神速のGK 作:インパラス
ランキングのってました。お気に入り、高評価して下さった方々、ありがとうございました。
この後、もう一話投稿します。
「なあ、練習はいいのか…?」
「いいんだよ」
「そうか…でも、兄ィにゴンタを説得するように頼まれてるんだけど…どうすればいいんだ?」
「さあな」
俺を説得だとよ。
この先ずっとヤラせてくれんのなら、少しは考えてやってもいいけど。まあ、結局は考えるだけで終わるが。
火曜日。
本来なら練習の時間だが、授業に出ていた。普段は免除されているため、オフの月曜のみ受けることもあったが、今日は違った。
本当、あり得ねえ。MFでの昇格だった。
基本的にMFとして起用し、GKとしても使うってよ。
百万歩譲って、逆だろうが。
遊びレベルのBでは中盤もやってやったが、Aじゃ話が別だ。相手がウザくなってくるのは確実だ。誰がやるかよ。
オッサンの言い分は、俺がコーチングをしなければ、チームとしての質が下がるため、重要な局面でのみGKとして使うんだと。
もっと、マシな言い訳考えろよ。
「あたしに、兄ィの言うことは分からないけど…いつもちゃんと理由があるんだ。…でも、今回はゴンタの味方をする。だってゴンタは…怪我させるのが嫌なんだもんな。今までのBの試合でも…接触するようなプレーは、一度もしてなかったし…でも、Aの試合では中々そうはいかない」
そう言えば、そんなこと言っていたか。ほぼ嘘だけど。
あと、以外と試合よく見てんだなコイツ。だが、お嬢様と違って、サッカー詳しくないのは、楽で良い。
「でも、キミとプレーする選手は、みんな活き活きしてた…それが、素人のあたしでも分かるんだ。あと…キミの目が、ちょっと似ていたんだ。自身に満ちあふれた、あの…」
「今、説得してる?」
「えっ?い、いや違うぞ!あたしは、その、かっ……よ、よかったと思ったんだ。うん、よかったぞ!GKでゴールを絶対に許さないキミもだけど、みんなにボールを繋ぐ姿も!…あ、その…」
マジで言っちゃってるよ、この女。だが、あー…ガキだな、やっぱ。
「大丈夫、分かるよ。ありがとう」
「…うん」
「…少し、考えてみるよ。出来れば、相談したりしてもいいかな」
「勿論だぞ。出来ることがあれば、言ってくれ」
「ありがとう。じゃあ、これから暫くよろしく」
「でも、早めに戻った方がいいと思う……あたしは助かるけど」
「なら、いいじゃん」
「…やっぱり、よくないな」
門が閉まるまで花ちゃんに付き合った後、家まで送った。寮に帰って来たのは門限前だ。
腹減ったし、飯食いに行くか。
この時間だと、練習も終わっている。食堂は、まあそこそこ混んでいるが、普通に座れる。
「ウネウネ君〜」
「あ"あ"?」
「あ、忘れてた。青井君〜」
「……」
「今日の練習から
「授業」
「あら、そう。じゃあ明日からよろしく」
「明日もだ」
「ええー。何でだよ」
「惚けんな」
「何だや、MF、いいじゃないか。俺との熱い連携を忘れてしまったのかね」
「記憶にねえな。俺は、GKとして
義経に退く気配はない。
もういいか。飯食おう。
「分からない。それだけ出来て、何故拒むんだ?俺、あんなに気持ち良くサッカー出来たの、久しぶりだったんだぞ。俺がここまで言うなんて、超レアなんだぞ」
「ぷっ。あの程度でとか、お前も結構低レベルだな」
義経の態度は変わらない。だが、周りの奴らの方が殺気帯びてきた。
「お前、義経さんに…!」
「そうそう。だから、俺はもっとレベル上げしたいのだ。魔王もワンパンで倒せるくらいにナ。むしろ攻略不可の隠しキャラになるぞ」
「勝手にやってろ」
おい、顔近づけてくんな。
