オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか   作:アルアール

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13話 狙われた刀。つまりは交差する思惑。

「グーシャさん、どうしますか? このまま何もなきゃぁ、ボスに殺されちゃいますよ…」

「分かってんだよ! っち、迷宮都市(オラリオ)が入門の時に検問なんかやらなきゃ、うまい具合に手に入れられたっていうのに…。それにあのクソ鍛治師やムカつくエルフにイラつくこともなかったのによ!」

後ろに控えたベンから言われたことが癪に触った俺は、イラつく様に石を蹴り上げる。

その石はレベル2の俺の蹴りのせいかそのまま壁に当たると、無残にも粉々に弾ける。

 

椿・コルブランドから断られた後、ファミリアに戻るわけにもいかず行くあてがなかったため、取り敢えずバベル近くの路地に屯っている。

 

正直今の状況はまずい。

明日に品評祭(フェアーフィリア)を控えた今、武器が手に入らないなんて、団長に知られたら嬲り殺されるのは目に見えてるし、主神様が庇ってくれることは万に一つもない。

 

「おい、ベン、ダル。お前らあのエルフを覚えてるか?」

「えぇ、覚えてますが」

「…多分」

ダルは無口だから何考えてるかわかんないが、ベンよりは戦闘面においては使える。

でも、もうちっとちゃんと返事しろよ。

 

「エルフの腰に挿さってた刀、あれはかなりの技もんだ。俺が()()()()()()間違いねぇ」

「あぁ、そういや持ってましたね。でも奪えるんすかね? 見た感じ弱そうでしたけど、椿・コルブランドの店に来るってことは相当レベルまでなきゃ無理っすよね」

「…いけそう、な気がする」

確かにこいつらの言う通り、見た目は弱そうだったが、ただ弱い奴があの店に行くとは思えねぇ。

本来ならここで容易に手を出すは悪手以外の何者でもねぇが、そうも言ってられねぇのが現実だ。行けそうってダルはいってるが、こいつは野生並みな嗅覚を頼りに戦うから、信用できなくもない。

 

「そうだ。ベン、()()()兄貴はどうだった? 確か最近こっちに帰って来たはずだが」

「あぁ、ファミリアには顔を出してましたね。でもやっぱダメだったみたいっすね。一応用心のために普通の商品だけにしたって言ってました」

「っち、そうか」

兄貴ならもしかしてかなりの業物の武器の一つでも密輸してるかと思ったが、駄目か。

本当は頭の一つでも下げて融通効かせてもらいたかったんだが、くそ。

これで俺の取れる手段がほとんどなくなっちまった。

 

「…はぁ。おい、ベン、ダル。お前らなんか手段はねぇか?」

俺はずっと立ちっぱなしも疲れるから壁に寄りかかる様に体を預けて、部下たちに案を出す様に促す。

こいつら、俺が壁に寄りかかったから自分たちも良いと思ったのか、壁を背に地面に腰を下ろした。

 

っち、こんなせめぇ通路なんだから道塞ぐんじゃねぇよ。

ガネーシャの奴らにいちゃもんつけられたらどうすんだ。

 

「そうっすねぇ、やっぱエルフから奪うしか無いんじゃないっすか?」

「…1分で殺す」

こいつら、何も手に入んなきゃ俺共々葬られるって言うのに、クソ呑気だな、おい。

だか、こいつらの言う通り、もうその手段しかねぇか。

 

「…じゃぁ決行は今日の夜だ。ベン、ダル、黒服を準備しとけ、身バレは防げよ。俺も準備がある、お前ら二人で急いでバベルに戻って奴の跡をつけろ。住処を特定しとけ」

「うっす。あれ、グーシャさんはどうするんすか?」

俺は部下の指示すると、移動するため壁から背を離す。

ベンたちが首を傾げてるが、お前らはバカなんだから考えなくていいんだよ。

 

()()だ。いいからお前らはちゃんとつけろよ。さっさと行け!」

「はぁ。わかりました」

ベン達は疑問を残しつつも、あのエルフの跡をつけるためにバベルの方へ走っている。

 

「…俺の方も行くとすっ…っ!!」

ベン達の背中を一瞥した後に、俺もファミリアに隠して確保していた隠れ家に向かうため足を動かそうとした時、体が突然動かなくなった。

俺はそのまま地面に倒れ伏す。

 

な、何だこれは!

くっそ、体が熱い!!!

熱い、熱い!!!

