神速のGK   作:インパラス

14 / 23


半分からは、アシトの視点。
やっと書けました。五話の会話の内容回収。



力になってる

 

 

 

 

 

 

 朝。寮に戻ったら、誰もいねえ。

 今日の練習は、朝からだったか。暑苦しい奴らがいないから、開放感がある。

 あー、だる…。外行くの面倒いし、トレーニングやるか。

 

 「あ、お前。青井含太だ」

 「…あ?」

 

 通り過ぎたドアから、一人出てきた。見覚えのあるヤツだ。直接じゃなく、テレビで。

 

 「何してんの?練習始まってるぜ」

 「…」

 「待て、話してるだろ。無視は良くない」

 「あ"ーー?筋トレ行くからどけ」

 「じゃあ、話そう」

 

 何だコイツ。会話が噛み合ってないんだけど。

 

 「お前さ、どっちやるんだ?」

 「…」

 「だから、行くなって。俺もこのあと直ぐ出るんだ。五分くらいしかない」

 「GK」

 「……」

 「……」

 「待てって。でさ、この前の試合のアディショナルタイム。一人でいったよな」

 「お前、人の話聞いてねえだろ」

 「でも、一人進みながらも、周りを把握していたよな。パス出す気もなさそうだったけど…お前の奇襲に、味方も反応していなかった」

 「おい、触んな」

 「俺なら、動いていた。お前と同じように、もう一点を狙ったさ。相手も諦めムードで、隙だらけだったもんな。味方も、もう浮かれたムードで、もう一点を望んでいなかった。お前だけだった」

 「殺すぞ」

 「もう少しちゃんと聞けよ。俺、J1出てるんだけど」

 「へー、すっごいなぁ」

 

 早く行かないかな、こいつ。

 

 「福田さんが昨日の試合出さなかったのは、ゴールをフリーにしたことじゃない。お前が、遊び過ぎたからだって。俺は悪くないと思ったけどなー、四人連続また抜きドリブル。特に、最後はよかった」

 「ソーですか」

 「中盤やってよ。コーチングもしなくていいんだ。それに、頭の方も天才なんだってな。俺ならお前の意図も分かるし、お前も俺の意図を読める。な?」

 「キモい」

 「俺、いつユースのAに戻るか分かんないけど、それまでに、ちゃんとAに上がっておけよ。じゃ」

 

  そうだな、安心しろ。何があっても、お前の言うようにはしないから。

  

 

 

 

 

 

 

 昼、電話がかかってきた。

 オカンからだ。

 

 「何だ」

 『何って…昨日のことよ。ねえ、葦人のこと…ゆるしてやって』

 「はあ?」

 『葦人も、本心やないと…いや、少しは本心かも。…でも、あの子、あんたの事大好きだから』

 「切るぞ」

 

 どうでもいい。マジで。

 

 『それで、どうすればいいって聞かれて、何も思い浮かばなかったから、取り敢えず頭剃れって言ったのよ。もう見た?』

 「いや」

 『あとで、写メ送って』

 

 

 午前中で練習が終わって、寮に戻ってきたアフロを見れば、アフロじゃ無くなっていた。剃るって、ガチかよ。ツルツルなんだけど。

 で、目が合っても何も言ってこねえから、マヌケな面の写メだけ取って、トレーニングに戻った。

 

 『これ最高。やっぱり、葦人は可愛いわ。アンタもしてみれば?』

 

 待ち受けにするらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜。

 午前の授業も終わり、花ちゃんと食堂行くかと席を立つ。

 花ちゃんが、得意げに道を塞いでいた。後ろ、つかえていますよ。

 

 「今日、お弁当作ってきたんだ」

 「へー」

 「む。もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか。せっかく朝から作ったんだぞ。栄養価も、ちゃんと押さえてるし」

 「すげー嬉しい。ありがとう」

 「…うん。じゃあ食べようか」

 

 中身は、まず弁当箱からして女の子らしさはなく、機能的だった。だが、それがいい。

 一つ一つに、凝っているのが見てわかる。コイツ、料理もできるって、万能かよ。

 うまそう。

 

 「なぁ」

 「ん?」

 