「俺はまだまだ、レベルアップできる。青井君は気づいてないだろうけど、お前とのプレーには…何というか、対話みたいなものがあった気がする、多分。声掛け、アイコンタクト、仕草…プレー中の対話なんて常にやっていることなんだが…あんなのは、初めてだった。同じカテゴリーでも、トゲトゲ君には無いものだ。あの子は、自分の考えをあまり話してくれないからネ」
「はあ?」
「気づいてないのか?お前にも言葉はないけど、目線や仕草はあって…そう、ヒントがあった。どうすればいいか自分で考える余地があって、まるで指導されている気分だったぞ。…でも、無意識のうちにやってたんだな。ふむふむ…。
多分、お前は昔からそれをやっていたんだよ。そこな、ツルリン君相手に。ナ」
話を振られた葦人が、アホヅラ晒してやがる。
アホくさ。
「めでたい頭してんな。勘違いもそこまで行くと、逆に感心するぜ」
「福田さんも、お前のソレに気づいたから、中盤もさせたいんだ。天才のお前から、俺の…俺らの
「あ"ーー、知るかよ、お前らのことなんざ」
マジでで鳥肌が立っている。何、頭下げてんだコイツ。クソうざ。
オッサンは、いい加減にしろよ。
「気長には待てないゾ。俺には、もう時間もないからネ」
あ"ー、飯食う気が失せた。
『もしもし、含太くん?』
「社長サン、今どこ?腹減ったんだ。飯に行かない?」
『…うーん、そうね。あと一時間待てる?』
「大丈夫だよ。どこなら行ける?」
『じゃあ、先週行ったお好み焼き屋で。別のトッピングも食べたかったの。先に頼んでてもいいから』
「りょーかい。あと、サンキュー」
『いいよ、気にしなくても』
「…あの、含太選手。明日はどうされるのですか…?」
「土日の予定はないな」
「そうですか…」
そんな顔すんなよ。飯が不味くなる…ことはないが、あれだ。
「杏里ちゃん、今日も弁当ありがとう。ところで玉子焼き、味付け変えた?」
「…あ、はい。お出汁を加えたので…どうでしょうか」
「旨いよ。前のもうまかったけど、こっちのが好みかも」
「…!そう、ですか」
お嬢様は、少し褒めたらすぐ笑う。その辺は楽だ。
「…あの、明日はBの試合を観に行きませんか…?やはり、このままというのは、その」
「いいよ」
「…?……あ、はい。では、明日は宜しくお願いします」
「うん、一緒に観よう。花ちゃんはどうする?」
「え…まあ明日は半日授業だし、一応観に行くつもりだったけど…」
花ちゃんは、お嬢様をチラ見する。
お嬢様は、澄ました顔を崩さない。
ウケるよな、コイツら。
放課後。今日は授業なしだ。
だが、残って花ちゃんの自勉に付き合っていた。
「あ…雨降ってきてるな。傘ある?ゴンタ」
「置き傘してる」
「あ、ラッキー。入れてくれ。自転車は…今日は置いて帰ろうかな」
「送ってくよ」
「うん、ありがとう…あ、そうだ。夕飯食べて行くか?今日はお義母さんも、お父さんも夜勤なんだ。金曜だから、兄ィも帰ってくることないし」
「いや、いいけどよ」
「…?」
自覚してねえ。
だが、コイツのことだ。夕食に誘ったのは、俺に気を遣ってのことなんだろうし。
断る理由はない。
「旨かった。ご馳走さま」
「何が?」
「全部」
「ゴンタって、それしか言わないよな」
「ホントだって」
「わかってる。あ、食器は置いてていいぞ」
花ちゃんの自宅は、予想通りに広かった。まあ、病院持ってんだもんな。当然だ。
「おい、キミ。寛ぐんじゃない。そろそろ門限も近づいているんだぞ」
「帰れって?」
「だって、もう雨も止んだだろ」
「そうだな、帰るよ。本当に旨かった。また」
「あっ…」
鞄を拾って、玄関に向かう。
「…ちょっと、いいかな」
来たな。
