神速のGK 作:インパラス
クラブユース選手権uー17 は、原作でも名前しか出てないので飛ばし。
4〜6節に関しても、結果しか出てないので略。
3節も同様でしたが、少し書きました。
続けて投稿します。
「想像以上だ。」
クラブハウスの一室に、愉快げな声が一つ。
福田は、椅子の背を傾けて、天井を見上げながら笑った。
「だが、ムラが大きい。弟が後ろにいる時と、そうでない場合の時の動きに、差があり過ぎるぞ」
蛍光灯が照らす室内には、二人の人間がいた。ユース監督、Aチームを率いる福田と、ユースヘッドコーチにして、Bチームを率いる伊達だ。
「慣れたら解決するさ。しかし、含太様々だ。アシトがあんなに動けるなんてな。弟がいる時だけ、守備にやる気出しているのも分かりやすいじゃん。いない時は、見るからに前に出たがってるのにな」
「だが、それ以上に…」
「ああ、DFやらせて初めて気づくとは、まだまだだな…俺も」
「…青井葦人の能力において、特筆すべきものが、天賦のものに加えて、もう一方の動体視力もだとはな。見ることに於いては、現時点でもAに通用するだろう。
…本人が言っていたよ。弟に比べたら、遅いとな。代表に呼ばれるレベルの選手たちにも、その言い様だ。技術が追いついていないため、最初のように奪取とはならなかったがな…」
「で、弟の方は、未だに底が見えない。この間の試合の最後もな…あれ、映像見返す度に思ったぜ。コイツ心臓何で出来てんのかってさ。公式試合で、それもGKだぜ?
一度のミスも許されない状況で、態々難易度の高い技使ってさ、普通のフェイントでも、アイツなら余裕でいけるというのにな。馬鹿なのか…いや、天才か」
「……青井兄は、そんな天才を常に間近で見続け、サッカーをし続けた。弟を追っていたからこその賜物か…真に精神が強いのは、青井葦人の方かもしれない。よく、ああ曲がりもせず、伸び伸びと育ったものだと思うよ」
常人であれば、早い段階で腐っていただろう。それが普通なのだ。だが現に、青井葦人は転向させられてからも、自らの意思で進み続けている。
伊達は、言い様のない熱を胸に感じた。
「望。次の試合では、まだアシトは出すなよ。揃って出すのは、まだ早い。アシトには、一度外から観させたい…と思っていたんだよなあ…」
「…怪我か」
「そうだ。都合よくいっている時こそ、どこかタガが外れる。特に、まだアシトは自分の限界を知らない。試合に出すのは、もう少し基礎を固めさせてからと考えていた…が、やっぱりなしだ!次の試合に出そう。DFに不満があるようなら、暫く試合を外から観させてもよかったが、存外にやる気だ」
「だが…どうする。今の状態では、攻撃はまだしも、守備面では…ミニゲーム練習でも、ボール奪取に意識が傾いているようだ。弟が後ろにいる時は、その傾向が強い。練習では、まだいいんだ。しかし、公式戦となると、危険なプレーに発展するかもしれんぞ」
「そうだな…少し制限をかけるか。それでリスクも減るだろう?」
「…やはり、まだ外から観させるべきではないか。当初のお前の考えの通りに、基礎をもっと教えてからの方がいい。今の青井は、急ぎ過ぎている。…まだ、時間は十分にあるんだ」
「…難しいよな。しかしだからこそ、葦人に自信をつけさせたい。アイツは、今なんだよ。もうアイツは、ずっと昔から洗礼を受け続けているんだ。そして今、動機はどうであれ、自分の出来ることを見つけようとしている。
心配すんなよ、この一試合だけだ。事前に忠告はするし、何かあればお前の判断で代えてくれ。その後は、ちゃんと外から観させる。だから、GKは青井含太、SBは青井葦人でいこう。やはり、今なんだ。」
金曜。
放課後の練習後に、日曜にある第三節のスタメン発表がある。もう見た感じ決まっているが。
葦人は、選ばれないだろう。
なんかアホなこと始めてるしな。本人は、首振りのつもりだと、お嬢様が言っていた。栗林を参考にするようにって、お嬢様がアドバイスしたんだとさ。
しかしアイツは元から、そこそこ首というか、最小限で首を振りながらも、目はキモいくらいに動かしていた。
それが今は、首を振り過ぎて、目の動きと合わずに、ずれている。後ろから見ると、中々滑稽でウケる。
まあ、言ってやるつもりはないが。そのうち気づくだろ。
「ゴンタ、聞いてるのか?」
「ん?」
「アシトはポジション変わって、どうなのかって。試合には出れそうなのか?」
花ちゃんが、眉を寄らせ、口をへの字にさせていた。