 

ーーーふふふ、面白そうな話をしてるのね。ねぇ、教えて頂戴?

後ろから全ての神経を刺激する様な、甘く、美しい声が聞こえた。

 

バカな!

俺が後ろを取られたのか?!

 

思わず全てを投げ出そうと意識が働くが、唯一動く舌を噛んで意識を保つ。

 

何だこの声は!

体が、心臓が熱い…!

 

「ねぇ、教えて頂戴?」

絹よりも滑らかな、柔らかい指に顔を掴まれて横を向かされる。

向いた先、俺の視界に映ったのは、狂うしい程理性を焦がす匂いを放つ、銀髪の美しい女性だった。

 

彼女の口角が上品にも卑猥に弧を描くと同時に、俺の意識は暗黙へと()()()

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

「…あぁ、思わず逃げちゃったけど、まぁいっか」

 

 

 

バベルから逃げ出した僕は、適当に時間を潰すために街を歩いた。

お金もなくてやる事も限られたが、迷宮都市(オラリオ)に来たばっかりであった為かそこまで暇な時間を作る事なく街を回れた。

 

お金がなくとも、この街の名所と言えるガネーシャ・ファミリアの拠点や、繁華街、ダイダロス通りなどいろいろ見て回れるところがあり、楽しく過ごせたな。

まぁ、ダイダロス通りは入ったら迷って一生出てこれないって冗談交じりにギルド職員の人が言ってたのを思い出して、入り口を見ただけで終わったけど。

 

それよりも時間的にそろそろかな?

 

僕は、点々と星が輝く夜空を見上げつつ、広場の中央にある時計塔の時間を確認する。

確かに昨日と同じ時間を示していた。

 

「ダリルくん、お待たせ。ごめんなさいね、こんな時間まで待たせちゃって」

「…い、いえ。全然大丈夫ですよ」

時計を見上げていた僕の横から、聞いたことがある声がかかった。

視線の先にはギルド服ではなく、私服に身を包んだエイナさんが手提げバックを片手に立っている。

 

空は既に真っ暗だが、街の街灯によって彼女の体がよく見える。

袖の広いスカートと、白いフワッとした大人しい色合いの服だが、エルフの彼女が着ると十分に映えるのは何でだろうか。

 

一瞬私服姿にドキッとしてしまったが、エイナさんが気がついた様子はない。

 

「仕事は終わったんですか?」

「えぇ、終わりましたよ。じゃぁ予定通り、宿舎まで行きましょうか」

一応聞いて見たが、疲れた様子もない声で返ってきた。

確か昼頃も忙しそうにしていたのを見たが、案外慣れているのだろうか。

それとも、体力があるのかな。

 

僕は、エイナさんが視線を飛ばす方向へ並ぶ様に歩き出した。

 

エイナさんが慣れた様子で、人通りが多い大通りを選んで歩いていく。流石にギルド職員だけあって、身の安全はしっかり確保しているらしい。

 

そのまま人通りを抜けていくと、大通りに面した大きめの建物が目に入る。

横に視線を向けると、頷く様にエイナさんが微笑んでいることから、どうやらここらしい。

 

そのまま鉄製の大きな両開きの扉まで来ると、入り口を塞がない様に少し脇の所で足を止めた。

 

「随分と立派な建物ですね」

「そりゃぁ、ギルドの宿舎ですからね。身の安全はしっかり保証されてますよ。日中もそうですけれど、夜はガネーシャ・ファミリアの方が警備をしてくれているので」

どうやら、僕は随分立派な所に身を寄せることになるらしい。

そのことを聞いた僕は再び財布の中身を心配せざるを得なくなったが、本当に大丈夫なんだろうか。

「ふふ、大丈夫ですよ。さぁ行きましょうか」

僕は財布を片手にエイナさんに視線を向けるが、何も心配に思っていないのか、そのまま堂々と鉄製の扉を開けた。

 

いや、僕はとても心配なんですが。

今でも、騙されてないかヒヤヒヤですが。

 

「…中も凄いですね」

思わず感嘆の声が漏れる。

 

目の前に広がっていたのは、以前に回った宿に劣らないほど、綺麗に整備されたホールが広がっていた。

まるで大きな宿のような広間で、くつろげる様に()()()()()も置いてあり、既に仕事を終えたギルド職員らしき男女が、飲み物を片手に楽しそうに話している。

 

ソファ…ここを紹介されて本当に良かった。

 

