神速のGK 作:インパラス
略ですが…
FW 橘
MF大友
DF青井 竹島 一色 冨樫
GK青井
弱い。
敵がじゃねえ。コッチがだ。
点に絡みそうな展開は、何回もあった。だが、肝心の点が決めきれていない。
Aに三人上がってから、ゲームメイクがクソだ。起点になれる人間がいない。
辛うじて、葦人と左SHに入ったチビの縦が生きてはいるが、所詮は二人だ。葦人も、下手クソの癖に守備に徹しているつもりか、パスカットしても全然上がる気配ねえし、チーム全体でも守備的になりつつある。
点入れろよ。
俺がココにいる限り、点なんか取られねえからさ、前に上がれよ雑魚が。
後半残り十分を切った。スコアは0で動きなし。
このまま引き分けなら、勝ち点は1。トーナメントじゃねえから、PKはない。
あり得ねえ。
前の試合みたいに、もうちょいしたら一人でいくか。
「ゴンタ…」
「あ?」
葦人が、後ろを向いていた。おい、前来てんだけど、いいのかよお前。
葦人は、視線を前に戻した。右手の肘から先が上がって、前を差している。方向は、左サイド前線位置。ラストに近い攻撃によって、上がり気味になっている敵DFラインの裏か?
葦人の位置取りが変わる。連携して動いていたはずのラインにスペースが空いて、致命的なシュートコースができる。だが、それは限定的だ。
クソハゲの癖に、何クソ生意気なことしてんだか。必要ねえから、そんなもの。
「青井ィ!!何やってんだ!」
葦人の隣の奴が気づいた。葦人が空けたスペースを詰めようと、シュートブロックにいく。
だが、もう遅せえ。シュートはフリーで撃たれ、ブロックは間に合わない。
まあ、止めるが。当然、キャッチングだ。
敵FWが撃ってくるコースは、左サイドしかない。まともなFWなら、そこを狙う。葦人がそこを空けたからだ。右からは、ブロックが来ているし。右を狙う馬鹿は知らね。
あ"ーー、仕方ねえ。
花ちゃんのご機嫌取りのために、仲良く手を貸してやるよ。
アシト↓
「首は振る。首は振るけど…目を大事に…あくまでも…」
練習でもサイドバックは、やっぱり楽しくなかった。でも、つまらんわけでもない。変な感じや。
試合が始まってから今まで…何度か、攻撃にいける場面はあった。それに今日は、大友が左にいる。連携だってできた。ここからでも、点を狙えた。
でも、前に出ようとした時、毎回最後には足が止まった。この位置を…任された俺のポジションを、空けたく無い…と、思ったからだ。
DFに転向して、その週の試合に出させてもらうなんてことがおかしいのは、俺でも分かる。ベンチにいるDF陣の気持ちも何となく分かる。
でも、だからココを空けたくないわけじゃ無かった。
後ろに、ボールをいかせたくなかったんだ。
ゴンタなら、どんなボールが来ても止めるだろう。俺がいなくても、例え一人やったとしても、ゴンタは点を取られない。
だって、アイツ。今まで試合で一度もゴールを許したことないんだ。
だからこそ、後ろを許したくないんだ。やりたくないけど、本当はFWがいいけど…今、俺はDFなんだ。
ゴンタがゴールを許さないのに、俺が敵のFWを、シュートを許すのか?
そんなの、認めない。
俺は、ゴンタに負けない。負けられないんだ。
俺は、ゴンタに負けたくない。絶対に。
後半残り十分を切る。
黒田、朝霧がAに上がって、Bの中心的存在だった平さんもいなくなった。そして、俺もFWじゃなくなった。
点が取れる気配が全くない。前線での連携が弱く、動きが散漫としている。スペースは空いているのに、誰も気づかない内に、埋められてしまう。
一度声をかけたときは、無視された。聞こえてなかっただけかもしれないけど、たぶん違う。俺を、認めてないんや。
指示を聞いてくれるのは、大友と、右にいる橘だけだ。
このままやと、前みたいに、ゴンタが終了間際に一人でいく。結構負けず嫌いやから、たぶん。
でも、それもやっぱりおかしい。アイツ、キーパーなんやぞ。キーパーにしか点を取れないっておかしいやろ。ふざけんな!
