畏れよ、我を   作:hi・mazin

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今回、時系列関係なし。





番外編 【ヘスティア・ファミリア】

 

 

 

 

女神ヘスティアにとって彼女は放ってはおけない存在である。

 

最初の出会いは雨にうたれ、ずぶ濡れになった彼女を保護したとこからである。

 

そのころの彼女は全てに絶望し、生きることを半ば諦めていた状態であった。

 

彼女は言う、『私がこの世界にいること自体間違いである』『別の世界で生きたかった』

 

ヘスティアはそんな彼女の境遇を憐れみ、自身の眷属に誘った。彼女は戸惑っていたようだが、最終的には眷属になる事を了承した。

 

しかし、彼女に恩恵を与え、発現しているスキルを見た瞬間、ヘスティアは悲しみで胸を締め付けられる。

 

彼女に発現したのは【呪詛】その効果は【恐怖】を植え付け意のままに操る術である。

 

発現されるスキルは今までの経験や出来事が深く関わるといわれている。ならばこの子は、今までどのような恐怖に晒されてきたのだろう。

 

そんなこと目の前の少女の無機質な目を見れば想像するまでもない。

そんなこと目の前の少女を縛る拘束具を見れば想像するまでもない。

その苦しみを想像するだけで悲しみで涙が止まらなくなる。

 

彼女は絶対にヤバい所から逃げてきた可哀想な子だと、半ば確信していたヘスティアは彼女を連れ去りに来るであろう悪漢共の襲撃に備えて鉄パイプを握りしめ、頭に鍋を被るという完全武装で夜を明かした。

怖くない……と言えば嘘になるが彼女を守ると一人誓った彼女はまさに女神の鑑である。

 

…しかし、そんなヘスティアをよそに一週間経ってもなんの音沙汰なかった。

 

どういう事だと保護した彼女…カメ子に事情を聞きたかったが、特大の地雷を踏むことに躊躇し、結局聞けぬままとなってしまった。

 

こうして始まった彼女との生活は順風満帆とは行かなかった。 ぶっちゃけ、生活費がなかった。

 

そのころのヘスティアは友人であるヘファイストスの下に身を寄せていたが、来る日も来る日も怠惰に過ごす生活を改めなかったために、ついには追い出されてしまったのだ。

 

そのため、手元にあるのは追い出される前にヘファイストスから貰った僅かなお金のみ。

 

そんな折、カメ子が冒険者になりお金を稼ぐと言い始めた。

 

彼女の境遇、発現した【呪詛】の存在もありヘスティアは反対したが、カメ子の意志は固かったため、押し切られる形で了承してしまった。

 

だが、それは杞憂だったようだ。彼女はダンジョンから帰るといつも楽しそうにヘスティアに自身の冒険談を話してくれる。

 

今日は薬草を鞄一杯になるまで採取できた。

 

今日はモンスターを三体も倒すことが出来た。

 

今日はほかのファミリアと組んでダンジョンに挑んだ。

 

表情こそはあまり変わらないが、とても楽しそうに話す彼女をみてとても心が温かくなるのを感じていた。

 

彼女がダンジョンに挑み、ヘスティアはアルバイトに精をだす。そんな生活が半年も続いていくと、街のうわさに不穏なものが混じり始める。

 

『イカレ女』

 

ダンジョンにてモンスターを残忍に殺し、同じ冒険者相手でも敵対すれば容赦なく屠るという、恐怖の存在が頭角を現してきたそうだ。

 

その噂を聞いた瞬間、ヘスティアはすぐさまカメ子に冒険者を止めるように説得を開始する。

 

理由? 単純明快にカメ子がこの噂の『イカレ女』に襲われてはたまらないと感じたからである。

しかし、当のカメ子はそんな恐ろしい人とは会ったこともないし、見たこともないと言う。

 

神の特権として人の嘘が分かるヘスティアは一先ず大事な眷属が噂の存在に被害を受けていないことにホッとした。

 

しかし、だからと言って安心はできない。今はまだ被害に遭っていなくとも未来は分からない、だから止めよう、ボクがバイトを増やして養ってあげるから、もう危険なことは止めよう、と言ったが彼女は本当に危ない人ならギルドが対処するだろうと言い、それらしい人がいたら接触せずにすぐ逃げるからと約束してくれた。

 

まだ少し納得はできないけど、ダンジョンに挑むことで彼女は少しずつ明るくなっているため、約束を厳守することでとりあえず納得することにした。

 

後日、彼女から『イカレ女』の事を聞いてみたら、目が物凄く泳ぎまくった挙句、『え? あ…うん。ソンナヒトハイナカッタヨー』などと普段のカメ子からはありえないほど動揺していた。

 

絶対何かを隠していると確信したがカメ子はまったく口を割らなかった。あのように白々しい嘘をつくカメ子に対し、ヘスティアは呆れると同時に、彼女の感情が少しずつだが成長しているのだと嬉しくなった。

そんな彼女だからこそ、女神ヘスティアのとって彼女は放っておけない存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネルにとって彼女は頼りになりすぎる先輩冒険者である。

 

彼女は朝は誰よりも早く起き、皆のために朝食の支度を始め、ベル達が朝食を食べている間に洗濯物とダンジョンに向かう準備を終わらせ、自分はギルドの受付に行くまでの道すがらに携帯食で食事をすませている。

 

ダンジョン攻略においては、チームリーダーとして攻略の道順、周囲の警戒、安全確認に体調確認などを行い。

モンスターとの戦闘では戦闘指揮に動き回るベルのために補助に牽制、時には呪詛でモンスターを震え上がらせる。

 

戦闘が終われば魔石やドロップ品を回収しバックパックに詰めていく。

 

ベルは何度も自分も荷物を持つと提案するが彼女は決まって『ベル君は動き回ってもらう必要があるから、重荷はなるべく避けたほうがいい』と頑なに荷物を手放そうとはしなかった。

 

ダンジョンから帰還すればギルドに帰還の報告と戦利品の売却、その帰り道に商店で夕食の買い出しをしながら帰宅。

 

帰宅後は洗濯物の取り込み、入浴の準備に夕食の支度を同時進行し、夕食後は皿洗いに洗濯物をたたみタンスに片付けていく。

 

ベル達が寝床に入るころ、服や装備品のほつれの裁縫作業をしながら家計簿をつけている姿をよく見かける。

 

ベルやヘスティアも何もしない訳ではないが、家事能力がカメ子より大きく下回っているため、皿を洗えば泡で滑って地面に落として割ってしまい、カメ子に『怪我、なかった?』と心配され。

 

料理を作れば塩と砂糖を入れ間違い微妙なマズ飯を作ってしまいカメ子に『……うん、おいしい。御代わりしてもいい?』と気を使われ。

 

お使いに行けばお財布を忘れて、カメ子に届けてもらい、『ついでだから私も買い物に付き合う』と言われ、お使いの意味が全然なかったりしたりする。

 

そんなダメダメっぷりに二人して落ち込むも、彼女は決まって『私は、毎日が楽しい、だから気にしないで』と控え目な笑顔を見せてくれる。

 

その度にベルは彼女に頼られる男に絶対なってやると想いを滾らせる。

 

その感情は想い人に向けるモノとは少し違う。

具体的には言葉にできないが、想い人の事を考えると、顔が赤くなり、胸がドキドキする。彼女の事を考えると…なんだかホッとするような気がする。

 

そんな頼りになりすぎる先輩は今日も忙しく働いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思いついたらバンバン書き加えようと考えています。

じゃ、また次回もよろしくお願いします。



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