神速のGK 作:インパラス
これ、店名とかけていたんですね。今気づきました。
今回、サッカー要素ほとんどなし。初手刀です。
金曜日の練習終わりに、明日の四節のスタメン、日曜の新人戦のスタメンが告げられた。
葦人は、入っていなかった。それはいい。
だが、俺が入ってない。
ま、いいか。願ってもない連休だ。
そういうことなんだろう。ありがたく受け取るよ。
「…お二人とも、次の試合はメンバーじゃないのですね」
「そうだな」
「正直…どういう意図があるのでしょうか…」
「さあ、見当も付きませんね」
食堂で夕食中だ。
お嬢様が隣に座って、一緒に食っている。スポンサーだから、いいんだとよ。
花ちゃんは、バイト中だ。今食ってるメニューも、花ちゃん任せのモノで、席まで持って来てくれた。毎回してくれたらいいのにな。一々自分で取るのが怠いから。
にしても、お嬢様の距離が近い。俺、左利きだから、肘同士が当たって微妙に食い辛い。向かいに座れよ。
「なあ、肘がさ…」
「前回は、お二人の働きが勝利に貢献したというのに、兄選手どころか…あなたまで」
「あー、そうですね」
「…やはり、あの連携は素晴らしかったです。一般的に見れば、兄選手の選択は愚行と言うべきものでしたが…あなた達の信頼関係が可能にさせた。そして、大友選手にも理解がありました。言葉を必要とせずに、繋がる…あれは、チームプレーの最たるものです。でも、そうですね…やっぱり、アレが駄目だったのでしょうか…」
「そうですね」
なんか熱くなってんだけど、お嬢様。だが言ってることは、クソ寒い。
「…ところで、今日の出来栄えはどうでしたか?」
「美味しかったって言ったけど」
「…詳しくお願いします。今後の参考にしたいので」
葦人の奴のように、長たらしい食レポ紛いをするつもりは微塵もない。いや、やろうと思えばできるが、そんな日は一生来ねえ。
「じゃあ、逆に聞くけど、杏里ちゃんはどうだった?自分で食ってみてさ」
「…え、そうですね…」
六節まで終わった。リーグ戦始まって、もうすぐで二ヶ月が経つ。
五、六の内容は、ほぼ同じだ。攻撃的に見えて、その実チーム全体に守備的な意識が広がっていた。全然、点が入る気配なかったし。
最終的には、残り時間をある程度切ったところで、葦人が攻撃に移り、チビとかモミアゲを初めとしたヤツらで、一点入れて終わりだ。五、六はリーゼントも便乗して上がっていたか。
勝ってはいるが、マジでクソつまんねえ試合内容。
連休を貰った四節、普通に0ー1で負けたらしい。分かっていたが、守備すらカスだったようだ。それで葦人頼りとか、正気かよ。
牙突コーチも、練習内容から変えたり、試合中にシステム変えたりしているが、大した効果は出ていない。
意識がねえんだよ。点が取れないっていう危機感が薄すぎっていうか、もはや、ない。DFも、抜かれてんのに、試合中一言も交わさないカス二人がいる。それで、本人はよくやってるつもりとか、マジで救いようがねえし。このチーム、勝ちを重ねる毎に弱くなっているんじゃねえの?
ま、俺がいる限り、負けることは皆無だけど。他の奴らがこれからどうなろうが、どうでもいいことだ。
「は…はふ…ねえ、そっちも美味しそう。少しちょうだい?」
「いいけどさ…ほら」
「ありがとう、こっちのもどうぞ」
「どうも」
手をつけていない部分を切り分け、小皿に移す。渡すと、向こうからも、同じように小皿が返ってきた。
餅入りとか要らねえー。
「社長サン、こういう庶民的な食いモン結構好きだよね」
「そうね。一通り食べているかも。会食とか多くて、雑多な味が偶に恋しくなるの」
「へぇー」
お好み焼きを食いに来ていた。
珍しく社長サンからのお誘いだったから、何食うのかと思えば、お好み焼きだ。別に、文句はねえけどさ。
この後は泊まりだ。最近忙しかったらしく、会っていなかったから久々だ。
「先週、杏里がお弁当作ってくれたんだけど、含太くんは食べたことある?」
何だよ、その顔。ドヤ顔やめろ。可愛いだけだし。
俺、先月から毎週食ってるから。
「へー、いいな。俺も今度頼んでみようかな」
「私からもお願いしてあげよっか?」
「いーよ。自分で言う」
「がんばって」
「ハイ、頑張ります」
社長サンは、可笑しそうに笑った。この人には、イラッとしたことねえから不思議だ。
