オラリオで日常を謳歌するのは間違っているだろうか   作:アルアール

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9話 お祭りが近い。つまりは宿の準備くらいしとかなきゃね。

「え、じゃ、じゃあ、()()()予約で一杯って事ですか?」

「えぇ、申し訳ございません」

30を過ぎたあたりであろう壮年の男性が申し訳なさそうに頭を下げる。下げた拍子につむじが禿げかけているのが見えるが、僕はそんなの見ている余裕がない。

僕の顔に冷や汗が溜まっていくのが分かる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

あの酒場、聞いたところによると『豊饒の女主人』と言うらしいが、そこでの昼食を終えた後に僕は宿探しへ向かうことにした。

思った以上に長居していたらしく、既に太陽は斜めに位置しているが宿くらい直ぐに見つかるだろう。

大丈夫なはずだ。

 

僕は豊饒の女主人が面している大通りから、虱潰しに探そうと歩き回った。

しかし、それから直ぐに自分だけで探すのはキツイと感じた僕は、既に相棒となりつつある地図を取り出して眺める。

 

「お、書いてあった」

期待通りに、そこには新人冒険者が泊まれる様な、ある程度環境が整っていて安い宿に印がいくつか描いてあった。

ギルド職員の2頭身の似顔絵でわかりやすくマークがあるが、この地図は本当に親切の塊である。

 

地図には全部で五つの宿が書いてあった。

どうやら宿は迷宮都市(オラリオ)の入り口の門からバベルの塔まで続く大通りに密集しているらし、そこの通りにマークがあった。

 

「じゃぁ一番近くのでいいか」

別に宿にこだわりなどない。僕的には直ぐにでも宿を取ってギルドに向かいたいため、直ぐ近くの宿にすることにした。

 

脇道で地図を広げていた僕は、慣れた様子で人の流れに乗るとそのまま目的地まで足を進めた。

 

 

 

 

 

目的地となる宿は豊饒の女主人から10分ほど離れたところにあった。

3階建の広さが20畳はありそうな大きな建物であり、見るからに部屋数も多そうだ。

それに外壁がまだ欠けたところも少なく、玄関横に生え揃った花々が綺麗に手入れされている事から、良い宿であると推測される。

 

よかった、これならちゃんと寝れそうだ。

言い訳ではないが自分もエルフであるためか、少しばかり身の回りの綺麗さに煩い。

泊まっている部屋に虫が出た日には、勢い余って部屋を飛び出しそうである。

 

僕は宿の外装の様子から一安心すると、そのまま木製の扉を開く。

開けた拍子にチリンチリンとベルが鳴り、その音で気がついたのか、受付らしきヒューマンのお兄さんが近づいてくる。

 

店の中はこれまた綺麗に掃除がなされて、ほとんど汚れが見えない。コンクリートで施工された壁は綺麗な白色を保っており、木製の床には絨毯が敷かれており、泥などが殆ど付いていない。

 

「いらっしゃいませ。どの様なご用件でしょうか」

「泊まりたいので、部屋を一つお願いします」

「申し訳ありません。本日は既に予約で一杯でして空きがありません」

受付の青年が申し訳なさそうに頭を下げる。フサフサの髪の毛が頭を下げる拍子に揺れるのが見えた。

 

だめかぁ。すごく綺麗だし良い宿だったんだけど、それだけあって人気なのかもしれない。

本当は直ぐに荷物を置いて少し一息つきたかったけれど仕方がない。

 

僕は、諦める旨を伝えると、後ろを振り返って宿を出た。

泊まれなかったものはどうしようもない為、気を取り直して次の宿へ向かうことにする。

 

「…あっちか」

わかりやすい地図を頼りに次の宿に向かう。

既に慣れて人混みを、元来から良かった気配察知能力を頼りに抜けると次の宿の目の前まで来た。

この宿も前の宿と同じ様に綺麗な外装だ。

見た感じ十分期待が持てそうだ。

 

僕は、綺麗に縁取りされた木製のドアを静かに開けた。

 

 

 

 

「申し訳ありません。部屋は既に満室でして…」

目の前で中年のおばちゃんの髪が、頭を下げると同時にファサッと舞った。

 

ま、まぁまだ二つ目だ。さっきも言ったがここも見た感じ十分に良い宿だ。だからだろう、人気があるから泊まれないんだな。

 

