オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
休憩を挟んだ僕は、そのまま足を止めることなく道なりを進む。やはり人里離れた所に村があるからか、全然人影が見えない。ここ2日間の間会った生き物といえば、小動物と魚、あとはゴブリン達のモンスターだけだ。
「はぁ、だからこんな凹凸なのか?」
歩きながら地面の凹凸を踏みつけるように力を込める。やはり元々交通量がないからか、誰もこんな所を整備してくれる酔狂者などいないのだろう。まぁ多分、月一で商人が通るくらいか? 僕の村は月一で大きな馬車を連れた商人がくる。
「でもまぁ、こう言うのも悪くないよな。風も気持ちいいし」
左手に森、右手に草原が広がり、自然の香りを運ぶ風が緩やかに体を撫でる感覚は気持ちがいい。
時折上を飛ぶ小さな小鳥のさえずりが、モンスターなどいない安寧を表しているように感じる。
「あ、食われた」
まぁそんなわけ無いよな。
上空では茶色の渡り鳥らしい多くの鳥が飛んでいた中、1匹の
ほんの数瞬の交差で一匹の鳥をくちばしに捉えて、そのまま去っていく。
「何とも、自然界は恐ろしい」
弱肉強食とはこのことなのかと、ワシとは反対方向へ逃げていく鳥達を見て無常観に浸る。
まぁ、これを見てても仕方がないか。そろそろ野営の準備をしなくちゃいけないしなぁ。
雲の隙間から覗く空は未だ青く晴れやかではあるが、草原の奥にある山の方向を眺めてみると、太陽が少し沈みかけているのが見える。
予想ではあるが1時間もしないうちにこの空は茜色に染まるだろう。
「じゃぁ今日の野営地は向こうにある川辺にするとして、あとは夕食の材料か」
草原に走る小川を視界に入れつつ、今日の晩飯になるであろう獲物について考える。候補としては川にいる魚でもいいけど、昨日の夕食は魚だったから今日の夕食は肉がいいな。
「…仕方ない、森に入ってみるか。森の中だったらうさぎの一匹や二匹くらい居るだろうし」
左に広がる広大な森林に目を向ける。森の中では野生動物の他に木の実や果物、山菜などが豊富にあるだろう。まぁ僕は、山菜とか食べられる木の実がわからないから野生動物の一択だろうけど。
別に狩りがそれほど難しいわけでは無いが、心配事がある。先程ゴブリンに襲われたように、ここでモンスターが出ないとは限らないのだ。ゴブリンや狼くらいであれば容易に対処できるが、それ以上の強力な敵になると撤退せざるおえない。
まぁ、マガルさんが言うには地上のモンスターは殆どがLv.1でも対処可能な弱い敵と聞いてる為大丈夫だとは思うが。
「まぁ一応用心はするけどさ」
そう行って僕は左側の腰に挿してある剣の柄の部分に右手で触れる。
「よし、行くか」
森を前にした僕は、しっかりとリュックサックの紐を締めて体に固定する。そのまま少しジャンプを繰り返し、体にフィットするように調節すると、そのまま一歩を踏み出した。
森の中に入ってみると、思った以上に光が地面まで届いていないのがわかる。木の背丈が高いのか、それともすでに日が隠れ出して居るのか。まぁ、そこまで深く森へ入るつもりもなく、この位の光源であれば慣れているため問題ない。
「ん? なんか、
木の根や小さな石が無数にある森を歩くのは思った以上に体力を奪う。森に入って10分ほど歩いただけでそれほど疲労などないけど、ここを一日中以上歩くとなると余程の訓練を積んだものでなければキツイだろうな。僕が森の中での行軍方法を思考していると、目算20メートルほど先に開けた場所があるのが目に入る。
薄暗い森の中にあるそこは天から差し込む光があり、植物が育つには最適の場所であるのがわかる。もしかして、木の実の一つでもあるかもしれない。そう思った僕は少しは慣れた歩き方でスピードを上げた。
「あっ、林檎発見。…でも、何だあの色」
