オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
僕たちが瓦礫を登って外に出ると、すでに夕焼けで辺りが暗くなり始めていた。
塔の中は無残な状態であったが、扉から外に出ると一見何も無かったかの様に見える。
だからだろうか、この時間まで誰もここにこなかったのは。
それに、丘から傾斜の先に見える街は、いつのまにか人が戻ってきていて、幾人もの人が道を行き来していた。
流石にここからでは豆粒ほどの大きさの為種族など分からないが、これで一先ずは落ち着いたと思ってもいいだろう。
「結局、回れませんでしたね。お祭り」
「まぁ仕方がないよ。こんなこともあったからね」
どうせお金がなかっただろとは思うが、せめてファミリアが自信を持って披露する、武器を使った演舞くらい見て見たかった。
ここから見えるホールでは既に終わっているのか、ホールの上に点々と付けられ、燃え上がっていた松明が消えている。
それでも街は街灯で明るく照らされており、未だ屋台に群がる人で賑わっている様子が見える。
流石に今日は疲れた。
それに身体中が異様に痛い。
祭りを堪能できなかったことは残念だが、今はとにかく布団で寝たい気持ちでいっぱいだ。
あ、そう言えば、僕はヘスティア様のファミリアに入ったってことは、ヘスティア様のホームで暮らすことになるのだろうか?
もしそうなら是非明日から泊まりたいんだけどなぁ。
お金の節約になるし。
僕は未だ痛む節々を、砂埃で汚れている服の上から摩りながら、横にいるヘスティア様に目を向ける。
「ヘスティア様。ところで僕は貴女のファミリアになったんですけど、寝泊まりできるホームってありますか? 出来ればそこで泊まりたいのですが」
「あ、あぁそうだね。 君は今日からボクのファミリアなんだから一緒に住むべきだよね! も、もちろんあるさ!」
一瞬ピクンと肩を揺らすヘスティア様だが、ファミリアの人数が増えたのが嬉しいのか、眩しい笑顔で僕を見つめてくる。
よかった。これでやっと落ち着ける。
あとファミリアの先輩の挨拶はどうしようかな?
お菓子とか買って行ったほうがいいかな、手土産は必要だろうし。
「じゃぁ、良かったら明日からそちらに移動してもいいですか? 今日は荷物もあるし暗いんで泊まっている宿に戻りますけど」
「じゃぁ明日僕のホームに案内するから、ギルド前での前で待ち合わせでもいいかな?」
「えぇ、いいですよ」
僕のギルド宿舎から近い事もあってその提案は嬉しい。
あ、でも明日引っ越したら折角エイナさんが紹介してくれたのに、悪いかな。
今日宿舎に帰ったら謝っておこう。
「じゃぁ、もう日も落ちてきたので帰りましょう」
「そうだね、それにこれ以上ここに居て誰かに見つかったらマズイだろうからね」
ヘスティア様は、外からじゃ分からない塔の中の悲惨なモノを想像したのか、若干冷や汗を流している。
まぁ、僕も見つかりたくはない。
正直建物を壊しちゃった申し訳なさがあるけど、流石にアレの弁償ができない。
それに、この事をギルドに報告しなくていけないだろうが、色々僕たちもわかってないことが多い。
聞かれても誰かに襲撃されて、塔に行ったら地下に落ちてドラゴンと戦いました。
その時恩恵もらってやっつけましたって言っても信じてもらえるわけがない。
塔を何かで壊した言い訳って思われるのも嫌だ。
僕とヘスティア様は、完全に暗くなって道が見えなくならない様、早足で丘を下って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕がギルドの宿舎に帰ると、ちょうど時間が被ったらしく、ソファでエイナさんが疲れた様子で寛いでるのが見えた。
お祭りだったから、ギルド職員も色々と駆り出されたのだろう。
「お疲れ様です。エイナさん」
「あ、ダリル君。って、君はすごい格好だね?」
ソファもたれかけていた首を正しくこちらへ視線を向けると、一瞬疲れた様子で苦笑したが、直ぐに少し驚いた様子で目を見開いた。
やっぱ、目立つかな。
ドラゴンと戦ったり、変な人たちに襲撃されたりして、結構服がボロボロだったりする。
着れなくはないけど、土埃や少しの血痕で不審者と見間違えても仕方ない格好だ。
「色々ありまして。あ、それより僕今日ファミリアが決まったんですよ」
「え? そうなの? 私が渡したリストのファミリア?」
「いえ、ヘスティア・ファミリアって言うところでちょっとした縁で入れてもらいました」
向かい側にソファに座ってエイナさんと向かい合う。
