畏れよ、我を   作:hi・mazin

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皆さんに謝ることがあります。
今回女神ヘスティア様はあんまりひどい目には合いません。
だって、好きな女神様を困らせることができなかったんだもん。


11月21日。ヘファイストス様の口調を修正してみました。




第十二話目 女神ヘスティアと神友たち

 

真新しいドレスに身を包んだヘスティアは神の宴の会場であるガネーシャ・ファミリアの本拠地に無事たどり着いた。

 

「よく集まってくれた皆の衆! 俺が神の宴の主催者であるガネーシャである! 毎度、毎度、多数の出席者にガネーシャ、超感激である!」

 

会場ではすでに主催者であるガネーシャが自らの自己主張を交えた挨拶ともうすぐ開催される【怪物祭】への協力を出席者のファミリアに要請しつつ、なにかと大声で主張しまくっていた。

 

しかし、ヘスティアはそんなガネーシャの言葉なぞ半分以上聞き流し、会場の料理を食べまくっていた。本当はタッパーに詰めてお持ち帰りしたかったが、眷属であるカメ子が『さすがに、ダメ』とタッパーの所持を許してくれなかったので、とりあえず用事のある人物(神)を探す前にお腹を膨らませることにしたのである。

 

『あれ、ロリ巨乳来てたんだ』『なんだ、生きていたんか』 『露店でバイトしながら客に頭撫でられてるらしいぞ』

 

参加者である神連中に陰口が耳に入り、さすがのヘスティアも、食事のスピードが落ちた。

 

『そういやあのロリ神、闇派閥の子を拾ったらしいな』 『ああ、例のあの子か…』『呪い子か…』『いくら何でも眷属くらいは選べよ』 『ロリ神×闇少女(´Д`)』 『うちの眷属とは関わってほしくはないよね』『関わって呪われるのは勘弁してほしいしな』

 

何も知らないクセにボクの眷属を悪く言うな、彼女がどれほど心に傷を負っているかも知らないくせに、やっと笑うようになったんだぞ、このドレスだって彼女が選んでくれたんだぞ。

 

せせら笑うやつらに、今思ったことを力いっぱい叫びたかった。しかし、今騒げば確実に会場から追い出されてしまう。そうなったら何のためにここに来たのかわからなくなる。

 

言いたいことも言えず『ぐぬぬぬ』と、うなりながら、怒りの溜飲を下げるために手に持っているお皿の料理を口いっぱいに頬ばる。

 

「何やってんのよ、あんた…」

 

「むぐっ? むっ!」

 

急に話しかけられのどに詰まりそうになるも、何とか飲み込んだヘスティアの前にはお目当ての神がいた。

 

「久しぶりヘスティア。元気そうで何よりよ」

 

てか、食べ過ぎよ。と呆れる彼女をよそにヘスティアは探す手間が省けたとばかりに内心喜んでいた。

 

「ヘファイストス! やっぱり来ていたんだね。ここにきて正解だったよ」

 

持っていたお皿を近くのテーブルに置き彼女のそばに歩いていく。…が

 

「この…大ばか者!!」

 

「キャウン!!」

 

いきなり大声で怒鳴られ、挙句に拳骨をお見舞いされたヘスティアは情けない声を上げながら沈んでいく。

 

「眷属の子から聞いたよ……私に追い出されてから闇派閥の真似ごとを始めたらしいわね」

 

「ヘファイストス。な、何のことだい? まったく身に覚えが…」

 

「自分の眷属の子にあんな格好させといて言い訳をするんじゃないわよ!」

 

訳の分からないことで怒鳴られたヘスティアは奇跡的に正解にたどり着いた。

 

…おそらくカメ子のあの格好をヘスティアが強要させているとヘファイストスは思っているようだ。

 

それはとんでもない誤解だ。ヘスティアはカメ子の恰好をどうにかしようと今まで最大限の努力をしてきたのだ。

 

ある時は拘束具を隠したり。

ある時は普通の服を買ってきたり。

ある時は泣き落としをしたり。

 