「何?」
「…キミ、大丈夫か。寮の食堂でも、いつも囲まれてるって…食堂のおばちゃんが言ってた」
「ん……ああ…。多分、このまま中盤もやらされるだろうな。アイツらもそうだが、オッサンも中々、エグいことするよ」
「……ごめん」
「何で、花ちゃんが謝るんだよ」
花ちゃんは、むつ向いて喋らなくなった。
「…」
「…」
「…」
長い。
「帰るね。今日はありがとう」
「…!あ、あたしに出来ることなら、何でもする。だから!元気を…ひゃっ」
ここだ。軽く抱く。
「ーー」
固まっているが、抵抗は無い。場合によっては、すぐ離すつもりだったが、今のところ拒否感も感じられない。
「じゃあ、質問に答えてほしいんだけど」
「えっあっ、それはいいけども!な…なんで、こんなこと」
「ごめん、恥ずかしくてさ。出来ればこのままで聞いてほしい」
「は…ぁ?そ、それならいいんだ。……のか?」
いいんだよ。そのまま混乱してろ。
「葦人がハゲになる前、オカンに電話繋いだのって、花ちゃん?」
「オカン…?あっ…ふふ。紀子さんに電話したのは、そうだよ。母親って、凄いよな。それで、葦人の目も変わった」
「凄いのは、花ちゃんだよ」
「…いや、あたしなんか、ごはん作って一緒に食べただけだし…」
花ちゃんは、照れたように身じろぎした。
「花ちゃんさ、葦人のこと好きだろ」
「……はあ!?」
「3月の初紅白戦の前、あの時から言ってたよな。葦人のファンだって」
「あ…うん、そうだ。あたしはアシトの最初のファンだよ………好き…か、どうかは分からない、けど…」
「じゃあ、俺は?」
「……」
間が空く。
考えるってことは、その余地があるってことだ。いけるな、これ。
「……友達じゃ、ないのか…?」
「友達だよ。少なくとも友達として、俺は花ちゃんのこと好きだよ。…花ちゃんと居ると楽しいし…でも、葦人のファンだって聞くと、モヤモヤしてさ…ごめん、変なこと言ってる自覚はあるんだ。…でも、花ちゃんは、俺のことどう思ってる?」
「……分から、ない。でも、ゴンタのことは……好きだよ。大切な、友達だ」
言葉の前に、友達としてが抜けていることに気づいてないな。で、俺は、あくまでも友達として好きとしか言っていない。
よし、いい線いっている。
別に、マジなのは望んでないし。
「じゃあさ、力もらっていいかな。前の試合の時みたいに」
「え…?」
「何でもいいんだ。でも無理だったら、いい」
ポイントは、重い調子で言わないことだ。後に響く。軽くも言わないが。
ここまで仲良しこよしで来たからな。敢えて普通に言うだけで、勝手に勘違いしてくれる。
「……それ、あたしが…?」
「いや、ごめん。無理ならいいよ」
腹に両手が置かれ、軽く押される。
少し攻め過ぎたか。
「……ちょっと、離して……目を、つむってくれ」
きた。
「はい」
「…高い」
首に掛かる両腕の重さの次に感じたのは、つつかれたような感触だ。頬…じゃない、首か?これ。二回来たんだけど。
「どーも」
「っ…え?ーー!んーーーーーーーーーーー!?…はあっ…〜〜〜〜!!?……はぁっ…べろ、やめっ…んっ〜〜〜!ぁ…〜〜〜〜!〜〜〜…ッは………はぁ」
脱力した花ちゃんが、頭を胸に預けてくる。完全に、ダウンだ。
マジかよ。10秒くらいしかしてないんだけど。
あと、今気づいた。これ、歳近い相手では初か。
まあ、クソどうでもいいことだが。
「ありがとう、すげえ元気でたよ。やっぱり、花ちゃんは最高の友達だ」
「はぁっ…はぁー…」
あー、やり過ぎたのか?首、すげえ赤い。
あっつ。
「よう、オッサン」
「ん?…あ。よう、サボり。何度も呼び出し無視しといて、何の用だ」