「そっかぁ、ダリル君が決めたなら大丈夫だと思うけど、本当にロキ・ファミリアとかじゃなくてよかったの?ダリル君なら多分簡単な面接だけで入れたと思うけど」
「だ、大丈夫です。ヘスティア様はいい方ですし」
少し心配した表情で身を乗り出しこちらを見つめるエイナさん。
正直エイナさんの今のセリフは少し心にぐさっと来た。
いや、今更後悔ないけどさ、ロキ・ファミリアに入れたと思うとちょっと悔しいって思ってしまう。
まぁどうせ同じ冒険者なら、ダンジョンとかギルドで会えそうだからそこまで気にする必要はないだろうけど。
「そっか。じゃぁ直ぐにファミリアのホームに行くの?」
「そうですね、できれば明日にはここを出ようかと」
「わかったよ。
ホームが見つかったし、そこまで急ぐ必要は無くなったけど、行かなければそれで暇を持て余す。
「行こうかなと思ってます」
「…ん〜。ギルド職員の私が私情を挟むのはいけないけど、いきなりはやめたほうがいいと思うよ?」
「そうですか?」
少し視線が鋭くなったエイナさんに、僕は少したじろいでしまった。
もしかして、そこまで危ないところなのだろうか、ダンジョンって。
いやでも、行っても1階層だし、そこまで大変じゃないと思うけど。
そのあとエイナさんは、少し顎に手を置いて考え込んでしまったが、直ぐにこちらを見つめて口を開く。
「そうだ! じゃぁ、私がダンジョンについてモンスターとか教えてあげるよ。ダリル君、ダンジョンにどんなモンスターが出るか知らないでしょう? ちゃんと知っといて損はないと思うよ?」
確かに、それは一理ある。
いくら1階層とはいえ、闇雲に潜るのは危険かもしれないし、せっかくエイナさんの好意を断るのは悪い。
「いいんですか? じゃぁお願いしてもいいですか?」
「勿論だよ。いきなり怪我して帰って来たら私も辛いからさ」
そう言葉を漏らすと、スッとエイナさんの顔に影が差す。
そうか、確かにギルドの受付嬢をしてると、送り出した冒険者が帰ってこないのが分かっちゃうんだ。
親しくなくても、顔を知ってる人が死ぬのは辛いだろう。
エイナさんの暗い表情に、チクっと胸が痛む。
だからだろうか、僕はじっと彼女の顔を見つめて口を開いた。
「エイナさん。絶対とは言えないですけど、無茶はしないです」
「あはは、絶対じゃないのかぁ。でも、本当に無茶しちゃダメだよ?」
「大丈夫です。そこまで焦ってませんし、ゆっくり行きますから」
断言はできないけど、これくらいは約束出来る。
英雄も初めは弱かった。
誰だってコツコツ強くなるんだ、今急いでも仕方ない。
無理に急いで怪我したら元も子もないし、蛮勇は勇気ではない。
英雄に蛮勇は要らないのだ。
差していた影が薄れ、目尻を下げて微笑みを浮かべるエイナさんの顔を見た僕は、つられるように頬が緩んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃぁ、またギルドで」
「はい、お世話になりました!」
宿舎の前で手を振るエイナさんに頭を下げると、僕は振り向いてギルドの方角へ歩き出した。
昨日エイナさんと話し終えたあと、僕は寮長に挨拶をすませ、直ぐに眠りについた。
流石に筋肉痛と疲労で眠かったからね。
そして今、朝になって荷物をまとめた僕はここを出たのだ。
そうして向かう先はギルド。
昨日ヘスティア様と約束した所だ。
既に道にはお祭りの屋台が姿を消し、いつも通りの大通りを歩く。
まぁ、一昨日来たばかりだから、いつものは想像なんだけど。
誰もがギルドから出入りすると、バベルの塔の方向へ向かっているから、これからモンスターを狩りに行くんだろう。
広場にも待ち合わせなのか、人が手持ち無沙汰で空を眺めたり、リュックの中身を確認している人が多くいた。
この中からヘスティア様を探すのは大変かなと思ったが、広場にある噴水前のベンチに座ってるのを発見した。
足をプラプラとしながら空を見上げているヘスティア様を見て少し申し訳ない気持ちになる。
待たせちゃったかな。
「ヘスティア様、お待たせしました」
「やぁ、ダリル君! 待ってないよ!」
ベンチに座るヘスティア様に近づくと、彼女も気がついたらしくこちらと目が合いパッと表情を明るくする。
「じゃぁ行こうか、僕のホームに!」
「はい! 道案内お願いしますね」
ベンチから立ち上がると僕の手を掴んで、ヘスティア様は歩き出す。
歩きながらこちらを眺めるその顔は、何か嬉しいのかニコニコと嬉しそうだ。
僕たちはギルドがある大通りを歩いてバベルから離れる。
一体どこにあるんだろ。
ホームって言うから住宅街とかかな?