開けた場所に出ると中心に高さ3メートルほどの木が1本立っていた。近づいてみると、その木の枝に一つだけ
しかし、明らかに毒林檎である。まさかこれが食べられるとは思わないだろう。こんな色をした食べ物など見たことがない。
「…はぁ、絶対毒林檎だよねぇ。まぁ一応取っておこうかな?」
近くに寄って眺めてみても到底食べられると思わなかったので、懐から自分のハンカチを取り出し取ってみることにする。毒林檎であれば、それはそれで使い道はある。
まぁ、僕は薬師では無いのでどうにも出来ないが
少しばかり、懐の足しにはなるだろうと思い回収することにした。
「でも、一体
僕は膝を折り地面に手をつき触ってみる。掘り起こしたような跡もないし、人工的にも見えない。
「まぁ偶然だよね」
別にそこまで違和感があるわけでもないし気にする必要はないか。それよりそろそろ野生生物を探さなくてはならない。
「あれから10分くらい歩いたし、そろそろ何かはいるはず」
そろそろ本格的に探さなくては時間的にも余裕がないので、本気で探すことにする。
僕は、荷物と剣を木に立て掛けるようにして置くと、一歩前に出て目を瞑る。視覚という五感が消え、今まで分散されていた集中力が聴覚と触覚に集まっていく。
シンとした静けさが有る森の中で、穏やかな風と共に生まれる草木が揺れる音、それに上空から微かに聞こえる鳥のさえずりだけが情報として僕の中に入って来る。
目を閉じてから10秒ほどした時、僕の集中力が限界まで高まったのがわかった。
目を瞑っていても何故か周りの状況が、脳内に俯瞰的視覚のようなものとしてが生まれてくる。そうして集中力を保ったまま目を開けて、さらに視覚の情報を追加した。
「…ふぅ、これは疲れるんだよなぁ」
いつからだろうか定かではないが、目を瞑り集中力を高めると今のような360度観察できるような、俯瞰的視覚が脳内に現れるようになったことがある。初めの頃は殆ど薄っすらとしか見えなかったが、今になっては数十メートル先までの様子が何となくだが分かるようになっている。
もしかして、これはエルフだからできるのかな? エルフは魔法が使えるって言うし、これは魔法の一種なのか? まぁ、今考えても栓なき事だが。
「よし、行くか」
僕は、その集中力を途切れさせないように注意しながら、先程木に立てかけた剣と荷物を回収し装備する。
そのまま、来た方向と逆の方へ歩くことにした。
暫く歩いていると、脳内に生物の存在を捉える。
「いた。それにこっちに来る」
脳内に映った小動物らしきモノがこちらへ少しずつ近づいて来るのが分かる。ここは待ち伏せするのが良いだろう。
僕は音を立てないようにこの影に隠れ、いつでも剣が抜けるように柄に手を当ててじっと息を殺す。
意識的に吐く息を薄くするようにし、さらに森の生命と同化するように存在感を薄くする。
そう言えば、マガルさんにお前は本当に隠れるのが上手いな、と小さい頃はよく言われていた。10歳頃になると狩人が適任なんじゃないかと言われるまでになったのは懐かしい思い出だ。
おっと、そろそろ来る。
ーーーザザッ
僕が身を隠す木の脇の茂みが一瞬揺れたと思うと、次の瞬間白いウサギが飛び出して来た。
「ふっ」
来たことを感知してから止めていた息を吐くように、一瞬で間合いを詰めると白いウサギめがけて剣を斬りあげる。
ウサギは何が起こったのか理解できるはずもなく、一瞬にして胴体が2分し、地面を血で汚した。
「ごめんね、これも弱肉強食なのかな」
白いウサギという可愛らしい見た目ではあったが、一瞬の躊躇いも見せずに切った。
戦闘での一瞬は命取りである事はよく解っているためそんなヘマはしないが、少しばかりの罪悪感が出るのはどうしようもない。
「せめて、全部食べるからさ」
美味しくいただくのが礼儀というものだ。