僕は再び諦める旨を伝えると宿を出る。

宿から出ると人の邪魔にならない様に脇に逸れて地図を出す。懐からペンを取り出してダメだった宿にばつ印をつけると、次の候補となる宿に向かうことにする。

今度こそ大丈夫だろうと、少しの不安があるものの、微かな期待を持って次の宿へ向けて足を動かした。

 

 

 

 

 

「…ま、まさか全部ダメだったって。それはないだろう」

僕は地図を片手にベンチに腰をかけた。最後の宿を回りきるまでに1時間の時間を要し、そして最後の宿に断られて気を取り戻すのにまた1時間ほど時間がかかった。

 

今はバベルの塔の前の、先ほどもいたベンチに腰をかけている。

 

既に太陽は真横まで来ており、僕の横顔をオレンジの日差しが照らしている。

どうやら、迷宮都市(オラリオ)の夕焼けもオレンジらしい。

 

あぁ、どうしよう。

 

「そう言えば、最後に行った宿の店主が言ってたっけ」

30歳を過ぎたばかりの壮年の男性が頭を下げた後、僕は少し放心してしまったが、そこに居座るのも迷惑のため諦める申し出をすると直ぐに宿から出ようとした。

しかしその時、あのおじさんが親切にもなぜ宿が取れないのか教えてくれた。

 

どうやら、あの品評祭(フェアーフィリア)が原因らしい。

品評祭(フェアーフィリア)の時以外にも迷宮都市(オラリオ)で行われるイベントの時は、大抵1週間前から宿は予約で一杯一杯らしい。

どうやら迷宮都市(オラリオ)で行われるイベントは他の町からの評判も良く、それが目的で訪れる観光客も多く、その時に乗じて一儲けしようと商人も集まるためだそうだ。

 

その事を考えるともしかしてフーリムさんも、この時期を見計らって迷宮都市(オラリオ)に帰って来たのかもしれない。

 

「それより本格的に不味くなって来た」

本当は今頃はギルドからいろいろなファミリアの情報を聞いて、そのファミリアの拠点を回っているはずだったのに。

せっかく憧れの迷宮都市(オラリオ)に来たって言うのに、冒険者に睨まれるわ、変な視線を感じるわ、宿は全然見つからないわで散々な結果だ。

まぁ、ある程度の困難はマガルさんに言われて予想してたけど、初日からこうなるとは思わなかった。

 

職なし、家なし、金もわずか。

これは所謂‘ホームレス’って奴だろうか。

何処かの神が書いた本に書いてあった気がする。

 

「うぅ、マガルさん。僕は街に居ると言うのに、初日から野宿を経験することになりそうだよ」

僕は思わず頭を抱えてしまうが、そうは言ってられない。どうせ今までの旅で野宿には慣れたんだ。

ならせめて、ギルドに入ってファミリアの情報でも聞いてこよう。そうすれば明日の朝からファミリアの拠点に回れるだろうし。

 

僕はひどく沈んだ気分と、慣れない街に疲れたのも相まって、重くなった腰をなんとか上げる。

 

そのまま地図を片手にギルドまで歩いていく。

ギルドは迷宮都市(オラリオ)の入り口から伸びる大通りと反対側の、バベルを挟んだ形で伸びる大通りにあるらしい。

僕は朝に比べて非常に重く感じる足を動かして向かっていく。

 

そのまま10分ほどでギルドまでついたのだけど、目の前のギルドの入り口には時間的にダンジョンからの帰宅組が多いらしく、大きなリュックを背負った人や武器を持った人が多く行き来して居る。

 

「今行っても大丈夫かな。人が多そうだし、聞いてる暇なんて無いだろうなぁ」

見た感じ、どうやら時間が悪かったらしい。

 

「…はぁ。どうせ宿が無いんだ。ならもうちょっとここで待ってよう」

僕はギルドの脇に伸びるレンガで囲まれた花壇の、レンガの部分に腰を下ろす。

どうせ野宿は決定事項なんだ。今更何分待とうと変わんないよな。

 

上を見上げると、空には既に薄っすらと月が姿を現し、太陽は茜色に染まってバベルの塔に隠れる様に沈んでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

「…っと、そろそろいいかな」

既にあたりは真っ暗になっているが、僕の居た村とは違って街灯がいくつも灯っており、あたりの様子がわかる様になっている。

それにギルドの入り口が開けられていて中から光が漏れているためか、今僕がいる塔の前の道路は昼間の様に光が集まっている。

 