「悪い、聞いてたよ。アイツは今回は無理だと思う」
「そうか…」
この教練からは、食堂はそこそこ遠い位置にある。必然と花ちゃんとの会話時間になるが、葦人のことを聞かれて、話す気が失せていた。
別のこと聞いてこいっつーの。主に、俺のことを。
「でも、そのうち出れるんじゃね」
「そっか!…キミは?」
「さあ?オッサンに頼んどいてよ」
「あはは、いいよ。この花ちゃんに任せておけ!」
最近、この時間が癒しになりつつある。アニマルセラピーってやつか。こんな動物なら、飼いたい。マジで。
「…?なんだ、顔になんかついてる?」
「いや、何も」
「?」
食堂に着くと、ドアの横から少し離れた場所に、お嬢様が立っていた。
ナンパされていると思ったら、ユースの奴らだ。見た目、完全に絡まれているけど。
「杏里ちゃん、何してんの?」
「あ、弟選手!」
あからさまに、ホッとした顔になった。マジで絡まれていたのかよ。いや、ソイツ幼なじみって言ってたよな。
「…これ、作ってみました。初めてです。どうぞ」
「ん、どうも」
流れで受け取ったが、どう見ても弁当。それも、かなりのデカさだ。ギリ一人で食えるかってくらいにデカい。
当然、俺の食を管理させてやっている花ちゃんから「量が多過ぎる」と食べる許可は下りず、外にあるベンチで、三人で食うことになった。
普通に、美味い。使っているモノが違うのが分かる。いくらかかってんだろ。
「どうですか…?」
「美味しいよ。これなんか、凄く好みの味」
「…よかったです」
「けど、何で突然?嬉しいけどさ」
「……えっと、あの……含太選手!!」
名前呼びかよ。まあ、いいか。
「ハイ、何ですか。杏里ちゃん」
「…!…いえ」
「なあ、杏里。これのレシピって…」
「えっ、あ、はい。それは確か…」
練習終わりに、牙突コーチから明後日のスタメンが発表された。
当然俺はGKだ。だが、葦人が、左SBに入っていた。マジかよ。
葦人を見ると、無駄にやる気になっちゃっている。で、それとは対照的に、選ばれなかった特に二、三年のDF陣からは不満な感じが出ている。それに、めでたい頭した葦人は気づいていない。
馬鹿らしい光景だ。お前らは、葦人以下ってことだよ。
「よっ!おつかれゴンタ。態々悪いね」
「いや、俺が言い出したことだし、暗いからさ」
「心配性だな。ここの敷地内なら何もないし、バイトも何度も来てるのに…ふふっ」
花ちゃんは、これからエスペリオンの食堂でバイトがある。勉強の息抜きに偶に入れていたらしい。全然気づかなかった。だが、去年のセレクションの時にも食堂にいたんだよな、コイツ。あの時はもっとガキっぽかった。
「俺、明後日GKだったよ」
「おおー」
「ついでに、アイツも左SBに入ってた」
「ええ!そうなのか!?でも、ゴンタ、アシトは今回は選ばれないって」
「うん、なんか知らねえけど入ってた」
「そっか。楽しみだなー」
「アイツが出るから?」
「…?二人が出るからだぞ。ゴンタとアシトは隣のポジションなんだよな!頑張れー」
「あー、うん。ハイ」
嬉しそうに笑っちゃって、まあ。
コイツ、俺と葦人が仲良くプレーするとでも思ってんだろうな。
ねえよ。
「お、来た来た。花ちゃーん!」
「ん?おばちゃん…と」
食堂の前に、二人分の影。片方は、見覚えのある頭だ。
「この栗林くんって子が、あなたに話があるって」
「あ、青井含太」
「これ、作ったのあんただよな」
「あ…い、一枚足りないと思ってたんだ。これをどこで?」
「先々週のBの試合の時に拾った」
「あ…あの時かー」
栗林が、持っていた一枚の紙は、花ちゃん手製の献立表だ。俺のはある。知らねえけど、多分落としたのは、葦人の分だろう。
「あんただったとはなー…福田監督のイモウト。ジュニアユースの時から、よく手伝いにきてた」
「おお、光栄だ!天下の栗林晴久に覚えてもらってる…」
クソ腹減った。早く中に入って食いたいが、花ちゃんと栗林を二人にするのは論外だ。
コイツ、自分の世話を花ちゃんにさせようとか思ってねえだろうな。
「おおお!栗林君!」
栗林が、中年二人に絡まれ始めた。
ナイスタイミングだ。
「花ちゃん、ほら行こう。ソイツ、ファンとの話で忙しいみたいだし」
「え、いいのか?」
「待った」
栗林が、歩き出そうとした花ちゃんのリュックに手を伸ばす。
当然、それを叩き落とした。
「ちょ!?ゴンタ、何やっているんだ!」
「何って、女の子に無用意に触れようとしたから、叩き落とそうと」