僕はそのまま、血抜きをする為切り口を下にしつつ、野営地である森を抜けた先の小川まで行く事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれ? 誰かいる」
森から死んだウサギを片手に草原まで戻ると、そこには一台の馬車が止まっていた。
川辺で馬二匹が水を飲み休んでおり、隣でブラシを片手に中年ほどのおじさんが馬をゴシゴシと磨く。一方の馬車では商人らしき綺麗な服に身を包んだ壮年の男が馬車で荷物整理をしている。
どうやら、彼らもここで一晩を明かすらしい。
西の方に目を向けると、既に太陽の半分ほどが姿を隠し、先ほどまで青かった空も夕焼けにより赤く染められている。
「こんばんは。もしかして貴方方もここで一晩?」
どうせ同じとこで夜を明かすのだ。ならわざわざ場所を変える必要もないだろう。僕は、馬車の近くまで近づくと声を掛けた。
彼方も少し前から僕が近づくのに気がついており、視線が合っている。
「え、えぇこんばんは。そうですね、今日はここで一晩明かすつもりです。貴方も?」
少し訝しげな視線をこちらへ向けて、姿勢を正す。商人だけあって背筋が伸び綺麗な佇まいではあるが、顔には警戒の色が浮かんでいる。
あれ、もしかして警戒されているのか? 何でだろう。
「そうですね、川辺も近いので夕食にと、先ほど彼方の森でウサギを狩っていたんですよ」
後ろに見える大きな森を指差し、先程手に入れた獲物をよく見えるように少し上に上げる。まぁ商人さんはちゃんと野営の準備してるだろうし、大丈夫か。
一瞬これから食料調達だろうか、と心配になったがよく考えてみればあれだけ大きな馬車があるのだ。食料を積んでないわけがない。
「あぁ、そういう事でしたか。…ならこれも何かのご縁ですし、夕食をご一緒しますか? 私共の馬車に幾らか食料もありますので、それだけでは物足りないでしょう?」
先ほどまで浮かんでいた警戒の色が少し薄れ、今度は綺麗な笑顔で夕食を提案して来た。
この様子を見るに、どうやらこのウサギのせいで警戒されていたのだろう。先程からチラチラとウサギへと視線が向いていたし。やはり血塗れのウサギを、道に血液を垂らしながら来たのはまずかった。流石に初対面でこれは不審人物と思っても仕方がないか。
「そうですか、それは有り難いですね。良ければ僕が取ってきたウサギも食べますか?」
「え、えぇそうですね。美味しそうな立派なウサギですな」
「あはは、どうやらこういうの苦手みたいですね。すみません」
僕がウサギを提案すると一瞬頰を引きつらせている。
どうやらサバイバル的な食事は慣れていないらしく、思わず苦笑いしてしまう。もう少し配慮したほうがよかった。
「も、申し訳ありません。どうもそういった類の物が苦手でして。あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私、
「そう言えばそうでしたね。僕はダリル・アサギリと言います。
別に狩って食事するのが苦手なのは悪くない。うちの村ではよくある事だが、外、都会ではそんな事滅多にないだろう。そうではあるがこの人は、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
その後すぐに、自己紹介をしていないことに気がついた。
どうやら彼、フーリムさんは
「基本的にはそうですね。地方から特産品を取り入れたり、逆に
地方からの特産品、後は
「僕は冒険者になる為に、
「あぁ、すみません気が利かなくて。どうぞ。じゃぁ私は焚き火の準備をしますね」
僕も自分の自己紹介を終えたところで、今だに持っていたウサギが血塗れであることを思い出す。早く洗わないと血の匂いが取れなくなってしまうので、会話を切って、川へ洗いに行くことにした。
伏線?多くてすみません。ちゃんと回収するんで許してください