そんな努力のかいあって、カメ子は『家の中』では普通の恰好で過ごすようになっているし、ダンジョンに行かない日は普通の恰好で買い物にも出かけている。

 

「ご、誤解だよ! ボクだってカメ子君にあんな格好はしてほしくないけど、本人がダンジョンの日はこれと決めていると言って聞かないんだよ」

 

今だにこちらを睨んでいるヘファイストスに涙ながらに身振り手振りを加えながら今までの自分の頑張りを訴えると、ヘファイストスの顔から険しいものが取れ、代わりに呆れの表情に変わっていく。

 

「…はぁ~、分かった、信じてあげるわよ」

 

「ほ、本当かい、ヘファイストス」

 

「ええ、アナタがそんな奴だったら、私は友達になんかならなかったわよ」

 

だったら最初から信じてくれてもいいじゃないか、とちょっと思ったが口からは出なかった。

 

「で、今日はどうしたの? タダ飯でも食いに来たの? 言っとくけど、お金はもう一ヴァリスも貸さないからね」

 

「し、失敬な。ボクがそんなことをする神に見えるかい!」

 

「え…あんたこっちに来てから散々私を頼ってきてたじゃないの」

 

「それは昔の話! 今のボクはファミリアの主神だぞ!」

 

ヘスティアが顔を真っ赤にして反論していると、二人に近づく影があった。

 

「ふふふ、相変わらず仲が良いのね」

 

その影の正体は言わずと知れた美の女神フレイヤである。ヘスティアとヘファイストスのやり取りを何となしに見ていたほかの神々は一斉にかの女神に視線を送る。

 

女神ヘスティアはフレイヤの事が苦手である。そう公言するも当のフレイヤは涼しい顔でヘスティアの事を好きだという。

 

もっとも、ヘスティアにはもっと大嫌いな神がいるのだがこの場には居なかっ……

 

「おーい!ファーイたん、フレイヤー、ドチビー!!」

 

……たのだが現れてしまった。

 

「ロキ…何しに来たんだよ君は…」

 

不機嫌さを隠そうともせずヘスティアはロキに尋ねるも。

 

「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか? そっちの方が無粋っちゅうもんやろ」

 

はは、マジで空気が読めぬドチビが、とロキは嗤いヘスティアの顔は女神がしちゃいけない顔になり始めた。

そんなヘスティアをよそにほかの二人はロキと会話を始める。

 

「本当に久しぶりね、ロキ。ヘスティアやフレイヤにも会えたし、今日は珍しいこと続きだわ」

 

「ふーん。あ、ロキ貴方の『ファミリア』の名声よく聞くわよ?上手くやってるみたいじゃない」

 

「いやぁー、大成功してるファイたんにそんなこと言われるなんて、うちも出世したなぁー。…でもま、確かに今の子達は、ちょっとうちの自慢なんや」

 

ロキは照れ臭そうに頭に手をやった。ウゼェと思いつつもヘスティアは確認したいことをロキに質問した。

 

「ねぇ、ロキ。君の『ファミリア』に所属しているヴァレン某について聞きたいんだけど」

 

「あっ、『剣姫』ね。私もちょっと話を聞きたいわ」

 

ヘスティアの質問はヘファイストスも聞きたいらしい。

 

「うぅん?ドチビがうちに願い事なんて、明日は溶岩の雨でも降るんとちゃうか?」

 

「その噂の『剣姫』は、付き合っている男はいるのかい?」

 

「あほぅ、アイズはうちのお気に入りや。嫁には絶対出さんし、誰にもくれてやらん。あの子にちょっかい出す奴は……八つ裂きや」

 

「チッ!」

 

「何でそのタイミングで舌打ちすんのよ…」

 

いっそ意中の相手がいてくれたほうがヘスティアにとっては都合が良かったが。うまくいかなかったため、つい、舌打ちしてしまったのだ。

 

「今更だけど、ロキがドレスなんていうのも珍しいわね?」

 

