神速のGK 作:インパラス
「じゃあねー!」
「またあとでね、アゴンくん」
アフロと別れたのは、十時ごろだったか。で、今はさっき昼メシ食ったから昼過ぎだ。普通にセレクションは遅刻だ。もう終わってるかもしれない。
でも仕方ねーよな。ナンパ成功したんだからよ。ケータイもアフロが持ってるから、連絡の取りようもない。財布もねえ。することねーし、アフロでも観に行くかな。
道聞くか。
執事服なんか着た、いかにも何でも知ってそうなジジイが歩いている。
「あー、すみません。そこの爺さん。この辺にあると思うんですけど、東京シティエスペリオンってどこにあるのか分かりますか」
「……?」
「そうそう、あなたですよ…って、おい」
ジジイが無視してどっか行きやがった。気づいてないってことはない。普通に目合っていたからな、あのジジイ。
一気に、アフロを観に行く気が失せた。またナンパするかな。
「あ?」
立つと、さっきのジジイが戻ってきた。さっきと違い、手に紙袋を持っている。
何だこいつ、手を振って…手招きしてるのか?妙に気に触る動きだ。
「何、爺さん。俺急いでるんだけど。遅刻しているんだよね」
するとジジイは、乗ってけよとばかりにクイっと親指を振った。執事っぽいわりに、はじけてるね。ちなみに、ジジイの親指の先に車はない。
俺は、とりあえず、面白半分でジジイに案内されてやった。
歩いて十分くらいか、目的地にたどり着いた。ジジイは役目を果たしたとばかりに、どっかに消えた。まあ、ジジイなんか、どこに行こうがどうでもいいが。
「おーい」
グラウンドは中々の広さだっつーか、広すぎ。しかし、誰もいない。
「おーい、さっきから呼んでんだけど。青井弟」
「あ"ー?あ、オッサンか」
「オッサンかじゃねえよ。お前今頃来て…せっかく東京まで来て何してんだよ」
「俺は自分の金で来てんだからいいんだよ。
あと、あのアフロがケータイ持ってったから来れなかった」
「……はぁ。アシトは、今食堂で飯食ってるよ。俺らは今から選考なんだが…お前当然不合格だから」
「だろうな」
「いいのか?お前ここに入りたくないのか?」
「別に。ウチ金ねーし。あのアフロだけで十分だろ」
「そうか」
「あと、どうせプロになるんだし、どこでやっても同じだろ。でも、ここはねーわ。東京合わねえ。女の子はいいけど空気悪すぎ」
誰にも言ってないが、地元のユースからスカウトも来ている。好き好んでここでやるつもりはない。
オッサンはそれ以上喋んなくなった。オッサンの隣の奴に、是非とも牙突をやってもらいたかったが、黙ったオッサンがキモかったので、食堂に行くことにした。
あ、場所わかんねえ。
牙突のオッサンに道を聞いて、食堂に来た。牙突のオッサンは、牙突をやってくれなかった。知ってるっぽかったがな。
「よう、アフロ」
「ん?ゴンタお前!どこいってたんや!!もう多分不合格やぞお前…」
「お前がケータイ持ってったからだろうが、アフロ」
「え?…あ、ご、ごめん」
「あーあ…」
「…悪い」
ナンパしていたことを言うつもりはない。せいぜい出来るだけ長く責任を感じているといい。
「俺のメシついでこいよ」
「…うん」
空いたアフロの椅子に座る。アフロはまだ食い始めたばかりだったようだ。手はほぼつけていない。
アフロは、まだトレーを取ったところだ。のれえ。俺は、アフロの分を食べることにした。
「けっこう、いけるな」
うまい。兄貴の飯には負けるが。
「あー」
さっきから雑魚どもの視線が鬱陶しい。気づかん振りしてやろうとしていたのによ。何時まで見ているつもりだ。特に横のチビ。
「なんだカス」
「ひっぃえ!」
「見んな、うぜえ」
「ひゃいっ!」
ほかの目も消えた。
ついでに飯も無くなった。
「あっ、ゴンタ俺の全部食べてるんや…」
「悪いかよ。それも寄越せ」
「おう…」
むしろ感謝されるべきだ。アフロは、この後に最終試験があるらしいからな。食ってやってるんだよ、俺は。
そのあと、アフロの癖に可愛い子と話してたんで、蹴飛ばしておいた。