「あ"ーー?望み通り、来てやったんだろ」
オッサンは、クラブハウス内の自販機の前に
いた。周りには、誰もいない。
「お前、そろそろ門限…って、何だこれ?」
「読め」
オッサンに渡したのは一つのファイルだ。中には、学校で作成したモノが入っている。
「誓約書…?…契約書まであるんだが」
「契約書の方は、ついでだ。今はいい。誓約書の方には、印を押せ」
「お前が作ったのかよ…はあ。天才って、こうなのか?何考えてんのか分かんねえな」
オッサンが目を通し始めて、5分。
「…よく、こんなもん作ったな」
「お前のせいだよ。で、呑めないのなら、俺は
オッサンは、目を見開く。
驚くことかよ。こうなるのは分かってただろ。舐めているよな、お前。
「……この、今年度の二種での契約拒否って、何で?仮に呼ばれることがあれば…最初はアマ扱いだが、試合に出れば一応マネーは入るぞ。何より、得難い経験ができる」
「遊びたいから。学校生活を満喫したいから。勉強で忙しいから」
「…まあ…どっちにしろ、追加登録の期日を考えると、可能性は低かったが…」
実際、噂が流れていると言っても、知名度、貢献度共にまだ皆無に等しい。所詮、ユースのBだからな。だから、これは保険だ。
Aに上がっても試合において、後ろを許すつもりは微塵もない。そうなれば、必然的に注目はされる。
最悪なのは、MFで起用されること。そのための、誓約書と契約書だ。
「試合日外の土日の休日要請って…これは無理だ。これに関しての特別扱いはできない」
「特別トレーニングに当てる、ってことにしろ」
「……それと、MFとしての出場時間5分って、どうにかならないのか。半分は出ろよ」
「無理だ」
「せめて、30分」
「値引き交渉じゃねえんだけど?オッサン」
「…15分は出ろよ」
「決定だ」
オッサンが持っている一枚を回収し、追加で一枚渡す。
オッサンは、馬鹿みてえな顔をした。白々しい奴だ。
内容は、スタメンGKの時に限り、15分のみのMF出場。交代枠の制限を考えれば、MFに入ることも減るだろう。
これは、エスペリオンに所属する限り、永久的にだ。
「おまっ、最初からこのつもりで」
「だから?」
そのつもりだよ。5分とか真に受けて馬鹿じゃねえの。
お前も、このつもりだったんだろ。
「…まだ聞きたいことはあるが、後にする。これは、一度持ち帰らせてもらう」
「他の奴には見せるなよ。あと印は、当然写しにも押せ」
「…最後にこれ、無期限で週に無固定2時間の
「ああ、そうだ。MFもやってやるからよ、
オッサン。技術、経験、知識…全部だ。お前の持っている全てを、俺に寄越せ」
元より、コイツは俺をMFとしても使うつもりだった。
で、今回。無理と分かりながらも提示して、譲歩するような形を望んできた。
それに敢えて乗ってやった。だが、対価は貰うよ。
当然、これだけじゃねえから。
この先も覚悟しておけよ、オッサン。
「…GKの方はいいのか?」
「あ"ーー?俺を凡才どもと一緒にするなよ」
そっちは、始めて五年だ。既に自分で確立してあるし、通常練習時間で足りる。
今更必要なことなんざ、フィジカルと経験くらいだ。それでも、試合で点が入ることは、金輪際ないがな。
「…じゃあ、コーチングもやれよ」
「試合で点、取られたらな。あり得ねえけど」
オッサンは、虚を突かれた顔を晒した。
こんな会話、前にもやったな。今は俺が完全に優位だが。
「……くく、はははっ!!」
いいから、応えろよ。
むしろ、ぜひ此方から宜しくお願いします、ってな。
「で、まさか断らないよな。元・代表MF福田達也、
「…あと、この寿司ってなんだ」
「去年のセレクション分。忘れていただろ、オッサン」