「フヒヒ、それはアレや、ファイたん。どっかのドチビが慌ただしく、パーティーに行く準備をしてるって小耳に挟んでなぁ…」

 

わざわざヘスティアに目線を合わせるためにロキは腰を折り、顔を近づける。

 

「安もんのドレスしか着れない貧乏神をぉ、笑おうと思ったんやぁ」

 

眼前でニマァと口を吊り上げるロキに、ヘスティアの怒りは有頂天を突破し、ヘスティアはロキのその物言いに言い返した。

 

「ふんっっ!!こいつは滑稽だ!わざわざ高っっかいドレス着てまでその貧相な胸…いや、無乳を周りに見せつけるなんてね!」

 

怒りで顔を赤くしていたヘスティアに代わって、今度はロキがカァーッと赤面する番だった。

 

「大体その母性ゼロの胸でどれだけ男を失望させてきたんだよッ!絶壁なだけに絶望とか、バカじゃないの!?あっ、今僕上手いこと言ったねぇ!」

 

「全然上手くないわボケェええええええ!」

 

「ふみゅぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

今ここに互いのプライドを賭けた勝負が始まった。ヘスティアはドレスを買ってくれた眷属のため、ロキは自身の誇り(乳)のために不退転の覚悟で掴みあいが始まった。

 

だが無情にも、ヘスティアが動くたびにロキの誇りは砕けていく…

 

「……ふ、ふん。きょ、今日は、こんくらいにしといてやるわ…」

 

ついには戦意を根こそぎ砕かれ、ヘスティアから離れ、一歩、二歩と後ずさりを始める。

 

「ッウ……!今度現れる時は、そんな貧相なものを僕の視界に入れるんじゃないぞっ、この負け犬めっ!」

 

「うっさいわアホォーッ!覚えとけよぉぉぉぉ!!」

 

ヘスティアの止めの一言で、ついには涙をまき散らしてロキは会場を出ていった。

 

「本当に丸くなったわ、ロキ…」

 

「丸くなったっていうか…小者臭しかしないんだけど…」

 

その戦いを間近で見ていた二人は呆れながらロキを見送るしかなかった

 

「ロキは子供達が大好きみたいね。だからあんな風に変わったのかもしれない」

 

「ふん、甚だ遺憾だけど、子供達が好ましいっていうのはロキに賛同してあげるよ」

 

「へぇ、貴方のファミリアに入ったカメ子とベルっていう子のおかげ?」

 

「ふふん、まぁね。二人とも僕にはもったいないくらい、すごく良い子だよ……カメ子君はちょっと周りから誤解されているみたいだけどね」

 

「ああ、確認もせずいきなり怒鳴ったのは悪かったよ。だけど、もう少し彼女の恰好は気にしてあげた方が良いかもね」

 

そんな二人の様子を見ていたフレイヤがグラスをテーブルの上に置き髪を翻す。

 

「じゃあ、私も失礼させてもらうわ」

 

「え、もう?フレイヤ、貴方用事があったんじゃないの?」

 

「もういいの。確認したいことは聞けたし…」

 

え?誰から? と、ヘファイストスはフレイヤを怪訝な目で見ていたが、フレイヤはそんな彼女を無視し、ヘスティアの方を見下ろして、それじゃあと、言い残し彼女はひしめく神達の中に消えていった。取り残された二人は微妙な顔をして、隣り合うお互いの顔を見交わす。

 

「で、あんたはどうするの?私はもう少し回ってみようかなと思うけど、もし残るんだったら、どう?久しぶりに飲みにでも行かない?」

 

「う、うん、えーとっ……ヘファイストスに頼みたい事があるんだけど…」

 

ここに来た本命の為に懸命に口を動かすが、目の前のヘファイストスは紅い左目を細くする。

 

「この期に及んで、また頼み事ですって?」

 

「え、えと、その…」 

 

ヘスティアはそんな彼女を見て、意を決し大きな声で自分の望みを放った。

 

「ベル君にっ……僕のファミリアの子に、武器を作って欲しいんだ!」

 

 





次回は怪物祭? かもしれません。


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