 なんだよ。早く食いたいんだけど。

 

 「メールでも聞いたけど、大丈夫なのか?アシトと」

 「別に、何も」

 「キミ、何もって…殴られたのは、怪我ないのか?」

 「歯、折れてた」

 「は!?」

 「歯」

 「病院には行ったのか!?アスリートにとって歯というのは…」

 「行った。もう治療済みだ。見る?」

 「……あ、そうかよかった。見ないよ」

 「じゃ、もう食ってもいいかな。めっちゃうまそうで、腹が鳴りそうなんだけど」

 「あ、うん。ごめん、どうぞ」

 「はい、いただきます」

 

 うま。

 

 来週の月曜にも、また作るそうだ。

 

 

 

 

 

 月曜だから、練習はない。

 放課後は、先週のように、花ちゃんと仲良く二人きりのお勉強の時間だ。

 

 「あれ、杏里ちゃんいんの?」

 「…どうも」

 「ちょっと話したらさ、杏里も一緒に勉強したいんだって」

 

 トイレから戻ったら、お嬢様が教室にいた。

 

 これは、良くない状況だ。花ちゃんをオトすべき今、人数が増えるのは好ましくない。

 しかし、厄介なことに、相手はお嬢様だ。

 いっそまとめて…いや、それはまだ早い。

 

 「へー、杏里ちゃんも、勉強出来るんだったね。今日は、よろしく」

 「…はい」

 

 今日は、な。

 

 

 

 

 「あの、兄選手のこと何ですけど…」

 

 始めて三十分が過ぎた頃、お嬢様がそう切り出した。アフロ…じゃねえか、ハゲ…も被る。

 葦人のことかよ。どうでもいいんだけど。

 

 「杏里ちゃん、そういう話は後で…」

 「私のことは気にしなくていいぞ」

 

 いや、そこは断れよ。今しなくてもいい話だろうが。

 

 「サイドバックでの起用、どう思われますか」

 「どうと言われても…頑張れとしか」

 

 クソどうでもいい。葦人に直接言えよ。

 

 「福田監督の意図を、私は知りたいのです。私は、兄選手に最も適正なポジションは、トップ下。せめてボランチ…中盤…中央だと考えています。兄選手の能力は…」

 「待った」

 「…?」

 「杏里ちゃんさ、サッカーの監督目指してるんだろ?」

 「私の夢は、自分の力で、自分のサッカー理論で、…」

 「じゃあさ、もう少し見てやってもいいんじゃないかな。杏里ちゃんは今、葦人はDFやるべきじゃないって思ってるんだよな」

 「…はい」

 「あ、今アシトって」

 「でもさ、オッサ…福田監督は、アイツをサイドバックに置いた。実はこれ、去年から決まっていたことなんだよ」

 「………あ、だから、ディフェンスの練習も?」

 「まあ、そう。監督が何でアイツをサイドバックに転向させたのか、考えてみるのもいいんじゃないかな。一つヒントを言うとさ、アイツは一つ、特殊な才能がある。常人からすれば、普通じゃないってことだ」

 

 俺には、そんなものが霞むくらいの、絶対的な才能があるがな。

 

 「アイツは、まだスタートにも立っていない。だから、杏里ちゃんも一緒に学んだらいい。あ、出来るだけ固定観念を無くしてな。才能、極めた技術は、常人には正しく認識することすら、難しい。だって、例えば…テレビに映るトップチームの試合も、常人からすれば有り得ないことの連続なんだからさ(らしいな)」

 

 雑誌で読んだ言葉だ。

 俺は、練習しなくても大体できるけど。

 

 「…」

 「おー」

 

 パチパチと、控えめな拍手が鳴る。花ちゃんが、嬉しそうに笑っていた。

 

 「ゴンタは、本当にアシトのこと考えてるんだな!」

 「は?」

 

 何で、そうなる。

 お嬢様のために、クソつまんねえことを態々言ったんだけだ。

 しかし、花ちゃんの笑顔が帳消しにする。ガキっぽい笑い方は変わらねえけど、何かこれがよくなってきた。

 

