神速のGK 作:インパラス
半分からは、アシトの視点。
やっと書けました。五話の会話の内容回収。
朝。寮に戻ったら、誰もいねえ。
今日の練習は、朝からだったか。暑苦しい奴らがいないから、開放感がある。
あー、だる…。外行くの面倒いし、トレーニングやるか。
「あ、お前。青井含太だ」
「…あ?」
通り過ぎたドアから、一人出てきた。見覚えのあるヤツだ。直接じゃなく、テレビで。
「何してんの?練習始まってるぜ」
「…」
「待て、話してるだろ。無視は良くない」
「あ"ーー?筋トレ行くからどけ」
「じゃあ、話そう」
何だコイツ。会話が噛み合ってないんだけど。
「お前さ、どっちやるんだ?」
「…」
「だから、行くなって。俺もこのあと直ぐ出るんだ。五分くらいしかない」
「GK」
「……」
「……」
「待てって。でさ、この前の試合のアディショナルタイム。一人でいったよな」
「お前、人の話聞いてねえだろ」
「でも、一人進みながらも、周りを把握していたよな。パス出す気もなさそうだったけど…お前の奇襲に、味方も反応していなかった」
「おい、触んな」
「俺なら、動いていた。お前と同じように、もう一点を狙ったさ。相手も諦めムードで、隙だらけだったもんな。味方も、もう浮かれたムードで、もう一点を望んでいなかった。お前だけだった」
「殺すぞ」
「もう少しちゃんと聞けよ。俺、J1出てるんだけど」
「へー、すっごいなぁ」
早く行かないかな、こいつ。
「福田さんが昨日の試合出さなかったのは、ゴールをフリーにしたことじゃない。お前が、遊び過ぎたからだって。俺は悪くないと思ったけどなー、四人連続また抜きドリブル。特に、最後はよかった」
「ソーですか」
「中盤やってよ。コーチングもしなくていいんだ。それに、頭の方も天才なんだってな。俺ならお前の意図も分かるし、お前も俺の意図を読める。な?」
「キモい」
「俺、いつユースのAに戻るか分かんないけど、それまでに、ちゃんとAに上がっておけよ。じゃ」
そうだな、安心しろ。何があっても、お前の言うようにはしないから。
昼、電話がかかってきた。
オカンからだ。
「何だ」
『何って…昨日のことよ。ねえ、葦人のこと…ゆるしてやって』
「はあ?」
『葦人も、本心やないと…いや、少しは本心かも。…でも、あの子、あんたの事大好きだから』
「切るぞ」
どうでもいい。マジで。
『それで、どうすればいいって聞かれて、何も思い浮かばなかったから、取り敢えず頭剃れって言ったのよ。もう見た?』
「いや」
『あとで、写メ送って』
午前中で練習が終わって、寮に戻ってきたアフロを見れば、アフロじゃ無くなっていた。剃るって、ガチかよ。ツルツルなんだけど。
で、目が合っても何も言ってこねえから、マヌケな面の写メだけ取って、トレーニングに戻った。
『これ最高。やっぱり、葦人は可愛いわ。アンタもしてみれば?』
待ち受けにするらしい。
月曜。
午前の授業も終わり、花ちゃんと食堂行くかと席を立つ。
花ちゃんが、得意げに道を塞いでいた。後ろ、つかえていますよ。
「今日、お弁当作ってきたんだ」
「へー」
「む。もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか。せっかく朝から作ったんだぞ。栄養価も、ちゃんと押さえてるし」
「すげー嬉しい。ありがとう」
「…うん。じゃあ食べようか」
中身は、まず弁当箱からして女の子らしさはなく、機能的だった。だが、それがいい。
一つ一つに、凝っているのが見てわかる。コイツ、料理もできるって、万能かよ。
うまそう。
「なぁ」
「ん?」
なんだよ。早く食いたいんだけど。
「メールでも聞いたけど、大丈夫なのか?アシトと」
「別に、何も」
「キミ、何もって…殴られたのは、怪我ないのか?」
「歯、折れてた」
「は!?」
「歯」
「病院には行ったのか!?アスリートにとって歯というのは…」
「行った。もう治療済みだ。見る?」
「……あ、そうかよかった。見ないよ」
「じゃ、もう食ってもいいかな。めっちゃうまそうで、腹が鳴りそうなんだけど」
「あ、うん。ごめん、どうぞ」
「はい、いただきます」
うま。
来週の月曜にも、また作るそうだ。
月曜だから、練習はない。
放課後は、先週のように、花ちゃんと仲良く二人きりのお勉強の時間だ。
「あれ、杏里ちゃんいんの?」
「…どうも」
「ちょっと話したらさ、杏里も一緒に勉強したいんだって」
トイレから戻ったら、お嬢様が教室にいた。
これは、良くない状況だ。花ちゃんをオトすべき今、人数が増えるのは好ましくない。
しかし、厄介なことに、相手はお嬢様だ。
いっそまとめて…いや、それはまだ早い。
「へー、杏里ちゃんも、勉強出来るんだったね。今日は、よろしく」
