神速のGK 作:インパラス
「お前、Aに昇格です」
「へー、そうかよ」
「何だ、その反応は…」
当然だろうって、反応だよ。
ダウンの途中。
牙突コーチに頼まれて、救護場所に来てやったら、花ちゃんとオッサンがいた。ついでに、ご大層に寝息を立てている葦人もいた。まあ、コイツはどうでもいい。
つうか、お嬢様とジジイは、ここまで付いて来て何すんだよ。
「花ちゃん、さっき応援ありがとう。お陰でけっこー力貰えた」
「…!うん。あたし、ちゃんとパワー送ったからな」
「めっちゃ届いてたよ。次の試合まで、持ちそうなくらいだ」
「あはは。次の時にも、またちゃんと新鮮なの送るぞ」
笑いながら、顔の前で小さくパッと両手を構える花ちゃん。これ、その辺の奴だったらウザいだけだが、コイツがやるとあれだ。マジで、何か…いや、ねえな。
「…含太選手、福田監督が話されている途中です。聞かれた方が…」
「そうだ、海堂のお嬢さんの言う通りだ」
オッサンがウザい。お嬢様も後で相手してやるから、今は待っておけよ。
「理由は、幾つか…まず今日、葦人が壁を超えたのがある」
「そうか。で、もういいかよ」
「いや、まだ俺一言しか喋ってないから」
クソどうでもいい。
Aに上がった。そんなのは、決まりきっていたことだ。理由なんざ聞く必要ねえよ。
それに、お前の思考ぐらい、俺に読めないわけねえだろ。
「ゴンタ、兄ィが言いたそうにしてるんだ。聞いてやってくれ。な?」
「仕方ねえな。ほら、早く言えよオッサン」
「何だ、この腑に落ちない扱いの差は。俺、ユース監督なんだぜ…やっぱ、ユース監督の立場は弱いな…」
オッサンは、態とらしく落ち込み出した。キモいから、チラ見してくんな。花ちゃんも、そんな奴の背中摩らなくていいから。
そう言えば、お前ら兄弟だったな。義理らしいが。
「…第二に、お前の力を計り違えていた。GKとしての能力もそうだが…お前、今日のは何だよ。絶対今まで手、抜いてただろ。本当は、どこまでやれるんだ?」
「さあな」
「…化け物だよ。お前」
「そーですか」
「…はぁ」
いい加減、イラっとくる。花ちゃんとお嬢様の手前、下手に出てやったら、これだ。
「第三に、どこから沸いたのか知らないが、俺とお前が不仲だという噂が流れ始めている。どう見ても二軍にいる人材じゃないのに、二軍にいるのは、俺とお前の仲が最悪って理由らしい」
「その通りだろ」
「おいおい…それで、ウチの上にも話が飛んでいる。一部の他のユースは、引き抜きまで考えているらしいぜ」
「へえ、それどこだよ」
今ところは、そんな気はないけどな。
だが、別に知ってても損はねえし。
「いけません!!」
「わっ、何や」
お嬢様だ。お嬢様が叫んだ。ついでに、葦人が目を覚ました。
お嬢様、そんなデカい声出したの初めてだろ。目も凄えんだけど。いつもの眠そうなのはどこ行ったよ。
「そうだね」
「駄目です!!駄目です!!他のチームなんて、行ってはいけません!!……いま、何と言いました…?」
「行かねえって。チーム移るとか、そんなこと一言も言ってないし」
「えっ!?…あっ、あっ、失礼しました!!」
お嬢様は、その場で耳まで赤くした後、反転して走っていった。と、思ったら戻ってくる。
「これ、お弁当です!タンパク質多めです!」
「どうも。ありがとう」
小さめの包みを手渡される。冷た。
お嬢様は、顔赤くして汗ダラダラになりながら、どっかに行った。
「花ちゃんの弁当も、今もらっていいかな。腹減ったし」
今日の昼は各自準備だったから、花ちゃんに頼んでいた。見返りは、英会話の相手。別に、いつもしてやってることだがな。
お嬢様には頼んでなかったが、まあまあ得した感じだ。
「え、でも杏里から貰っただろ…それ食べればいいじゃないか」
「今日そこそこ動いたからさ、二つ分くらい食べれるよ。つーか、食べたい」
「…ふふ、ゴンタは贅沢だな」
まあ、味付け違うから食ってても飽きねーし。
「アシトのもあるけど…キミ、食べれないよな」
「や、サンキュー。くれよ、俺も腹減ってきたんや」
「無理して食べたら駄目だぞ」
「…花、俺のは?」
「え…あ、あるぞ!いるか分からなかったけど、兄ィのも一応作ってきたんだ!」
オッサンも、ここで食うのかよ。
「で、話は終わりか」
「あー…」
オッサンは一瞬、葦人に目を向けた。
