笑顔を振りまく、八方美人みたいに言われて少し心外だ。
確かに、冒険者には死んでほしくないからいろいろアドバイスすることはあるよ?
でも、そこまで世話を焼いていないと思う。
「それより貴方の方こそずっと見てたよね? 報告書に書いちゃおうかな」
「ご、ごめんよぉー!これ以上給料減らされたら死んじゃうよぉ〜!」
言われっぱなしは嫌だったので、ミィシャが彼のことをチラチラ見ていた事を告げ口すると言うと、すぐに手のひらを返して泣きついてくる。
昨日の夜に始めてアサギリくんが来た時からずっと見てたからなぁ。
ミィシャはエルフとか美形を見つけると直ぐに目で追っちゃうから、アサギリくんを見ていたんだろうけど仕事くらいしっかりして欲しい。
「でも彼って本当に美形だったよね〜。 まさかハイエルフとかじゃないよね?」
「ん〜、多分違うんじゃないかな。なんて言うんだろう、王族特有のオーラが無かったからね」
確かに普通のエルフより洗練された顔立ちをしていた。
ハイエルフであれば納得が行くけれど、流石にはそれはないだろうと予想する。
もしそうであれば、宿が無いなんて事も無いし、それ以上にお金が無いなんて事はあり得ない。
万が一何か事情があったとしても、
「でも、可愛いとこもあるよ」
私はアサギリくんがソファに座った時のことを思い出す。
あの時の彼はキリッとしたエルフ特有の表情から、頬が緩んだ柔らかい顔立ちになっていた。
偶に地方から来た人はああしてソファの柔らかさに驚くことはあるけれど、あそこまで表情に表して寛ぐ人はそうそういなかった。
ふふっ、可愛かったな。
「…エイナってそっち系が趣味なんじゃぁ」
「え? 何か言った?」
横でミィシャが何か呟いたのが聞こえたんだけど、上手く聞こえなかった。
なにかなと思い聞き直したけれどミィシャは何か呆れた表情をするだけで教えてくれなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルドから出た僕は、人の流れに乗る様に街を歩く。
僕が向かった先は先ほどエイナさんから聞いた、
確か、ガネーシャ・ファミリアが管理する闘技場であり、他のお祭りの際にも使われるらしい。
まぁその前にこの空腹を満たさなくては。
僕はお腹をさすりながら足を動かす。
偶に緩むリュックの紐を直して、大きな道の脇に並ぶ店や屋台に視線を飛ばす。
流石にずっと持ち歩くのはきつい為、どこかに荷物を置きたい気持ちがあるが、今日の夜まで我慢だ。
そうすればエイナさんが宿まで案内してくれるし。
「やぁそこのエルフくん! 良かったらボクが作ったジャガ丸くんでも食べて行かないかい?」
そのまま道なりを歩き、ある屋台を通り過ぎようとした時に可愛らしい元気な声が聞こえた。
‘ぼく’と聞こえはしたが可愛らしい女の子の声だった。
僕は人の流れから外れて声の方がした方に近づくと、僕よりも20センチ近く低いであろう女の子が屋台の前で売り込みをしていた。
屋台の暖簾にはジャガ丸くんと書かれている為ここから聞こえたのであろう。
なら先ほどの声はこの女の子だろうか?
「エルフって僕のこと?」
僕の目を笑顔でじっと見つめている女の子の方を向く。
こうして見ると女の子だろうかと表現していいかすら怪しくなってくる。
確かに身長的には子供と表現してもいいかもしれないが、それ以外が圧倒的に女性らしさを演出している。
可愛らしい丸みを帯びた顔立ちではあるが、完成されている程の左右対象顔のパーツ、パッチリとこちらを見つめる大きな瞳。
まるで夜色に染めらたかの様な綺麗な漆黒の色をした艶やかな髪。
そして人類共通の母性の象徴である胸が、エプロンの上からでも強い自己主張を放っている。
「あぁ、もちろんさ! 何やら物欲しそうに屋台を見ていたからね、それならボクの作ったジャガ丸くんを買って行くといいよ!」
キラキラした瞳でまるで子供が物をねだる様に体で美味しさを表現しているのだろうか、手を使って伸びをする。
腕で後ろにあるジャガ丸くんと言うらしい茶色いものを指差して、こちらをじっと見つめている。
いや、そんな見つめられても。
この女の子って言っていいのかわからないけれど、こんな小さいのに働いているのかな。
一瞬大きな胸に視線が行きそうになるのをグッと堪えて視線を合わせる。
「んー、そうだね。じゃぁ一つもらおうかな。幾らだい?」
身長の低さと顔立ち、振る舞いからついつい小さな子供を相手する様に話してしまう。
「ん? あぁ、30ヴァリスだよ!一つでいいかい?」
綺麗な黒髪の彼女は一瞬不思議そうな顔をしながら、後ろからジャガ丸くんを手に取る。
まだ焼きたてらしく湯気が上っており、美味しそうな匂いが僕の鼻を刺激する。
そのまま鼻を抜けて脳を刺激したらしく、お腹からキュルルと音がなってしまう。
「あはは、じゃぁ三つほどもらおうかな」
彼女が持っている大きさなら三つくらいがちょうどいいし、三つ頼んでも100ヴァリスもいかない。
なんてお得なのだろうか。
「あはは、そうだね! エルフくんは今空腹なのか。じゃぁいっぱい食べるといいよ!」
「どうもありがとう。はい、90ヴァリスね」
黒髪の彼女が追加で二つ取ると僕に笑顔を向けて手渡して来た。
ニッと笑う拍子に頬がぷにっと膨れるのは、思わず可愛いと声を漏らしそうになる。
やっぱり元気だなぁ。
それに、笑顔がとても似合っている。
ここまで綺麗な笑顔をする女性がいるのだろうかと、一瞬惚けながらも90ヴァリスを渡してジャガ丸くんを手に取る。
やはり暖かく、近くで匂いを嗅ぐとより一層美味しそうに見えてくる。
僕は冷めないうちに食べるために、屋台の脇に置いてあるベンチに腰をかけて食べることにした。
既存キャラの口調が怪しかったら指摘お願いします。
ジャガ丸くん一つで30ヴァリスは適当です。
覚えてなくて、原作から探すのも大変だったので(⌒-⌒; )