 「そうだ、アシト!アシトのあの頭も似合ってたよな。ゴンタもお揃いにしたらどうだ?」

 「冗談」

 「いや、きっと似合うと思うぞ!あはは」

 「………あの、名前…」

 「ん?」

 「……いえ。…ありがとうございました」

 

 じゃあ、ヤらせろ。社長サンには内緒で。

 …あー、やっぱ楽な方がいい。令嬢に監督の妹って、ミスった感が満載だ。二人同時に気を使って話すのも怠い。

 

 「全然。何かあれば協力するからさ、遠慮なく言って。あまり、杏里ちゃんみたいな人いないからさ、意見交わせるのは貴重なんだ。こっちも参考になる」

 「…はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げ出した。

 大げさだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アシト↓

 

 

 

 

 

 

 「え…え!?アシト、どうしたんだその頭!?」

 

 食堂中に、大友の声が響いた。全員の視線が、突き刺さってくる。

 

 「くくっ、どうだ俺様がやってやったんだぜ!上出来だろ」

 

 後ろから、冨樫が得意げに言った。

 

 「あ、アシト…大丈夫なのか?」

 

 橘が心配そうに聞いてくる。他の奴らもそうや。やっぱり、コイツらはいい奴らだ。

 

 「みんな、昨日はごめん!ポジション変わったけど、これからもよろしく頼む。色々と、教えてくれると助かる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オフ明けの火曜の練習。

 

 

 

 「今日、福田はいない。全体練習のあと、短時間のミニゲームを行って終了とする」

 

 AもBも公式戦二連勝と好調。

 メンバー入れ替え…平さんと長野さん、そして黒田と朝利がAへと上がった。

 今日の練習は、チームにおける自分の役割を整理するのが目的だそうだ。

 ミニゲームは、AとBをそれぞれ九人ずつ二つに分け、計四チームで二十分間。

 ボードを見ると、俺は、B2の左サイドバック。同じDFには、隣から竹島、冨樫、増子。前線を見ても、B2は、一年で固めてあるみたいだ。

 

 ゴンタの、姿はない。さっき、望コーチに聞いたら、ゴンタから外出の連絡はあったらしい。ただ、認められる訳ではないと言っていた。

 だから話した。ゴンタを一方的に殴ったことをだ。でも、そうしたら、望コーチはそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 考えた。

 何で、DFになったのか。

 でも、何も分からなかった。

 考えれば、考えるほど、FWに戻りたかった。

 でも、それは今は無理だ。

 

 何をすればいいかも、わからん。

 俺がやりたいことは一つ。点を獲ることが、俺の全て。

 それは、DFでもやる。できるんや。できない筈はない。

 だって、ゴンタはGKとして、点を獲ったんだから。

 俺に、あんな点の取り方は、今は出来ない。でも、俺には俺の点の獲り方があるんや。

 俺は、点を獲るぞ。

 

 

 「調子は、どうだ」

 「…やります」

 「そうか。頑張れよ」

 

 俺は、やらなければならない。

 

 

 

 

 

 ピッチが広い。

 光景が、まるで全然違う。

 

 「こんなに、後ろなんや…サイドバック」

 

 全部が見渡せる。敵も、味方も全部。

 

 「よろしく。ラインコントロール、俺がするから」

 

 隣の竹島だ。守備型に特化したタイプのDF。守備は、コイツから学べばいいと聞いた。

 

 「竹島。今日、俺にどう動いてほしいとかあるか?」

 「'絞り'。それさえできてりゃいいよ。あとはお好きに〜」

 

 朝、冨樫にも言われた'絞り'。DFが一人抜けた時に、残りのDFで、空いたスペースを埋めること。この時、残ったDFは全体で動かなければならない。とにかく中央のスペースを無くし、致命的なスペースを埋めるケアプレー。

 

 当たり前だが、FWの俺でも知っている。でも、冨樫から言われて思い浮かんだのは、別のことだ。

 ゴンタと、去年の…夏?頃から、偶に一緒に海外のトップチームの動画を観るようになったんだ。俺は、FWしか見なかったけど、ゴンタは守備に意識を置いて観ていた。何で知っているかというと、ゴンタに話しかけられたからだ。アイツは、今までも試合中継を観ることはあっても、俺がどんなに話しかけても、いつも聞いてくれなかった。