これが最後だ。だが、オッサンは言わないだろう。
「ないな」
「じゃ、花ちゃん。いただきます」
「どうぞ、めしあがれー」
葵さんの車に乗って、武蔵野ユースの試合会場に向かっている。
Aに上がった俺には何の関係もないが、約束だったしな。夜は、葵さんの部屋に泊まる予定だった。て、いうのによ。
「やっぱり俺、降りるよ…」
「何言ってんだよ、橘。もうすぐ着くじゃん」
「…すぅー」
邪魔なのが、三人。モミアゲ君と、チビ。マジで消えろよお前ら。
特に、爆睡中のハゲは帰って寝ろ。
「あ、ゴンタ。もう一回言って、今のとこ」
「あー…Diagonal run か?」
「それ、用語?斜めに走ってたってことだろ?」
「そうそう。じゃあ、訂正して…」
「いや、いいんだ。あのゴールは凄かったよな!私でも分かる。アシトは、あのプレーのために頑張ったんだって!」
「そうだね」
「あ、それ!俺のスルーがあってこそなんですよ!花さん!」
邪魔じゃねえけど、今は別に居なくていい花ちゃんもいる。クラブ関係者として、監視のつもりらしい。クラブと関係ない記者を足に使うのがダメなんだと。だが、コイツら三人を誘っていたのは、運転しているこの女だ。ホント余計なことしてくれたよ、マジで。
で、道中、今日の試合の内容を、英訳して話している。
花ちゃんは真剣だが、俺はクソつまらない。今日の夜のミーティングも参加しなくてよくなったってのに、これだ。しかも、俺のプレーの話だけじゃねえし。
「なあなあ、GKやってる時ってどんな感じ?青井って、まだ試合で一回も後ろ許してないよなぁ…」
このチビ、毎回思うが馴れ馴れしい。まあ、普段はほぼ無視しているが。
「知るかよ」
「ゴンタ…チームメイトとは、もっと話した方がいいよ。だから、話してあげたらどうだ?英語で」
花ちゃんが、歯を見せて笑う。コイツのことだ。本気で言っているわけじゃねえだろうが、乗るか。元から、会話するつもりもねえし。
「そうだな。英語で」
「ええー!オレ、わかんねーよ…花さぁん」
「あはは。勉強になるぞ、大友くん」
「ゴンタ、今何時だ?」
「んー…」
時計を見れば、葵さん、邪魔三人と別れて、二時間が過ぎていた。
「試合は終わる時間帯だけど、花ちゃんは、どうすんの?」
「そうだなあ…」
この試合に微塵も興味ない俺と、サッカーを知らない花ちゃんは、当然試合を観る気は無かった。
時間潰しに選んだのはカラオケだ。洋楽しか歌ってねえけど、最近覚えてきた花ちゃんと何曲かデュエットで歌った。普通にヘタクソだったが。
それからは、書店に併設されているカフェチェーンで、仲良くお勉強の時間だ。花ちゃんが選んできた洋書本を、一緒に読むっていう仲良しこよしな、見るからにアホっぽいことをやった。
怠いが、このタイプにはこれがいい。実際、もう既に距離間もあってないようなものだ。
ここまで来るのに、一ヵ月ちょい。クソ長かった。
「…一度、行こうかな。帰りも足に使わないか、しっかり確認しないといけないしな」
「そっか。じゃあ行こうか」
面倒だが、そう言うと思っていたから、葵さんにも予定の変更を連絡してある。今日は、一度寮に戻ってから外泊するつもりだ。
「あ、あれアシト達じゃないか…?」
敷地内の舗装路を歩いて、フィールドに向かっていると、先の道にハゲの頭が見えた。光が反射して分かりやすい。
葵さんの姿は無い。その代わりに、女の子が一人増えている。
「あれ、なんだ。なんで茂みの方に?」
葦人達と女の子の四人が、道から外れた茂みへと姿を隠した。こっちからは見えてるけど。
葦人がこっちに気づいて、手を振ってくる。続けて、バツのジェスチャー。
'ちょっと待て、金田ァ!!おまえ、一年のくせに、主将に…'
'正直に言ってるだけっスよ'
暑苦しいのが四人出てきた。クソ邪魔だ。しかも煩え。
「うわ。なんか立て込んでるな、ゴンタ…。あと、葦人達だよな。何してるんだ?あんな所で」
「隠れでもしたんじゃない?道で、あんなのやられたら迷惑だよね。向こうから行こっか」
「そうだな…」
見た顔が二つあるが、それだけだ。俺一人なら関係ねえが、今は花ちゃんがいる。
'俺は、点を取ってる。チームを勝たせてるのは、俺だ'
「なんか、すごい自信だな」
「ホントに」
