遅くなりましたが令和初投稿。
皆さんは令和を楽しんでいますかな。
私は楽しんでいます。
ダンジョンの地下七階層には魔物が潜む。
いや、ダンジョンなのだから魔物が潜むのは当たり前だが、この階層には新米殺しの異名をもつキラーアントがわんさか出てくる。
このモンスターの厄介なところは時間を与えれば与えるほど仲間を呼び、数の暴力をもって冒険者を襲うのだ。
しかもこのアリ、一体一体が割と固くて強いのだ。
そんな新米殺し十数体にベル・クラネルは追い回されていた。
しかし彼の顔には焦りも恐怖も浮かんでいない、寧ろ新米殺しがちゃんと自分を追いかけて来ているかを確認する余裕すらあった。
そしてある角を曲がると一人の少女、ベル・クラネルの先輩冒険者カメ子の姿があった。
彼女を確認すると足を止め、腰に帯刀しているナイフを手に持ちモンスターを待ち構える。
軽く呼吸を整えている間にモンスターが押し寄せてきた。
「畏れよ、我を」
ガギガギガギガギ!!
その一言で殺気だっていたモンスターの群れは恐慌状態に陥り統率を失い右往左往し始めた。
「今だ!」
ベル・クラネルはその隙を見逃さずモンスターの群れに突っ込んでいき、縦横無尽にモンスターを狩り始める。
キラーアントも殺られてばかりではない、恐怖に駆られながらもベル・クラネルに攻撃を繰り出す個体もいたがそんなやぶれかぶれの攻撃を受けるほど彼は弱くはなかった、逆に大振りの攻撃を回避しがら空きの首を一刀両断する。
ベルがモンスターを刈るのと同時に何体かのキラーアントが何故か同士討ちを始め、最早この集団に明日は来ないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いやー、キラーアントは強敵でしたね。
しかし、私達【ヘスティア・ファミリア】の敵ではなかった。
と言うか、集団で襲いかかって来るなんて【畏れよ、我を】で一網打尽にしてくださいって、言ってる様なものだからね。
しかも、ベル君も無事にパワーアップイベントを消化したから新人にあるまじき強さを発揮している。
あのアリ、割と固いんだよ。
私の力じゃアリの甲殻を砕いて魔石をほじくりだすのも一苦労なのに、ナイフ一本であんなにスパスパと切り裂いて・・・あれ?もしかして、私ベル君の成長についていけてない?
一年以上も先からダンジョン潜って戦っていたのに、もう強さインフレに置いてかれてる?
まあ、私は別に転生特典で俺TUEEEEしたい訳じゃないし、ダンジョンで未知を発見したり心踊る冒険がしたいだけだから強さとかは別にどうでもいいし、まぁそんな言い訳じみた妄想はストップさせて現実を直視しますか。
「私がいったこと全っ然っわかってないじゃない!! 七階層!?迂闊にもほどがあるよ!」
我らの担当のエイナさんがガチギレなさってる。
まぁ、これは新人のくせに下層に降りたがるベル君が全面的に悪いんだからガチギレされてもしょうがないよ。
「カメ子ちゃんも私には関係ないって顔してるけど、私はキミにも怒っているんだよ!!」
ファ!! なな、なんですと! この一流ボウケンシャーである私が何故?
お言葉ですけど、私はダンジョン攻略に手は抜いていないし、適切なアイテムに適切な装備品を毎回準備してるし、HP管理も欠かしてません。
「一週間ちょっと前、ミノタウロスに殺されかけたのは一体誰だったかな!?」
ん、ベル君ですけど。私はキチンと狩れましたからもーまんたいですよね?
「そう、ベル君だよね。普通は新人が危ない目に遭わないため先輩冒険者がキチンとリードしてあげないといけないんたよ。それなのにカメ子ちゃんはベル君に注意するのでもなく、どんどん奥に連れ込んで、五階層からはダンジョンの傾向が様変わりして難易度が増すんだよ・・・冒険者になって半月程度の未熟なヒヨコじゃ自殺行為なの!」
おお、そうか。私ってばベル君の事は物語の主人公って感じで見てたけど、他の人から見たらベル君ってまだ新人なんだよね。
そんな新米の無謀な下層潜りを咎めるどころか、嬉々として下層に誘う先輩冒険者の私。
うん、これは誉められる行為ではないですね。
カメ子ちゃん反省しました、これからはベル君に合ったダンジョン攻略を心がけます。
あ、でも、それだったら攻略はもう少しハイペースでも問題ないよね。
「あ、あの、そのっ、僕、あれから結構成長したんです、だからカメ子さんの指示は間違ってないと言うか!」
おや、私が内心反省してたらベル君が激おこ状態のエイナさんに反論し始めたぞ。
「冒険者になって半月、アビリティ評価Hがやっとのくせにどの口が言うのかな?」
「ほ、本当なんです! 僕のステイタスのいくつかはEまで上がったんです!?」
まあ、この子ったらファミリアの機密を何だと思ってるのかしら?
「・・・E」
おや、そんなに目を丸くしたエイナさんを見たのは初めてかもしれないな。
いや、私一人で冒険してた時からこんな顔よくしてたわ。
「そ、そんなの出任せでしょ」
「本当です本当なんです!最近成長期みたいで伸びが凄いんです!」
「・・・本当に?」
おや、こちらに視線を向けたと言うことは本当かどうかの確認かな、まあ本当だしここは頷いておきますか。
「ベル君…。キミの背中に刻まれているステイタス、私にも見せてくれない?」
「……えっ?」
え?何で?