「おい、お前」
「金田君、やめようよ…」
「ねえ含太くん。これも頼んでいい?さすがに、全部入らないから、半分食べてほしいんだけど」
「いいよ。でも、食う量多くない?」
「運動するからいいの」
激しくしろってことか。まあ、この人太らないし、つーか初対面の時から全然変わってねえし、関係ないか。
「おい!」
机を叩いた音が、店内に響いた。近くにいた客が驚き、手に持っていたグラスを落とす。当然割れる。それなりにいた客達の声が消え、シンとなった。
「店員さん、このスペシャル玉一つ追加で」
「え、あっはい」
呼ぶ手間が省けて、ラッキーだ。
社長サンの手は止まらない。店内に、社長サンの咀嚼音以外の音はない。息づかいが無駄にエロい。
「で、何ですか。取り敢えず、お店にも迷惑かかってるし、警察呼びますね」
見覚えのある顔だ。あれか、セレクションの時にこんな奴いたっけか。見るからに、練習帰りって服装。MUSASHINOってロゴがある。
「は…あ?」
ポケットにスマホはなかった。社長サンに預けていたか。
その社長サンは、興味がないらしく、お好み焼きに夢中だ。あんた大人だろ、絡まれてんだから、止めろよ。
「店員さん、電話して下さい」
「え…でも、その子ってサッカーユースの…」
そんなの分かってんだよ。ご贔屓の店ってか?穏便に済ませてやろうとしたのによ。
あ"ーー、殺すか。
「含太くん」
「あ"ーー?」
「あーん」
「ング……えー…」
「で、何の用。つうか、お前誰だよ」
「っ!この!!」
店を出た先から、少し歩いたところで、カス二人と向かい合っていた。
で、早速掴み掛かってくる。
「触れんなよカス」
「ぎぃ、ぁ、ああ!?」
「金田君!」
手刀で落とす。
カスはそれだけで、カスらしく地面に転がった。大袈裟だろ。ギリ折ってねえだろ。
「もう、いいかな。カスに構っている暇なんてないんだよね、俺」
「お前…!お前のせいで俺はセレクションに落ちたんだ!お前が来てアイツらに手を貸したからだ!許さねえ!!」
「は?」
「何でお前がエスペリオンにいるんだ!遅刻しただろうが!クソがあ!!」
なんか、すげえ喚いているんだけど。頭オカシイやつだ、これ。
気が失せた。戻るか。
「ご…ゴンタ!お前、ついに…」
街灯に照らされた頭が眩しい。コイツ、いつまでハゲのままなんだろ。
向こうから、葦人が走ってきた。後ろから、チビ、モミアゲ、リーゼントと続いている。
「正当防衛だ、クソハゲ。頭光らせてんじゃねーよ」
「ぶっ!!ほ、本当だ。葦人、お前光ってるぜ…」
「なんて絶妙な加減…ありがたや…」
「ブフォ!!」
「は…?て、中野!?それに、金田か!?」
後のことは知らねえ。葦人に投げて、店に戻ったからな。
で、スペシャル玉がきて食べ始めたところで、葦人達が店に入ってきた。
「…あ。社長さん?」
「んく…うん、久しぶりね。葦人くん」
葦人は、微妙な顔で俺と社長サンを見比べている。社長サンは、コイツの初恋だ。オカンと同じ歳って聞いて速攻で散ったが。
オカンも年の割には若いが、社長サンは更に若く見える。エステにかなり金掛けてる上に、社長サンは元々結構童顔だ。間違っても三十後半には見えない。
「うん、久しぶりや」
「その頭いいね、似合ってるよ。かわいい」
「あ…えっと、ありがとう」
「そちらのみんなは、ユース生?」
「うん」
「じゃあ、好きなもの頼んでいいよ。これとか凄く美味しいし」
「本当!?よっしゃー!」
いや、お前ら目的違うだろ。今日、高校生500円でお好み焼き食べ放題って書いてるじゃん。普通のやつでいいだろうが。
「おい、葦人…そちらのお姉様とはお知り合いか…?」
チビが、一人で喜ぶ葦人に訊ねる。
つうか、お姉様って。
社長サンも、完全オフモードなせいで、結構無視して食ってる。
「海堂の母ちゃんやぞ。なあ、これなんかも食べていいの!?」
「そう、スポンサーの…母ちゃんね…はあ!?」
「好きなものをどうぞ」
「よっしゃ!お前ら、奢りやぞ!!」
食い終わった後、普通に帰らされた。ヤるのは、明後日に持ち越しだ。
コイツらの手前である分、まあ分かるが…気分は最悪だ。
「オラ、もっと速くこげよクソハゲ。前見ろよ。置いていかれてんだけど」
「くそー…食い過ぎて、腹痛い…」
次は、義経健太(プレミア得点王)参戦回。
明日投稿予定です。