「もう、叩き落としてるぞ!怪我でもさせたらどうするんだ!」
「俺は平気」
「ほらな」
「ほらなじゃない!」
花ちゃんが、栗林の手を看ようとする。
俺は、それを阻止する。
「ほら、見せてみろよ」
「赤くなってるな」
「痛みはないだろ」
「まあ、それほどは」
「よし。な?」
「な?じゃないぞ。私湿布もらってくる」
花ちゃんは、食堂に入って行った。食堂にあるのかよ、湿布。
「あ。青井葦人…と、スポンサー」
「あ?」
栗林の目の先に、葦人とお嬢様が二人でいた。お嬢様は、スカートの端を両手で持ってリフティング中だ。紺か。あの柄は別荘で見たことがある。葦人には見えてないだろうが、この角度だと丸見えだ。
おい栗林、何見てんだよ。
「あれ、スポンサーが教えているのか。あんな感じで首振りの練習、俺もやったなあ。小学生の頃」
「…」
「引っ張るなよ」
お嬢様と、あんな暗闇で二人きりなんぞさせるか。俺もまだ手を出せてねえのに、あのクソハゲが?ざけんな。
だが、このまま栗林を残せば、花ちゃんと二人にさせることになる。連れて行くしかない。
「あ!…ゴンタ」
どうでもいい奴は無視だ。それよりお嬢様。
「杏里ちゃん、こんばんは。へー、葦人に教えてやってるのか」
「…含太選手。そちらは……栗林選手?」
「ゴンタが、葦人って…ん?栗林…?」
「なあ、首振りはいいと思うけど、青井は目のことも考えろよな。首振りは、目のサポートだぜ」
「え!?…あ、はい」
「その練習は、合ってる。スポンサーさん」
「…は!はい!」
「ほら」
落ちていたボールを栗林がリフトして、何故か俺に向けてきた。
ほら、じゃねえから。取らねーよ。
「あっ」
避けたら、後ろで葦人が拾っていた。
お嬢様が、目を瞬かせている。まあ、栗林が足を向けた瞬間に動いていたからな、葦人。
「うん、いい能力だ」
「あ…どう、も?」
「ボールくれ」
「あ、はい」
葦人からボールを受け取った栗林は、その足でドリブル。
足裏を使いながら回転、単純な動きで抜けていく。何がしたいんだよ。
そのまま、全く同じ動きで葦人も抜いていった。
「うん、いいな。ちゃんと見えてる。矛盾してて、面白いな、お前」
「え…は?」
「今の間で、何回…いや何十回見ていたか、分かるか?」
葦人は、栗林の意味深な言い回しに、翻弄されるがままだ。
お嬢様も、目を白黒とさせている。
「おーい、皆してそこで何やってるんだ?ちょっと探したぞ。アシトと、杏里まで…」
花ちゃんが、救急箱を片手に歩いてくる。
て、栗林の前で止まった。
「少し失礼して…アシト、これ持っててくれ」
「お、おう」
葦人に救急箱を持たせた花ちゃんは、湿布を取り出して、栗林の腕に貼った。持ってくんの、湿布だけでいいじゃん。
「どうも。前にも一度、手当してもらったことがあるんだ…あんたに…」
「…」
「献立表、俺にも作ってくれよ、花さん」
「へ!?」
「偏食なんだ、オレ。人参とかピーマンとか見るのも、いや」
「こ、子どもか!でも、あたしなんかの、冗談だろ…そんな」
あ"ーー、イラつく会話。
「頼むよ」
「…えっと…アシト、作っていいか」
「……え?なんで、俺に聞くんだ?栗林さんになんて、チャンスだろ。やりゃいーじゃねえか」
カスだ。このクッソハゲ。
女心をわかってねえ。
「…いや、スジを通しておこうと思って…いや、それならいいんだ。あの、ゴンタも、いいかな」
そんなもん、当然決まっている。
「無理」
「へっ…?え?きゃ!…え!?」
「この子、俺の専属医なので、他を当たってください、栗林サン。お前が頼めばいるだろ、その辺に」
決まった。
栗林は、それほど変わらないが、さっきまでよりも僅かに目が開いている。
クソハゲは、かなりイラついた顔してやがる。もう遅えから。
お嬢様は…めっちゃ睨んでいる。お前、そんな顔も出来んのかよ。ちょっと面白い。
花ちゃんは、真っ赤になっていた。抱き寄せてますからね。赤くなって貰わないと困る。
「キミ…手。離せ」
「あ?」
少し硬い感触の中に、柔らかい感触があった。
Cは、ある。
だが流石に、このままはない。離すか。
「悪い、気づかなかった」
「嘘をつくな。今…ちょっと手が動いていたぞ、ヘンタイ。…しばらく私に近づかないで下サイね、
目に光がない。
胸くらいで、大げさだろ。ガキかよ…ガキだな。
くそ、ミスった。
お気に入り登録、高評価下さっている皆様、ありがとうございます。