 でも、去年の夏以降は、守備のことでなら、サッカー談義をするようになったんだ。俺は、守備よりも攻撃のことを話したかったけど、ゴンタと談義できることが嬉しくて、守備も勉強した。部の奴らと、守備を練習したりもした。

 

 今日の朝、気づいたんだ。

 ゴンタは、あの時から、今日俺がこうなることを知っていたんやなって。

 暗い感情と、嬉しい気持ちが、同時に込み上げてきた。

 

 

 

 笛が鳴った。ゲームが、開始する。

 

 「うわ遠ッ!」

 

 開始早々に、橘があんな遠くにいる。

 俺も、前に。

 

 「…あっ」

 

 逆SBの増子が、前に出ているのが見えた。

 あぶねー…。

 

 「青井!早く絞れ!」

 「お、おう!」

 

 中央に寄る。竹島と、冨樫はもう既に寄っていた。

 

 「お前、増子のこと見えてたんだな。上がると思ったぜ」

 「あ、うん」

 「でも、ラインもちゃんと見ておけよ」

 

 あれ?なんで今、あんな遠くいる増子のことが、視界に入ったんや…?

 でも、竹島の言うように、DFのラインは、全然見えてなかった。

 

 「…ああ。これが、守備なんか……?」

 

 これまで、攻撃しかしてこなかった。

 いくら、ゴンタと談義したから、中学の奴らと練習したからと言って、俺は守備をしてこなかった。

 変な気分。

 すっきりするけど、やっぱり前がいい。

 前に行きたい。

 

 ペナルティエリアより前で、攻撃陣がAにパスカットされた。

 

 「攻守交代!Aがくるぞ!!」

 

 左を使ってきた。

 初っ端から、俺ー!?

 どうすればいい…そうだ。中央、中央を開けないで…そうだ、動きを真似して…

 

 「青井ィ!!もっと絞れ!!」

 「…え!?」

 

 こっちにくる前に、接触が起きて、ボールはラインを割る。

 

 「お前、意識はあるみたいだけど、遅えよ。もっとこっちも見ろ。俺と、冨樫の動きを見ながら動け。お前の後ろには、誰もいないんだぜ?中央だ。とにかく、もっと絞れ」

 「お、おう!!」

 「ま、頑張れ」

 

 やっぱり、やるのとでは全然ちげえ。

 …おもしろく、ない。

 

 

 

 

 笛が鳴る。二十分の試合が終わった。

 半分の時間なのに、いつもよりずっと長く感じた。喉に小骨が突き刺さったような違和感を、ずっと感じていた。

 やっと、終わった…。

 

 「最後、惜しかったなー」

 「ごめん、俺が決めていれば…」

 「いやいや、あれはキーパーのスーパーセーブだしな!」

 

 大友と、橘が話している。最後、橘はDFが一枚いる状態で、よくあのコースを撃ったと思う。本当に、惜しかった。俺も、撃ちたい。

 

 「それより!アシトやるじゃねえか!」

 「そ、そうか?いや、でもまだや…」

 「ま、そうだな」

 「竹島…」

 「絞りはなってねえし、攻撃に目が行き過ぎだ。正直、全然ダメだ。でも、なんだろうな、俺がカバーしたこともあるけど、致命的なところはなかった。初めてだろ?センスあるんじゃね?」

 「だよな!アシト、最後の橘へのロングもよかったし!それに…一回、一対一の時、ボール奪取してたよな!あれ、そんな動いてなかったのに、なんで取れたんだ!?」

 

 大友から聞かれて、思い返す。

 あの時は、あまり実感はなかったんや。ただ…

 

 「…遅かった」

 「は?遅かったって、Aチームだぞ!アシト、お前何言って…」

 「ゴンタより、全然遅かったんや…。足の動きも、スピードも…全部だ」

 「…は、あ…?」

 

 ゴンタの方が、上手い。一度もボールを取れたことはなかった。

 さっきのとは…

 そうだ。だから、足を伸ばした。

 俺でも、奪えると思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。