勇者はチートスキルを破棄しました。   作:くとろあ

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剣の記憶

 世界は広いと思っていた時期があった。

 

 この世を隅まで見るのは人間一人では敵わない理だと思っていた。

 

 自分にもしその力が在るのなら、宛てのない世界中を周る旅を夢見ていたのかもしれない。

 

 ……神からチートスキルを授かった時、その力を得た時、昔の俺はどう思ったのだろう。

 

 きっと、その力を使って、不格好な世界地図でも作るつもりだったのだろうか。

 

 ……もう、そんな事も思い出せなくなってきている。

 

 どんなに素晴らしく残った化石も、放っておけばただの砂粒になるように。

 

 ……忘れていく。皆と紡いだ楽しい記憶も、辛かった記憶も。

 

 ……代わりに大きくなるものは、この事態の引き金を引いたのに何もできない自分への怒りだけだ。

 

 ……俺は世界を救った。 が、人と変わらない心を持ったモンスター達を人間達は駆除するようになってしまった。

 

 この事実は俺を永遠に縛り付ける鎖となる。

 

「もし、なんでも願いが叶うとしたらどうしようか、世界を平和に~なんて、まるでアフリカの事実などと謳ったテレビ番組を2時間ほど真剣に見た子供の様な願いをするか」

 

 冗談を夜風と共に、心の中で勇者は笑う。

 

「世界を平和に……か。……在り得ないな。なんと他人任せで、情けない考えだろうか。こんなことを本気で思った時はきっと俺は真に困っていて、この世界に絶望したときだろう」

 

 ……時間を巻き戻せたら、なんて思う事は全く亡い。

 

 何故なら、単純に俺はモンスターの王を倒し、人類は救われたのだから。

 

 俺の行動がどんなに高慢に満ちていたものとしても、それによって苦痛から解放された人たちも何億と居るのだから、もし仮に世界を救った張本人の俺がそんな苦悩を持ってしまったら、その虐げられた人々の不幸を願ってしまう事になると考えているからだ。

 

 しかし、その救われた人々がモンスターの王、「魔王」が死に路頭に迷った、心を持った生物を、「前世からの怨念返し」と称して積極的に、その尊厳を犯している続けている事は、俺の心に深く突き刺さる事実だ。

 

 俺の下らない戦いによって生まれてしまった世界の黒い影。

 

 それは今も、人間と何ら変わらない心を持つ大多数のモンスター達の血で真っ赤に浄化されている最中だ。

 

 ……このことを考えてしまうと、俺はこの世界の血塗られた歴史の引き金を引いてしまった自分の手を、己の剣で真っ二つにしたい気持ちになる。

 

 だがそれをしても、俺の自己満足に終わるだけでアーニドと国民に大きな不安を抱かせるだけになってしまう。

 

 ……己の手を切断する行為よりもっとやるべきことがあるはずなのだ。

 

 国民に戦いの悲惨さを伝えたり、冒険を応援してくれた異種族の話を広めるだけでは駄目だ。

 

 異種族の貴重な体の一部を狩るゴミ共を黙らせる法案だけでは駄目だ。

 

 異種族を奴隷にさせる様な、人間だけに都合の良い法を叩き潰すだけでは駄目だ。

 

 もっとだ、もっと、俺に出来る事が在る筈なのだ。

 

 俺は、勇者なのだから、神からチートスキルを貰ったのだから、世界を救ったのだから、その責任があるのだ。

 

 もっと、モンスターのために、異種族のために、心を持った者のために行動しなければならない。

 

 世界を。誰もが笑う幸せな世界を作り出す。それが勇者。でなければ勇者の価値などない。

 

 ……最近、何時もこんな事ばかり考えてしまう。

 

 ……なぜ、こんな俺の様な半端な人間が神から選ばれた勇者になってしまったのか? 

 

「ハッ。神という奴も、てきとうなもんだ、ひょっとして俺の方が世界について考えてるんじゃないか?」

 

 独り言。 アーニドにも言わない冗談を一人で言って笑う。

 

 そして、無力で弱い俺は気晴らしにでもと、また何時もの様に、昔の、まだ冒険が楽しかった頃を思い悦に浸る。

 

 ……もう残っている楽しい記憶はそれしかないからだ。

 

 ……あれは、何時だったか。都市を夜な夜な襲う、迷いの森を拠点にしている異種族を探している夜だったか。

 

 ……フランクスの性欲が溜まって暴走寸前、発情した類人猿だったな、アレは。

 

 そして、あのバカのせいで敵にいつの間にか囲まれて……。

 

 クスリと久しぶりに笑った勇者がまん丸に輝く月に思いを馳せる。

 

 ……ああ、あそこで例の、「奴」に会ったんだったな。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 迷いの森 「中部」

 

 

「……くそぅ! そろそろ女が抱きてぇぜ!!」

 

「……フランクス、盗賊みたいなことを言うな」

 

 ……そういって俺は、短髪の白い鎧を付けた下品な男を軽く叱りつける。

 巷では「白銀の盾」と呼ばれているランスナイトの男だが喋ってみると案外軽い。

 

 と、いうより軽すぎる。これでは我々の評判までに関わるだろう。

 ここは更に言葉で追い打ちを掛けなくてはならない。 

 

「……俺たちは、世界を救うパーティだ、もうちょっと慎め」

 

「いやいや、勇者よ、お前、この森に来てから10日経ってる。普通爆発しね?色々と?」

 

 ふう。と、心の底からため息を着く。

 

 この馬鹿者、腕は立つが人間の下半身にしか頭がいかない。いい加減つるむのも面倒臭くなってきた。

 

 だが、この猿に次ぐランス職が居ないというからこの世界は驚きである。

 

 まあ、日本でも本物の猿に普通の人間は殴り合いでは勝てないので、品性が野生に帰化する程、頭の代わりに腕が上がるのだろう。

 

「なんか、めっちゃ馬鹿にしてるだろ? お前?」

 

「ほう、空気で解ったか。 野生の勘爆発だな」

 

「……お前後で勝負な。 俺まだ、お前にコルセツカ闘技場で負けたと思ってねーから」

 

 馬鹿な男だが、自分が惨敗した事ははっきりと覚えているらしい。

 

 俺の方は、そんな勝利の事は遥か昔に忘れているのだが、コイツは不機嫌になるとその事を何時も持ち出してくる。今回で十は超えたか。これでは例えるなら、痴呆症になった老人ではなかろうか。

 

「取り合えず、人の言う事を聞いてほしいから話している。イメージは大事だ」

 

   

「俺含め世界を救う者達(勇者パーティ)には」

 




当時書いていた続きが隅に残ってたので何となく。
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