オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか 作:アルアール
あれから僕は、フーリムさんの好意に甘え
「いい天気だなぁ」
ほとんど整備されていない道を、ガタンガタンと音を立てて進む馬車。とても快適とは言えないがそれでも歩くよりはだいぶ楽になった。でも、揺れるたびにお尻が痛い。
僕は運がいいらしく、村を出発してから雨に遭遇することもなく、上にはきれいな青空が広がっている。
「そうですねぇ、ここまで順調ですし何も起こらないといいですけどね」
「あとどのくらいでしたっけ?
僕の声が聞こえたのか、馬を扱う御者の隣に座っているフーリムさんから声が聞こえてきた。
僕は、空を眺めながらなんとくなく聞く。そこまで気にしてるわけではなく、ただ暇なので話を続けようかと思っただけだ。
「そうですね、いつも通りだとあと2日くらいですね」
「そうですか、っとフーリムさん馬車を止めてください」
あれから4日ほど過ぎており、あと二日で
意外と早いものだなと思い今までの道程に思いを巡らせていると、僕の
「っと、ダリルさん。どうしました?」
「モンスターです。フーリムさん達は下がっていてください」
いきなり声を上げて馬車から降りた僕に、慌てて馬車を止めてこちらへ寄ってきたフーリムさんに忠告した。
見たところ、フーリムさん達は武器を持っているようには思えなく、ここは僕が対処しようと思った。
でも、今回は僕がいたけれど、いつもはどうしているのだろうか。
確かに、地上にいるモンスターは弱いと聞いたけれど、さすがに武器もなしに相手などできないはずだ。
もしかして、何か秘策でもあるんだろうか?
「モンスターですか? 見たところ何もいないようですけれど」
静かな森を見つめ、戸惑ったような声を上げているが、僕は集中を切らさぬように、ジッと身を構える。
「…わかりました。では私たちは馬車の後ろに隠れてますね」
どうやら僕の真剣な表情から察したらしく、フーリムさんが御者に声をかけて後ろに下がっている。
本当は詳しく教えたかったが、
フーリムさんに申し訳なさを覚えつつ、いつもと同じように息を薄め静かにその時を待つ。
「ッガアッ」
「…きた!」
真っ赤な血走った目がこちらを獲物として捕らえている。飛び出してきた狼は、そのまま勢いを殺すことなく僕めがけて襲い掛かってくる。
やはり狼だけあってあのゴブリンとは違い、スピードが段違いだ。一瞬にして10メートルはあったであろう間合いが詰められる。それに、残りの四匹の狼が今、森から姿を現したのが見えた。早いけど、
「ふっ」
狼が僕めがけて飛び上がってくるが、既に其処は僕の間合いだ。僕は腰を沈めると、刀に添えていた手をそのまま一瞬で抜き放つ。
「ッギャア!」
さすがモンスターだけはあるらしく、その真っ赤な視線が僕の刀に一瞬視線を向けるが、空中で回避行動を取れるわけもなくそのまま袈裟に切り裂かれた。
そのまま振り抜いた状態で僕は残りの四匹へ向けて駆ける。モンスターの狼は仲間がやられた事に動揺すら見せずに、四匹は僕を取り囲むかのように動き出した。
でも、遅い。
「はぁ!」
僕は正面からこちらに向かって再び噛み付こうとしてきた狼を走って居る勢いに任せて蹴り飛ばす。それが防御が薄いお腹に直撃すると呻き声を上げて、狼は吹き飛ばされ、そのまま力尽きたかのようにピクリとも動かない。
僕が行った蹴りの動作を隙と見た二匹の狼が、
僕は右手に持っていた刀の柄の部分を右から迫ったオオカミの顔面めがけて叩きつける。一方の狼の方へは、刀をぶつけた拍子に、体を逸らし避ける。
そのまま、顔面を陥没させて地面に倒れ伏した狼の心臓部に刀を突き刺す。
弱い。
やはり、マガルさんが言った通り外のモンスターは弱いな。
マガルさんの10分の1のスピードも出ていない。
「どうだ、まだやるか?」
そう声を掛けるが、どうせ聞こえてないだろう。そう思い、今までずっと警戒してこちらを眺めていた
残りをどうしようか。まぁ、別にそこまで強敵では無いから普通に斬り伏せてしまえばいいか。
「ん?」
そのまま斬りかかろうと身を乗り出そうとした瞬間、一番奥で身を構えていた白い狼が一鳴きすると、そのまま残りの一匹を連れて森の茂みへと飛び込んだ。
「撤退するのか」
モンスターも撤退するんだな。
意外な一面を見た僕は、そのまま
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、凄いですね。まさかあれほど動けるとは」
「そ、そうですか? 別にこれくらいのことなんて、出来る人はいくらでも居ると思いますけど」
僕が倒したモンスターの魔石を回収して居ると、上機嫌な声でフーリムさんが近づいてきた。
すごいと言っても、別にここはダンジョンじゃ無い。外のモンスターだってマガルさんが
「それは、恩恵を受けたこと前提の話ですよ。自前の身体能力であれだけ出来るのは相当な訓練を積んだんでしょう」
「…そうですか。それより、今日は僕がいましたけど何時もはモンスターに襲われたときにどうしているんですか?」
なんと、恩恵を受けたこと前提なのか。
それじゃぁ、恩恵を受けられないオラリオ以外の村人とか対処がきついんじゃ無いか?
