畏れよ、我を   作:hi・mazin

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次回予告? なにそれ?
神会……来週じゃね?





第十話 私のコミュニケーション能力は最強である

 

 

 

ふう、家計簿つけてたら遅くなっちゃった。

ベル君怒ってるかな? 一応、食事代も追加で2000ヴァリス用意して来たからベル君がぼったくられていても大丈夫だろう。

 

まぁ、いくら彼が押しに弱いからと言って、漫画の一コマみたいに頼んでもいないのに大量の料理を出されるという展開は流石にないだろう。

 

……ホントにそんなことないよね、お金足りるよね? あの店は良心的なお店だよね。ぼったくらないよね。

 

おっと、考え事をしてるうちに豊穣の女主人が見えてきた。 

 

うーん、まだ少し距離があるのにお店の喧騒に何かしらの料理の良いにおいが私の鼻をくすぐり、お腹がグーグー鳴りはじめたぞ。今日はせっかくの外食なんだしちょっとくらい奮発してもばちはあたらないよね。

 

ん? お店から白髪の少年が勢いよく飛び出して行ったが・・・あれ、ベル君じゃない?

いやいや、多分私の勘違いさ。

だって私と待ち合わせをしてるのに先に帰るなんて常識はずれなことをあの純朴少年がするはずないさ。

 

ん、次出てきたのはアイズ・ヴァレンシュタインさんじゃない? 鎧は装着してないけど、あの顔は忘れたくても忘れなれないからね。

 

やば、目が会っちゃった。どうする? 挨拶しといたほうがいいかな、でも、挨拶したら多少なりとも会話が発生して時間をとられるな。

 

しょうがない、ベル君も待ってるし、お腹もペコちゃんだし、軽く会釈だけして中に入ろう。そして脳内孤独のグルメごっこしながらご飯をたべよう。あれ一回でもやるとクセになっちゃうんだよね。

くぅ~考えてたら益々お腹がすいて来ちゃった。

 

あ、アイズ・ヴァレンシュタインさん、こんちわ~す。ぺこっとお辞儀をしまして、こら何か会話したそうに私を見るな、私はお腹がすいているんだ、ご飯の後ならいくらでも相手してあげるからまたあとでね。

 

よし、いくぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

悲報、私が入店したらお客のテンションがダダ下がりした……

 

 

 

 

 

なぜだ! たった一年でなぜ、こうまで怖れられる。可笑しいだろ、私を転生させてくれた神様、貴方私に変な呪いでも掛けました?

 

い、いや。あの人の好さそうな神様がそんな意地悪をするとは思えない。これはおそらく私のコミュニケーション能力に問題があるのだろう。

 

いや、思い起こせばこの世界に転生して女神様に拾われてから、ギルドの職員と商店の店員さんとしかちゃんとコミュニケーションを取ってこなかったな。

 

ほかの冒険者とは一度トラブルを起こしてからは、またトラブルに巻き込まれるのが嫌で積極的には関わってこなかったし、相手も私に必要以上に干渉してこなかったから、あえて見て見ぬふりしていたが……これは『カースメーカー』を知らない人には『何か怖くて近寄りがたい人』と思われても仕方がありませんね。

 

ああ、これなら店の前にいたアイズ・ヴァレンシュタインさんとがっつり会話しながら入った方がまだましだったかな。

きっと周りからなんで二人一緒なんだ、と思われるかもしれないけど、この空気よりはるかにマシだっただろう。

 

私のバカバカ、目先の事に捕らわれて大事なことを見落としているではないか。しかし悔やんでも仕方がない、一年たってようやく気が付いた事実、ベル君も加入したことだし心機一転、他人にバンバン関わっていこう。そして私こと、カメ子は噂通りの人ではないと認知してもらうのだ。

 

うん、あそこのテーブルで宴会しているのってロキ・ファミリアの皆さんではないか。

 

これはちょうどいい、あのファミリアの皆さんにも私が危ない奴だと誤解されてるし、ちょっと挨拶しておこう。

 

「い、いらっしゃいませだニャ~」

 

猫耳店員さん、引きつった笑顔で対応してくれていますが、席に着く前にロキ・ファミリアとお話があるんでまたあとでね。

 

……さて、がんばれ私、この対応を間違えると私の誤解はさらに強固なものになる怖れがある、慎重かつ、フレンドリーに挨拶するのがベストだ。だがしつこく話しかけるのもℕGだ、相手の気分を害してしまう恐れがある

では、行くぞー!