「もう話は済ませてますので、後は寮長に宿料金とここのルールを聞いて終わりですね」

エイナさんがホールにある扉を指差して促す。

どうやら彼処に寮長が居るらしく、少しずつ緊張して来る。

 

「じゃぁ私はソファに座って待っていますので、終わったらこちらに来てくださいね?」

「は、はい。分かりました」

僕の返事を聞いたエイナさんは頷くと、後ろを振り返ったソファの所に向かった。

元からいたギルド職員が、向かって来るエイナさんに気がついたらしく手を振って居る。

僕が、そちらへ視線を向けると赤い髪の女性と目があったが、確か前にもこんなことがあった気がする。

 

まぁ、それよりも今は寮長だ。

僕は緊張を隠しきれずに、そのままゆっくりと先程エイナさんが指差した扉へ向かって、優しく手前に取っ手を引っ張った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふふ、ほら、大丈夫だったでしょう?」

「え、えぇ。淡々と終わっちゃいました」

 

 

扉を開けた先にいたのは、中年ほどの年齢の女性だった。

聞いた所によると、昔ガネーシャ・ファミリアの冒険者をしていたが、30を境に引退してここ寮長をして居るらしい。

 

まだ20代前半で通用する様な見た目で優しそうな顔立ちだったが、あの人も冒険していたかと思うと、世間は広いなと実感する。

あの彼女がダンジョンで怪物を叩き斬ってたのが想像しづらい。

 

それより、肝心の値段であったが、一日3000ヴァリスで朝夜ご飯付きであった。

確か、僕が回った宿が5000ヴァリスくらいであることを考慮すると明らかに安い。

ここで僕は財布をしまって一安心した。

 

次にルールだがこれは一般の宿と同様に、綺麗に使う様にと、後は大浴場の使用時間くらいであった。

 

そう、大浴場だ。

まさか、マガルさんから聞いた()()()()()があるとは。

確か、すごく広いお風呂で身体を目一杯広げても十分なほど広いらしい。

これは今から楽しみな程だ。

 

「じゃぁここがダリルくんの部屋ね。一応、家具類は全て揃ってるから、何かあったら寮長に聞いてみてね?」

「えぇ、本当に今日はありがとうございました」

木目が綺麗な扉を前にエイナさんに感謝する。

正直、今彼女が女神に見えて仕方がない。

恩返しをしっかりできるか不安ではあるが、なるべく出来ることはしてあげたい気持ちがある。

まぁ、出来ることをしよう。

 

「いいよ、じゃぁ私はこれで」

エイナさんは胸の前で小さく手を振ると、そのままフワッとスカートを翻し立ち去っていった。

 

「よし、じゃぁ荷物置くか」

エイナさんの姿が見えなくなるまで見送った僕は、寮長から預かったカギを使って扉を開ける。

突っかかることなく、すっと空いた扉の先には、綺麗に掃除された廊下が目に入る。

 

「おぉ、随分いい部屋だなぁ」

思った以上の部屋で気分を良くした僕は、スキップしそうな勢いで部屋を見て回った。

 

寝室に、調理場があるリビングと2部屋あり、家具も揃ってこれで1日3000ヴァリスとは、驚きを通り越して尊敬である。

すごいなぁ、ギルド。

 

ひとまずリビングの床に背負っていた大きな荷物を降ろして、ソファに腰をかける。

ギルドの程ではないが、柔らかく座り心地がいい。

 

「…はぁ、やっと部屋が手に入ったぁーーー!」

全身から力を抜く様に脱力すると、思わず声を上げてしまう。

 

街中の野宿を換算すれば9日間野宿したことを考えれば、しょうがないかもしれない。

流石に、野宿が平気とはいえここまでの連日は体に来る。

 

「…夜ご飯はいいや。後は着替えて、お風呂に入って寝よう。今日は疲れたし」

既に襲いつつある眠気に逆らいつつ、僕は疲れを癒すために大浴場へ向かう事にした。

 

荷物の整理は明日にすればいいし、持ち物も少ない。

それに、どうせここにいられるファミリアが見つけるまでだし、後5日程度だろう。

まぁ、お金的に5日しか泊まれないんだけどさ。

約18000ヴァリスくらいだし、残りのお金。

 

はぁ、早くファミリアが見つかります様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ先の話ですけど、ダリルがレベル2になった時の二つ名を活動報告で募集してます。

今までのダリルの印象からでいいので良かったらコメントお願いします。
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