'まあしょうがねえかァー。このクラブじゃ………の、気持ちなんて理解できないスけどね。俺のような、持ってる人間には'
「ぶっ」
「ゴンタ?」
やべ、つい笑った。さっきから、いかにも自分のお陰ですって感じが、マジで笑えた。自意識過剰ちゃんかよ。せめて、リーグ一つ上がってから言えよ。
「アア!?誰だ今の……お前、その頭…お前か!?」
「は?」
カスが近寄ってきているんだけど。とりあえず、花ちゃんを後ろにやる。頼れる男アピールだ。
「ここにいるってことは、見たんだろ!!」
「何を?こっちは見ての通りデートの途中なんですが」
「おい、ゴンタ…」
「ふざけてんじゃねェ!!今日の俺は2得点だ…そしてこれでトータル、都リーグ9得点…どうだよ、お前らエスペリオンにもいねえだろうが!」
「そーですね」
それ以上、近寄るなよ。一歩でも来たら殺すから。
早く消えろカス。
「来週、俺はテメえから点を取るぜ」
「そうですか。ガンバって。行こう、花ちゃん」
「え、いいのか?」
「いいだろ。話は終わったし」
気分は、1秒毎に下がっている真っ最中だ。
来週、試合出ようか。この調子づいたカスを潰すのも…いや、やっぱやめだ。潰す価値もねえわ。
「おい、待て!まだ終わってねえぞ、このインチキ野郎が…」
背を向けたところで、カスは手を伸ばしてきた。おいおい、何してんだよ。
「うわっ危なっ!」
「ゲボァッ!?」
腹に、靴裏で蹴りを入れる。カスは、派手に転がって蹲った。
これぐらいで吐くなよ。汚な。
「あ、すみません。この前も手、出されそうになったんで、つい反射的に。あ、そっちの君は知ってるよな?」
「…はっ!?金田君!」
「金田!大丈夫か!」
聞けよ。
「ゴンタ…キミ、暴力を」
「あー、前にもアイツに、突然摑み掛かられたんだ。だから、こう。反射的に」
「…でも、暴力は駄目だ。…それと、足を使うな。怪我…したら、どうするんだ。……ッ絶対に、やめろ」
すげー怒っている。で、泣きそうにもなっている。器用な表情するな、コイツ。
「ごめんね。今後は気をつけるよ」
「……心が、こもってない」
めんどくさ。つうか、こんなカス相手に、俺が怪我するかよ。アホらしい。
「ゴンタ…おまえ」
茂みから、疲れた顔の葦人と諸々が出てきていた。帰って寝ろよ。
あと凄え。汗か何か知らんが細い葉が一枚、前頭に張り付いている。花ちゃんも気づいたのか、口を手で覆い始めた。
「あ〜?」
「いや…あー、金田、大丈夫か?」
「グゥ…青井ィィ!お前らァァ!!」
「葦人、ご指名だぜ。じゃ」
「いやお前も…あ、いや、うん…」
そこから、復活したカスが、DFがどうだのと、葦人をディスり始めた。だが、残念ながら葦人には何の動揺も無かった。カスが尚更滑稽だ。
その代わりに、モミアゲ君がカスに詰め寄った。主将の人が、突撃してきたモミアゲ君を止める。
「橘、お前の古巣…強くなったぜ。お前が抜けて、俺が入ったおかげでよ」
「俺のことはどうでもいい。だが、仲間の事を言うのは許さん。訂正しろ、今すぐ!」
モミアゲ君が噛み付かんばかりに怒っちゃっている。カスとモミアゲ君の間には、武蔵野の主将が入って板挟み役だ。
マジでどうでもよくて、どっかに行きたかったが、花ちゃんにバッグのベルトを掴まれているために、動けない。自称監視者だもんな、お前。
で、あの子誰だ。
ショートで女っぽくはないが、色がついたしなやかな身体だ。そこそこ筋肉がついているのもいい。顔も…まあ及第点。猫顔っていなかったし、まあ、新鮮さで加点。
だが問題は、モミアゲ君のことを名前で呼んでいることだ。兄弟って線もなくもねえけど。
「オイ青井ッッ!テメエもだ!」
「あ?」
カスがこっちを見ている。モミアゲ君との話は終わったらしい。やっとかよ。
「次の試合で、お前から初ゴールを決めるのは俺だってことだ!!」
「ガンバって」
「チィィ!!その余裕も次までだ!!」
そんな捨て台詞を残して武蔵野御一行は、去っていった。
「なあ、ゴンタ」
花ちゃんが、小声で話しかけてくる。
「キミ、来週のBの試合って出ないんじゃないのか?」
「そうだね」
「…はぁ。最近気づいてきたけど、キミって性格悪いよな」
「嫌いになった?」
「ううん、嫌いじゃないよ。嫌いにも、ならない。キミは、私の一番の友達だしね」
「俺もだよ」
残念、俺にとっては二番目だ。