オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
18話 隠された真実。つまりはレアスキルは隠すよね。
「…はぁ」
ダリル君が寝室へと向かうのを確認すると、ボクは動かしていた手を止めて息を吐く。
そのまま包丁を手放し、デーブルの上に置いてあるステイタスが書いてある紙を手にとる。
ボクは、紙を持っていた逆の手で紙に手をかざすと先程まで書かれていたステイタスの文字が、光ると同時に浮き上がるようにして書き換わる。
ダリル・アサギリ
Lv.1
力:I 57
耐久:I 49
器用:I 95
敏捷:H 103
魔力:I 0
《魔法》
『
・精霊を生み出すことが可能。
・生み出すレベルに応じて力や知能が変わる。
・込めた魔力の量に応じて変わる。
《スキル》
『
・両親から最適な遺伝を受け取ることができ、両親の成長方向に影響を受ける。
・子に自分の最適な遺伝子を引き継がせる。
『
・少し先の未来が見える。
・脳内に俯瞰的な周りの映像が見える。
「…まったく。こんなの見せられるわけないじゃないか」
ダリル君の本当のステイタスが書かれた紙に目を落とすと、ボクは本当のステイタスを見せられなくて罪悪感が出てくる。
いや、仕方がないじゃないか。
ボクだって本当は何も隠し事なんてしたくなかったよ。
でもこれは今はまだ見せることができない。
確かに冒険者にステイタスを隠すってかなり危険行為になるだろうけど、あの子は強い。それに、あの
せめてと思い、
これが世間に知られたら、周りの神々がちょっかい出すのが予想できるしね。
でも、他はダメに決まってるじゃないか。
なんだい、
え、ボクは知らないけど下界の子供はこんなこと出来るの?
そもそも精霊って生み出せるの?
いやいや、そんなの神の所業じゃ無いのかい?
あと
名前からしてアウトだし、それに、ダリル君の親って神なの?
半神って事は下界の子供と交わって生まれたって事?
そんなはずがない。
僕たち神と、下界の子供じゃぁ
「…はぁ。ボクには荷が重そうだよ」
思わずソファに座って体重をかけてしまう。
まだお昼前だというのに、精神的疲労で既に疲れが出ている。
「…でも、初めての団員だからね。ボクがちゃんと見ててあげるよ」
そう、初めての
ボクが神友の所から追い出され、眷属になってくれる子供も見つからず、バイトの日々に明け暮れていた日々。
でもようやく一人目、ダリル君がボクを選んでくれた。
なら、彼の行く末を最後まで見守って上げなきゃ、主神の名に廃るってもんだよ!
「ヘスティア様! お昼ご飯まだですかー?」
「あ、ごめんごめん! 今準備するよ!」
後ろからダリル君の声が近づいてくる。
僕は咄嗟にステイタスの紙をソファの隙間にしまい込むと、すぐさま台所へ向かって先ほどの準備を再開した。
ちなみにメニューはジャガ丸くんの醤油炒めだよ!
うむ、我ながらいい出来だよ!