「こっちだよ!」
10分ほど歩くと、脇へと伸びる路地に入る。
そこを抜けた先にあったのは、どこか見覚えがある光景だった。
あれ、ここそう言えば来たことがある気がする。
大通りの賑やかな空間から少し離れ、少し閑静な住宅街が目の前に広がっていた。
一つの道の左右に様々の大きさの一軒家が並んでいる。
迷いなくヘスティア様はそこを抜けて行く。
どんどん強くなって行く既視感。
そしてヘスティア様が足を止めたのは、寂れた教会の前だ。
そう、ここは僕が野宿探しに見たところだ。
一体ここで止まってどうするのだろうか?
何か物を取りにきたとかかな?
「じゃぁ行こうか!」
「え? 何処へですか? ここ潰れた教会ですよ?」
僕が疑問に思って聞くが、ヘスティア様はスッと視線を逸らすと、そのまま前へ向かって歩き出す。
あきっぱなしの錆びた教会の扉を抜けて中に入る。
まさか。
「こっちさ! ちょっと寂しいけど、住むと都っていうじゃない?」
目線を逸らしつつ、大きな像の後ろに回って地下へと続く階段を指差す。
その様子は後ろめたさを感じてるのか冷や汗を流して指で髪をくるくると回している。
「こ、ここがホームですか?」
「そ、そうだよ」
まさか、ヘスティア様のホームってここなのか。
いや、ちょっと待ってほしい。
文句は言いたくないけど、流石にここがホームってなくないですか。
もう家無しさんと変わらないじゃないですか。
と言うか、あの時寝てたのは、あなただったんですね。
いや、今思えばシルエットが似てるけど、まさか神様がこれは罰当たりではないだろうか。
他の団員は何をしてるのだろう。
もう少しちゃんとした生活を送らせてあげないのだろうか。
「…他の団員の方はどこにいるんですか?」
「…ここにいるじゃないか。団員」
ヘスティア様が僕をじっと見つめてそう言い切った。
「…もしかして僕一人?」
「おめでとう! ヘスティア・ファミリアの初団員と団長の称号は君のものだね!ダリル君!」
振り切った笑顔で言っているヘスティア様を見ると少し可哀想に思えてくる。
そうかぁ、僕が初団員と団長かぁ。
「そ、そうですか。ま、まぁそれより中入りましょうか!」
「あぁ、ようこそヘスティア・ファミリアへ!」
意外と掃除はされているのか埃をかぶってない階段を降りると、そこには生活感溢れる一室が広がっていた。
台所らしき水場に、タンスとソファ。
それに長方形のテーブル。
「へぇ、綺麗に掃除されてますね」
「もちろん、初団員を迎えるからね! 昨日大掃除をしたのさ!」
自信があるのか大きく胸を張って得意げな表情のヘスティア様だ。
でも、綺麗なことはいいことだ。
これで汚かったら流石に僕も言葉が出ない。
「じゃぁ僕はどこで寝れば良いですかね? 見たところ、ヘスティア様が寝るためのベットがひとつしか無いですけど」
仕切りも無い、部屋が二つ繋がった様に、入って左側に伸びるスペースに大きなベットが一つ置いてあった。
これだけは、これの空間にあっていないほど煌びやかな、大きいサイズのベットである。
もしかして誰かからの贈り物だろうか?