「…はい」
今日は、な。
「あの、兄選手のこと何ですけど…」
始めて三十分が過ぎた頃、お嬢様がそう切り出した。アフロ…じゃねえか、ハゲ…も被る。
葦人のことかよ。どうでもいいんだけど。
「杏里ちゃん、そういう話は後で…」
「私のことは気にしなくていいぞ」
いや、そこは断れよ。今しなくてもいい話だろうが。
「サイドバックでの起用、どう思われますか」
「どうと言われても…頑張れとしか」
クソどうでもいい。葦人に直接言えよ。
「福田監督の意図を、私は知りたいのです。私は、兄選手に最も適正なポジションは、トップ下。せめてボランチ…中盤…中央だと考えています。兄選手の能力は…」
「待った」
「…?」
「杏里ちゃんさ、サッカーの監督目指してるんだろ?」
「私の夢は、自分の力で、自分のサッカー理論で、…」
「じゃあさ、もう少し見てやってもいいんじゃないかな。杏里ちゃんは今、葦人はDFやるべきじゃないって思ってるんだよな」
「…はい」
「あ、今アシトって」
「でもさ、オッサ…福田監督は、アイツをサイドバックに置いた。実はこれ、去年から決まっていたことなんだよ」
「………あ、だから、ディフェンスの練習も?」
「まあ、そう。監督が何でアイツをサイドバックに転向させたのか、考えてみるのもいいんじゃないかな。一つヒントを言うとさ、アイツは一つ、特殊な才能がある。常人からすれば、普通じゃないってことだ」
俺には、そんなものが霞むくらいの、絶対的な才能があるがな。
「アイツは、まだスタートにも立っていない。だから、杏里ちゃんも一緒に学んだらいい。あ、出来るだけ固定観念を無くしてな。才能、極めた技術は、常人には正しく認識することすら、難しい。だって、例えば…テレビに映るトップチームの試合も、常人からすれば有り得ないことの連続なんだからさ(らしいな)」
雑誌で読んだ言葉だ。
俺は、練習しなくても大体できるけど。
「…」
「おー」
パチパチと、控えめな拍手が鳴る。花ちゃんが、嬉しそうに笑っていた。
「ゴンタは、本当にアシトのこと考えてるんだな!」
「は?」
何で、そうなる。
お嬢様のために、クソつまんねえことを態々言ったんだけだ。
しかし、花ちゃんの笑顔が帳消しにする。ガキっぽい笑い方は変わらねえけど、何かこれがよくなってきた。
「そうだ、アシト!アシトのあの頭も似合ってたよな。ゴンタもお揃いにしたらどうだ?」
「冗談」
「いや、きっと似合うと思うぞ!あはは」
「………あの、名前…」
「ん?」
「……いえ。…ありがとうございました」
じゃあ、ヤらせろ。社長サンには内緒で。
…あー、やっぱ楽な方がいい。令嬢に監督の妹って、ミスった感が満載だ。二人同時に気を使って話すのも怠い。
「全然。何かあれば協力するからさ、遠慮なく言って。あまり、杏里ちゃんみたいな人いないからさ、意見交わせるのは貴重なんだ。こっちも参考になる」
「…はい。こちらこそよろしくお願いします」
深々と頭を下げ出した。
大げさだろ。
アシト↓
「え…え!?アシト、どうしたんだその頭!?」
食堂中に、大友の声が響いた。全員の視線が、突き刺さってくる。
「くくっ、どうだ俺様がやってやったんだぜ!上出来だろ」
後ろから、冨樫が得意げに言った。
「あ、アシト…大丈夫なのか?」
橘が心配そうに聞いてくる。他の奴らもそうや。やっぱり、コイツらはいい奴らだ。
「みんな、昨日はごめん!ポジション変わったけど、これからもよろしく頼む。色々と、教えてくれると助かる」
オフ明けの火曜の練習。
「今日、福田はいない。全体練習のあと、短時間のミニゲームを行って終了とする」
AもBも公式戦二連勝と好調。
メンバー入れ替え…平さんと長野さん、そして黒田と朝利がAへと上がった。
今日の練習は、チームにおける自分の役割を整理するのが目的だそうだ。
ミニゲームは、AとBをそれぞれ九人ずつ二つに分け、計四チームで二十分間。
ボードを見ると、俺は、B2の左サイドバック。同じDFには、隣から竹島、冨樫、増子。前線を見ても、B2は、一年で固めてあるみたいだ。
ゴンタの、姿はない。さっき、望コーチに聞いたら、ゴンタから外出の連絡はあったらしい。ただ、認められる訳ではないと言っていた。
だから話した。ゴンタを一方的に殴ったことをだ。でも、そうしたら、望コーチはそれ以上何も言わなかった。
考えた。
何で、DFになったのか。
でも、何も分からなかった。
考えれば、考えるほど、FWに戻りたかった。
でも、それは今は無理だ。
何をすればいいかも、わからん。
俺がやりたいことは一つ。点を獲ることが、俺の全て。
それは、DFでもやる。できるんや。できない筈はない。
だって、ゴンタはGKとして、点を獲ったんだから。