僕の村は基本的にマガルさんが対処してたけど、他の村にもそう言う武芸が達者な人が対処してるのだろうか。
「あぁ、何時もは私が対処してます。そうでなきゃ商人なんてできませんよ」
「と言うことはもしかして
フーリムさんが苦笑いを浮かべている。
予想に反して、意外と商人は強いらしい。さっきの話を参考にするならフーリムさんはもしかして、
「えぇ。そうです」
ふむ、まさかこの人が
気配的にそこまででは無いと思うけど、もしかするかもしれない。
そもそも
「それと、先ほどは何でモンスターが来るとわかったんですか? あそこからじゃあ見えなかったと思うんですけれど」
やはり、フーリムさんは少し疑問の表情を顔に浮かべ、あの事について聞いてきた。僕も説明できるならしてもいいとは思っているが、どうしてもうまく説明できる気がしない。
「…
「…そうなんですか。もしかしたら魔法なのかもしれませんね。ダリルさんはエルフなので血に依るものかも知れません」
答えにならない説明だったが、フーリムさんは自分なりの答えに至ったらしく、納得げに頷く。
やっぱりこれはエルフだからなのか? 魔法によるものか。
まぁ別に今までにこれにデメリットを感じたことなんてないしそこまで気にはしないけど。
「じゃぁそろそろ行きますか。魔石の回収も終えたようですし」
「そうですね、じゃぁ行きましょう」
フーリムさんは、魔石を腰巾着へ入れた僕を見て提案する。僕は、馬車へ向けて歩き出したフーリムさんの後を追った。
馬車に着くと、再び道を走り出した。
モンスターが出て、一時馬が興奮していたらしいが、僕たちが話している間に御者の人が落ち着けていたらしい。御者の人もこう言う出来事に慣れているみたいだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…さん。…ましたよ!」
「…んあ、あれ。寝てたか」
モンスターの襲撃からちょうど2日が過ぎ、今日は遂に
あれからなんの襲撃もなく、面白みのかける道中のなってしまったためか、既に馬車の揺れにも慣れ、僕は穏やかな風の気持ちよさに負けて眠ってしまっていた。
僕は誰かの声に意識を覚醒させる。
どうやらフーリムさんが何かを言っていたらしく、目覚めたばかりで重たい瞼を擦りつつ御者台の方を向くとフーリムさんと目が合った。
「ふあぁ。どうしました?」
思わずアクビが出てしまい、口を手で隠す。
「いえ、外を見てください! 遂にきましたよ。
ニッコリと笑顔を向けて外に目を向けるフーリムさん。
どうやら遂に僕らの目的地である
そう言えば、先程から今までに無いように喧騒が少し遠くの方から聞こえるのに気がついた。今までの静けさ、鳥のさえずりだけの退屈な物ではなく、賑やかとも表現できる喧騒。
僕は逸る気持ちを抑えて、馬車から身を乗り出して外を見る。
「…これが
僕が視線を向けた先、目算1キロほど先に大きな城壁に囲まれた街があった。高さ10メートルはあるだろう大きな城壁だ。見るからに頑丈そうであり、モンスターからの襲撃に耐えられる作りになっていそうだ。
それに、
本当に凄い。比べるのも悪いが今まで僕がいた村とは大違いだ。そもそも何この大きな城壁は。外にいるモンスターなんて弱いのにそこまで警戒する必要あるのか?
それに、随分大きな街だ。さすが世界中から多種多様の種族が集まる街と言われるだけはある。
「どうでしょう。これが多くの神が住まい、多種多様な人種が冒険者に憧れてできた街、
前から少し誇らしげな声が聞こえてくるが、僕は目の前の光景から視線を外せない。
「フーリムさん! 早く行きましょう!」
「あはは、そうですね。じゃぁ急ぎましょうか」
見たい、もっと近くで。
フーリムさんは、僕の急かすのを笑って受け入れてくれた。
ここから見える限り、
僕の声を合図に、フーリムさんはその検問に並ぶ列に続くように方向を変えた。
次からオラリオ編に入ります。