最終試験が始まった。当然ながらアフロは最終に進んで、ポジションはFW。さっきのチビもいるな、左に。3ー5ー2の、アフロは2トップか。
相手は、ユースのチームだ。大したことなさそうなのがゾロゾロとご苦労なことだ。
前半2ー1で終わり。
開始直後に、アフロが一点入れただけだった。あとは、雑魚の晒し場だ。ダイレクトパスで翻弄され続けてお終い。ユースってのも、ご立派なもんだ。僕たち上手いでしょーって、ご自慢しているだけじゃねえか。つまらん。
それより情けないのはアフロだ。空中でボールぶん取られやがって。
「おい、アフロ…」
「ーー才能ないぜ。気の毒にな。お前じゃないぜ。お前の周りがだよ」
へー。
俺、耳もいいんだよ。全部聞こえてますよ。
アフロも黙ってないで言い返せよ。
「クズが!ここで引き返せ。球遊びに…」
「うわーー!!ユースの人がそんな酷いこと言うなんて!!僕の兄さんに謝って下さい!クズとか、そんなの…酷すぎます……!!」
大げさに言ってやった。視線が集まるのを感じる。涙と、かすれ声はオプションだ。
「兄さんは!兄さんは…本気でやってるんだ…!そりゃ、貴方達と比べたらまだまだ下手だけど…そんな言い方ってないんじゃないですか…!!」
「……ハッ!?おいお前ーー」
「福田監督!!今この人、アシトのことクズって言ったんですよ……!!こんなの、こんなの許されるんですか!!」
ふはははは。いい感じにざわつき始めたな。オッサンが顔を険しくして近づいてくる。はは、ざまあねえな。このカスハゲが。
結局。
カスハゲは、アフロに謝っただけ。熱くなりすぎたとか言い訳してやがった。後半も続けて出るようだ。
だがいい雰囲気だ。ユースは礼儀正しいねえとか言う連中はもういない。あのハゲ、完全にヒールだ。オッサンも続けて試合させるとか鬼だろザマァ。
「ゴ、ゴンタ…ありがとう。俺感動した!ゴンタがあんな風に言ってくれるなんて」
「あ"ー?んなわけあるかよ。後半、あのハゲ潰せよ。しなきゃ殺すから」
「……俺の感動返せよ…でも、そうだ…ゴンタはそういう奴なんや…」
「ほら、早くいけよ。きたねーツラ見せんな」
アフロは、ブツブツ言いながら止血に向かった。と、思ったら、あのアフロ。食堂にいたあの子と、またいちゃつき始めた。まあ、顔はいいが、ガキっぽいから守備範囲外だ。だがイラッとはくる。
で、後半。
アフロは、カスに競り負け続けている。アフロとは体格差の上に、体幹も段違いっぽい。
……えー。今、明らかにあのハゲ、アフロの鳩尾に一発かましましたよ。レフェリーさん。監督さん。コーチさん。どこに目が付いているんですか。どう見てもワザとだろ、あんなのよ。もう殺せよアフロ。
オッサンがベンチから立ち上がった。カスを退場させるのかと思いきや、ポジションコンバートしていたことをネタばらし。だから何だよ。俺ならどこでもできる。
だが、雑魚どもにはショックだったようだ。それ以降のプレーは死んでいた。
3ー1。
カスハゲが決めたところで、3ー1だ。アフロは、さっきのダメージでろくに動けなさそー。
「おい、きみ大丈夫か!担架持ってこい!ゴールに頭をぶつけた!!」
試合は一旦中断。アフロのチームのGKが、セーブミスって突っ込んだようだ。
大袈裟な。ちょーっと血が出ているだけじゃねえか。
「終わるか…」
オッサンがボソッと呟いた。さっきフィールド入ってから、何故か何も言われないまま、ここに残っている俺には聞こえた。まあ、いるの隣だし。
あとオッサン。見んな、気色悪いんだよ。男に見られる趣味ない。
おい、顔近づけてくんな。
「青井弟。助っ人で出てくれないか?」
「はーあ?」
「おまえ、暇だろ。愛媛からわざわざ来たんだ、せっかくだしやってけよ。あ、セレクションには関係なしだ。お前、もう不合格だから」
「んなもんやら…」
「本気でやれよ。ほら、ムカついてんだろ阿久津にさ」
な訳あるか。相手にもしてねえよあんなカス。
だが、まあ一回くらい動いとくか。
殺るか。
しかし、言われてタダでやるのはシャクだ。指図される筋合いはねえ。
「晩飯奢れよ」
「えー…」
はい決定ね。今夜は寿司だ。