俺に、あんな点の取り方は、今は出来ない。でも、俺には俺の点の獲り方があるんや。
俺は、点を獲るぞ。
「調子は、どうだ」
「…やります」
「そうか。頑張れよ」
俺は、やらなければならない。
ピッチが広い。
光景が、まるで全然違う。
「こんなに、後ろなんや…サイドバック」
全部が見渡せる。敵も、味方も全部。
「よろしく。ラインコントロール、俺がするから」
隣の竹島だ。守備型に特化したタイプのDF。守備は、コイツから学べばいいと聞いた。
「竹島。今日、俺にどう動いてほしいとかあるか?」
「'絞り'。それさえできてりゃいいよ。あとはお好きに〜」
朝、冨樫にも言われた'絞り'。DFが一人抜けた時に、残りのDFで、空いたスペースを埋めること。この時、残ったDFは全体で動かなければならない。とにかく中央のスペースを無くし、致命的なスペースを埋めるケアプレー。
当たり前だが、FWの俺でも知っている。でも、冨樫から言われて思い浮かんだのは、別のことだ。
ゴンタと、去年の…夏?頃から、偶に一緒に海外のトップチームの動画を観るようになったんだ。俺は、FWしか見なかったけど、ゴンタは守備に意識を置いて観ていた。何で知っているかというと、ゴンタに話しかけられたからだ。アイツは、今までも試合中継を観ることはあっても、俺がどんなに話しかけても、いつも聞いてくれなかった。
でも、去年の夏以降は、守備のことでなら、サッカー談義をするようになったんだ。俺は、守備よりも攻撃のことを話したかったけど、ゴンタと談義できることが嬉しくて、守備も勉強した。部の奴らと、守備を練習したりもした。
今日の朝、気づいたんだ。
ゴンタは、あの時から、今日俺がこうなることを知っていたんやなって。
暗い感情と、嬉しい気持ちが、同時に込み上げてきた。
笛が鳴った。ゲームが、開始する。
「うわ遠ッ!」
開始早々に、橘があんな遠くにいる。
俺も、前に。
「…あっ」
逆SBの増子が、前に出ているのが見えた。
あぶねー…。
「青井!早く絞れ!」
「お、おう!」
中央に寄る。竹島と、冨樫はもう既に寄っていた。
「お前、増子のこと見えてたんだな。上がると思ったぜ」
「あ、うん」
「でも、ラインもちゃんと見ておけよ」
あれ?なんで今、あんな遠くいる増子のことが、視界に入ったんや…?
でも、竹島の言うように、DFのラインは、全然見えてなかった。
「…ああ。これが、守備なんか……?」
これまで、攻撃しかしてこなかった。
いくら、ゴンタと談義したから、中学の奴らと練習したからと言って、俺は守備をしてこなかった。
変な気分。
すっきりするけど、やっぱり前がいい。
前に行きたい。
ペナルティエリアより前で、攻撃陣がAにパスカットされた。
「攻守交代!Aがくるぞ!!」
左を使ってきた。
初っ端から、俺ー!?
どうすればいい…そうだ。中央、中央を開けないで…そうだ、動きを真似して…
「青井ィ!!もっと絞れ!!」
「…え!?」
こっちにくる前に、接触が起きて、ボールはラインを割る。
「お前、意識はあるみたいだけど、遅えよ。もっとこっちも見ろ。俺と、冨樫の動きを見ながら動け。お前の後ろには、誰もいないんだぜ?中央だ。とにかく、もっと絞れ」
「お、おう!!」
「ま、頑張れ」
やっぱり、やるのとでは全然ちげえ。
…おもしろく、ない。
笛が鳴る。二十分の試合が終わった。
半分の時間なのに、いつもよりずっと長く感じた。喉に小骨が突き刺さったような違和感を、ずっと感じていた。
やっと、終わった…。
「最後、惜しかったなー」
「ごめん、俺が決めていれば…」
「いやいや、あれはキーパーのスーパーセーブだしな!」
大友と、橘が話している。最後、橘はDFが一枚いる状態で、よくあのコースを撃ったと思う。本当に、惜しかった。俺も、撃ちたい。
「それより!アシトやるじゃねえか!」
「そ、そうか?いや、でもまだや…」
「ま、そうだな」
「竹島…」
「絞りはなってねえし、攻撃に目が行き過ぎだ。正直、全然ダメだ。でも、なんだろうな、俺がカバーしたこともあるけど、致命的なところはなかった。初めてだろ?センスあるんじゃね?」
「だよな!アシト、最後の橘へのロングもよかったし!それに…一回、一対一の時、ボール奪取してたよな!あれ、そんな動いてなかったのに、なんで取れたんだ!?」
大友から聞かれて、思い返す。
あの時は、あまり実感はなかったんや。ただ…
「…遅かった」
「は?遅かったって、Aチームだぞ!アシト、お前何言って…」
「ゴンタより、全然遅かったんや…。足の動きも、スピードも…全部だ」
「…は、あ…?」
ゴンタの方が、上手い。一度もボールを取れたことはなかった。
さっきのとは…
そうだ。だから、足を伸ばした。
俺でも、奪えると思ったからだ。