だから、俺がいく。いけると思ったら、俺が行く。
これは、ポジションを空ける訳やない。そう…戦術だ。そういう作戦なんや。
誰も取らないんやぞ。もう俺が、点を取るしかないだろ。ゴンタには取らせない。
俺が、俺が、俺が、俺が!俺が!!
俺が点を獲る!!
やった。
ゴンタに、意図が伝わっていた。ボールが二歩先、ディフェンスの裏、望んだスペースに落ちる。
「ハハッ!」
相手FWが完全にシュート体勢に入ったと同時に、前へと走った。後ろは一度も見ていない。
だから、思いっきり走ったんだ。
"お前には、俊敏性がない…ショートスプリント力もない。これは致命的なんだ。"
先週、オッチャンに言われたことだ。でも、そんなの今は関係ない。誰も気づいてなかった。誰も、俺に追いつけない。
今は俺が、一番速い。
左サイドから、GKと一対一だ。俺が、点を獲る。
「アシトォ!!」
「…はは」
大友が、中に詰めている。すごいなぁ。
大友はフリーだ。後ろからDFが追い込んできているけど、ダイレクトで撃てば、関係ない。
前も、こんなことあったなあ。でも、ごめん大友。パス出してやりたいけど…
もう、足、振り抜いてるんだ。
「ごめん、大友」
「いいって。何も気にすることなんてねえよ、アシト。結局俺、点決められたしな。お前のおかげだ!」
試合は、チビが決めて1ー0で終わった。
最後に葦人が撃ったゴール右サイドへのシュートは、コースを読んでいたキーパーによって弾かれた。で、それを狡く拾ったチビが押し込んで一点。
マジで、ダセえ。お前が決めろよ。
「ねえ、青井くん。一つ聞きたいんだけど…」
「ん?何、葵さん」
「君のお兄さん、なんでDFやってるの
?FWだったじゃん!活躍してたじゃん!私、FWとしての彼に期待してたのに…今日だって、彼が前にいれば…」
「いいじゃん、別に。俺がいるだろ」
「そうだけど…君ね、もう注目され始めてるよ。何であれが二軍なんだって、慄いていた。まだ行き先は、エスペリオンの層の厚さにだけど」
「へー」
「私は、青井くんが一番だと思ってるけどね!」
「さすが」
「そうだよ!なんたって、将来の君の、専属になる記者だからね。早くプロになって、いい記事を沢山書かせてね」
「りょーかい」
「他の記者を贔屓なんてしないでね?」
「しないよ。葵さんは、この先もずっと友達だから…蔑ろにはしないさ」
「なあ、キミ。青井。昨日の夜、女の記者と一緒にいなかったか?」
週明けの昼休み。
花ちゃんが弁当片手に、席の前に立っていた。すげえ、不機嫌な顔。
つうか、弁当くれるんだ。怒ってるのに、律儀な女。
「うん、インタビュー受けててさ。飯奢ってもらったけど、ちゃんと献立表を意識して食べたよ」
本当のことだ。寮に帰ったのは、今日の朝だが。
「あのな。キミはユース生なんだ。そういうのは本来、広報を通してじゃないといけないんだぞ。育成時代はデリケートで…キミには、関係なさそうだけど。…とにかく、駄目なんだ」
嫉妬…じゃねえな。ガチで言ってるよコイツ。
「でもさ、葵さんとは友達になったんだけど」
「いつ!?」
「昨日」
ほんとは、一ヶ月前。
「なんでだ…しかも、葵さんって」
「…悪い。花ちゃん…あ、…一条さんに言った方が良かった…?」
「…いや、別にいいんだ。キミの勝手だし。あたしは、別にキミの彼女でもなんでもないんだしね……一条、さん?」
「…青井って呼ばれてるし、俺だけ馴れ馴れしいかなって」
「……別に、いい」
「は?でも…」
「キミは、いいんだ。あたしは怒っているから青井って呼んでて……ああもう!ゴンタ!これでいいのか!?ゴンタ、ゴンタ、ゴンタ!ゴンタ…何か、馬鹿らしくなってきたぞ…」
「ゴメンね、花ちゃん。それと、今日もお弁当ありがとう。すげえ楽しみ」
「…もう。許すよ…」
やっぱ、ガキだ。だが、潔い女はいい。楽でいいから。
「許すから、一緒に行こう」
「どこに?」
「普通科の教練に、お弁当届けにだ」
あ"?