神秘学者は上位者と友達になりたい   作:ぐるぐるれ

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我らが大図書館

知識の価値というものは、決して情報量だけで決められるものではない。

役に立たない雑学ばかり溜め込んでいるよりも、自分のためになるだろう本を一冊読む方が有意義なのは言うまでもないだろう。

沢山のことを知っている人より、専門的な知識を蓄えた人の方が重宝される。

もちろん数に頼ることが悪いことではないが、一般的に優れていると考えられる記録というのは、少数精鋭ともいうべき研鑽された上澄みである筈だ。

 

「だから、埃をかぶったビルゲンワースよりも、我らが偉大なる小さき大図書館こそが優れているのは自明の理なのだ!」

 

「静かにしてください、先生。」

 

悲しきかな、振り上げた両手が天井に吊るされたシャンデリア擬きにあたる。擬きというのも、こいつにロウソクは付いていないからだ。

代わりにびかぴかと光る丸い球が付いている。

 

「我が友アーチボルトよ、貴公の光は大図書館の未来を輝かしく照らしているぞ……。どうぞ安らかに……。」

 

「アーチボルドさんです、先生。ついでにまだご存命です。」

 

読書家少女は頭が固くていけない。そもそも言語は情報の伝達を目的に作られたのだから、多少差異があっても伝わればそれでいいのだ。

トルニトスだってトニトルスだって大した違いはあるまい。

それより。

 

「なぜ僕だけ置いてけぼりなのだ。大図書館の主人はこの私なのに。薄情者どもはどうしてカビ臭いビルゲンワースなどに……!」

 

「バーティ教授の言いつけを破った先生が悪いです。というか昨日まではあんなに楽しみにしてたじゃないですか。なんで今更貶してるんですか?」

 

「カミュ君。人というものはね、手に入らないものの価値を低いと思い込むことで心の安寧を得る、悲しい生き物なのだよ。」

 

僕は友達がいなくて陰気でケチで万年寝不足で不健康で背がちっさい少女にありがたい言葉を掛ける。

せめてこっちを向きたまえ。質問しておいて知らんぷりはどうかと思うぞ。

 

「ああ愛弟子ルメール君。君がいないと私の心が砂漠のようだ。腐れワカメの下卑た視線に晒されていると思うと私はどうにかなってしまいそうだ……。」

 

僕の渾身のポエムに、読書家少女は冷たい視線を浴びせかける。

返答がないというのはこうも辛いものか。

僕もちょっとどうかと思ったが。

 

「ところでカミュ君。これから私は噴水広場にでも散歩に行こうと思うんだが、一緒にどうだね?」

 

「うんこくさいので嫌です。」

 

ばっさり切られた。確かにあそこはうんこ臭い。なんたって青空天井の下水が近くにあるのだ。

下水のすぐ真上に住んでいるヤツは自分の顔の中央に開いた二つの穴が何だったのか忘れているに違いない。

カミュ君の言い分もわかるが、この陰気な街を一人で歩くのもつまらない。それに。

 

「今日の今頃なら、ガスコイン少女が暇をしている頃だろう。偶には顔を出してやっても良いんじゃないか?」

 

そう言うと黙り込んでしまった。こいつは友達がいなくて陰気でケチで万年寝不足で不健康で背がちっさいが、面倒見は結構いい。

おそらく背がちっさいもの同士、通じ合うものがあるのだろう。

僕もガスコイン家、とくにガスコイン少女には少し思うところもあるので、彼女の遊び相手をしてくれるなら嬉しいものだ。

 

僕は絶望的に似合わないと薄情者どもに判を押されたトップハットを被り、黒いコートを羽織る。

特にコートについた口元を覆うフェイスカバーはこの街では必需品だ。

これがなければ今頃僕の鼻はもぎ取れていたことだろう。

 

「ほら、行くよ。早く靴を履いて。」

 

この大図書館では、僕の要望で靴を脱いで入るようにしている。

この街が特別汚いのもあるが、家というものは靴を脱いで入るもの、という故郷の習慣が大きいところだ。

靴を履いたまま、というのはやはり落ち着かない。

 

結局カミュは根負けした様子で、渋々コートを羽織り靴を履く。襟が顔の半分以上を覆うので、まるで新手の妖怪みたいだ。

 

「じゃあ行こうか。ガスコインも首を長くして待ってることだろう。……おっと、忘れていた。」

 

僕は玄関に立てかけてある杖を手に取る。この街で暮らす以上、ある程度体面を取り繕わなければ面倒ごとがある。

それに、獣狩りの夜でなくても、自衛の手段というのはいくらあっても足りないものだ。

 

カミュも小振りの短刀を懐に忍ばせる。小振りといっても、刀身にはノコギリのような凹凸がある。

これを逆手で振られたら大の大人だってひとたまりもないだろう。

カミュは不健康だが筋力がないというわけではない。

 

「よし、それでは大図書館遠征隊第二弾、出発だ。」

 

僕は少し笑いながら、未だに不機嫌そうなカミュの頭を撫でてやった。

 

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