神仲間とか。
「んー、ソファがあるけど、流石にそこに寝かせるのは悪いし。あ、じゃぁ一緒のベットに入るかい? ダリル君?」
ヘスティア様は少し考えると、挑発気味に口角を上げてニッとこちらを見つめてきた。
いや、流石にそれはマズイでしょう。
神様と同衾する事がそもそもまずいであろうに、それ以上に女性と一緒に寝るのは、精神的に厳しい。
「いや、僕はソファで良いですよ。そこまで小さく無いので、多分寝れると思います」
170センチほどある大きなソファに視線を向ける。
二人で座っても余裕がある大きなソファだ。
「そっか。じゃぁ荷物はベットの脇にスペースがあるからそこに置くと良いよ。あ、荷物置き終わったらそのままベットに横になっててね。ステイタスの確認と更新するから」
「分かりました。あれ、ステイタスの確認ですか?」
僕はヘスティア様が指差したベット脇に向かう。背負っていた大きなリュックをゆっくり下ろすと、言われた通りにベットに上る。
「あぁ、あの時は緊急だったからねステイタスの確認してないから今確認しようと思ってね。君も知りたいだろう?」
「そういう事ですか。じゃぁお願いします」
「じゃぁちょっと失礼するよ、ダリル君」
僕が上着を脱いでうつ伏せに寝ると、あの時同様に僕のお尻あたりにまたがる様にヘスティア様が上る。
「…ふむ」
「どうですか?」
上で何かヘスティア様が小さく唸り声を上げる。
背中を触る手が少し強く僕の背を押す。
どうしたのだろうか。
もしかして、ミスとかあったのだろうか?
あんな急にやったから、何かあっても不思議じゃ無いし。
「…いや、なんでも無いよ。問題もなさそうだし、更新しちゃうね」
「は、はぁ」
ヘスティア様が僕の背中に血を垂らすと、背に刻まれた
横目からチラッと見えた。
「はい、終わったよダリル君。ちょっと待ってね、今紙に写すから」
「早いですね」
「まぁね、更新だけならこんなもんだよ。っと、はいこれ。君のステイタスさ」
ヘスティア様が僕の背中から降りると、茶色い紙にすらすらとステイタスを描く。
ベットから降りて上着を着た僕は、ヘスティア様からステイタスの紙を受け取ると、じっくり見るためにソファに移動して座った。
「…これがステイタスですか」
ステータス
ダリル・アサギリ
Lv.1
力:I 57
耐久:I 49
器用:I 95
敏捷:H 103
魔力:I 0
《魔法》
《》
《》
《》
《スキル》
『血統遺伝子(ブラッドジーニアス)』
・両親から最適な遺伝を受け取ることができ、両親の成長方向に影響を受ける。
・子に自分の最適な遺伝子を引き継がせる。
「どうだい? 始めて見たステイタスは」
「なんというか、ちょっとムズムズしますね。自分の力が数値化されるってこんな気分なんですね」
いつのまにか隣に座っていたヘスティア様が、紙を覗き込む様に寄りかかる様に顔を近づけている。
「それより、いきなりスキルがあるんですね」
「まぁ、珍しくは無いと思うよ? それに多分見る限り君のは遺伝だろうしね」
「ブラッドジーニアスですか」
遺伝子ってなんだろう。
見る限り血統とか、代々引き継がれるものとか?
それに両親の成長に影響を受けるってことは、同じ成長の仕方をするのかな?
まぁ確かめようが無いけど。
いや、それより僕の予想じゃぁ、多分昔から見えるあの
「あれ、スキルがこれだけってことは、あの時僕の体にいたモノってなんだったんでしょうね」
「ん〜、それなんだよねぇ。ボクはそれに関するスキルか魔法が出ると思ってたけど、
ヘスティア様は一瞬首を傾げて悩むと、すぐにソファから立ち上がってだいどころへ向かう。
あまり気にならないのかな。
ヘスティア様、なんか作り始めたし。
既にヘスティア様は包丁を取り出して何か切り始めている。
「まぁ気にしても仕方がないか。じゃぁ僕も荷物の整理をしよ」
僕もそこまで気にかかってるわけじゃないため、紙をテーブルに置いたまま、荷物が置いてあるベット脇へと向かった。