なんかダリル君の目が遠くを見つめてたけど、全部食べてくれたし上手くできたはず。
あ、午後からバイトがあるんだ。
行かなきゃ。
ボクは食べ終わった後の食器を片付けると、ダリル君にバイトに行くと伝えて家を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…もっとたくさん食べたいなぁ」
機嫌がいいのか、鼻歌を歌いながら上へと繋がる扉をあけてバイトへ行ったヘスティア様を見送ると、僕は思わず溜息をついてしまう。
いや、文句は言っちゃダメだ。
せっかくヘスティア様が出してくれたものだ。
それに自信があったのか、上機嫌に出してくれたし。
「それより、この後はどうしよう。暇になっちゃったなぁ」
ソファにもたれ掛かりながら今日の予定を考える。
正直もうダンジョンに潜ってモンスターと戦って見たいけど、エイナさんとモンスターの勉強してからって約束がある。
いや、日付の指定はしていなかったし、もう今日行っちゃってもいいんじゃ無いだろうか。
行って断られたらその時他の案を考えればいいかな。
「うん、そうしよう」
早速僕は、ベット脇の荷物と一緒にまとめていた刀と戦闘用の服をとって身支度をすませる。
「…そう言えばヘスティア様が
服を着ながら寝室にあった姿鏡に目を向けると、この15年間見慣れた紫色の髪がそこにあった。
まぁ、気にしても仕方ないか。
「っと、そう言えばここって戸締りはどうするんだろう。いや、そもそもこの扉、鍵がないのね」
外へと続く扉に手をかけた時ふと思ったが、今見たところ鍵穴もなければ、ヘスティア様が鍵について何も言ってなかった。
そもそもが家と言っていいのか怪しいし、誰も来ないのかな。
一応念の為ここから出るところを人に見られないようにしよう。
「…ん? あれ、簡単に
扉を開き階段を上りながら
僕の脳内には上から眺めたような視界が、半径20メートルほど見えている。
「…人はいないかな」
人がいないのを確認して素早く協会から出ると、あたかも初めから歩いていたかのように自然と道を歩き出す。
「それにしても、なんでこんなに変わったのかな。もしかして、いやもしかしなくても
ギルドへつながる大通りを目指しながら、先程のことを考える。
ん〜、いや魔法やスキルに出てなくても
確か、
「…ひとまずはそれでいいか」
結局のところ理由ないてわからないんだけどね。
僕は小道を抜けて、大きな建物の間にある裏道を抜ける。
その先には見慣れた大通りがあり、目的の地であるギルドがある方向へ足を向けた。
「それで、もう来ちゃったわけね」
「あ、あはは。そうは言ってもこれ以外に予定もなくて暇だったので。もしかして今忙しかったりします?」
「いえ、お昼過ぎは基本的に暇だから大丈夫だよ」
ギルドに来て、受付にいたエイナさんの元へ向かって事情を説明すると苦笑されてしまった。
カウンターの向こうで書類整理をしていたらしく、持っていた紙を机に置きなおした。
「そうね、じゃぁあそこのソファでやりましょうか。座って待っててくれる?」
「わかりました」
エイナさんはソファを指差すと、隣で受付をしていた赤い髪の受付嬢と何やら話し始めた。
彼女も暇だったらしくチラチラと先程からこちらを見ていたが、彼女にいつも見られてる気がする。
もしかして僕を知っているのかな?
僕が言われた通り、柔らかいソファに身を預けていると、いくつかの紙を胸に抱えたエイナさんが向かいのソファに座った。
「じゃぁ始めましょうか。取り敢えず5階層まで出てくるモンスターを教えるね。5階層まではトラップも無いし、すぐに覚えられると思うよ」
「ありがとうございます」
メガネを指で押して位置を直すエイナさんが、とても知的に見えた。
抱えていた書類を綺麗にテーブルに並べると、左から順に1階層の情報が載っている。
左の紙から順に説明を始めてくれたエイナさんによると、5階層まではゴブリンやコボルト、それにリザードやフロッグ・シューターなど比較的対処しやすい、搦め手を使わないモンスターらしい。
「まぁ、そうは言っても集団で襲ってきたり、モンスターが急に湧いて来たり危ない場合も結構あるから注意してね」
「はい。でも、これなら大丈夫そうですね。このモンスター達は知ってたので」
人差し指を目の前に持ってきて注意するように身を乗り出してきた。
慣れているのか、とてもわかりやすい説明だったこともあり、きっとこういう新人への説明に慣れているのだろう。
それでも帰らぬ人もいるのが、ダンジョンなのだろう。
初めは1階層だけにしよう。