 

ロキ・ファミリアのテーブルからは笑い声が聞こえて楽しそうだ。お酒も入ってるし、これなら多分挨拶したら普通に返してくれるかもしれないな。

 

<予想>ホワンホワ~ン

 

カメ子「こんばんわ、楽しそうなお話をしてますね。私にも聞かせてもらえないでしょうか」

 

ベート「おお、いいぜ!(酔ってる) 席も空いてるし少し話そうぜ」

 

ロキ「あんたヘスティアのとこの眷属やろ、だったら断る理由はないわ、みんなもええな?」

 

エルフ「もちろんよ、一緒に飲みましょう」

 

アマゾネス「よ~し、じゃぁ、飲み比べとしゃれこもうじゃない」

 

カメ子「わ、私、お酒って飲んだことなくて(この世界では)」

 

ベート「なんだ、初めてかよ。なら俺が飲み方を教えてやるよ」

 

みんな「ははははははは」

 

 

うん、なんだかいけそうな気がする。あとでアイズ・ヴァレンシュタインさんも帰ってくるはずだから、その時改めてお話をして私の誤解を解こう。では、さっそく声をかけるぞ~、こんばんは、何話してるの、私にも教えてよ~

 

 

 

 

 

 

その日、『豊穣の女主人』の空気は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酔っぱらった冒険者たちの喧騒でうるさく、活気のあった店内の空気は彼女の入店と共に下がり始める。

 

『イカレ女』 蔑称でありながら、まるで二つ名のように扱われオラリオでその名を知らない者の方が少ないといわれる冒険者。

 

そんな彼女が店の中央付近で宴会しているロキファミリアに向かって足を進めているのだ。

 

「い、いらっしゃいませだ…ニャ~」

 

豊饒の女主人亭の猫人のウェイトレス、アーニャ・フローメルがこの空気に負けず話しかけるも、彼女はそれを無視し、さらに足を進める。

 

そして、周りの冒険者たちはさらに緊張に身をこわばってしまう。

 

「ねえ。楽しそうな話だね。私にも聞かせて?」

 

その瞬間、さらに空気が重くなるのを店の客たちは感じ取った。

 

なぜなら、先ほどまであのテーブルでは彼女と同じファミリアの仲間を笑いものにしていたからだ。

 

イカレ女の腰巾着、ビビれば御主人様ほっといて逃げる赤糞野郎、糞に告白されるアイズ可哀想…などなど

 

「…おい、イカレ女。それ、どういう意味だかわかってんのか?」

 

レベル5であるベートから尋常ではない殺気が漏れ出し、何人かの冒険者はその殺気から逃げるように目線を外したり、お代をテーブルに置き巻き添えを食わないよう静かに立ち去っていく。

 

しかし、『イカレ女』はそんな殺気など微塵も感じていないようでいつもの能面顔で言葉を吐く。

 

「なんで怒っているの? 単純に楽しそうに話しているから気になっただけ」

 

「白々しいセリフ吐きやがって! 喧嘩売ってんのか!!」

 

「よさないかベート! 元々は我々がモンスターを逃がしたことが原因だ。それなのに彼女の仲間を侮辱したのだ、彼女の怒りはもっともだ、なのに責めるのは筋違いだ」

 

「ああ!!」

 

怒りに任せて席を立ち、小女に掴みかからんとするベートを同じ席のリヴェリア・リヨス・アールヴが咎める。

それで怒りが収まるベートではない、しかし、今まで黙っていた主神ロキがリヴェリアの言葉を認める。

 

「もうそのへんにしときやベート。同じファミリアの家族を馬鹿にされて黙ってるほうが可笑しいやろ」

 

納得はしてなくとも主神の言葉に舌打ちをしながら席に座り、イライラを抑えるために酒を飲み始めるベート。

 

先ほどの空気がだいぶ緩和され、店の客もそれぞれ飲みなおしはじめ、臨戦態勢のウエイトレス達も配膳に戻り、女店主は『やれやれ』とばかりに仕事に戻る

 

「うちの子が失礼してほんまかんにんな。しかし、仲間のために格上のベートに絡んでいくなんて、前会った時より人間らしくなったんとちゃうか」

 

「私は元から人間。女神様だってそう言ってくれてる……あと、ベル君は仲間じゃない」

 

ロキは彼女の言葉に少しショックを受ける、何せ彼女は嘘を言っていないのだ。

 

「……そうか。でも悪くは思ってないんやろ?」

 

「うん」

 

「そうか、今回の事はほんまに悪かったな。今度会うときはもう少し仲良うしようや」

 

「うん」

 

短い返事だったが一連の言葉に嘘はなかった。もう少し彼女と話したかったが、周りの目もあったため早々に話を切り上げた。

 

彼女も納得したようで、ウエイトレスのシル・フローヴァの案内に従って店のカウンター席に腰かけたようだ。

 

「あのドチビも難儀な子を眷属にしたもんやな。まぁ中々可愛らしい子やし、今度会ったら改宗でも薦めてみようか」

 

そう漏らしたロキの目線の先では女将より大盛りの料理を出されたカメ子がキョトーンとしている姿があった。

 

 

 

 

 

 






ベル君は

仲間=×
家族=〇

と認識しています。

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