4月の上旬、始業式の日に僕、小柏秀介は学校へと1人自転車を走らせていた。周りの音が煩い。ふと今日、この日がとても憂鬱で仕方が無いことを僕は思い出してしまった。それこれも、この鬱陶しい音によるものだと思う。いや、そうに違いない。何も学校が嫌という訳では無い。むしろ、新しい知識の吸収は楽しい。仲の良い友人との会話ほど楽しいものはないと思う。会話と言えるのかは分からないが。どうしても物事を説明するためには言葉が多くなってしまう。仮に相手が楽しくなくても自分の満足で話してしまう。自分の悪い所だ。ただ、実際は頭の中で考えている事の方が圧倒的に多く口が追いつかないほどなのだ。
「秀介、おはよう。どうした?世界の終わりみたいな顔して?」急に声をかけられ驚くと後にはよく見慣れた顔があった。
「おはようさん。まぁ、ね。それより、今日は珍しく遅めだな。」
「いやぁ〜、この学校に人が増えると思うと楽しみで眠れなくてさぁ」声の主、田上耕太は言った。何も新入生が来るという訳では無い。統廃合によって他の高校の生徒がうちの学校に通うことになったのだ。そしてそれが僕を憂鬱にしていることの1つだということを田上は知らないのだろう。ただ、今日が憂鬱であることの原因ではない。
「まぁ、女子校じゃなくて男子校なら楽しみだったかもな。」
「でた。思春期男子だ。情けないよなお前ってほんと。ここ一応共学だぞ。」
「俺のいる理数科学科には女は少ないからほぼ男子校だからいいんだよ。」僕は女子ほど苦手な人はいない。差別的だとか言われるだろうが、苦手なのだから仕方ない。決して思春期だからとかではないと思う。田上と話しているとあっという間に学校につく。この学校は理数科学科と普通科とがあり理数科学科の方が国公立の医学部や難関大学進学を目指す人が集まりやすい傾向がある。僕自身夢とかは特にないけど、点数が取れてしまうので入った感じだ。ただ、理数科学科は人数が少ないのに加えて男子が7割以上だから青春とかは特にない。というより僕には必要がない。教室に田上と一緒に入る。クラス発表の時、2年連続同じクラスなのもうちの学科ならよくある話なので驚きはしなかったが、嬉しかったのを覚えている。
席につき一通りの支度をして体育館へと向かう。2つあるうちの大きな方だ。公立高校で体育館が2つはすごいのだろうか?僕には分からないが僕が入学してきた時に驚いたのを覚えている。1人で歩くのも退屈なので近くにいた同じクラスの友人と話す。春休みの話などをした。ふと、春休みは部活ばかりだったのを思い出し憂鬱になる。体育館へと着くとやはりいつもよりも人が多い。さらに女性が多い。うちの学科には編入する人は居ないみたいだが、普通科の方にはそれなりにいるだろう。校長のはなしもそこまで長くないため、始業式は終わり、各担当場の大掃除へとなった。午後は入学式のため今日はこれで帰れるのだ。珍しく部活もない。帰りは田上と帰ろうと思ったが、奴は部活があるようで、1人で帰る。
チャリに跨り家へと向かう。昼は何を食べようか、、、早く帰って勉強しようとか思っていると視界の端に見たくないものが映る。1人の我が高校の女子生徒がいかにもといった不良に絡まれているのだ。早く帰りたい上に、あんな人と戦って勝てる気がしない。しかし、ここで見て見ぬふりをすると彼女がどうなるかも想像できた。そしてそれを知って見捨てるのは一生この記憶を引きずることになる。記憶が汚れるのだ。覚悟を決めると自転車で近づいて話を聞く。
「何やってるんですか?」我ながら間抜けな問いだと思う。
「うるせえ。関係ないだろ。どっか行け。」
この不良の迫力のなさに驚く。僕の方がより良い脅しができるだろう。ただ、女子高生は怯えていた。彼女だけ救出して逃げられれば良いのだが、不良が立ちはだかっており厳しい。あれを使いたくなる。が、そのあとが面倒なので我慢する。
「いや、彼女も怯えているみたいですし、やめてあげてくださいよ。」
こんなので効果があるとは思えない。
「なんでだよ!お前何俺に指図してんだ。しばくぞ。」
まったく怖くない。背も僕の方が高いしなんとかなりそうな気がする。けど、制服の上からでも分かる筋肉質な体を見るとやはり無理だと感じてしまう。いつも愛用している盾も鋏もない。ここである事を思いつく。女子高生を素早く救出する方法だ。
「どうぞ、しばいてください。」
そう言ってカバンをおろして不良に飛びかかる。仮に向こうが僕を殺したところで、どうせ、僕がいても世界は変わらないだろうし。不良は少し戸惑ったようだが、僕を吹き飛ばす。しかし、体幹がしっかりしている僕はそう簡単には飛ばない。
「自転車乗って逃げろ!」
僕はそう女子高生に言った。そのまま、不良に倒される。やっぱり何かの武術をやっているのか力が違う。女子高生は戸惑っていたがもう逃げたようだ。僕は殴られる。
蹴られる。
また、殴られる。
意識が遠のく。
光が走る。
もう慣れたことだ…