エイナさんに怒られたく無いし。
「でも最初は1階からゆっくりと行くんだよ? 5階以上はまだ説明もしてないし、絶対行っちゃダメだよ? その時は私に相談してね?」
「わかりました。エイナさんって説明慣れてるんですね。やっぱり、長年の経験によるものなんですか?」
人に教えるのが上手なのは少し羨ましい。
冒険者を続けていれば、いずれファミリアに新しい団員が入った時に便利そうだし。
「ありがとう。でも、もしかしてダリル君勘違いしてるかもしれないけど、私19歳だよ?」
「…か、勘違いしてませんよ? た、ただ教えるのが純粋に上手くて羨ましいなぁって思いまして」
少し疑いの目を向けてきたエイナさんの眼から逃げるように視線をプリントに落とした。
危ない、まさかまだ10代だったとは思わなかった。
いや、別にエイナさんが老けていると思ったわけでは無いが、身の振る舞い方に大人びた優雅な感じがしたのだ。
エルフは長寿って言うし、そこから勘違いしてしまった。
少し反応に遅れたけど、多分バレてないはずだ。
「そ、それより予定もないので今日1階層に行って見てもいいですか?」
「んー、そうねぇ。異変も報告されてないし、いいと思うよ。でもくれぐれも注意してね? 何かあったら近くの冒険者に助けを求めること!」
「わかりました。じゃぁ、ちょっと行ってきますね」
僕は最後の確認に全ての紙に目を通すと、エイナさんに感謝言葉を述べてギルドを出た。
少し、心配が過ぎるかなとは思ったが、別に嫌な気はしないし、人に心配されるのも少し新鮮で嬉しかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが1階層かぁ」
バベルの塔の入り口で警備をしていた兵士に、ファミリアに入った後でギルドで登録した時にもらった冒険者証を見せると簡単に通された。
その先にあった巨大な螺旋状の階段を降りると、目の前には五人が並んで通れるほど大きい道が続いている。
「…光があるのか」
地下で太陽の光は全くないと言うのに、不思議と周りの様子がしっかりとわかる。
どうやらダンジョン全体が少し光を放っている為らしい。
ダンジョンのモンスターも光なしじゃあ行動できないから、そう言う構造なのだろう。
入り口のためか、幾人かいる冒険者たちの脇を抜けるように早足で先に進んで行く。
1分ほど歩いたところで分かれ道に遭遇した。
一つの道が三つに分かれるように綺麗に3分しており、どこを選ぼうか迷う。
今思えば地図もなしに来たことがかなり無謀に思えるが、まぁ一階層だ。見た感じ人もいるようだし、迷ったら聞けばいいだろう。
それでも一応のため全て道が分かれていたら右を選ぶようにしよう。
「ん? ゴブリンかな?」
右の道を進んでいると、先の方から声が聞こえて来た。
壁に跳ね返ったような反射した声だ。
僕は、聞こえた瞬間に脇に挿してある刀を抜く。
スッと抵抗もなく、素早く抜ける。
先ほどより慎重に足を進めると、棍棒とナイフのような鉄の剣を持っているゴブリンが、5匹見えた。
僕は見つけた瞬間、地面を蹴るように蹴りだす。
「…はやい」
蹴った瞬間視線の横を流れる壁の模様が予想以上の速く、一瞬動きを止めそうになる。
これが
有るのと無いのとじゃぁこれだけ違うのか。
すごい。
「遅いなぁ」
ゴブリンまで後数歩となったところで、彼方も僕に気がつき目があった。
でも、既に僕の間合いにゴブリンはいた。
まずはすれ違いざまに一匹を袈裟に斬り倒そうと振り抜くと、ゴブリンの骨に止まることなく体を両断し、そのまま後ろにいた他のゴブリンの胴体を上下に分けるように分断した。
「何この切れ味。え、冒険者ってこんな凄いの?」
僕はこの時ばかりは本当に驚きで体を止めてしまう。
幸いなことにこの一瞬の出来事でゴブリン側も唖然と突っ立っていたので、襲われる事はなかった。
いや、こんなに簡単に斬れるなんて。
それに刀に傷一つない。
明らかに骨まで斬った筈の刀に刃こぼれが一つも見当たらない。
刀に反射するように刃に着いた赤い血を振り払うと、残っていたゴブリンへ向かって駆け出した。
その後も反撃を食らうことなく、斬り倒したゴブリンの魔石を回収するために胸元に刀を突き刺す。
「うえぇ、気色悪い…。それに刀じゃ上手く取れない」
とめどなく溢れる血で余計に魔石の取り出しを難しくする。
斬り倒しておいてその言い草はないだろうが、苦手なものは苦手なんだ。
やっとの事で五匹分の魔石を取り出すと、その小粒サイズの小さな石を懐に縛っている巾着袋に仕舞った。