僕はギルドに出入りする冒険者が減ったことを確認すると、重い腰を上げた。

そのまま気合を入れてギルドの入り口へ向かう。

 

「…はぁ、疲れたなぁ。エルフは筋肉付きにくいから体力も多く無いんだよなぁ」

思わず歩きながら愚痴を漏らしてしまう。

エルフは魔法が得意と言うのもあるが体力や筋力が絶望的に冒険者に向いていないから、後ろで魔法を唱えたりと後衛がほとんどらしい。

 

開いた状態のギルドの扉を抜けると、そこには高級感が溢れる受付が広がっていた。

天井には明るい光が点々と配置されていて、比喩表現なしに今が昼だと勘違いさせる。

入り口から10メートル先に受付が設置されており、左右の脇の方にはいくつか椅子が置いてあり、紙がいくつも貼ってある掲示板が壁に付けられている。

 

宿の時も思ったけど、迷宮都市(オラリオ)ってめちゃくちゃ豪華だよなぁ。何処からお金が出てくるんだろう。

ダンジョンからかな。

 

僕は、ギルド内の内装を唖然と眺めながら受付に向かって歩いていく。

受付には受付嬢の女性たちが何名か座っており、皆疲れた様子をしている。

まぁ、あれだけの冒険者を相手にしたら疲れるよね。

 

僕は、一番疲れを顔に出していない、偶然だが同じエルフの女性の元に向かうことにする。

受付を見た時に、赤髪の女性と一瞬目が合った。合った途端に何やら目を見開いていたけどどうしたんだろう。

まぁいいか。

 

「すみません。ちょっと聞きたいことがありまして…」

「はい。なんでしょうか?」

受付に近づいてエルフの女性と目が合う。

彼女は僕が近づくと同時に立ち上がって笑顔で迎えているあたり、かなりプロ意識が高い。

普通、自分が言うのもなんだけど、この時間に来られても相手するのも面倒だと思うけどなぁ。

 

でもよく近くで見ると、エルフらしさのシュッとした端正な顔立ちが少し柔らかさを帯びた感じがする。エルフは美形なせいか、キツイ印象を与える事があるのに。

 

「実は冒険者になりたくて迷宮都市(オラリオ)に来たんですけど、どんなファミリアがあるか分からなくて…。良ければ教えてくれませんか?」

「えぇ、いいですよ。じゃぁこれから説明するので彼方のソファに腰をかけていて下さい」

彼女は、僕の説明を聞くと納得げに頷いて、受付の脇にあるソファを指差す。

 

僕はそのままソファへ向かって腰をかける。

 

「うおっ。沈んだ」

腰をかけた途端に全身が包まれたように沈んだ。

 

なんだこの椅子は。ここまで柔らかいソファがあったなんて!

 

「…ふうぉー」

思わず頬がニヤケてしまう。

まるでベットに横になったかのように、体から力が抜けるのがわかる。

だめだ、この後すぐにエルフさんがくるんだ。こんなニヤケ顔をしてたら気味が悪がられてしまう。あぁ、だめだ。

 

「ふふふっ。気持ちいいですか?」

「…は、はい」

どうやら見られたらしく、近くまで来ていたエルフさんが書類を胸に抱えて微笑んでいる。

 

正直この情けない姿を見られて恥ずかしい気持ちでいっぱいだが、エルフさんが目尻を下げて笑っている姿を見れたことを考えれば悪くないかもしれない。

エルフより少しだけ丸みを帯びた輪郭が、エルフ特有の‘美’と言うより可愛いと言う印象を与えている。

 

「じゃぁ、説明始めちゃいましょうか」

「そ、そうですね」

エルフさんが向かいのソファに腰を下ろしたので、僕も背筋を正して正面を向く。

 

「初めに自己紹介しちゃいますね。私は今回貴方の担当をさせていただく、エイナ・チュールと申します」

「あ、僕はダリル・アサギリと言います」

エルフさんの名前がエイナさんと言うらしい。

僕も後に続くように挨拶するとエイナさんが、目尻を下げてほほ笑んだ。

 

やっぱりきれいな人だなぁ。

 

僕は、優しく笑うエイナさんを見て、彼女に話しかけてよかったと実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 




話が進まんぜよ。
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