「あっ、君たちのことを信じてないわけじゃないよ?ただどうしても気になるから…」
「で、でも、『ステイタス』って、一番バラしちゃいけないんじゃぁ…」
「誰にも話さないと約束する。魔法やスキルのスロットは見ないから!ね?お願いっ!」
「エイナさんがそこまで言うなら…えっと、じゃあ部屋の隅で…脱ぎますよ?」
頬を赤らめながら言うんじゃありません、エイナさんも顔を赤らめながら困っているじゃない。
まあ、ベル君私は先に帰るからあまり遅くならないようにね。
「え?先に帰るんですか!」
うん、私まだ帰ってやることがあるからね。
詳しく言うと、お洗濯物の取り込みにお風呂の準備に夕食の準備に…ああ、今日の収入も家計簿に書かなくちゃ。
「…カメ子ちゃん、貴女、そんなことまでしているの」
何言ってるんですエイナさん。これくらいの事出来なくてはボウケンシャーとはとてもいえませんよ、じゃ私はこの辺で…お疲れさまでした。
・
・
・
「ベル君」
「な、なんでしょうっ?」
「あんまりカメ子ちゃんに負担かけちゃだめだよ」
「…はい」
・
・
・
「カメ子さん、明日暇ですか?」
帰って来るなり何ですか、帰ってきたらただいまでしょ、それから手洗い、うがいに洗濯物を出す。
「ぁ、はい…じゃなくて!」
ええ、わかってますよ。たしか原作ではステイタスを見せた翌日は買い物イベントがありましたね。
で、エイナさんはベル君だけではなくて私にも声をかけたんですね。
はー、本音を言うとめんどくさい。誘われたからといってホイホイついていくとベル君の装備を新調するついでに私の装備も新調されそう。
いや、エイナさんは私の【カースメーカーなりきりセット】に否定的だから、ここぞと言わんばかりに装備の変更を勧めて来るだろう。
ついでにベル君も女神様も否定派だから私を援護してはくれないだろう。
いや、私も鈍感ではないから、この装備が世間から評判がよくないのは分かっているのだか…せっかく【カースメーカー♀】に転生したのに服を普通にするなんてなんか嫌だし。
これは世間との軋轢を和らげるのか自分を貫くのかの心の問題!
「あ、あの、カメ子さん?」
あ、ベル君に返事するの忘れてた。ええ、暇ですよ何か用があるんですか(棒読)
「付き合って下さい!」
ワーオ、流石は天然タラシのハーレム型主人公。主語が全くないから愛の告白同然になってるよ。
だか残念だな、私くらいの転生者になるとそんな言葉では心は動かないのだ。
主語が抜けてるから何に付き合えばいいのかわからないよ。
そう指摘してあげたらちゃんとエイナさんに明日私をつれて来るように頼まれたらしいので付き合ってあげることにした。
・
・
・
ベル君とエイナさんとの集合場所に行くと私服姿の彼女が待っていた。
うん、ギルドの制服姿も可愛かったが私服姿はもっと可愛かった。
…それに比べて私ときたら、何時もの【カースメーカーなりきりセット】
いや、特に女の子として負けたとか、おしゃれしてきたほうが良かったかなとかは思わないが、なんかエイナさんが私の格好を見た時、一瞬悲しい顔になってたので、またいらん誤解を与えてしまったようだ。
今日の目的地も判っているから特にエイナさんやベル君とも話さず後を付いていくと、やはり目的地は
「ええっ!?バベルって冒険者用施設や公共施設だけがあるだけじゃ…」
いやいや、最初のころ説明してあげたじゃないか。ベル君のナイフもこのバベルにある【ヘファイストス・ファミリア】で作られたモノなんだよ。
原作では今ごろ女神様がアルバイトにせいを出している最中かな?
一応、お弁当とかお菓子を女神様に渡したから原作よりかは元気に働いてるかな?
「さあ行くよベル君」
おっと、女神様のことを考えてたらベル君とエイナさんが仲良くお手々繋いで歩き始めた。
おお、原作通り周りからすごい嫉妬ぱわーを感じる。
「エイナさん!ててっ手を離してくだ…」
「カメ子ちゃんもボーとしてないで行くよ」
はーい。しかし、ベル君もハーレム型主人公っていっても女慣れしてないのに美人さんと手を繋いで歩くのは難儀だろう。
よし!私が一肌脱いでやろう!
まず、目深く被ったフードを脱ぎまして素顔をさらします。
そして、こちらに助けを求めるように手を伸ばすベル君の手をきゅっと繋いであげます。
これでベル君は右手にエイナさん、左手にカメ子ちゃん。と言う状態。
普通なら両手に花の状態だが私の評判は何故か最悪レベル。
これならいくら美人のエイナさんと手を繋いでいたとしても私と言うマイナスが横にいるから差し引きゼロ。
これでベル君に要らぬヘイトは集まらないはずだ。
「「「チッ!!」」」
あれ、なんかヘイトがさっきより増したんですけど。
どーしてだ?
カースメーカー♀は可愛い!
世間の評判はともかく可愛い!
そんな子とお手々繋ぐなんてうらやましい!